007/ロシアから愛をこめて【新訳版】 (創元推理文庫 M フ 10-4)
- 東京創元社 (2021年12月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (441ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488138103
作品紹介・あらすじ
【名作ミステリ新訳プロジェクト】恥辱を与えて殺害せよ――。ソ連の殺害実行機関SMERSH(スメルシュ)から死刑執行の指令が下った。標的は英国秘密情報部の腕利きのスパイ、007のコードを持つジェームズ・ボンド。彼を陥れるために、SMERSHの作戦計画立案者は、英国秘密情報部が飛びつくに違いない、魅力的な“餌”を携えた国家保安省の美女を送り込んだ……。巧妙に張りめぐらされた二重三重の策略と、ボンドを襲う最大の危機! 新訳で贈る007シリーズ最高傑作。
感想・レビュー・書評
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なんだこれ、『カジノ・ロワイヤル』から、格段にスケールアップしている!
というのが、冒頭を読んでみて、いきなりの印象だ。
プールサイドで、底知れない男の筋肉をもみながら、その女性は、相手のことを、知るまい、知るまいと気をつけている。
読者としては知りたいのだが、彼女の生命のためには、まったくもってそれが正解だろう。
さて、読んでも読んでも、007は出てこない。
ジェームズ・ボンドの名前も出てこない。
出てくるのは、マッサージを受けていたドノヴァン・グラントなる男についてだ。
アイルランド娘とドイツ男性の一夜の関係で生まれたこの男は、殺人狂である。
今でこそ、犯人像として珍しくない人物だが、1957年出版の本に出てくるとは思わなかった。
自国に飽き足りなくなった青年は、ソビエトに渡り、天職にたどり着く。
SMERSH(スメルシュ)――ソビエトの誇る暗殺機関の、死刑執行官である。
ソビエトは、スメルシュを使って、ある男の暗殺を決定した。
007――ジェームズ・ボンドを「恥辱を与えて殺害せよ」今や首席死刑執行官となったドノヴァン・グラントに、その指令が下った。
さて、この作戦には、見目麗しき女性が必要だ。
タチアナ・ロマノヴァ――グレタ・ガルボの若い頃に似た美女――彼女が今回のボンド・ガールである。
国家保安省伍長、まだ24歳、すれたところのない彼女は、
「あなたの写真に一目惚れしました」
ジェームズ・ボンドに言い寄る役として、ぴったりだ。
ジェームズ・ボンドの名前が出てくるのが、数十ページ後、彼そのものが出てくるのが、第二部から、ボンド・ガールと合流するのが、ようやく、ええと――
グレタ・ガルボに似た美女もさりながら、実は私はこの人もボンド・ガールに入れちゃってよいのではないかと、気になる女性がいる。
ローザ・クレッブ、ヒキガエルに似た、美女ならぬ醜女である。
スメルシュにおいて、作戦遂行部責任者の地位についており、部下や同僚から、重宝され、疎まれ、生理的に不快に思われている。
偉そうで、拷問が好きで、"実動部員"としても実力者なので、近くにいたら堪らないだろうことはわかる。
けれども、私は彼女が気に入ってしまった。
『ロシアから愛をこめて』は、読んだ後に映画版を見た。
『ロシアより愛をこめて』――タイトルはちょっと違う。
まともにソビエトを敵にはしていなかったり、機械の名前、機関の名前が変わっていたりするが、大筋は変わっていない。
ドノヴァンは寡黙で、
タチアナは美女だし、
ローザは強烈だし、
ジェームズ・ボンドはショーン・コネリー――男前だ。
しかし、映画はさておき、この原作は困った。
面白く読んだ後にこれか!
早くつづきを読ませてほしい。