カールの降誕祭

  • 東京創元社
3.61
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感想 : 48
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  • Amazon.co.jp ・本 (93ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010508

作品紹介・あらすじ

ドイツでは、クリスマスに最も殺人が多い。十世紀から続く貴族トーアベルク家のクリスマスの惨劇を描いた表題作と、日本人の女子留学生に恋をしたパン職人の物語「パン屋の主人」、公明正大だった裁判官の退職後の数奇な運命を描く「ザイボルト」を収録。本屋大賞翻訳小説部門第1位『犯罪』のシーラッハによる珠玉の短編を、気鋭の版画家タダジュンの謎めいたイラストが彩る。ふたりの天才が贈るブラックなクリスマス・プレゼント。

感想・レビュー・書評

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  • 罪とは何か。これがシーラッハ文学の中心テーマだ。
    …「罪」という漢字を分解すると「目に非ず」と読める。「現実」を把握するのに「百聞は一見にしかず」というが、こと「罪」に関してはこれが通用しない。なぜなら「罪」に見入る者は心の闇を覗くことになるからだ。
    ー訳者あとがきより

    ブラック・クリスマス、タダジュンさんのおどろおどろしいながらも目が離せない絵に惹かれて読んだ。
    たった三遍が載った100ページにも満たないお話。
    けれど読みやすい比較的短い文章で綴られた罪に満ちた三つの物語は、その主人公たちの末路はどれもじわじわと衝撃的で、けれど、ああ、これは私たちの物語だ。と思わされた。
    主人公たちはカオスに魅入られて、罪を犯してしまう。淡々と描かれる文章に、タダジュンさんの大胆でこちらが飲み込まれそうな黒の挿絵が、不思議なカオスと禍々しさを生み出していた。
    そのカオスは、いつ我が身に降り注いでもおかしくない。そのことに戦慄し、その事実を淡々と印象的に描くこの物語たちにゾクゾクした。
    どの話を特にピックアップするのは無理というか、三遍とも全て同じくらいゾクゾクするので、甲乙つけ難いのです。

    シーラッハの書く物語を、網羅したい気持ちに駆られた作品。
    そう思わせてくれるのに、作品そのものはもちろん、充実した訳者あとがきが何役もかってくれたので、ぜひこの本の全部を読んで欲しい。


    目次
    パン屋の主人
    ザイボルド
    カールの降誕祭
    訳者あとがき

  • 実直な人間と思われていた人が、突如にして殺人犯となり、人生の終焉をむかえる悲劇が語られています。ベーカリ-ショップを経営する男が日本人女性に恋憧れる『パン屋の主人』、ベルリン裁判所の裁判官を務める生真面目な男『ザイボルト』、伯爵家御曹司の狂気を描いた表題作『カールの降臨祭』、いずれの三篇も底知れぬ恐怖感に縛られます。

  • 初めてこの作者の作品を読んだけれど、どうも前に出てる作品とリンクしているらしい。それらを読んでいなくても全然問題なく読めた。ただ気になるので読んでみたい……のだけど、解説読むと話の内容がつらそうな印象受けるので躊躇う。
    この本に限らずいずれも実際にあった犯罪を、同定されないように変更して書いているというだけあって突飛な犯罪はない。
    たぶん誰もがほんの少し道が違ったらたどるものだと思った。
    これを読むと今まで読んできた犯罪を取り扱った小説を思い出し、秩序と混乱って本当に表裏一体で、他者から見たら混乱でもなにかしらの秩序・筋道があるんだなと。
    気になるのは一作目の豹のペンダントの男と、日本人女性。被害は男だけだったのかな。

  • 不必要な文飾を極端なまでに削ぎ落とした簡潔な文体で描ききだされるのは、人間の内面に抑圧されてきた狂気とも、悪とも、暴力とでもひとまずは言える。これが、ゲルマン気質なのだろうか。秩序を愛し、中庸を尊び、ひたすら恭順に世間を生きている人びとが、ひとたび、世間の秩序だった世界の中に自分が容れられないと気づくや否や狂気に囚われた戦士のように衝動的な暴力沙汰を起こす。まるで、それまでの自己が偽りで、今剥き出しにされたのが、本来のあるべき自己なのだとでもいうように。淡々と事態を叙する記述がかえって、その世界の酷薄さを物語るようで、居ても立ってもいられないような強烈な読後感をもたらす。主人公の内にあって常に抑圧を義務づけられた欲望のようなものはもしかしたら誰の裡にもあって、抑圧の激しさゆえに奇妙に捻じ曲げられ歪みきった怪物の姿をしているのではないか。読後、そんな恐怖感に襲われること必至。とんだクリスマス・プレゼントである。

  • フェルディナント・フォン・シーラッハ (著), タダ ジュン (イラスト), 酒寄 進一 (翻訳)

  • シーラッハ作品は、「犯罪」しか読んでいなかったので、本作が2作目になります。

    が。

    大分前に読んだから、詳細覚えてません←

    この本を読んでる時に浦沢直樹のMONSTERに出てきた絵本を思い出した、ってことを思い出しました←←

    クリスマスには殺人事件が増えるっていうフレーズ、クリスティ作品に無かったっけか。


  • 対岸の火事だと思いながら読了したが、あとがきを読んでぎくりとした。
    「人は薄氷の上で踊っている」
    著者が、私たちの現実の危うさを語った言葉だ。
    パン屋の主人のような加害者に、私は絶対にならないと言い切れないのかも。
     
    タダジュンさんの挿画が怖い(好き)
    モノクロなのに血の赤を感じさせるとは。

  • 「コリーニ事件」のパン屋さんのスピンオフが収録されています!

  • ちょっとミステリアスな短編が三つ。イラストの雰囲気が合っている。

  • 小粋な短編集、どれも悲劇。
    コリーニ事件とのつながりが見えるのがテンション上がる。

  • 初シーラッハです。殺人犯たちの殺人にたどり着くまでのエピソードやその背景が淡々と描かれています。まるで、モノクロの短編映画を見るように、自然と映像が浮かび上がってきました。挿絵もすばらしい。物語を盛り上げる重要な要素になっています。

  • 簡潔な文体で淡々と綴られる3つの静かな狂気。タダジュンさんの異国感漂う版画(夢の中では成立しているという感覚)はシーラッハ世界にとてもよく似合う。『パン屋の主人』の彼は、長編『コリーニ事件』にも登場していて、主人公ライネンを励ます役どころになっている。ここでは彼が『コリーニ事件』で語っていた「まともなパン屋でいられなくなった事情」が明かされる。

  • ★3.5
    全3編が収録された短編集。相変わらず無駄のない文章で、どんな事件が起こっても良い意味で淡々と読み進められる。中でも印象的だったのは、表題作「カールの降誕祭」。絵画への興味を母親に踏み躙られ、代わりとなる数学の世界を見付けたものの、その世界の無限を見た時に悲劇が起こる。そして、カールが鏡文字に認めた言葉の余韻が、恐ろしくも素晴らしい。表紙を始め、タダジュンの挿絵も印象的で、シーラッハの世界観にピッタリ。なお、「パン屋の主人」は『コリーニ事件』のスピンオフ作品らしいので、そちらの方も読んでみたい。

  • シーラッハの作品をチェックφ(..)

  • めちゃ考えさせられる内容。
    ただもう少し膨らましてほしいかな。

  • 文学

  • 人生が劇的に変化する様を観てきた著者だからこそなのかな?独特の読後感が味わえる三篇の短編集。面白かったです。

  • カールの降誕祭

  • シーラッハの作品は初めて読んだ。罪とは何か?罪悪とは何か?シンプルな言葉で、考えさせられる。

  • 目次
    ・パン屋の主人
    ・ザイボルド
    ・カールの降誕祭(クリスマス)

    短編が3作。
    ぜんぶ合わせても100ページにも満たない。

    そして犯罪が3つ。
    そのうち殺人が2件。
    しかし悪意をもった犯罪者はいない。

    悪意をもたずに起こす殺人。
    それは、犯人にとってはやむを得ない行動であるのだが、第三者からすると、行為に手を染めてしまうその一線が、壁の薄さがうすら寒い。

    もう一人の犯罪者は…彼の犯した罪は、本当に社会悪だっただろうか?
    しかし信念を持って起こした行動を、彼がずっと守ってきた法律が犯罪と断じた時、彼の中の何かが壊れてしまった。
    彼の充実した人生は、一体どちらにあったのか?

    短い小説ばかりだけれど、読んだ後に残されたものはとても重い。

  • 100頁にも満たない本ですが余分な言葉を削ぎ落とした淡々とした文章で普通の人々が些細な切欠で道を外れる怖さを伝えています。
    秩序を重んじた裁判官が定年退職後に自分の拠り所を失い堕ちて行く『ザイボルト』が哀れでした。
    実際に起こった事件を元に弁護士である著者が書いていることを思うと…顔見知りの人物が壊れて行ったと言うことでしょうか。

    人は思っているよりも弱く繊細なのだな、と改めて思いました。

  • 短編集。犯罪小説。ミステリ。サスペンス。
    ジャンル分けが難しい。精神崩壊小説とでも言いたい。
    『犯罪』でも非常に特徴的だった、極めてシンプルな文章が心地よい。
    奇妙な絵も含めて、読んでいる人の精神にまで影響を与えるかもしれない作品。

  • 3つの短編集です。やたらという簡潔で淡々とした文章ですが、内容は衝撃的です。主人公は、秩序とかルールとか常識とかの中では安定して生きているのですが、その枠組みがなくなった途端に壊れてしまいます。なんとなくドイツ人は日本人と似ている気がします。

  • 三編の短編集。「パン屋の主人」が一番好き。黒い森のチェリーケーキが食べたくなる。「カールの降誕祭」は、母親の言葉が心に抜けない棘のようにずっと刺さってたんだろうと思うと切ないです。

  • 一行目;その゛ベーカリーショップ゛は他のフランチャイズ系列店と寸分違わなかった。
    挿し絵がコワイ。短編は3つ。

  • シーラッハらしい危うさに満ちた短編3作。
    その怖さを感じるためには自分の想像力も必要。ただ他の作品を読んでいるとパターンが読めてしまうのが残念ではある。

  • クリスマスプレゼントにちょうどいい短編3つを収録した本。相変わらずシーラッハは読みやすく、この本は1時間もかからない。
    筆者の犯罪者への眼差しが温かく、悲惨な事件でも読後が暗くないところが好きなのだけど、同じパターンが続くのでそろそろ飽きてくるかも。
    ちょっとした刺激、クリスマスならではの人の温かさ(温かくあろうとする)、社会を少し批判的に振り返る、といった小品。

  • シーラッハ「カールの降誕祭」  http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488010508
    読んだ。「犯罪」「罪悪」と同じように人が一線を越えることが書かれる。罪はいつも表面のみで、内面で何が起きているのかは絶対に解らないし、だからわたしは死刑に反対する。罪人を擁護するわけでは勿論ない(つづく


    ドイツと日本は国民性というかメンタリティというかが本当に似ているんだなあ、と親戚一同が集まる季節に犯罪が集中する、という解説を読んで思った。本の作りは薄さとレイアウトのせいで絵本のよう。できれば本文に挿絵を被せるのはやめてほしい、嵩増しなんだろうけど集中できないよ(おわり

  • シーラッハの安定した独特な文章に加えタダジュン氏のインパクトある版画絵の表紙や挿絵により、更なる相乗効果で作品一つ一つがとてもリアルに楽しめました。もちろん、決して楽しい内容ではないのですが、人間誰にでも潜んでいる悪や「罪とはなにか」について、とても深く考えさせられます。また、巻末の訳者酒寄進一氏の解説により、よりシーラッハが伝えたい意味も参考になりました。少し早めの自分へクリスマスプレゼントになりました。

  • 薄氷を踏むような危うさ、一度踏んでしまえば、繰り返される麻薬のような体験。日本にも興味があるらしいシーラッハの仕掛も効果的です。

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