オンブレ (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (309ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102201411

作品紹介・あらすじ

アリゾナの荒野を行く七人を乗せた駅馬車──御者メンデスとその部下アレン、十七歳の娘マクラレン、インディアン管理官フェイヴァー夫妻、無頼漢のブレイデン、そして「男」の異名を持つジョン・ラッセル。浅黒い顔に淡いブルーの瞳、幼少期をアパッチに育てられた伝説の男と悪党たちが灼熱の荒野で息詰まる死闘を繰り広げる。レナードの初期傑作二作品を、村上春樹が痛快無比に翻訳!

感想・レビュー・書評

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  • これは良かった!久々に「小説」を読んだという気がする。村上春樹がエルモア・レナードを訳す、しかもそれがなんと西部劇、と二重に驚かされた本書。訳者あとがきで述べられているとおり、ちっとも古びていなくて、実にクールだ。

    オンブレ(男)と呼ばれる主人公ジョン・ラッセルの造型がすばらしい。本作は映画化されていて、ラッセルはポール・ニューマンが演じたそうだが、いやあさぞかしかっこよかっただろうな。私としては、もうちょっと荒っぽい雰囲気の人が良いようにも思うが、うーん、誰だろう。

    ラッセル以外の人物も皆、それぞれのアクがある。これまた村上春樹が書いているとおり、金輪際改心したりしないだろうという悪党たちの描き方に、エルモア・レナードらしい「華」があり、もっとこういうのを読みたくなった

  • 『オンブレ』『三時十分発ユマ行き』の二篇で、いずれも西部小説。後者は映画『3時10分、決断のとき』の原作としても有名な短編である。「オンブレ」は「男(マン)」を意味するスペイン語であり、物語の中心となるマスタンガー(野生馬の密猟・密売に関わる者)として生きるジョン・ラッセルの通り名のひとつである。

    とある町で、インディアン管理官であるフェイバーの強引な要求によって臨時の駅馬車が運行されることになった。フェイバー夫妻と馭者のメンデス以外に、駅馬車経営会社を辞めたばかりのカール、ならず者の男、インディアンにさらわれた後に救出され帰途につくミス・マクラーレン、そしてジョンを含むそれぞれ異なる境遇の七人が旅をともにする。インディアンに育てられた過去をもつラッセルやインディアンにさらわれたミス・マクラーレンにあからさまな嫌悪感を示すフェイバー夫妻や、ならず者の身勝手な行動もあって落ち着かない雰囲気のなか旅が進む。その途上で七人が乗った駅馬車は強盗団に襲われるのだった。

    物語は美しいミス・マクラーレンに魅せられて駅馬車への同乗を決意したカールの視点で語られる。一同のなかでは存在感の薄いカールは狂言回しにあたり、一連の事件を通して「オンブレ」ことジョン・ラッセルという男を描き出す。砂漠、駅馬車、美女、悪党、そして正義のアウトローと、舞台と役者が揃った西部小説の世界を堪能できる。娯楽作品だが甘いストーリーではなく、物語の設定もあいまって"渇き"の感覚をもたされる。悪党を含むジョン以外の個々のキャラクター描写もしっかりしていて完成度が高い。私が最近読んだ日本の作家では山本周五郎がこれに近いかもしれない。

    死刑囚を列車に乗せるべく連行するポール・スキャレン保安官補を描いた『三時十分発ユマ行き』はその短さを生かした緊張感のある展開で、『オンブレ』に劣らない良作だ。娯楽作としての爽快感はこちらが勝る。ジョン・ラッセルにしても、ポール・スキャレンにしても、彼らの選択した行為の重さが読後に余韻を残す。「読み捨てられることを前提とした安価な娯楽小説」とは思えない、質の良い作品だった。巻末では訳者・村上春樹の長めの解説も読める。

  • なんだろう……このウキウキは、全盛期の西部劇の世界……

    「荒野の七人」「幌馬車」「シェーン」「夕日のガンマン」……
    おいおいと思うほど、西部劇な追いかけっこや決闘シーンが260ページに展開される。

    二本立て西部劇の、まずは表題作中編『オンブレ』
    急仕立ての馬車に乗る疑心暗鬼の乗客と御者の一行と馬車襲撃の犯人たち、車内でのやり取りから襲撃後の逃走・最後の決闘へと、話はドンドン進む。
    特に、主人公ラッセルを「オンブレ(おとこ)」と呼ぶ最後まで名前のわからないメキシコ人との対決が見せ場!

    そしてもう一本、短編『三時十分発ユマ行き』がとても良い。
    刑務所のあるユマ行きまでの列車待ちの、わずか半日の出来事。
    囚人と護送任務の保安官補の探り合い、奪取と目論む囚人の仲間たちの影……。
    初めから終わりまで緊張感いっぱい!

    あまり、訳者村上春樹の色は出てこない。
    が、訳者自身もあとがきに「とにかくむずかしいことは言わず……楽しんでいただければ」とあるとおり、素直な読者であることが大切。

    なんだかジョン・ウェインかクリント・イーストウッドの西部劇が見たくなったなぁー

  • 映画「太陽の中の対決」(1967)を見て、原作がありしかも村上春樹訳で出ていると知り読んでみた。

    映画を見ているので読みながら常に映画の中の風景と、オンブレ=ジョン・ラッセル役のポール・ニューマン始め登場人物達の顔が浮かんでいるのだが、紙上で再び映画が再現されているような感じだった。

    小説では駅馬車取扱所に勤める若い青年カールの語りで進む。駅馬車襲撃についての一連の出来ごとについて、新聞報道もなされたが、カールは体験した「オンブレ」の放つ光をどうしても自分の言葉で書き記したいのだということになっている。映画でもポール・ニューマンは強烈な空気を放っていたが、小説の中のオンブレも、静かだが硬質な存在感があった。ただ村上訳なのでやはり文体がムラカミ節。どことなくやさしさが漂う。

    オンブレは4分の1メキシコ、4分の3白人の血が混じり、眼はブルーだったとあった。ポール・ニューマンの青い瞳はまさにぴったりだったわけだ。映画と違うのは、駅馬車の乗客にインディアンにさらわれ1カ月そこで過ごしたマクラレンという10代の少女がいることだ。このマクラレン嬢は気丈で気高く描かれている。映画では小説には出てこない乗客、下宿屋の女主人になっていたのかと思う。映画で青年は若い妻をつれていた設定だが、この妻は親の元から抜け出したくて青年と結婚したことになっていて小説のマクラレン嬢とはまったく違っていた。

    「三時十分発ユマ行き」も収録されていた。これも映画「決断の3時10分」(1957)を観ているので、やはり映画の情景が読んでて浮かぶ。映画はこの短編をかなりふくらませて、護送する設定も保安官補ではなく賞金が欲しい牧場主としている。小説はさらっとした感じだが、宿屋での罪人とそれを護送する保安官補の心理が言葉で現わされている。


    1961発表  (映画「太陽の中の対決」1967)
    2018.2.1発行 図書館

  • 映画では西部劇ははっきり言って苦手ジャンル。
    特に古典的なものは、人物造形が基本的にワンパターンだし、ドンパチは長いし(それが売りらしいが、私は飽きる)、場所もだいたい似たような感じだから絵としても見てて全然楽しくないし。

    でも、考えてみたら小説の西部劇を読むのは初めてだなぁ、どうなんだろう、と思って読み始めた。

    感想は・・・めっちゃくちゃおもしろかった!
    イッキ読みする勢いだったけど、頑張って中断して寝たら、次の日仕事中に禁断症状が出た。
    TV会議しながら、こっち側は私一人だったので、「しまった、こんなどーでもいい会議、あの本を持ってきてたらPCの陰でコッソリ読めたのに・・・私のバカ・・・」などと本気で後悔していた。

    読み終わって、呆然としてしまった。
    しかもちょっと涙ぐんでしまった。結末はなんとなく分かっていたのに。

    最後の2ページを3回くらい読んだ。
    いま、書きながらもう2回読んでしまった。実にぐっとくる。

    エルモア・レナードを読むのは初めて。
    読もうとしたことすらなかった。
    映画化されているのを見ればそれでいいかと思っていた。もともとミステリはあまり好きじゃないし、ノワールを描くのは文字より映像の方が得意だろうと決めつけてたし。

    読んでみて、意外に親切に心情を細かく説明するタイプの作家なんだなぁと思った。
    なんとなく意外。ちょっと親切すぎる時もあった。

    この人の他の西部劇も読んでみたいな。コンテンポラリー・ノワールじゃなくて。
    っていうか、誰の作品でも良いのでもっと西部劇が読みたい気分になった。この本のおかげで。

    村上春樹の訳は、ところどころ硬直しすぎ?と思った。ハードボイルドな雰囲気を狙ったのかな?

  • 西部劇の傑作
    訳者のあとがきでも言われていた様に善悪がはっきりしていて、悪が負けるということが確定しているので、ノンストレスで読めました
    チャンドラーなんかと同じ雰囲気です

  •  帯に「痛快無比、ワイルド&クール」と書かれているだけのことはあり、ハードボイルドな主人公がただただカッコイイ小説。冷徹に合理的に振る舞いつつも熱いハートを持っている主人公、その秘めたるハートに火をつけるヒロインという二大キャラが分かりやすくて良かった。1961年と、かなり古い作品のためかやや前半が長く感じてしまったけど。
     西部劇と呼ばれるものを読んだり観たりした経験は恐らくないのだが、Prime video等でも見られる(オンブレはないけど)ので一度は観てみようと思う。

     寡黙な男というのは価値観としてはやや古く、昔はカッコいいとされていた男性像という印象だけど、だからこそ現代から見れば痛快に映る。中学時代に読んだら主人公の真似をして黒歴史になっていたかも。
     訳者は村上春樹。この作品がリアルを描きつつもファンタジー色が強いことを、訳者は「神話的世界」と表現し、「神話は理解するものではない。ただ受け入れるものなのだ。」という。訳者の小説も多分にファンタジー要素はあり様々な寓意が様々な評論家・読者により想定されている。
     私も、訳者の小説を読む際に、物語をただ楽しもうとは思いつつ、寓意を読み解こうと身構えてしまっていた。「意味や寓意に振り回されなくてもよい。楽しいと思えればそれでいいんだ。それで、ついでに得るものがあったらラッキーくらいでいいじゃないか」と素敵な知人が言っていたのを思い出した。本小説は、そんな気持ちで読めたと思う。

  • まごうことなき正統派西部劇。
    さすがの村上春樹の訳でも、洋書翻訳は文章に違和感が見られたが、十二分にゲイリークーパーの「真昼の決闘」やジョンウェイン「駅馬車」の世界を堪能できた。

  • アメリカの作家エルモア・レナードの西部劇の傑作『オンブレ(原題:Hombre)』を読みました。
    ここのところ、アメリカの作家の作品が続いています。

    -----story-------------
    「男(オンブレ)」の異名を持つ西部の男と駅馬車強盗との息詰まる死闘。
    レナードの初期傑作!

    アリゾナの荒野を行く七人を乗せた駅馬車――御者メンデスとその部下アレン、十七歳の娘マクラレン、インディアン管理官フェイヴァー夫妻、無頼漢のブレイデン、そして「男(オンブレ)」の異名を持つジョン・ラッセル。
    浅黒い顔に淡いブルーの瞳、幼少期をアパッチに育てられた伝説の男と悪党たちが灼熱の荒野で息詰まる死闘を繰り広げる。
    レナードの初期傑作二作品を、村上春樹が痛快無比に翻訳!
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    1961年(昭和36年)に刊行された作品……ポール・ニューマン主演で『太陽の中の対決』というタイトルで映画化された表題作『オンブレ』と、『決断の3時10分』(リメイク作は『3時10分、決断のとき』)というタイトルで映画化された短篇の『三時十分発ユマ行き』が収録されています。

     ■オンブレ(Hombre)
     ■三時十分発ユマ行き(3:10 to YUMA)
     ■訳者あとがき 村上春樹

    『オンブレ』は、アパッチ族に育てられた白人のジョン・ラッセルが、駅馬車に乗った他の乗客とともに、ならず者の一味に襲われるという物語……登場人物の性格や背景、動機等が巧みに描き出されており、読者を引き込みますねー 緊張感が満載で西部劇の醍醐味を味わえました、、、

    馬も奪われた駅馬車の一行は、生き延びるためにラッセルを頼りにするが、彼はつれなく、不可解な存在であり続ける……やがて、物語はクライマックスの廃坑での銃撃戦になだれこんでいく……。

    一行のサバイバルと、金、水、人質をめぐる筋の面白さ、様々な個性のぶつかりあい、リアリティある灼熱の荒野という舞台、それらを叙述する簡潔な文体……魅力が尽きない作品でしたが、やはり本作の最大の魅力はラッセルという男の生き方なんじゃないかと思います、、、

    クライマックスの決断には痺れたなー 良質なハードボイルド小説を読んでいるような雰囲気で、ラッセルがムッチャ格好良かったですねー カタルシスの大波が押し寄せる結末でした……エルモア・レナードの筆力と村上春樹の翻訳力が見事に融合した作品でした。

    『三時十分発ユマ行き』は、凶悪犯を護送する保安官補の数時間を描いた短篇……主人公にとっての倫理的問い掛けが基調になっているところは『オンブレ』と共通していましたね。

    初めての西部小説……なかなか新鮮でした。

  • やっと読了。

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