素粒子

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (356ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480831897

感想・レビュー・書評

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  • 人種差別・宗教差別の文言に拒否感。女がキャリアと人生、子育て、身体などで悩みが多くなる間、男は永遠に自分の下半身のことで悩めておめでたいなというのが率直な感情。主要人物の一人は父でありながら、子の存在の希薄さよ。登場する女は軒並み男目線の性的客体であり、人生の実感に乏しい。露悪的表現にしても受け付けない要素が多い。ただし惹き込まれる筆致であることは認めざるを得ない。

  • 若さとその象徴であるセックス、性的快楽のみが現世において肯定されるものである、そんな世界観を抱く男とそれすら客観的にアイロニカルに考え学問に身を投じる男の話。

    セックスというより、若さゆえの無限の可能性、死からの距離に憧れを抱いていたようにも見える。

  • 【由来】


    【期待したもの】

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】


    【目次】

  • 面白かった。

    時間の根が伸びて空間のあちらこちらを締めつけ凝集させる。そして存在と分離がある圏域と、非=存在と個人の消滅がある圏域との差異が生まれる。

    そのイメージが、ブリュノとミシェルの向かった場所の違いであり、人間という旧人類と、そこから脱した新たな種族の誕生とに重ねられた。

    時間の残酷さ。人間の精神が造り上げているに他ならない空間である人間世界でのエゴイズムや暴力、愛や善。
    それらに失望し、また追い求める人間の姿を空虚な気持ちと神秘の驚きをもって表現された作品だと感じた。

    ブリュノとミシェルの人格は、一人の人間の中に混在する、人間としてのエゴや愛への執着、時間の無常さへの恐れ、それらから自由でありたいという意識の象徴であるようにも思った。

  • 科学や社会の変化によって、人間の感情や生活が変化していく過程を描いた小説。という印象があって面白く読んだけど、ミシェル・ウェルベックの視線は人間に対して悲観的過ぎて、面倒くさい中二病という感じもした。もっと長くても良かったかも。

  • 興味深い

  • 2001年に初版本を買ったまま14年ほど押し入れに埋もれてた本。タイミング的に今読んで正解だった。生物学者とその兄の物語。兄の性的欲求に関する思考なりは同年代となった今同意する部分も多く、あながち俺の考えは特異ではないのだなと思えた。後半相次ぐ人の死から人生観の話に帰結するのかと思いきや最後は壮大なSFとして幕を閉じた。道徳だとか宗教だと社会だとか今大変興味を持っているので、俺なりの未来を旧人類として考えてみたいと思う。
    真理なんてものはないのか、はたまた。

  • 何故この小説を読もうと思ったのか思い出せないのだが、とてつもなく迫力を持つ小説だった。
    特に最終章からエピローグにかけては哲学的示唆に富み、ラストの一文「本書は人間に捧げられる」とあるように、生々しい資本主義社会の現状と、科学の進展が行き着くところまで行った先にあるだろう未来への予言が渾然一体となって、さざまな問題提起を促す書となっている。
    著者自身が親の愛情を得られない壮絶な環境で育っている影響も多大にあるようで、過激な性描写も多く、気分の悪くなる箇所も多々ある。
    しかし、異父兄弟(文学者ブリュノvs天才科学者ミシェル)の人生を双曲線に向かい合わせることで、物語に重層的スケールを生んでおり、一見、文系の兄が敗北者で、理系の弟が勝者のようで、実はどちらも敗者・・・、というか人間の脆さ・儚さ・愚かさなどを思い知らされる仕組みとなっている。
    量子論以降の物理学と遺伝子工学の知識が全くないため、ミシェルの論文の功績に関する記述はチンプンカンプンだったが、それを差し置いても、グイグイと引っ張られるストーリー展開で、かなり刺激的な作品だった。
    訳者の野崎歓氏いわく、著者は本作で、人物や組織・団体を実名で登場させているため、発表当時はかなり物議を醸し出した小説だという。

  • 猫町 6月の課題図書を遅ればせながら読了。周りの人達の評価が高かったせいでこちらの期待が高過ぎたのか、正直今一だった。

    小説中に登場する性風俗は全て実在のものに取材しているらしく、加えて現代フランスでは婚外子の方が嫡出子よりも多いという統計を考え合わせると、フランスは家族制度とセックスが完全に切り離されたセックス・エンターテイメント先進国と言える。その現代フランスの風俗を「秘密のキャンプ地 潜入レポート!!」といった感じの低俗ルポではなく、一篇の小説に昇華させたウェルベックは讃えられるべきだが、しかし、この小説は高く評価され過ぎている気がする。

    エピローグで語られる世界観には確かに凄みがあるが、いかにも取ってつけたような印象。こういう世界観の小説が読みたければ、小説中でも引用される Brave New World を読み返したい。

  • 中世の時代、神は人間の上に君臨していた。その神の権威が消えた後、地上に君臨したのは人間であった。しかし、神の栄光がいつしか消えていったように、人間もまた、今ではかつての輝きを失ったかのように見える。ニーチェの「神は死んだ」という言葉を受けて、「人間は死んだ」という言葉が、フーコー本人が否定したにも関わらず一人歩きしはじめたのは、いかにも象徴的である。

    ある意味では対称的な、またある意味では非常に似通った二人の主人公は異父兄弟である。対称的なのは、超一流の生物学者である弟のミシェルが、美しいフィアンセを愛することができない孤独な求道者的人物として描かれているのに対し、平凡な文学教師の兄のブリュノは、「エロティック=広告社会」に首まで浸かったセックス至上主義者として戯画化されていることである。

    似通っているのは、二人とも奔放な男性遍歴を重ねる母に見捨てられ、祖母に育てられたために愛というものが理解できないことである。子どもの頃科学の本ばかりを相手にして育ったミシェルは、人を愛するということが分からない。ブリュノの場合、彼が求めているのは、自分を理解した上で愛してくれる女性なのだが、性的な願望に眩惑されているブリュノにはそれが理解できない。

    一人は愛を知らず、一人は性による結びつきに愛を求めては裏切られ続ける。長い彷徨の果てに愛する相手を得たと思ったのもつかの間、二人ともその相手を喪失し、自分もまた毀れてしまう。「恋だの優しさだの人類愛だのといった感情はすでにおおかた消え失せて」「同時代人たちは互いの関係においてたいていは無関心、さらには冷酷さを示してい」る、プロローグに記されたそんな世界に二人は住んでいるのだ。

    ミシェルの著したノートには「愛は結びつける。永遠に結びつける。善をなすことは結びつけることであり、悪をなすことは結びつきを解くことである。」という言葉が残されている。『ケルズの書』の絡み文様から触発されたこの言葉には、母との結びつきを解かれ、アナベルを癌によって喪ったミシェルの心の傷と、それにも増して愛を求める叫びがこだましている。愛を知ることのなかった頃は生きていられたミシェルだが、一度愛を知るや、愛のない人生に耐えられず自殺してしまう。

    人は、生、老、病、死から逃れられない。われわれは、いわばそれを引き受けた上で生きているのだが、仏陀のような覚者でもない限り、心安んじて生きているとは言えない。問題は愛にある。母と子、男と女のように人が互いに分離されていることが愛を生じさせるのだ。人は愛するが故に迷い、執着するのである。人間が今のような存在として生きていく限り、いくら「分離は悪の別名」だとしても、いつかは愛するものとの結びつきを解かれざるを得ない。

    プロローグとエピローグに挟まれるミシェルとブリュノの物語は、人間の生が苦しみでしかなかったことの実証である。プロローグでは、この物語が過去の回想であることを証している。エピローグでは、コペルニクス的回転でもって、「永遠に結びつける」愛がいかにして可能になったかを記述している。その解決策を受け容れられるかどうかは、読者の資質によるだろう。

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著者プロフィール

1958年フランス生まれ。ヨーロッパを代表する作家。98年『素粒子』がベストセラー。2010年『地図と領土』でゴンクール賞。15年には『服従』が世界中で大きな話題を呼んだ。他に『ある島の可能性』など。

「2023年 『滅ぼす 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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