- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488025366
感想・レビュー・書評
-
大学時代、駅から寮までの帰り道の途中に
ご夫婦ふたりだけで切り盛りしている小さな本屋さんがあった。
ロマンスグレーのご主人と、知的で優しい面立ちの奥さんで
急にお店を休む時には、休む事情が俳句や短歌のかたちで
美しい筆字で綴られて、申し訳なさそうにシャッターに貼り付けられ、
私たち貧乏学生が本を買うと、必ずお釣りを多めに返してくれて
固辞しようとしても、にっこり笑って決して受け取ろうとしなかった。
卒論で、高価な洋書や音楽関係の本が必要になったとき、
やっとこれで少しは恩返しできる!と、張り切って本の取り寄せをお願いしたら
「ごめんね、こういう本をいっぱい並べたいんだけれど、なかなかそうもいかなくて
うちではお取り寄せできる望みも薄いし、できるとしても時間がかかるから
気を遣わないで、都心の大きな本屋さんで買ってきてね」
と、切なそうに語った奥さんの顔や
大型書店ができて、ついにお店が畳まれて
お休みのしるしの短歌を張り付けられることもなくなったシャッターが忘れられない。
そんな私だったので、「新刊本の洪水」にのまれ、溺れる中小書店を描いた
最初の『ビターな挑戦者』に涙が止まらなくて。
2篇めの『新刊ナイト』でちょっとだけ気分もニュートラルになったと思ったら、
3篇めの表題作『背表紙は歌う』で
井辻くんの出版社とはなんの関係もなさそうな可愛らしい手芸の本が並ぶ
表紙の謎が解けた途端に、あっけなく涙腺が決壊するという展開に。。。
心ある小さな本屋さんが、無念のうちにお店を畳まないで済む未来を胸に
「デビル」と呼ばれても意に介さず、取次会社で毒舌を吐きまくる人がいて
自分が崩壊させた幸せな家庭への後悔と反省を胸に
誰もが先を争って返本しようとする、倒産した出版社の本を引き取って
やさしく棚に並べ続ける人がいて
本を愛する人たちは、やっぱり素敵だ。 -
出版社の新人営業マン井辻の奔走を描くシリーズ第二作。
久しぶりの再読。
中規模ながら老舗の出版社<明林書房>の新人営業マン・井辻が今回も様々なトラブルや試練に挑む。
相変わらず本の舞台のジオラマに嵌っているようで、今回出てきたのは『八つ墓村』で主人公が滞在する離れ。またマニアックなところを突いてくるなぁと感心。『斜め屋敷』もやるなら『本陣殺人事件』の本陣屋敷や綾辻さんの館シリーズもやって欲しい。
肝心の本編だが、今回も書店や出版社、作家、そして取次という読者には馴染みのない世界の話も出てきて興味深かった。
特に新刊本の海に疲弊する書店の苦労といったら、実際荷解きをする書店員さんの姿を見るだけでも大変そうだなと思うが、作品内で描かれる書店の姿にも同情を感じる。返品出来るという特殊な業界だからこそ起こる現象だが、何とかならないものかとも思う。
出版業界全体が縮小していく中、それぞれの立場で奮闘する姿はフィクションとは言えエールを送りたくなる。
今回もいろんな事件が起こるものの、基本的に嫌な人は出てこないので安心して読める。
井辻が頼りないようでここぞというところはしっかり抑えてくれるのが嬉しいし、ちゃらんぽらんなようで支えてくれる真柴等、他の出版社営業マンたちの盛りたても楽しい(実際のところ、こんなにライバル同士の出版社で仲が良いのかどうかはわからないが)。
成風堂とのリンクもちょっとだけ出てきて、あの方は相変わらず切れるなぁと感心したり。
2010年に出版されたこの作品を最後にこのシリーズは書かれていないが、そのうちガッツリ成風堂シリーズとのリンクも見せてくれれば嬉しい。 -
一作目よりややトーンダウンで締まらない感じがしましたが、
出版業界の悲喜こもごもが相変らずおもしろいです。
取次なんて仕事があるの知らなかったなぁとか
出版社がなくなった後の本の行く末とか新刊や賞レースにまつわるドラマとか
ほろりとしたりほのぼのしたり、日常の延長で楽しめるのがいいですね。
もはやミステリーっていうより人情劇ですが。
本を愛する人ってステキです。 -
出版社のお仕事本。
普段覗けない書店・出版社・作家・取次会社のお話。
出版社の新人営業マン井辻くん(通称ヒツジくん)
取次会社の人から意地悪な対応をされたり、他社の営業マンと結託して謎を追ったり。
書店員さんの推薦文をもらったり、賞取りのために奔走したり。いつも楽しませたいただいてる「本」にかかわるお仕事について読めてとても楽しかったです。
続編もあるらしいので、探して読もうと思います。 -
本好き書店好きに本当に楽しい、優しいミステリー。威風堂シリーズ「ようこそ授賞式の夕べに」後日談のような内容があるが、こちらの方が出版は先だった模様。既に10年以上、続編は出ないのだろうか。
-
最近は時間が思うように取れず、書店に行くことすらままならない日々を過ごしている人間にはひつじ君の出版社の営業という仕事が羨ましいよ…
本と本の周辺様々厳しい実態があれど、素敵な一冊にめぐり会える喜びは何物にも代えがたい、その喜びは沢山の人達の働きによって私達の前に届いている事を改めて思い起こさせる作品。 -
前の巻の内容は完全に忘れているけれど一章完結なので楽しめた。
ちょっとした謎があり得そうでちょうどいい。
出版社や取次の事情がふんだんに盛り込まれていて業界の厳しさや大変さが伝わってくる。
倒産する本屋や出版社の話題は辛い。
書店経営も大変そう…。
営業の人たちが仲がよくて微笑ましい。
現実にもそんなに顔を合わせるものなのだろうか…。
書店で営業の人同士が本棚の前で話しているのは見たことがない。
噂話の元凶は誰なんだとハラハラしたけれど悪人はいなくてほっとした。
そういう結末もあったか、してやられた。
最後の章のクイズにクイズを出したのは成風堂のあの子(既に名前忘れた)…!
最初、推薦文を書いたのが男の人だったので、そんな名探偵いたっけ…?と思っていたら。
その男の人も成風堂シリーズにいるのかも知れないけれど…。
また成風堂シリーズ読み返したくなってきた。
営業の人たち名前だけでも出ていたりするのだろうか。 -
面白かった。
営業職に就きたいとは思わないけど、この小説を読むとちょっといいなと思ってしまう。
「プロモーション・クイズ」が特に良かった。
本好きは本好きが好きだと確信した。
本を愛する人たち、万歳。
私は最近チャリボンという、読み終えた本を寄贈することでいろいろな施設に募金できるサ...
本を愛する人たち、万歳。
私は最近チャリボンという、読み終えた本を寄贈することでいろいろな施設に募金できるサービスを知って嬉しくなりました。
ものすごくセンチメンタルなレビューになってしまって、今頃赤面している私...
ものすごくセンチメンタルなレビューになってしまって、今頃赤面している私です(>_<)
チャリボン!
お茶目なネーミングな上に、なんて素敵なサービスでしょう!調べてみようっと。
そして、hetarebooksさんは、間違いなく本を愛する素敵な人たちの筆頭です!