- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488187132
作品紹介・あらすじ
アクランド英国軍中尉はイラクで爆弾によって頭に重傷を負い、片目を喪失する。病院での彼は他人に触れられると暴力的になり、看護師たちを戸惑わせていた。退院後、彼はロンドンに住み始める。だがアクランドともめた高齢の男がその後に何者かに襲われ、彼は警察に拘束される。近隣では、3人の独り暮らしの男性が殴殺される連続殺人が起きていた。アクランドはその事件にも関係しているのか――?〈現代英国ミステリの女王〉の筆が冴え渡る最新傑作!
感想・レビュー・書評
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イラクで爆弾により重傷を負い、片目を失ったアクランド中尉。除隊したあとも孤独を好み、人に触れられると暴力的になる彼は、近隣での連続殺人の嫌疑をかけられるが‥
アクランドの不可解な態度や謎めいた行動の理由はなんなのか。医師や警察の視点から事件の推移を描いて、大変引き込まれた。
この著者の描く女性キャラにはいつも敬服しており、今回は男性が主人公かと思ったが、途中から登場したジャクソンのキャラがまた素晴らしかった。 -
イラクに派遣され爆弾で頭と顔に重傷を負ったアクランド。人に触れられるのを恐れ、暴力作的にもなる。アクランドの近くで起きる殺人、周りにいる人たちとの関連。事件の中にある差別と偏見。犯人は誰かという謎と丁寧に描かれつつも核心は描かれていないアクランドの心象。その具合がとてもいい。事件の身近さと複雑さがあって社会問題も描かれどんどん奥行きができていくのが本当に面白い。
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実に5年ぶりのお目見えとなる作品。値段の割に邦訳が遅いのが気になる。この作家を思い出すのに、以下の前作『悪魔の羽』についての我がレビューを少し振り返りたい。
(以下前作レビュー)
中編集『養鶏場の殺人・火口箱』を読んでから、少しこの作家への見方がぼくの方で変わった。≪新ミステリの女王≫と誰が呼んでいるのか知らないが、この女流作家はミステリの女王という王道をゆく作家ではなく、むしろ多彩な変化球で打者ならぬ読者を幻惑してくるタイプの語り部であるように思う。
事件そのものは『遮断地区』でも特に強く感じられるのだが、時代性と社会性を背景にした骨太のものながら、庶民的な個の感情をベースに人間ドラマをひねり出し、心理の深層を描くことにおいて特に叙述力に秀でた作家なのだと思う。
(以上)
本書はイラクの戦場の砂塵のうちにスタートする。いきなりの爆破。本作ヒーロー、アクランド中尉の顔の左半分が、左目と共に失われる。ハンサムな若者は異形の帰還兵となって世界からスポイルアウトされる。そして連続殺人事件の容疑者としてマークされる。
アクランド中尉の個性、あるいは負傷によって変容してしまったかもしれない個性、が何よりも本書の読みどころであった気がする。何しろ、事件の捜査が動的に移ろいゆく中で、負傷兵としての、あるいは戦場の英雄としての彼は、さらに移ろいやすい存在であるかに見える。しかしむしろ真逆の頑迷さと不変性に鎧われた迷いなき強靭な意志の持ち主のようにも。
禁欲的で、口数が少なく、時に発作に見舞われる後遺症持ちの戦場帰り。こういうキャラクターをミステリの中心に据えて、彼に寄り添うのが、アーノルド・シュワルツェネッガーのような恰好をした巨体の女医師ジャクソン。捜査の中心となる冷徹なベテラン警視ジョーンズ。それぞれにキャラの立った個性的で存在感溢れるバイプレーヤーたち。
さらにロンドンの犯罪の温床みたいな暗闇に蠢く、薬中、ホームレス、男娼、そして謎に満ちた孤独な被害者たち。暴力と犯罪の匂いに満ちた街を、アクランド中尉とその周囲を回遊する人間たちの目くるめく深夜。中尉の元彼女はユナ・サーマン似のコケティッシュな美女として、アクランド中尉とのどうにも掴みにくい距離感を往還する。
迷宮のようにしか見えない国家と個人との隘路を辿る捜査の背景に見えてくる病的な社会と時代を、名手ミネット・ウォルターズはまたしても不思議なメスさばきで、解体してみせる。物語にオフビートなリズムを交えながら、あくまで個性的な物語を紡ぐ作者のペンの切れ味にただただ酔うばかりの一作である。 -
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2023/04/30
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ミネットウォルターズらしい切り口で描いた力作。
イラクで負傷した若き中尉をとりまく人々の心理が明暗交じえ丁寧に描かれている。
好みの分かれる部分はあるかもしれないが、登場人物一人ひとりの生き様が鼓動とともに伝わってくるような、地に足のついた圧倒的な表現力を感じた。 -
おもしろかった!!
ジャクソン、かっこいいなぁ。
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相変わらず硬質な文体、確立されてる。
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この作家の文は、たぶん初めてだ。
硬質な感じの文だが、著者は女性。
主人公が魅力的。英国軍の中尉なのだけれど、イラクで爆撃され、頭、顔に傷を負う。我慢強くストイックに見えるのに、ときに突然暴力を振るう。
孤独な彼を心配する者は、寄り添おうとするが、手痛く拒否される者も多い。特に女性は。
同情からも身を引き、触れられる事を嫌う彼。
同時に、ロンドンでの撲殺事件が語られ始め、主人公との関係があるのか、ないのか。どんどん気がかりな方向に話がすすむ。
事件は続いて起こり、常に主人公の影がチラつく。
警察にも尋問されるが、核心に至ることはつかめず、彼も多くを語ろうとしない。
事件との関わりがあるのか?
けれど、謎が解決されずに時が過ぎる間に、彼を孤独に立ち回らせるに至る出来事も、次第に明らかになる。
家庭環境、戦争、そして女性との関係。
何より主人公が追い詰められていく過程が、テンポ良く、どんどん読める。
主人公が口を閉ざす部分を、彼にかかわった精神科医、医師、後には警察官が、こうであろうという診断や代弁、推測、憶測で語り、彼の本当の気持ちはどうなの?と、もどかしい。
事件に関しては、特別な捜査があるわけではなく、偶然にわかってきた事柄を重ね合わせて解決に至り、なんかスッキリしない感もある。
が、事件にかかわったことで、主人公は少しずつ自分の事を語る事が出来たのではなかっただろうか。
親切にしてくれた人、親身になってくれた人、寄り添ってくれた人とも、最後には別れて出ていくが、これからの彼は、大丈夫という気がする。
もうひとつ、戦争、路上生活者、ジェンダーフリー、家庭問題など、さまざまな社会現象が絡んでくるのも、気になるところではある。