- Amazon.co.jp ・本 (329ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488437022
作品紹介・あらすじ
前巻『とむらい機関車』と共に、戦前探偵文壇に得難い光芒を遺した〈新青年〉切っての本格派、大阪圭吉のベストコレクション。当巻には筆遣いも多彩な十一編を収録。著作リスト、初出時の挿絵附。収録作品=三狂人/銀座幽霊/寒の夜晴れ/燈台鬼/動かぬ鯨群/花束の虫/闖入者/白妖/大百貨注文者/人間燈台/幽霊妻 解説=山前譲
感想・レビュー・書評
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『新青年』系の推理作家で、太平洋戦争中、
戦地で病没した大阪圭吉の作品集、2012年の再版、短編11編収録。
4月に『とむらい機関車』を読了してから
4ヶ月あまりのインターバルを経てアタック。
こちらには犯罪研究家・青山喬介は登場せず、
水産試験所所長の東屋三郎(「燈台鬼」「動かぬ鯨群」)や
弁護士の大月対次(「花束の虫」他)が名推理を発揮。
全体的に『とむらい機関車』より垢抜けて洗練された印象だが、
その分、不気味さ、猟奇っぽさは薄くて、やや食い足りない感じ。
ただ、歪んだユーモア漂う「大百貨注文者」は愉快だったし、
乱歩や久作の短編にも通じるような鬼気迫る怪談「人間燈台」、
老人が語る幽霊譚(?)「幽霊妻」――と、最後の3編は立て続けに面白かった。
解説に
戦地に赴く前に本格長編推理小説を書き上げ、
甲賀三郎に託したと伝えられるが(略)原稿は行方不明となっている。〔p.314〕
――とある。
惜しい、実にもったいない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
あとがきにあるようにやはりオチが弱いのよね‥途中まではそれなりに引き込まれるところもあるだけに残念。
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収録内容は以下の通り。
三狂人(昭和11年7月 発表)
銀座幽霊(昭和11年10月 発表)
寒の夜晴れ(昭和11年12月 発表)
燈台鬼(昭和10年12月 発表)
動かぬ鯨群(昭和11年11月 発表)
花束の虫(昭和9年4月 発表)
闖入者(昭和11年1月 発表)
白妖(昭和11年8月 発表)
大百貨注文者(昭和13年4月 発表)
人間燈台(昭和11年7月 発表)
幽霊妻(昭和22年6月 発表)
山前譲: 解説
盛り上げ方や人物の描写はともかく、明快な解決がされるのがよい。できる限り小説の前半のうちに作品世界に入り込めると、中盤から後半にかけての早い展開に付いていきやすい。
挿絵は清水崑(『三狂人』、『銀座幽霊』、『寒の夜晴れ』、『動かぬ鯨群』、『白妖』)、高井貞二(『燈台鬼』)、横井福次郎(『大百科注文者』)、カバーイラストは大倉ひとみ。 -
短編集なので、隙間時間に読みやすいです!
現代の推理小説のように、The トリックみたいなものはあまりありません。
でも時代も相まってユニークで、謎解き感覚で読み進んでいけます!
著者のことは恥ずかしながらこの本で初めて知りましたが、これを機に他の作品も読んでみたいと思います。
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戦前のミステリ短編集。さすがに現代だと「このトリックは成り立たないでしょ」というのが多いけれど。そんなのはまったく気になりません。どっぷりと雰囲気に浸り込んで読みたいレトロな一冊です。
お気に入りは「燈台鬼」。一番大がかりに見えるトリックが実に華麗で、しかもとんでもない怪物も登場するというインパクトが大きな作品。そして真相に隠された事実で、物語としての哀切さも印象の強い一作でした。ちなみにこれで昔の燈台の仕掛けを初めて知ったことも、興味深いポイント。
「三狂人」も凄いなあ。ある意味この犯行の様相はギャグにも思えるんだけど。凄まじい狂気と言ってしまっていいものか。「幽霊妻」のラストも、どこかしらギャグっぽいのだけれど(「えぇ!?」って驚愕でした)。なんだか印象的です。 -
昭和一桁や十年近辺に発表された短編で
(推理小説・ミステリーのテクニックは知らぬが)
話がシンプルな分、古臭さは感じられない。
一方、謎は一気に解決、物語も足早に進み
登場人物のキャラも薄く、あっさりしているので
もう少し長いものも読んでみたかった。 -
ちょいホラーのミステリー短編集。「三狂人」に少しユーモラスな「幽霊妻」などが傑作。
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短編集。
戦前の日本が舞台で、古臭さよりもノスタルジックな雰囲気を感じて楽しかったです。挿絵も美しく読んでいて飽きません。
「とむらい機関車」と比較すれば、こちらの方がもっと軽くてユーモアがあるように思います。しかし良質な短編集です。
【三狂人】経営難で廃れた精神病院で、脳を抜き取られた他殺体が発見されるというおぞましい事件です。が、精神を病んだ三人の患者がどこかユーモラス。警官たちや医師たちがとても冷静、理知的に三人の患者に対応しているのが良かったです。
インパクトのある他殺体と狂人という表現で演出されたサイコな事件をひっくり返すのがおもしろい事件でした。
【銀座幽霊】舞台となっているこの界隈の賑わいが浮かぶようです。事件のポイントは早々に分かるので、そこにいくまでの過程が丁寧な分冗長に感じました。それにしても解決の手がかりを最初から堂々と提示しているのが良い。
【寒の夜晴れ】これはすっごく哀しいです。クリスマス・イヴの夜、空に飛び立ったかのようなスキー痕という幻想的な謎でしたが、気分の悪くなるような惨劇でした。真相は想像しやすいものの、嫌な予感を抱きながら痕を辿っていく描写は恐ろしく、そして哀しかった。
【燈台鬼】異様な事件の現場がすごい。不気味な噂、幽霊の目撃情報と混迷の中で明かされる大胆なトリックには驚きです。一歩間違えれば笑ってしまうようなとんでもなさが好きです。幽霊の正体や動機はちょっと切なかった。しかし蛸っていうのはなぁ。
【動かぬ鯨群】突然帰ってきた死んだはずの夫、沈没船の謎、サスペンスドラマみたいな冒頭が、捕鯨という社会的なテーマを背景に展開していくのには驚きました。これは殺人の挿絵が怖かったのが印象的。
【花束の虫】ここまで上手く運ぶかとは思うものの、とにかくこの発想はおもしろい。目撃情報と現場に残された痕跡が一つの状況に向かっていくのは気持ち良いです。
【闖入者】被害者が東室で描いた絵は、なぜ南室からの景色だったのかという疑問の解決は良いとしても、それが真相に繋がるというのはちょっと説得力がないように思います。そしてこれが事実なら、この被害者とても鈍感でうっかりさんです。刑事がダジャレに気を良くしているのが可愛らしかったですが、これが伏線にもなっているのにはずっこけます。
【白妖】封鎖された道路から忽然と消えた車の謎、と思いきや意外とあっさりしていました。謎がどこにあるのかいまいち分かりにくいお話でした。
【大百貨注文者】これはとってもユーモアたっぷりで楽しいお話でした。暗号ものとしてはとても印象的な作品です。被害者の行動、暗号の出来、最後のオチにいたるまで素晴らしいと思います。
【人間燈台】真相についてはそこまでしなくても、と思うのですが、嵐の海で燈台からの一筋の光を眺める安心感という描写にはぐっとくるものがあります。息子の身を案じ島内をさまよう父親の姿、自分の役割に誇りを持っていた息子の気持ちも泣けます。それでも、そこまでしなくても、とやっぱり思ってしまいます。
【幽霊妻】殺害現場の状況は、まるで死んだはずの妻が幽霊となって復讐したよう、という謎は素敵なのですが…。死んだ妻を指し示す長い髪、香油、下駄、そしてとんでもない怪力の痕跡など、確かにすべてに合理的な説明がなされていますが…。真相にはそんなのアリ?と言いたくなりました。 -
著者は、兵役に行き、その才能に幕を降ろされてしまった人達の一人。
是非とも読んで欲しい一冊。 -
海野弘によるモダン都市ものを愛読してきたこともあり、この昭和初期に書かれた探偵小説もその雰囲気を楽しみつつ読んだ。
短編といっても、本当にごくごく短いものがほとんどなだけに、トリックもやや唐突に解決がつくようなものが多いかもしれない。探偵役としてしばしば登場する「東屋所長」や「大月弁護士」に、もうちょっと「主役らしさ」があればまた印象は違ったものになったかもしれない。
個人的に読み物として面白かったのは、茶目っ気(?)を感じさせる「大百貨注文者」。