空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書) (創元推理文庫 M き 3-1)
- 東京創元社 (1994年3月27日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488413019
感想・レビュー・書評
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不思議なタイトルと、高野文子先生のイラストに引かれ、初めて本書を手にしてから二十数年。何度目かの再読を終えた。読むたびに、ふぅと息をつきたくなるような充足感を覚える。
主人公の《私》は、これを書いている私よりもやや上の世代。当時大学生だった私は、《私》にシンパシーを覚えながら読み、新刊が出るのを首を長くして待ち続けた。青春時代に共にあった作品なのだ。だからこそ後日、北村薫先生に本書にサインをして貰えたとき、飛び上がるように嬉しかった。
円紫さんと私シリーズは、いわゆる日常の謎の嚆矢とされる。殺人事件や派手なアクションはない。むしろ、日常の中にこそ謎が満ちているという気づきは、人生を豊かなものにしてくれた。
本シリーズの探偵役は、噺家の春桜亭円紫。今回、再読をするにあたり、作中に登場する落語の演目を聴きながら読むということをやってみた。初読時には考えられなかったことだが、ネットに動画が氾濫している昨今、そんなことも可能になった。これが意外に面白い。お時間があればお試しあれ。
やはり今の北村先生の筆致よりはどこか「若い」感じがするデビュー作。本書の作品で私が一番印象に残っているのは「砂糖合戦」だ。舞台設定や小道具が今となっては古いので、あまりピンとこない読者もいそうだが、喫茶店好きの私はお店に入るたびにこの話を思い出していた。今でも何かの折にふと思い出す。日常の謎はホンワカしたものばかりではない。さっきまで笑っていた普通の人が突然、悪魔の表情を見せることがある。その冷たい悪意に、ぞっとさせられるものも少なくない。これはそういうお話だ。
もちろん、そこは北村薫。最終話の「空飛ぶ馬」は、人間の温かい一面を見せて、幕を下ろす。本書は短編集だが、一冊を読み終えたときに、さらに大きな満足感が得られるようになっている。それは保証できる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
北村薫先生…大ファンになりました。
すっっっごく読みやすい。ミステリ作家って凄いなあ。確かな描写力。日常のしょうもない出来事、人の心の些細な機微までしっかり伝わってくる。ミステリとしての中核の部分である謎も大仰でもなくあり得なくも無いのでスッと頭に入ってくる。何より北村薫先生の知識量!とんでもない読書家なんだろう。この一冊を読んだだけで次に読みたい本が増えていく。
まずはシリーズ読破!! -
人が死なないミステリー
なのにここまで引き込まれる
のほほんとしてるようでそうじゃない。ハラハラもしてしまう。
良い読書体験でした。 -
人が死んだり、大事件が起きないミステリというのもあるんだな。
"小説が書かれ読まれるのは、人生がただ一度であることへの抗議からだと思います" -
適当に手に取った本が人気シリーズの1作目で、あとがきのところで「そのことを知らずに読んだ読者には申し訳ないが」みたいな文章があってすんません思いました。
円紫さんがどちゃくそ凄い。 -
おすすめは赤頭巾、空飛ぶ馬
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北村薫のデビュー作であり、主人公である「私」と噺家春桜亭円紫の活躍を描く「円紫さんと私シリーズ」の第1作。5編の短編からなり、いずれも「日常の謎」と呼ばれる「私」が遭遇するささやかな謎を探偵役の円紫師匠が解き明かすスタイルである。作品はどれも良いが、個人的には『砂糖合戦』『赤頭巾』そして表題作『空飛ぶ馬』が素晴らしい。また構成も良く、特に『赤頭巾』から『空飛ぶ馬』の流れは何度読んでも良い。多く人にお勧めしたい作品だが、誰にも教えず自分だけの物にしておきたいそんな作品でもある。
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日常ミステリーというジャンルらしい。
特に気に入ったのは『胡桃の中の鳥』と『赤頭巾』。それぞれ旅先の爽快感、絵本の色彩感のディテール描写が明瞭なイメージで伝わってくるのが、物語としての魅力を担保してる。
且つそれぞれの謎はどこかどんよりとしちゃうもの。日常の中の人間の秘匿な部分というか、心がぞわっとしちゃう。そのギャップ好き。
19歳キラキラの『私』がどんな成長を遂げるのか、シリーズ気になっちゃうものリストに入る良作品。