J・G・バラード短編全集1 (時の声)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010584

作品紹介・あらすじ

〈破滅三部作〉、『ハイ・ライズ』などの黙示録的長編で、1960年代後半より世界的な広がりを見せたニュー・ウェーブ運動を牽引し、20世紀SFに独自の境地を拓いた英国きっての鬼才作家バラード。その生涯に残した97の短編を執筆順に収録する、決定版全集。全5巻。第1巻は宇宙的黙示録ともいうべき壮大なビジョンを凝縮して名作の呼び名も高い「時の声」、夢と狂気と倦怠が支配する砂漠のリゾート〈ヴァーミリオン・サンズ〉を舞台とした3編など15編を収める。

感想・レビュー・書評

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  • アンソロジー『疫病短編小説集』
    https://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/4582769152
    を読み、「集中ケアユニット」に衝撃を受けて、
    長年何となく難解そうだからと手を出しかねていた
    J.G.バラードの短編全集を一括購入。
    第1巻は1956~1961年の間に発表された15編。

    プリマ・ベラドンナ(Prima Belladonna,1956)
    エスケープメント(Escapement,1956)
    集中都市(The Concentration City,1957)
    ヴィーナスはほほえむ(Venus Smiles,1957)
    マンホール69(Manhole69,1957)
    トラック12(Track12,1958)
    待ち受ける場所(The Waiting Grounds,1959)
    最後の秒読み(Now:Zero,1959)
    音響清掃(The Sound-Sweep,1960)
    恐怖地帯(Zone of Terror,1960)
    時間都市(Chronopolis,1960)
    時の声(The Voices of Time,1960)
    ゴダードの最後の世界(The Last World of Mr Goddard,1960)
    スターズのスタジオ5号(Studio 5,The Stars,1973)
    深淵(Deep End,1961)

    SFあり、サイコサスペンス(?)あり、
    シリーズ《ヴァーミリオン・サンズ》ものもあり。
    衝撃を受けたのは「待ち受ける場所」と「時の声」。

    「待ち受ける場所」
     地球から遠く離れた小惑星ムーラクの
     電波天文台へやって来たクウェインは
     15年間務めたタリスと交替することに。
     謎めいたタリスの口振りや
     消息を絶ったというケンブリッジ大学の
     地質学者二名のことが気になるクウェインは、
     半装軌車(ハーフトラック)を駆って
     火山の調査に乗り出した。
     そこで彼が見たものは……。
     *
     コリン・ウィルソン
     『賢者の石』(The Philosopher's Stone,1969)
     https://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/4488641016
     を連想させる物語だが、こちらの方が10年早かった。
      『賢者の石』に似た印象を受けるということは、
     つまり(個人的な感懐だが)
     ラヴクラフト風味でもあるのだった。

    「時の声」
     様々な患者の治療、
     あるいは医師の一方的な思惑による人体実験、そして、
     動物を利用した奇怪な研究も行われている場所で、
     麻酔性昏睡患者はどんどん睡眠時間が長くなり、
     亀は鉛の甲羅を背負うに至るといった具合に、
     進化とも退化ともつかない変化が進行する中、
     パワーズは自殺した親友ホイットビーが書いたと思しい
     数字の羅列に目を留める。
     彼は施設内の別の場でも同じ数列を目撃するのだが、
     最後の桁が1マイナスされていて、
     それが何らかのカウントダウンであることを察する。
     終わりを告げる時の声なのだ……と。
     *
     全人類規模の破滅への予兆が淡々と、
     ひんやりした調子で語られる、
     天変地異もモンスターも出現しない恐怖の物語。
     患者の一人であるコルドレンの別荘の部屋の壁いっぱいに
     20フィートの文字で描かれた YOU にゾッとした。

    読んでいると自らの強迫観念――時間に縛られること、
    終末に向かって前進することへの怖れ?――に向き合う
    作者の態度が二重写しになる。
    さながら、机に節穴があって、
    そこから蟻が一匹這い出すのを見て指で潰すと、
    ややあって、また一匹現れたので潰し、
    一匹、また一匹……といった趣き。

  • いつまでたっても電子書籍として出る気配がないので我慢できずにバラードの短編全集を買ってしまった。バラードの序文がふるってます。「不思議なことに、完璧な短編小説はいくつもあるが、、完璧な長編小説などというものはないのだ。」その通りですね〜。◯体とか読んだ後ではなお一層感じられます。バラードの短編集は特に、前衛的な絵画を美術館でみているような感じです。もうシーンの切り取り方がシュールなうえに、テーマがボケないからいっそう強烈な印象です。ヴァーミリオン・サンズのシリーズなんかも入ってまて改めてテーマが現代的な作品だと実感。早川版の「バーミリオン・サンズ」を読み返したくなりました。1日1編ずつ味わって読みました。最高!

  • バラードの短編を発表年代順に収録したもの。各作品にはアメリカ版に収録されたマーティン・エイミスの序文とバラード本人が作品について語っている文章がのっている。自伝を読んだ時、マーティンの親キングスレー・エイミスと親しくなったとあったが、この序文で自宅にもよく行っていたのがわかった。

    デビュー作「プリマ・べラドンナ」は、歌う蘭とそれに魅入られた女性との醸し出す危うい空間、そしてそのジェインに魅入られた男たちとのバーミリオンサンズの空気、七色に輝くオパールのような世界を感じた。第1作から結晶世界を思わせる空気感がある。

    バラードの作品で一番すらすら読めたのは自伝で、破滅三部作はすらすらとは読めなかった。短編集もなかなかすらすらとはいかなかった。音がモチーフになってる作品が多い。

    読みやすかったのは「最後の秒読み」。保険会社に勤めるしがない男。会社と合わず悪口をノートに書いているうち、明日の記述を書く。するとそのとおり上司が死んでしまった。あれ、「デス・ノート」と同じだ。

    「待ち受ける場所」さる惑星にどこか宇宙からの来歴を示す石があった、というもの。石という点では「2001年宇宙の旅」よりこちらの方が早い。

    ・・・・・
    「プリマ・ベラドンナ Prima Belladonna」サイエンス・ファンタジー1956.12
    海辺のリゾート地バーミリオンサンズで「歌う草花店」をやっているわたし。何か装置があり草花が歌うようだ。ある日ジェインという女性がやってきた。肌は金色でたゆたゆと体をゆらめかせ怪しげな雰囲気で店の「アラクニッド蘭」に魅入られる。そして・・ 

     *「初めて活字になった作品。8ポンドの小切手を受け取った時の興奮はいまでもはっきりと覚えている。ふりかえって興味深いのは、この惑星の中で灰色のくすんだ50年代の英国からあたうるかぎりもっとも遠く離れた想像のビーチ・リゾートを舞台にしたことだ。1956年、英国に来てもう10年たっていたが、わたしはまだ根をおろせないでいた」

    「エスケープメント Escapement」ニュー・ワールズ1956.12
    時間ループもの

    「集中都市 The Concentration City」ニュー・ワールズ1957.1
    ロンドン?とおぼしき都市。開発でふくらんだ先は荒廃している。主人公はどうどうめぐり? ちょっと「1984年」の世界も思い浮かべた。

    「ヴィーナスはほほえむ Venus Smiles」サイエンス・ファンタジー1957.6
    バーミリオン・サンズが舞台。美しい女性彫刻家が作った音響彫刻がすさまじい騒音を立てながら成長をはじめる。バーミリオン・サンズものはいいな。

    「マンホール66 Manhole69」ニュー・ワールズ1957.11
    外科手術により睡眠を強制除去する実験を受けた3人が徐々に精神のバランスを失ってゆく。これも読みずらかった。

    「トラック12 Track12」ニュー・ワールズ1958.4
    生活音、体内音を増幅して録音することに成功した男が友人を呼ぶ。その録音された自身のキスの海で溺れてゆく。音を想像しながら読むと、その斬新できっと気分の悪い世界に驚く。

    「待ち受ける場所 The Waiting Grounds」ニューワールズ1959.11
    はるかに離れた火山噴火物惑星で監視の仕事を15年続けた男と交代した主人公。何が前任者を15年も監視の仕事を続けさせたのか。「惑星には太陽光発電のパネルがある」という記述があり、1959年で太陽光発電はパネルがある、というのが発想できたのか、それともそういう科学的知見は当時からあったのか。

    「最後の秒読み Now,Zero」サイエンス・ファンタジー1959.12

    「音響清掃 The Sound-Sweep」サイエンス・ファンタジー1960.2
    音の残滓が残らないようにする世界になっていて、「音響清掃」という仕事に従事する耳は聞こえるが言葉の発せない男。おちぶれたプリマドンナの家にいくが・・ 。

    「恐怖地帯 Zone of Terror」ニュー・ワールズ1960.3
    心理学者のベイリスの心理療法。無調音楽が出てくる。神経症の人の頭の中ってこうか、というような朦朧とした文章世界。

    「時間都市 Chronopolis」ニュー・ワールズ1960.6
    時計が廃止され時間をはかることが禁じられた世界。その理由は時間に拘束される世の中になってしまったから、というもの。都市の描写は荒廃している。少年コンラッド・ニューマンは時計に魅入られ、国語教師ステイシーに連れられやがて、荒廃した都市で一人残り時計を持った老人マーシャルと出会い・・

    「時の声The Voices of Time」ニュー・ワールズ1960.10
    バラード自身が「もし7冊の長編と92編の短編からひとつですべてを代表せよ、と言われたら「時の声」を選ぶ。それは最高作だからでなく(それは読者の仕事だ)、わたしの著作テーマをほとんどすべて含んでいるからだ」と述べている。・・とても読みずらくわかりずらかった。

    <解説より>
    「沈黙の対」とよばれる遺伝子を発動させた生物は奇怪な進化を遂げる。体外に神経の網を伸ばす蜘蛛、鉛の甲羅を背負う亀。宇宙の果てから送られてくる謎の数字がカウントダウンするのは、宇宙が終わるまでの時間なのかもしれない。


    「ゴダードの最後の世界 The Last World of Mr.Goddard」サイエンス・ファンタジー1960.10
    これは分かりやすかった。デパートに勤務するゴダード氏。毎夜自宅金庫の箱を開けると、デパートのジオラマがありそこには明日のデパートの様子があった。

    「スターズのスタジオ5号 Studio 5,The Stars」サイエンス・ファンタジー1961.2
    バーミリオン・サンズもの。今や文章はマシンで書く時代。そんな中詩人オーロラ・デイは紙にこだわり、自宅バルコニーから色テープに字が書かれたものが幾筋も夜の闇にぶらさがり、わたしの部屋にやってくる。

    「深淵 Deep End」ニュー・ワールズ1961.3
    新しい惑星の大気圏に酸素を供給するため海洋を錯乱したせいで、いまや海は一握りの湖と化していた。人々は他の惑星へと旅立つが私は残る。「旱魃世界」を彷彿させる短編。


    2001イギリスで刊行された「J.G.BAKKARD:The Complete Short Stories」(Flamingo An Imprint of Harper Collins Publishers)を底本にバラードの全短編を発表年代順に収録するもの。


    2016.9.30初版 図書館

  • J・G・バラードの短編小説を発表年代順に収録した短編集。このように並べると、作家がどのように作風を変化させていったかがよく分かる。別のアンソロジーでバラードの短編を読んだことがあるが、ニューウェーブ作品は分かりにくいという印象を持った。本書では、初期の作品を収録しているので、それほど難解なものはなかった。面白く感じた作品は、「集中都市」「待ち受ける場所」「最後の秒読み」といったもの。本書の作品をすべて楽しく読めるようになったら、堂々とSF読みを名乗ってもいいのだろうな。

    ◎プリマ・ベラドンナ 13-31(浅倉 久志/訳)
    ミュータントのようなミステリアスな女性が、男と花を狂わせる。女は最後までミステリアスだ。

    ◎エスケープメント 33-50(山田 和子/訳)
    時間の流れがおかしくなる物語。同じ時間を何度も繰り返す。

    ◎集中都市 51-74(中村 融/訳)
    ひとつの宇宙観を示した作品。我々が存在している地球を宇宙全体と捉えると、このような世界になるだろう。面白い。

    ◎ヴィーナスはほほえむ 75-93(浅倉 久志/訳)
    金属の生命体の話と思えばいいのかな。ありきたりのようでありきたりではない、不思議な感覚を覚える作品。

    ◎マンホール69 95-122(増田 まもる/訳)
    人間が“眠り”からの解放?または“眠り”の禁止?をされた場合、どのようなことが起こるのか作中で実験している。確かに眠る必要がなければ活動時間が増えて人生が楽しくなるかなあと思うときもあるが、作中では良い結果にはならない。

    ◎トラック12 123-131(山田 和子/訳)
    日常に溢れるささいな音がこんなに恐怖になるとは思わなかった。

    ◎待ち受ける場所 133-166(柳下 毅一郎/訳)
    後半の盛り上がりに興奮しながら読んだ。のどかな感じで読んでいたのに、一気に別世界へと連れていかれる。楽しい。

    ◎最後の秒読み 167-182(中村 融/訳)
    デスノートだよ。デスノート。語り手は最後に捻りがあると書いており、そのとおり最後に恐怖に襲われる。面白い。

    ◎音響清掃 183-228(吉田 誠一/訳)
    声を失ったが残音が聞こえて、それを掃除する男と、美しい歌声を持っている女の物語。非常に悲しい話である。

    ◎恐怖地帯 229-250(増田 まもる/訳)
    ありがちなストーリーではあるが、なかなか面白く読めた。

    ◎時間都市 251-282(山田 和子/訳)
    時に追われる、時に管理される、時に支配される。そんなテストピアから解放されたとき、人はどのようになるのだろうか。人は時間に支配されたがっているのかもしれない。面白い。

    ◎時の声 283-321(伊藤 典夫/訳)
    もっと壮大なストーリーになるかと思っていたが、壮大な背景を匂わすだけで、実際の描写にまでは至ってなかった。十分に面白いのだけど、もう少しこの先にある物語を読みたかった。それをやってしまうと短編小説にはならないだろうけど。

    ◎ゴダードの最後の世界 323-342(山田 順子/訳)
    なんだなんだ、最後がよく分からん。文学的なストーリー展開であり、自分には消化できないものがあった。。

    ◎スターズのスタジオ5号 343-385(浅倉 久志/訳)
    なんとも不思議な作品だ。情景は目に浮かび、どこかのリゾート地のようなイメージなのだが、知らないうちに芸術と心中しそうな勢いの舞台に引きずり込まれている。読んでいるときのドキドキ感もある。

    ◎深淵 387-402(中村 融/訳)
    デストピアです。デストピア。なぜ地球がこのような状況になったのか説明はないけれど、地球最後の日はこんな感じなのだろうと、ある意味リアルに見せてくれる。じわじわとくる作品だ。

  • 時間や感覚といったテーマを扱った作品が多い。どれもかなり普遍的な問題意識に基づいているので、細部の設定はともかく、本質は現代でも色褪せないと思う。

  • 今更レジェンドに対して物申すことなど何もないのだが。なんだかーわからんけど、物語そして作者に皆が惹かれる正体がなんだか見えてきたような気がするので記載する。人類皆兄弟、とかいう戯言は全くの虚言で、差別はたまた好き嫌い好みで世界は成り立っていて、それが個性であり新鮮なのだが、白人、黒人、アラブ人、アジア人はそれぞれ憎しみを増幅させ合っている。その最たる人種がイギリス人と私は思っているのだが、作者も先祖のやってきた恨み憎しみ怨念を正しく抱えていて、負い目というか生きるのしんどいわ、と感じているんではなかろうかな、と、

  •  [p. 167 以降]

    「最後の秒読み」(中村融訳)。記述/言葉にすることで影響力を及ぼす話。よく見かける設定だけど、この短編あたりがオリジナルになるんだろうか。1959 年の作。

    「音響清掃」(吉田誠一訳)。初めて読んだときも、割とどんよりした気分になったのだけど、今回もやはりどんよりとした気分になった。ある種爽快さもあったりはしてしまうのだけど、そのあたりも含めて、なんとなくやりきれない。

    「時間都市」(山田和子訳)。時間ネタというか時計ネタは、どうしても永遠の憧れ感。

    「スターズのスタジオ 5 号」(浅倉久志訳)。たぶん、今だから読むべき物語なのだろうと思う。この作品が書かれた頃とも日本で発表された頃とも、そして本書が編まれた頃とも、もう時代が違うので。

    --

    [p. 166 まで]

    「エスケープメント」(山田和子訳)。レコードの針が飛ぶ感じ。時間を主題にした作品はたくさんあるけど、こういう仕掛けがやはり好き。

    「待ち受ける場所」(柳下毅一郎訳)。いわゆる「刺さる」感じがしたのは、ちょうど個人的に落ち込んでいるときに読んだからかもしれない。人の営みに拘泥することなど、どうでもいいじゃん、という気分になってしまった。途轍もなく長い時間とか、途轍もなく広い空間とか、抽象的な言葉にしてしまうと消えてしまう何かが、具体的な物語に映じられることで力をもつというのはこういうことかと、なんだかひとり合点してしまった。

  • 2018/11/29購入

  • SF。短編集。
    バラードは『ハイ・ライズ』しか読んでいなかったが、やはり、治安の悪い荒廃した世界と、狂った人間を描くのが抜群に上手い。
    知らないうちに物語に引き込まれていた。
    〈ヴァーミリオン・サンズ〉が舞台の作品は特に世界観が好き。
    気に入った作品は「プリマ・ベラドンナ」「ヴィーナスはほほえむ」「最後の秒読み」「恐怖地帯」「ゴダードの最後の世界」「スターズのスタジオ5号」「深淵」。多い!満足!

    ちなみに、序文から既に良いです。
    "バラードはなぜか独創的に独創的だった"
    "彼は並ぶ者なき唯我独尊の存在だった"
    "彼のような者は、わずかでも似た者も、どこにもいなかった"

  • J・G・バラード短編全集1 (時の声)

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