- Amazon.co.jp ・本 (122ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480770172
作品紹介・あらすじ
フィンランド湾沖の小さな孤島、メキシコのからっぽの遊園地、アリゾナ砂漠のフェニックス-。物語の舞台と時間の針を自在に行き来しながら描かれる、ふたりの女性の絶妙なかけあいとすれちがい。日常的な情景と超現実的な印象とが醸し出す、ヤンソン独自の軽やかかつ大胆なスケッチ集。
感想・レビュー・書評
-
ロメール「レネットとミラベル4つの冒険」をぼんやり頭に浮かべながら読んでいたら七〇くらいのおばあちゃんたちの話だったと知りちょっと恥ずかしい気持ちになる。途中で「ロメールっていうかメカスみたいなことか…」と思ったがそれは小説ぜんたいに対してではなくて二人の撮影する映像への納得だから実は的を得てはいないのだけど。
お互いがお互いを思いやり慈しみ合う二人ではない。ただ、ひたすらにずっと二人で過ごしている。そのスケッチから浮かび上がるのは、それぞれの生活が「わたし」二人分ではなく「わたしたち」一つ分であるということと感じられた。トーベ・ヤンソン本人の実人生と照らし合わせるのはそのように考えても勝手だがこれがエッセイではなく小説である以上わざわざ考えなくてもいい。いろいろな景色、いろいろな天気、いろいろな季節、その中に二人がいる。8ミリカメラを回す。きれいな映像が撮れることもあれば暗すぎたり明るすぎたりして「ダメね」とうなだれることもある。しかしながら、「わたしたちは過ぎた時間の中であってもかつてたしかにあそこに存在した」という実感の獲得がためにこそ映像を撮影し確認し続ける二人は、録り貯めながら観返すことのないビデオの映画とおなじく"映像"にして、決定的に別のニュアンスを見出している。
本作にあじわいぶかく冠された「フェアプレイ」のあらわすことは何か。二人の関係の平等性というのではあまりに物足りない。もっとマクロな対峙への姿勢が込められていると私は思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
トーベ・ヤンソンと彼女のパートナーがモデルの小説?トーベ・ヤンソンのパートナーは、おしゃまさんのモデルになった人だよね。なんて名前だっけ?
-
マリは小説家、ヨンナは版画家。
ふたりの女性の暮らしを切り取った連作。
作者のトーベ・ヤンソンはあのムーミンの生みの親であり日本では児童文学作家として有名だが、彼女がトゥーリッキ・ピエティラという女性のパートナーと生涯暮らしたことはあまり知られていない。ピエティラもグラフィックデザイナーとして活躍した芸術家で、夏にはバルト海に浮かぶ島でふたり、創作に耽ったという。ヤンソンは彼女をモデルにしたトゥーティッキー(おしゃまさん)というキャラクターをシリーズに登場させたりもしている。
こうした背景を踏まえて読むと、一層味わい深い。
マリもヨンナも芸術家らしく自分の領域をしっかり持っている。それが時にはぶつかり合い、時には融け合いながらふたりだけの特別な世界を作っていく。ふたりの会話の僅かなすれ違い、そのなかで時たま起こる共鳴。パートナーシップの一つのあり方としてとても興味を惹かれた。フェアプレイ、というタイトルが彼女たちの関係性をよく表している。 -
二人が8ミリカメラで映像を撮る場面が、頭の中で想像した映像と共に心に残ってる。
もう一度読み返したい。 -
二人の個性的な人物がいれば、もう書くべくことは無数にあるということなのでしょう。画家と小説家らしい二人の女性にフォーカスを絞り、いくつかの出来事をただスケッチのように書き付けた連作長編ですが、その二人に対する情報も殆ど明らかにされることがなく、読者の感情移入はきっぱり拒んでいるように思えるから面白い。後半になるまで年齢すら明かされないのだ。出来事の前後関係もまるでわからず、ただひたすら切り取られたシーンを追っていくだけなのに、いつのまにか二人の関係に感情移入してしまって、夢中で読み進めている。小説の添削をしているシーンは感動的だ。それも数ページしかないというのに、何かが鮮やかに展開しているというわけでも決して無いのに、切り取られた瞬間から汲み尽くせないほどの感動が現れてくる。ヤンソンの小説には、訳者の影響なのかもしれないが、イデーという言葉が強調されて頻出する。それはつまり、彼女の目が常にイデーを捉えるように働き、抑制された知性の中で存分にそのイデーが振舞っているということなのかもしれない。何がある、とはいえない。けれども確実に何かがある。その周りをぐるぐると回り続ける感覚。たった120頁だけど、数百ページに相当する楽しさだったように思います。
-
マリとヨンナという二人の初老(?)の女性が主人公。マリは作家らしく、ヨンナは版画家らしい。
二人のやり取りにはよく「!」が出てくる。エキセントリックな、芸術家とは常にこんなにも爆発しているのかと思わせるようなやり取りだ。そして、何だか抽象的で噛み合っていない会話にも思える。各々が各々の世界を形作っている。けれど、お互いを必要としている。自分というものをよく知った人たちなのかもしれない。
最期の話(短篇集なのだ)で二人が遠距離の付き合いになるようなことがほのめかされていた。どうなったのだろう。 -
女性二人の島での暮らし、そして旅。
辛辣な中にも愛情を感じる会話。
できごとへのリアクションの面白さ。
クリエイティブな人生を歩こうとする彼女たちの雑感が紡ぎだす不思議な世界です。-
2009/05/21
-
MakiYさん
最初とりかかりにくいほどあっさりとした描写に戸惑われるかもしれません。
でもそれが彼女の文体なのだと体になじむととても心...MakiYさん
最初とりかかりにくいほどあっさりとした描写に戸惑われるかもしれません。
でもそれが彼女の文体なのだと体になじむととても心地よくなります!2009/05/21
-