マッカラーズ短篇集 (ちくま文庫 ま-55-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480438713

作品紹介・あらすじ

再評価が進むマッカラーズの短篇集。奇妙な片思いが連鎖する「悲しき酒場の唄」をはじめ、異質な存在とクィアな欲望が響きあう触発の物語八編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • マッカラーズの写真に魅せられて。解説にあるように広義な意味のクィアな人達の物語。『悲しき酒場の唄』が強烈であり美しい。『木、石、雲』『天才少女』『マダム・ジレンスキーとフィンランド国王』『そういうことなら』が良かった。

  • 20世紀中ごろのアメリカ南部作家をレズビアンとして描き直した「自伝」作品【EJ Culture 文学】 - ENGLISH JOURNAL ONLINE(2022-08-19)
    https://ej.alc.co.jp/entry/20220819-ej-literature

    カーソン・マッカラーズの誕生日 | 東京レインボープライド
    https://bit.ly/3pue0r3

    マッカラーズ短篇集 カーソン・マッカラーズ(著/文) - 筑摩書房 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784480438713

  • 町山智浩のポッドキャスト、皆川博子のブックガイド、村上春樹の邦訳(とっておきにしていた)で知った「心は孤独な狩人」で興味を持った。
    で、比較的小ぶりな「結婚式のメンバー」で大いに感動していた(クロード・ミレール監督「なまいきシャルロット」と重ね合わせて)。
    という、バッチリのタイミングで、この文庫が刊行された。
    その文庫に、さらに藤野可織が帯にて「これは完璧さが失われることについてのハードボイルドな小説集」と言っているからには、読まずばなるまい。
    その帯にて、そして編訳者の解説にて、「クィア小説」と強調されていたので、そういう文脈での再評価なのだな、と判った。
    おじさんにとっては、ウィリアム・バロウズの邦訳「おかま」が、原題「クィーア」と併記されていたのが印象深いが、
    単純にクィア→同性愛者という理解から、クィア→性的志向含む「いっぷうかわったひと」、くらいの理解に、概念を拡張しようとする意図が、編訳者にあるんだろうな、と。
    その意図は意義深い。
    実際読んでみて、どれも目を見開かされる、新鮮な思いを抱いた。
    さて本腰を入れて本丸たる「心は孤独な狩人」へと向かいたい。

    ■悲しき酒場の唄(The Ballad of the Sad Cafe)
    80pで「バグダッド・カフェ」を連想。確かに触発されているらしい。
    あらすじは全然別ものだが、この連想の強固さは間違いない。
    あとは妙な人・風変わりな人(クィア)がぶつかり合って心を開くひとところを描くという点で、ジャン=ピエール・ジュネ「アメリ」「デリカテッセン」。
    が、まさかボクシングが来るとは。
    本作をオールタイムベストだと言う藤野可織の、唐突な肉体性、マンガチックなアクション、にも通じる。
    冒頭と終盤の、囚人(チェインギャング)の唄は、12人ということもあってか、清らか。
    (ボリス・ヴィアンの原作ではなく)岡崎京子が漫画化した「うたかたの日々」の聖歌隊を、思い浮かべた。
    視点人物というよりは町の人の噂話が「語り手」という点では、フォークナー「エミリーに薔薇を」を連想。
    ひどい邪推だが、いとこのライマンの性向? 性癖? は著者の夫のそれだったのかな?

    ■騎手(The Jockey)
    唐突に始まり唐突にブツ切れる短篇だからこそ、本当にこういう人物がいてこういう場所があったような気がする。会話劇。

    ■家庭の事情(A Domestic Dilemma)
    作品集中で突出しているというわけではないだろうけれど、個人的にはグサッときた。
    というのも、妻が産後数年して、近からず遠からずな状況になったことがある。
    怒り散らした挙句不貞寝する母親を見せたくなくて、土砂降りの日に娘を車のベビーシートに載せて、お喋りしながら走ったり止まったりしたこと(そのうち寝たり起きたり)を、まざまざと思い出した。
    この視点人物マーティンが、子を慈しむ様子が、こんな状況になったからこそかけがえのない子との時間を愛していることが、強烈に感じられる。
    特に156-157pの描写。
    そして158p、子にとって母の異変がトラウマになるのではと思いきや、子供の時間の流れの中では木の葉のように流れて去るものだと気づき神の配剤だと感謝を捧げる(危惧の空回り)あたり、つい一年前まで幼児(今は児童)を育てていたからこそ、切実にわかる。
    160pのような思いも、確かにあった。
    連想を広げるなら、ルシア・ベルリン「掃除婦のための手引書」に収められた「どうにもならない」の前日譚……いや、あそこまで堕ちてほしくはないのだけれど。

    ■木、石、雲(A Tree,a Rock,a Cloud)
    いかにも村上春樹が好みそうな話。
    というか、「一人称単数」に収められた「クリーム」における「中心がいくつもある円や」は、似ていなくもない。
    そして、ポール・トーマス・アンダーソン監督「マグノリア」の元天才少年の中年が、さらに年を重ねたらこんなふうになりそうだと連想した。
    「愛があるのにその捌け口が見つからないんだ」と泣く彼が、こう老成してくれたらどんなにいいだろう。

    ■天才少女 - ヴンダーキント -(Wunderkind)
    作者自身の青春期を題材にしたんだろうか。
    勝手に連想を進めてしまうが、クロード・ミレール監督「なまいきシャルロット」(マッカラーズ「結婚式のメンバー」が原案)でシャルが憧れる対象であるピアニスト少女も、将来こういう壁? 成長? に突き当たるのかもしれない。

    ■マダム・ジレンスキーとフィンランド国王(Madame Zilensky and the King of Finland)
    嘘発覚のくだりについては、「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」における、「シドニー生まれのシドニー育ちさ」「故郷は今頃雪景色だろうな」を連想。
    ところで、「後ろ向きに進む老犬」って何の象徴なんだろうか。

    ■渡り者(The Sojourner)
    「この世界の片隅に」の夫婦のもとに一晩泊まりに来る水原さんを連想。ちょっと違ったけど。
    むしろ成人男女の関係だけでない、連れ子との関係性。
    父の死を契機にということなら、三代の真ん中にいる自覚を持つことか。

    ■そういうことなら(Like That)
    妹が、姉の性愛的変化を見て、私はそうならないよ、という。
    作者の実感か。
    連想したのは、吉田秋生「櫻の園」。
    この漫画においては、妹が恋人とセックスするが、そのときに姉の昔の彼氏という挿話が差し挟まれる。
    本作の数年後にそんなふうになるのかも。
    また「結婚式のメンバー」では、性的に欲望されるキワの視点人物と、それ以前の男児のペアが描かれるが、その男児を女児に置き換えたらば。

  • 妻に逃げられた老人が愛を語る「木、石、雲」がよかった。この短編では消えた妻への行き場をなくした愛が世界に向かうのだが、なんというか、年を取ると慈しむ力が増す感覚はわかる。

    ほかのどの話も、感情のバランスが傾いたままの人がどうにかこうにか生きる様が描かれていて、そういうこともあるだろうねと思いながら読んだ。有名な「悲しき酒場の唄」は、自分の好みからするとキャラが劇場的過ぎるので、むしろ演劇版で観たいかも。ミス・アメリアはフランシス・マクドーマンドで。

  • 「悲しき酒場の唄」が中編で、他に短編が7編。短編は「木、石、雲」と「渡り者」が好き。
    全体的に、愛と孤独がテーマなのかな。愛するがゆえに感じる孤独というか、愛と孤独をこじらせたような人がよく登場する。独特な雰囲気があって好きな作家だ。

  • 元夫婦のふたりが殴り合いで決着をつけるというのが面白過ぎた(表題作)。良い人(報われるべき人)が出てこなくて、ひどいことが淡々と描かれ、それによって得られる教訓もない。できごとが人々の体をただ通り抜けていくという感じ。

    一番印象に残ったのは「木、石、雲」。短いけど胸をつかまれる。小さい「大丈夫」のかけらを懸命にかき集める日々。

  • 初のマッカラーズ作品。
    想像以上に良かった。
    とくに『悲しき酒場の唄』。
    あの終わり方。しびれた。
    そのあとの短篇も良かった。

  • 私にとっては村上春樹訳の「心は孤独な狩人」で知った作家だが本書もとても面白かった。「悲しき酒場の唄」のミス・アメリアにしても「マダム・ジレンスキーとフィンランド国王」のマダム・ジレンスキーにしても、異質で浮世離れしている。女性作家として、男性から見たいわゆる魅力的な女性を描かない。ほぼすべての作品が持つ、世間的な幸せからのズレ、「変人」として生きる人々、そして豊かな音楽性が、村上春樹にとっても翻訳したいと思う魅力になったのではないか。と、村上ファンとしては思う。
    翻訳者はレベッカ・ソルニットを訳している人だ。小説向けにこなれていないのか、「そういうことなら」のあねき呼び、2023年発刊の新約にしてはずいぶん古臭くないか?現代にあねきと呼ぶティーンエイジャーはいないだろう。翻訳とはそういう部分含めた表現だと思うのだが。

  • 「クィア(Queer)な人たち」の短編集、ということに惹かれて手にした一冊。
    彼女の作品は、たしかにQueerな人たちが多く登場するが、ちょっと変わっていることと、とても変わっていることも、変わっていないことの差は何だろうか。
    みんな誰しもちょっとずつQueerなのではないだろうか。
    そう気付かせるほど、彼女は一般的に言われるQueerなひとたちのことをとても優しく、柔らかく包み込んで描いている。
    それでいい、と言ってもらえているような、そんな温かさがある。
    優しい気持ちになりたい方は、ぜひ。

  • 1940~50年代に活動した米国南部出身の女性作家、マッカラーズ。どの作品も寂しいね孤独だねと、いたたまれない気持ちに包まれる。寂寥や独りが嫌だから他者と関わるが、関わるほど相手が分からなくなり、より侘しさが募る。その姿がほろ苦くて胸に残る。

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著者プロフィール

カーソン・マッカラーズ[Carson McCullers 1917―67]:アメリカの女性作家。ジョージア州に生まれる。初めピアニストを志してニューヨークへ出るが、その直後に授業料を紛失し音楽家を断念、コロンビア、ニューヨーク両大学の創作クラスで学ぶ。主な創作活動期は1940年代で、最初の長編『心は孤独な猟人』(1940)は、村上春樹の手により新訳が刊行され話題となった(2020年8月)。

「2023年 『マッカラーズ短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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