禁忌

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010409

作品紹介・あらすじ

共感覚を持つ写真家ゼバスティアンは、若い女性の誘拐・殺人容疑で逮捕される。法廷で暴き出される、美と人間の本質、そして司法の陥穽とは。本屋大賞受賞作家の衝撃作!

感想・レビュー・書評

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  • うらを見せ、おもてを
    見せて、散るもみぢ。

    良寛の有名な句を引用
    し、

    悪とはなにか?という
    問いなど意味はないと
    説きます。

    私たちの人生など一瞬
    の間でしかなく、

    人生の意味を求めても
    そこに答えはない。

    仮に悪を定義せんとも
    嬰児殺しの若い女性を
    救うことはできない。

    あるがまま受け入れる
    こと。

    容認することとはまた
    違います。

    前向きな諦めの境地と
    でもいうのでしょうか。

    私も貴方もあの有名人
    も、

    うらを見せ、おもてを
    見せて散っていくだけ
    です。

  • あのシーラッハの長編小説。
    シーラッハで長編て成り立ちうるんだろうかと思いながら読んだが、これが完璧なまでにらしさを失わず、物語が紡がれている。

    ”極限までにそぎ落された”と評されている文体が長編の間中続き、終始緊迫感と不気味さを覚える肌の粟立つ読書体験を与えてくれる。
    ある意味ただの事実、エピソードの羅列に過ぎないのだが、何故かシーラッハの紡ぐ物語にはその行間や周囲に独特の空気感が生まれ物語に入り込んでしまう。
    こういう本を読むと読書がほんと止められなくなる。

    空虚な芸術家エッシュブルクの生い立ちと芸術家として名声を挙げるまでの成り行き、そしてそこからの誘拐犯容疑での逮捕。
    著者の投影とも思える弁護士ビーグラーの語る法と拷問、人間の尊厳、正義に関する洞察、良寛の詩を冒頭に添えた著者のあとがきと、暗に明に様々な気付き、思索を与えてくれる一冊。

  •  かなりひねりの効いたミステリー。法廷劇の姿をとって謎が解き明かされるのだが、物語の前半は、少女を誘拐し殺害したとされる容疑者エッシュブルクの半生が描かれている。
     ゼバスティアン・フォン・エッシュブルクはドイツの名家の末裔。常人より多くの色彩を感じることができ、文字に色を感じる共感覚の持主である。エッシュブルクは、古い、不幸な家を出て、ベルリンで写真家になり、世に認められる。やがて、商業的な写真に飽き足らないようになり、インスタレーションを手がける。そしてある日、警察にかかってきた、助けを求める少女の電話によって逮捕されてしまう。刑事の強要によってエッシュブルクは少女の殺害を自供する。起訴されたエッシュブルクは、ベテランの刑事弁護人ビーグラーに弁護を依頼。ここから法廷が舞台となり、ビーグラーによる真実の解明が展開されるのである。
     前半、没落した名家が息を引き取る様子、崩れる不幸な家庭の冷たさ、それを見ているエッシュブルクの孤独な視線と世界に対する違和感が簡潔な文章で淡々と描かれ、引き込まれる。ミステリー臭さを感じさせないので、後半の急転に驚かされる。精神的なドラマか人間性の真相を照らす物語を読まされる気になってくる処へ、スキャンダラスな殺人事件を主題にしたミステリーが現れるのだ。
    もちろん前半はミスリードの為の仕掛けであり、エッシュブルクの動機に筋道を通すための伏線なのである。読後に点検してみれば、よく計算されていると感心する。計算されているだけではなく、「千円札裁判」などを念頭に置いてインスタレーションのことを考えてみると、作者の描いた射程が意外に遠くまで届いていることがわかる。
     全体を通して、エッシュブルクという非凡な人格の悲しみがじんわりと伝わるし、ビーグラーの偏屈さも面白い。作品を巡って考えに沈むこともできる、見事な一編だと思う。しかし、このひねり具合が万人に受け入れられるかは疑問だ。また、エッシュブルクの共感覚が後半にそれほど生かされない恨みもある。インスタレーションを素材としたからには、この作品自体がルールを越えて溢れ出てきても良かったのではないか、と思ったりもする。

  • 独自の感性をもつ貴族出身の主人公が、幸福とは言えない少年時代を経て成人するまでの前半と、突如事件の容疑者となりその弁護士が中心となって進む公判劇の後半の、2部構成。色の三原色をつかった章立て構成が美しい。

    前半部分は、主人公の内面を反映するように、短文の連なりで淡々と進む。変わって後半は、弁護士でもある著者の手腕か、テンポよく読ませる。弁護士にも、読み手にも得体が知れない主人公の、本意は最後に明らかになるのか?

    私は正直すべてが理解できたわけではないけれど(スフィンクスってなんだったの?弁護士は街のポスターをみて何でわかったの?ソフィアは自分の写真合成されて気づかなかったの?)、そのわからなさも含め、罪も悪も美醜も線引きできない曖昧なものと受け入れて、主人公の、そして本を超えて読者の生も続いていくというのがこの本の芸術の完成なのかも。

  • 共感覚・チェスの自動人形・サディズム・写真・「罪」とは何か・家族や恋人との愛憎・存在の曖昧な女…ちりばめられたピースは、結局カチッとはまらない。全体に何が描かれているのかも見えない。なのに面白くて読んじゃうのはなぜ?

    普通ならこれは伏線だなと意識される描写が、ことごとくどこかに漂って行ってしまう。なんとも頼りない感覚が、どういうわけか刺激的だ。弁護士が登場する中盤、やけにわかりやすくなり、やはり最後はすべてが収束するのかと思えば、全然そうではないのだった。

    アーティストのインスタレーションが苦手、というより、よくわからない。それって何を表してるの?何のため?などと言うのは野暮なのだろう。芸術家がみな主人公のゼバスティアンのようだとは思わないが、造型に妙な説得力がある。

  • いるいる。こういうアーティスト。
    一見しただけでは本質が見えず、けど惹きつけられて止まない。
    テーマを二重三重に覆い隠し、なのにそれをとんでもない手段で世に送り出す。
    シーラッハもまた。
    こちらは好きか嫌いかだけでいいのだ。

  • 普通の推理小説と思って読むと肩すかしを食らうと思う。
    森博嗣の小説のように、文章が研ぎ澄まされてる感じ。
    読み方が浅いのか、タイトルの意味は分からなかったけど、一連のことがエッシュブルグが表現したいことだったという理解で良いのかな。
    「悪とはなにか」という問いは、刑事事件弁護士という著者の立場ならではの、骨身に応えるものだと思った。

  • この本はすごい。ある意味発明だし、ある意味では推理小説の禁忌に平然と足を踏み入れた。禁忌というタイトルはそれを意味しているのかどうかはわからないが。
    才能溢れる写真家が若い女性を誘拐したとして緊急逮捕される。果たして彼は有罪か、無罪か。
    この本を読んだ者の反応は二種類に分かれるだろう。
    「そんなのアリかよ!」と壁に本を投げつけるか、「こんなのアリかよ!」と驚きにひっくり返るか、その二種類だ。
    ネタやアイディアは出尽くしたと思われる推理小説だが、それは幻だ。我々がまだ見ぬアイディアがこの本にはある。224ページという短いページ数に収められた緻密さに目を見張れ!

  • 序盤は若干しんどく、中盤になって面白くなったと思ったら、ラストはわかったような、わからないような。

  • 一行目:「一八三八年のあるうららかな春の日、パリのタンブル大通りで新たな現実が作り出された。」
    やっぱり長編より短編がいいな。ただ、今回の長編は悪くない。
    主人公エッシュブルクの半生が淡々と綴られる。が、次の章で突然逮捕されている。目撃情報だけの、遺体もない殺人容疑。弁護士ピーグラーはどうするのか。
    焦点はなぜエッシュブルクが自供したのか、また否認するにも理由をいわないのか、だ。
    解説が単行本には珍しくついている(今回は正解だったと思う)。
    確かにムダが削ぎ落とされた文章となっている。さらに表紙を著者が指定したのだという。そう、表紙こそが本当のネタバレなのだ。
    これまでの短編が、「魔がさすー」、要はどれだけ平凡な人間でも犯罪と背中合わせである、というところに魅力があったのに対し、今回は非常に特殊な主人公とその物語になっている。
    また、以前のような短編も読んでみたい。

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