裏窓―アイリッシュ短編集 (3) (創元推理文庫 (120-5))

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488120054

感想・レビュー・書評

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  • 「殺しの翌朝」「いつかきた道」とも幻想的な感じ。その幻想の感じは微妙に違っているが、遡る時間、が鍵ともいえる。ふたつともうまく映像化したらおもしろいだろう。アイリッシュもこんな作品をかくのか、と思ったが、殺人、という行為そのものが、巻きこまれれば、一種の幻覚世界なのかも、と思った。

    「殺しの翌朝」(Murder on My Mind 改題:The Morning after Murder)ディテクティヴ・フィクション・ウィークリイ1936.8.15
    俺は真面目な刑事なのだが、今朝はやけにベッドのマットレスの調子が悪い。連絡を受けた殺人現場に行くと、既視感のある建物が・・ しかし微妙に壁の色とかが違っている・・ 読んでるうちに、もしや犯人は? となるのだが、不思議な作品。


    「いつかきた道」(Guns,Gerntlemen 改題:The lamp of Memory、:Twice-Trod Path)アーゴシイ1937.12.18
    由緒ある家に育った私。先祖の肖像画のある部屋があり、その中でもひときわ目についたのが25歳で死んだという、曾祖父の弟で名前も同じ青年の肖像画。以来私は肖像画とともに大きくなり、家業に就く前に船で世界旅行に出て、とある場所に着いたが・・ 既視感のある風景と出来事が・・ 幻想的。


    「帽子」(The Counterfeit Hat 改題:The Hat ;The Singing Hat)カレッジ・ライフ1939.2.18
    真面目な勤め人の青年。やっと帽子を新調したが、入ったカフェで隣の人の帽子と取り違えたばっかりに、殺されてしまう。刑事たちの推理と追い詰める様を楽しむ作品。帽子が男性もファッションの一部として定着していた時代の作品なんだなあと感じた。

    「だれかが電話をかけている」(Somebody on The Phone)ディテクティヴ・フィクション・ウィークリイ 1937.7.31
    妹は電話におびえていた。5回鳴らすと一回切り、また鳴らす。問い詰めるとギャンブルで負けたらしい。兄の俺は待っていろと言い部屋を出たが、妹は窓から身投げした。こうなったら相手をとっちめるまで・・ やったぜ・・ そうなのか?・・


    この巻は初出がついていた。

    他に、
    「裏窓」(It Had to be Murder 改第:Rear Window)(コーネル・ウールリッチ短編集4、ホテル探偵ストライカー に所収)ダイム・ディテクティヴ1942.4

    「死体をかつぐ若者」(The Corpse and the Kid 改題:Boy with Boy :Blind Date)(コーネル・ウールリッチ短編集1)ダイム・ディテクティヴ1935.9

    「踊り子探偵」(Dime a Dance 改題:The Dancing Detective)(コーネル・ウールリッチ短編集2)ブラック・マスク1938.2

    「じっと見ている目」(The Case of the Talking Eyes 改題:Eyes that Watch You ;The Talking Eyes)ダイム・ディテクティヴ1939.9
    (コーネル・ウールリッチ短編集別巻6に”眼”の題で、「絶望図書館」に”瞳の奥の殺人”で所収。)


    「ただならぬ部屋」(Mystery in Room 913 改題;The Room with Something Wrong)カレッジ・ライフ1938.6.4
    (「ホテル探偵ストライカー」に”913号室の謎”の題で所収)

    1973.3.30初版 1975.9.12第5版 図書館

  • ヒッチコック映画であまりにも有名な「裏窓」をタイトルに冠して編まれた短編集。
    今回秀逸なのはやはり表題作と「いつかきた道」、「じっと見ている目」、「ただならぬ部屋」の4編を挙げる。

    表題作については贅言をつくす必要はないだろう。裏窓から人間観察をすることで毎日を過ごす男がある日、病弱の妻が住む一角に妻が現れないことが気になって犯罪の発生を疑うというもの。
    ヒッチコック作品をじっくり観たことはないが、何かで植えつけられた先入観のせいか、覗き見をする男ハルは貧弱で一握りの勇気しかない男だと思っていた。しかしこの作品では元刑事の不屈の男だった。覗かれている男が覗いている男に気付いて追い詰めていくというストーリーも実は全くの逆であったことも今回判った。
    アパートの窓の数だけ生活があるという書き方は群像劇が得意のアイリッシュらしい書き方だ。
    最後のオチは映画化でもはや自明の理なので、効果的ではなかったが、翻せばこのオチを知った上で映像化し、一級のサスペンスに仕上げたヒッチコックの手腕に驚くべきだろう。でも今のご時世ではこのハルの行為は全くの犯罪だなぁ。

    「いつかきた道」は異色の作品。
    ある先祖を尊敬する少年がやがてその先祖そっくりに成長し、旅に出たときに初めて来る地にもかかわらず、細かなことまで判ってしまう。それはあたかも先祖が乗り移ったかのようだったというもの。
    つまりは先祖が乗り移り、かつて先祖が愛した女性を迎えに行くという話なのだが、時世は現代で恋人は待ち人というのがちょっと理解できない。でも決闘シーンなどメタ歴史物とでもいう設定も手伝い、ロマン溢れる一篇になっている。

    「じっと見ている目」は全身麻痺で息子夫婦の世話になりながら暮らす老女が妻の企てる殺人計画を聞き、どうにか息子に伝えようとする。しかし、犯罪は成就し、妻は愛人と再婚するがそこに現れた無一文の青年が老女の世話をしだすことで犯罪が露見し始める。
    典型的なアイリッシュ作品。全身麻痺で口も聞けない老女がどうにか息子に殺人計画を伝える辺りは文章の力を強く感じた。
    手伝いに来た青年が実は刑事だったというのもアイリッシュの方程式だ。刑事が手掛かりを掴むのが早いような気がするが、短編だから仕方ないか。

    「ただならぬ部屋」はホテル探偵ストライカー物の一篇。
    これがシリーズ物なのかは現時点では知らないが、アイリッシュには珍しく密室殺人を扱った本格ミステリとなっている。
    セント・アンセルム・ホテルでは913号室に宿泊する客が相次いで自殺するという怪事が続いていた。ホテルの保安係を務めるストライカーは警察の雑な捜査に業を煮やし、自らの身を以って真相を明かそうと宿泊客に変装して913号室で一夜を明かそうとするのだが。
    他の短編と違い、飛び降り自殺に見せかけた殺人が都合4件起きるのだが、これをかなりのタイムスパンで100ページもの分量を費やして語る。これはストライカーの人と成りを示すために必要だったのだろうか?
    光を扱ったトリックはなかなか面白かった。フランス窓が出入り用の扉と同じサイズであることを利用したものだが、最初に提示される見取り図はあまりにも情報が省略しすぎだろう。
    真相解明の際に、あんな風に隣室が構成されているなんて初めて知らされた。アンフェアだな、明らかに。でもストライカーの執念とか物語の怪奇性とかは読ませるし、次作が愉しみな好編だ。

    しかし以上の4編以外がつまらないというわけではない。
    「死体をかつぐ若者」は余命いくばくもない父親が浮気性の妻を殺害した事件を息子がアリバイ工作にて上手くごまかそうとするもの。
    アイリッシュの「遺贈」という作品では死体が車に乗っていたがために逮捕される窃盗犯の話を書いたがこれはその別パターン。

    世評でよく聞く「踊り子探偵」は親友のダンサーの殺人犯人をダンサーが突き止めようとする話。アイリッシュの台詞の上手さが光る一品。世間では認知度高いが内容はさほどではなかった。

    「殺しの翌朝」も最後の幕切れがアイリッシュの上手さを現している。不眠症の刑事が気付かないうちに殺人を起こしていたという話。
    アイリッシュ・サスペンスの、どう考えても窮地に陥った主人公の犯行としか思えない状況に追い詰めていき、アクロバットなトリックで実は・・・という常道をあえてそのままストレートに落ち着かせた。

    「帽子」は帽子の取り違いから起きた殺人事件の話。殺害される男が帽子を店員に預けるのを断るのに「外は風が強く、帽子がないと風邪を引いてしまうからだめだ」というのには笑った。この辺の無理が最後までのめり込めなかった一因だった。

    「だれかが電話をかけている」は 10ページにも満たないショートショートといってもいいくらいの作品。単純なストーリーであるがゆえに最後のオチが効いている。

    前作が読み捨て小説の書き殴り感を強く感じたのに対し、今回は物語に起伏があり、読み応えがあった。昔の作品だという感覚は拭えないのは仕方はないにせよ、もう1つ心に残る作品があれば傑作になっていたと思う。

  • 初・アイリッシュ作品。
    読めれば面白いが、読みにくい。ミステリというよりサスペンスか。
    まだ『幻の女』を読んでないので、この作品だけでは諦めないぞ!

  • 戦後の日本に紹介されたミステリ作家の中でもっとも広く歓迎されたサスペンス、スリラーの第一人者アイリッシュの傑作の粋を集めた待望の短編集です。
    常に意表をつく技巧と主題の多様性に加えて、作者の独壇場ともいうべき哀切な雰囲気描写と緊迫したサスペンスは永遠に読者を魅了せずにはおかない強烈な磁力を秘めています。
    映画でもおなじみの名作「裏窓」、ファンタジー「いつかきた道」、卓越したアイディアとサスペンスに富むストーリー「じっと見ている目」、ショートショートの「だれかが電話をかけている」、アイリッシュには珍しい密室ものの中編「ただならぬ部屋」等の9編が収録されています。

  • 表題作の裏窓がイイ!ヒッチコックはほぼ忠実に映画化しました。裏窓が好きだという方は是非一読を。他のオススメは「じっと見ている目」

  • イイ!!
    視線で言葉を交わす話、窓辺から犯罪の糸口をつかむ話、印象深い短編集。

  • すごくよかった!!!
    裏窓 
    じっと見ている目
    ただならぬ部屋
    帽子
    特に好きだった

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