スプリット・イメージ (創元推理文庫 M レ 2-2)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (433ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488241025

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  • 80年代後半から90年代前半にかけてサイコサスペンスが一世を風靡した。このブームはトマス・ハリスの『羊たちの沈黙』に端を発したものだが、こぞってアメリカのミステリ作家はこの新しい分野にダイヤの原石を見出したかのように、みなサイコキラー物を書き出した。その影響は日本のミステリ界にも波及し、その中には傑作も少なくない。
    が、それに先駆けて、レナードは81年の本書でサイコキラー物と著わしている。しかし同年、ハリスは『羊たちの沈黙』に繋がるレクター博士が初登場する『レッド・ドラゴン』を上梓しており、ここに何らかの符号があるのかもしれない。

    金も権力もあり、地位も名声もあり、なおかつ女どもが振り向きたがる容姿も備えた男は、人を殺してみたくてしょうがなかった。そしてその欲望は日増しに肥大し、悪徳刑事を抱きこんである殺人計画を実行に移そうとしていた。しかしそんな2人に目を向ける1人の刑事がいた。

    金持ちで権力もあって、しかも容姿端麗という、最強のサイコキラーだが、レナードが描く犯人像はいわゆる完璧な優等生タイプとして描かず、精神の歪んだ側面と成功した人間にありがちな失敗にもろい性格を前面に押し出し、この犯人をどんどん厭なヤツにしていく。
    しかし『野獣の街』と共通するのはそれが決して滑稽ではなく、いつ実行に移すのか、じわりじわりと緊張感が飽和していく、その絶妙な筆致にある。
    とにかくふとしたことで人を殺しそうなまでに肥大した彼の殺人願望が非常に怖く、ギリギリに引き絞られた矢がいつ放たれるのかという危うさに溢れている。

    そして読者の予想を裏切らない殺戮シーン。起こるべくして起こるようにレナードはストーリーをキャラクターを動かしていく。いや、彼に云わせれば登場人物がそういう風に動いているのだろう。
    この怒涛の展開にはカタルシスは得られる物の、しかし私は結末のある部分に呆気にとられてしまった。今になって思うとこれこそがレナードなりの味付け、つまり物語というものはそう絵に描いたようには上手く行かないのだという彼なりの皮肉なのだろうが、ちょっとこの結末は予想していなかっただけに大いに戸惑った。まあ、それぐらい物語に没入していたということだろうが。

    とはいえ、読後には爽快感も得られたので、総合的に見てレナード作品群の中では上位に来る作品だ。後のレナード作品にはもっと呆気に取られる展開・結末の作品が出てくるのだから、まだまだ許容範囲と云える。
    この頃のレナードは本当に面白かったなぁと思う。やはり収まるべきところに収まる面白さというのがあるのだ。これをレナードに求めるのはファンとしてご法度なんだろうか、やはり。

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