夜愁 上 (創元推理文庫 M ウ 14-4)

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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488254056

作品紹介・あらすじ

1947年、ロンドン。第二次世界大戦の爪痕が残る街で生きるケイ、ジュリアとその同居人のヘレン、ヴィヴとダンカンの姉弟たち。戦争を通じて巡り合った人々は、毎日をしぶとく生きていた。そんな彼女たちが積み重ねてきた歳月を、夜は容赦なく引きはがす。想いは過去へとさかのぼり、隠された真実や心の傷をさらけ出す。ウォーターズが贈るめくるめく物語。ブッカー賞最終候補作。

感想・レビュー・書評

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  • 第二次世界大戦後のロンドンが舞台。精神病院の二階の窓から放心して外の様子を見ているケイとその周りの女性たちに何があったのか。時間を遡って、さらにまた遡って最後にケイが何故そのような状態にまでなったのか読者に感動という贈り物と共に最高の説得力で読後の満足感を与える。

  • 上巻の物語は2つに時代が分かれています。
    最初は1947年。次は1944年。
    主な登場人物は5人。

    まず、最初に登場したのはケイという女性。
    彼女は男装して街を歩く。その姿を見た者は「ハンサムな青年」と見間違えるが、よくよく顔を見ると、白髪のある37歳の女性であると気づく。

    ヘレンは結婚相談所(多分)に勤めている女性。
    彼女はジュリアという女性と同棲している。二人の関係は冷めつつあるがレズビアンの関係だと思われる。(はっきりした性描写は出てこない)

    ヘレンの同居人、ジュリアは作家。
    独特な魅力をもつ女性で、ヘレンとジュリアの関係はどちらかというとヘレンの方がジュリアに首ったけな様子。

    ヴィヴはヘレンの同僚の女性。
    何故かある一線以上は心を開かない人で、特に弟について話す時は頑な態度をとる。
    彼女は家庭ある男と不倫をしている。

    ヴィヴの弟、ダンカンは何故か家族と一緒に暮らさずにマンディという老人と生活している。
    彼は美しい容姿の青年で、健康体であるにも関わらず、何故か身障者の働く工場で働いている。

    この物語は上記5人とそれに関連する人々を描いた物語。
    読んでいるとすぐに彼らは過去に心の傷をもち、何か秘密をもっているのだと分かる。
    そして、それを少しずつ共用している事も。
    だから、お互いが出会うことによって、その過去に向き合うこととなっていく。

    この本には同性愛がはっきりしない形で多々描かれていて、それが物語の大きなウェイトを占めているのだという事は何となく分かりました。
    ただ、上巻では全貌が見えてこない。
    それらしい事をちらつかせて、物語の核心部分を見えそうで見えなくしているという印象です。

    作品全体に漂う雰囲気は「倦怠感」や「閉塞感」、「低迷」した感じ。
    人だけでなく物も街全体も傷を負っていると感じる。
    そしてそこに拍車をかけて暗い影を落としているのは戦争の傷跡-。

    上巻だけ見ると、面白いと思える話ではありません。
    でも何故か下巻も読みたいと思わせる吸引力があります。

  •  1947年のロンドンの人々を描いている。そして、物語は時間をさかのぼっていく。

     読み始め、うーーん、ウォーターズもあかんか、と思っていた。とにかく出てくる人間が皆暗い。人間関係もわけわかんない。
     ま、それでも読み進めていけたのは、やっぱりウォーターズだからなんだろう。結構ポイントポイントで、上手いんだよね。
      
     戦争によって、狂わされている人生を描いているのであろうけど、反戦を声高々に訴えてるわけでも、戦争を描いているわけでもない。ただ地道に普通の(っても同性愛者がいるので心底普通とはいえないかもしれないけどね)人の生活を描いているあたりの気風のよさ。
     うむ。ウォーターズは気風の作家だったのかもしれない。

     物語はさかのぼっていく。
     登場人物が出会い、縁が語られていく。

     そして、最後のシーン。
     
     時間をさかのぼる構成は、なんだかなと思っていたが、このシーンで全ては氷解した。このシーンのためには、どうしてもさかのぼらなければならなかったのだ。
     それぐらい印象的なシーンだ。
     
     そして、そのシーンが呼び起こす登場人物たちの現状(小説の冒頭部分というべきか)
     切なさが、押し寄せてくるような読後感。

     いい作品なのか、どうかはよくわからない。
     けれど、やっぱりウォーターズはウォーターズで、彼女のほかに彼女のような作家はいないだけは、確かなのだ。

  • たぶん、ストーリーを語るだけだと何の変哲もない物語。でもちょっと変わっているのは、時系列が逆なんですね。結末が既に分かっている物語を逆に読む、というのは面白いんだろうかどうなんだろうか、と思うのですが。むしろはっきりと描かれない「過去の出来事」ってのは案外気になるもので。スムーズに遡って読めました。
    戦時中の暗い雰囲気もありますが、その中でそれぞれに生きていく登場人物たちの姿が、やや頽廃的な美しさで描かれています。格別大きな事件が起こるわけじゃないけれど、入り込めればぐいぐいと読まされました。
    やはりメインになるのは、女性たちの姿ですね。しかしそれにしても、いつの時代にも腹立たしい男っているものですね……っていうかいい加減別れろよ!と突っ込みっぱなしでした。どの時点をとっても、レジーにはむかつきました……最低だ~。

  • 戦時下のロンドンを舞台に、登場人物たちが織りなす群像劇。

    過去へと遡るごとに明らかになってゆく彼らの恋。
    この時系列の順番は、恋の輝きが永遠に戻らないことが強調されるようで、ひどく切ない。
    前作や前々作のようなミステリを期待すると肩すかしをくらうが、抑制された巧みな描写で読み手の気持ちをそらさず、牽引力は健在だと思った。

    恋に絡めとられた同性愛者たちのしっとりとしたシーンは、禁忌と抑圧あってのエロス。
    かぐわしく妖しくも美しい!
    ラストの奇跡的な美しさにも、胸が締め付けられてしまう。

  • 下巻の方にまとめます

  • 結婚相談所のヘレンは同僚のヴィヴィアンとお客に対応していた。女性の写真が貼ってあるアルバムを見せて紹介するのだ。ケイは借りている屋根裏部屋の窓のはたに立って、一階のレオナードさんの患者の出入りを見ていた。レオナードさんは霊感で治療をするという。今は1947年。戦争から2年たった。色々なものが変わっていく。人の心も。現在から遡るように人の過去を描く。それは戦火の日々の生活を思い起こすことだ。

  • 初読みしたときは登場人物が多く、話が立ち代わり出てくるわりに関係が見えないので苛立つ。最初の章が終わりかけの頃に、なんとなく方向性が見えてくる。最初にレヴューなどで人間関係を掴んでから読まないと読みづらい。

  •  淡々と。
     静かに、(登場人物たちにとって)あたりまえのような日常。けれども読み手にとってはなぜか引き込まれてしまう。

  • 登場人物の関係がイマイチ掴めないまま、
    読み進めていく。

    同性愛の三角関係は、僕の理解力の範疇を超えている。

    1947年から始まった物語は、1944年に後ずさる。

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