- Amazon.co.jp ・本 (540ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488024932
作品紹介・あらすじ
爛熟と頽廃の世紀末ウィーン。オーストリア貴族の血を引く双子は、ある秘密のため、引き離されて育てられた。ゲオルクは名家の跡取りとして陸軍学校へ行くが、決闘騒ぎを起こし放逐されたあげく、新大陸へ渡る。一方、存在を抹消されたその半身ユリアンは、ボヘミアの〈芸術家の家〉で謎の少年ツヴェンゲルと共に高度な教育を受けて育つ。アメリカで映画制作に足を踏み入れ、成功に向け邁進するゲオルクの前にちらつく半身の影。廃城で静かに暮らすユリアンに保護者から課される謎の“実験”。交錯しては離れていく二人の運命は、それぞれの戦場へと導かれてゆく。動乱の1920年代、野心と欲望が狂奔するハリウッドと、鴉片と悪徳が蔓延する上海。二大魔都を舞台に繰り広げられる、壮麗な運命譚。
感想・レビュー・書評
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余韻からまだ覚めやらぬ一冊。
重厚さと装丁に惹かれて手にした世界。
一ページ目から抜け出せない予感が的中。ゲオルク、ユリアン、ツヴェンケル、皆川さんの紡ぐ三人の時間に、心に、たゆたいながら酔わされ、ひたすら絡めとられた。
自分がどこに連れていかれるのか果てしない酔いの旅。
そしてとてつもない余韻と共に終わりを告げた酔いの旅だった。
非在の存在ユリアンとツヴェンケルの二人の世界は美しい。
そして心に浮かぶのは美しさを感じる傷跡。
彼の傷跡に触れたい、覚めやらぬ余韻と共にそう感じたのは自分だけだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
世界史に明るくない私は、皆川先生の物語で勉強する。
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皆川さんの本を読むと、どっと疲れが押し寄せてくる。
でも決して嫌な疲れではなく、読み切った!という心地良い疲れ。
あまりにこの世界にのめり込み過ぎて、現実に戻るのが難しくなる(笑)
美しく退廃的で、背徳すら感じる皆川ワールド。
ねっとりと絡みつくような濃厚な世界観に酔いしれました。
幼い頃に切り離された結合双生児ゲオルクとユリアンの物語。
一人は光の道を歩み、存在してはいけないもう一人は影の道。
ウィーン、ハリウッド、上海と舞台は次々と入れ替わり、
双子の運命もまた翻弄されていく。
糞尿と汚水にまみれた目を背けたくなる描写も、
皆川さんにかかれば、毒々しいまでに美しく妖艶な色合いを帯びる。
ユリアンとツヴェンゲルの性を超えた繋がりが、
あまりにも歪で悲しく、そしてたまらなく愛おしい。 -
かなりスローペースでしたが、読み終えた後は溜め息しか出ませんでした。
癒着双生児として生まれたゲオルクとユリアン。ユリアンと双子以上の絆を持ったツヴェンゲル。別の場所で生きていた双子の人生が少しずつ繋がっていく。
章毎に時代が前後し、徐々に見えてくる他の章との接点。
人物名をタイトルに用いた章立てや自動書記という方法を使って語られるストーリー、という仕掛け。
皆川さんの構成力に圧倒されます。
スクリーンが「異界への窓」だという表現が印象に残りました。 -
オーストリア貴族の家に生を受けた双子、ゲオルクとユリアン。二人で「ひとつの生」として生まれ落ち、幼い頃に引き離された彼らの運命は、上海と聖林、混沌の2大魔都を舞台に、時を経て繋がってゆく―。
もう素晴らしい、としか言いようがありません。
繊細かつ壮大。幻想的かつリアリステックに綴られてゆく物語にひきこまれっぱなしでした。
言いたいことは沢山あるような気がするのだけど、胸がいっぱいで言葉にできません。-
2013/04/23
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久々の一気読み。これだけのボリュームをノンストップで読める持久力が残っていたことに我ながらビックリ。溢れ出る細かな描写とストレートな語り口に引き込まれ、その世界観がどんどん形作られていった。翻訳作品かと見紛うほどの質と厚みに押し潰されそうになる。
二大魔都に巣食う光と影、辛辣を極める貧富の差、そして成長と混乱の中、己の欲望を掴み取ろうとする殺気立った情熱──容赦のないリアリズムをベースに展開するのは、幻想的な鬼ごっこ。ゲオルクとユリアンがそれぞれ覚悟を決めてから、更に一段、深みへハマり込んだような気がする。
お互いの距離が縮まっていくと同時に、実は水面下で別のドラマが膨らんでいることに薄々気付かされる展開は素晴らしい。上海に舞台を移してからのサスペンスタッチな終盤には、異常なくらい感情移入してしまっているので、読んでて胃がキリキリするほど。
キレイにまとまりすぎている感はあるものの、ここまで徹底されると逆に清清しい。行間から立ち上る薔薇の香りと鴉片の紫煙に思考はゆらゆらグラグラで、読後は強烈な余韻に支配されるがまま。女子受けするストーリーだと思うので、男子の率直な感想を聞いてみたい。このお歳でこういう大作が描けるとは…。傑作に脱帽です。 -
特殊な双子の話。また読み返したくなった。
影としてでしか生きられない存在って、哀しいなあ。