- Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488458010
感想・レビュー・書評
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1959年直木賞受賞作品収録の作品集。全18篇、文庫版663ページ(重い‥‥)。演劇評論家だった作者に探偵小説を書くように勧めたのが江戸川乱歩‥‥エピソードが既にレジェンダリー(笑)。令和の時代に読んでも大丈夫なのか、多少の躊躇がないわけでもなかったが、読了してみたら今でいうところのサイコパスの少年が出てきたり、受賞作がベッド・ディテクティヴぽかったりと変化に富んでいて愉しく読めた。
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歌舞伎役者「中村雅楽」が、不可解な事件の《なぞ》を解く人気シリーズ。老優・雅楽のたたずまいがとにもかくにも魅力的で、つい手に取ってしまう。
この第一巻に収められているのは、江戸川乱歩の後押しで世に出ることになった「車引殺人事件」をはじめ、初期に書かれた18の短編。なかには、第42回直木賞を受賞した表題作「團十郎切腹事件」も含まれる。これは、ナゾの自殺を遂げた八代目市川團十郎の有名な事件を、およそ百年後に「中村雅楽」がなぞ解きするというもの。若い時分に耳にした知人の昔話をきっかけに、次第に切れ味を増してゆく「雅楽」の推理に圧倒されるが、じつはこれ、ジョセフィン・テイの古典『時の娘』への秀逸なトリビュートとなっている。過去の歴史的事件のなぞ解きという構成はもちろんのこと、「雅楽」がその推理を披露するシチュエーションも、人間ドッグで入院中のベッドの上という凝りよう。
どうやら、戸板康二という作家は「無」からなにかをひねり出すよりも、実在するさまざまなものを巧みに組み合わせて新たな魅力的な存在を生み出す天才のようで、それはまた「中村雅楽」というキャラクターの造形にも活かされている。巻末に収められた自身による作品ノートによると、「雅楽」の名は中村歌右衛門と酒井雅楽頭を組み合わせたもの、老優の語り口などは親しくしていた歌舞伎界の古老・川尻清潭から、そのほかにも岡本綺堂『半七捕物帳』やエラリー・クイーンのミステリに登場する「ドルリー・レーン」などもヒントにしているとのこと。こんな具合にさまざまな影響を直接的間接的に受けながらも、「中村雅楽」がまったく独自の魅力的キャラクターとして生き生きしていることに感心せずにいられない。品格と威厳を兼ね備えた老人でありながら、無心で推理に没頭するその様子はなんとも無邪気で微笑ましい。 -
戸板康二の短篇ミステリ作品集『團十郎切腹事件―中村雅楽探偵全集〈1〉』を読みました。
戸板康二の作品は、昨年12月に読んだアンソロジー作品『鉄ミス倶楽部 東海道新幹線50』に収録されていた『列車電話』以来なので1年振りですね。
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ミステリ史に燦然と輝く老歌舞伎役者・中村雅楽の名推理
第1巻は、第42回直木賞受賞作「團十郎切腹事件」など全18編
江戸川乱歩に見いだされた「車引殺人事件」にはじまる、老歌舞伎俳優・中村雅楽の推理譚。
美しい立女形の行方を突きとめる「立女形失踪事件」、8代目市川團十郎自刃の謎を読み解く、第42回直木賞受賞作「團十郎切腹事件」など全18編。
旧〈宝石〉誌掲載時の各編解説をはじめ豊富な資料も併録。
ミステリ史に燦然と輝く名推理の数々を完全収録した、《中村雅楽探偵全集》堂々開幕!
資料再録等=江戸川乱歩・戸板康二・小泉喜美子/解説=新保博久/編者解説=日下三蔵
*第9位『本の雑誌増刊・おすすめ文庫王国2007年度版』ジャンル別ベスト10・国内ミステリー(吉野仁氏選)
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架空の歌舞伎役者・高松屋こと中村雅楽が探偵役で、彼の楽屋を訪ねてくる演劇記者の竹野とともに身近に起こった事件や謎を推理し、解決するシリーズ・中村雅楽探偵譚のうち、1958年(昭和33年)から1960年(昭和35年)に発表された作品18篇に加え、雑誌掲載時の各編解説をはじめ豊富な資料が収録されています。
■車引殺人事件
■尊像粉失事件
■立女形失踪事件
■等々力座殺人事件
■松王丸変死事件
■盲女殺人事件
■ノラ失踪事件
■團十郎切腹事件
■六スタ殺人事件
■不当な解雇
■奈落殺人事件
■八重歯の女
■死んでもCM
■ほくろの男
■ある絵解き
■滝に誘う女
■加納座実説
■文士劇と蝿の話
■河出書房新社版『車引殺人事件』 序=江戸川乱歩
■旧「宝石」所収各編解説=江戸川乱歩
■立風書房版『團十郎切腹事件』 作品ノート=戸板康二
■立風書房版『奈落殺人事件』 作品ノート=戸板康二
■講談社文庫版『團十郎切腹事件』 後記=戸板康二
■創元推理文庫版編者解題=日下三蔵
650ページを超えるボリューム… ノスタルジックな昭和の懐かしい雰囲気を感じながら、大好きな古典的なミステリの雰囲気に浸りながら愉しみました。
イチバン印象に残ったのは、表題作で第42回直木賞受賞作でもある『團十郎切腹事件』ですねー 江戸時代に起きた8代目市川團十郎が旅先の大阪で自刃した謎を、人間ドックのベッド上で見事に解くという、絵に描いたようなベッド・ディクティブ物でした… 西へ向かう嵐瑠璃五郎と市川團十郎が、合流予定の三島で会えないところがポイントでしたね。
あとは、美しい立女形失踪の謎を解く『立女形失踪事件』、地方に昔からある劇場の持主の家で起きた殺人事件を解決する『等々力座殺人事件』が印象に残ったかな… コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ・シリーズや岡本綺堂の半七捕物帳シリーズに近い感じの佳作が並んでいましたね。 -
古本で100円で。日本のホームズのライバルと言える。だんだんはまってしまった。次巻へ続く。
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だんだん書き慣れていくのがわかるというか、後半の方がずっと読みやすくなってきますね。
歌舞伎や芸能を背景とした推理短編集です。
付録もずいぶんと多く入っており、資料的価値も高いのではないかと。
「ある絵解き」と「文士劇とは絵の話」が面白かったかな。 -
歌舞伎評論家が書いているだけあって、とにかく描かれている世界の土台がしっかりしているので、どのシーンの描写も読んでて面白かった(雅楽の語る歌舞伎談義も然り、演目の選び方や演じてる役者の描写なども、歌舞伎を見たことのある人だと「うんうん」と頷く事必至)。
サラリとよませる文章とネタ、構成です。素晴らしい全集ですね。 -
「グリーン車の子供」が読みたくて雅楽シリーズを読み始めた。かなり面白い。しかしそれは推理や探偵物としての面白さではなく歌舞伎や義太夫など、毎回取り上げられるネタと蘊蓄がとても興味深く面白いのだ。切っ掛けはともかく、雅楽シリーズはアタリだった。
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名優“中村雅楽”シリーズ、というのをご存じでしょうか?
雅楽は歌舞伎の老名優で、なにか謎があると(たとえば楽屋から仏像が無くなるとか)話を聞くだけでその謎を問いてしまう、安楽椅子探偵ものの名品で、長いこと連載もされていたのにどういうわけだかほとんど単行本にならなかったのであまり知名度がないのです。
が、10年くらい前にようやく東京創元推理文庫が五冊本の文庫をだしてくれて読めるようになりました。
作者の戸板康二は歌舞伎と演劇の記者だったので、いたるところに歌舞伎の蘊蓄がでてきて、それも楽しい(笑)。
いまの歌舞伎はあんまり面白くないんだけど、そうじゃなかった時代もあったんだろうなぁ、と読んでいて思います。
2017/10/12 更新 -
歌舞伎評論で有名な戸板康二氏が推理小説を書いていたとは全然知らなかった。しかも直木賞受賞(1959年)作。
歌舞伎役者の中村雅楽が探偵役となって事件を推理・解決していくのだが、事件の舞台が劇場であったり、芝居や番組の構成を利用して事件が起こされたりし、芝居好きには楽しめる内容になっている。
佐藤賢一や東野圭吾の作品を読んだ時にも感じたことだが、得意分野・専門分野のある人が書いた話は土台や端々の設定がしっかりしていて面白いな~と思う。
今読むと、随所に時代を感じる描写が出てくるのも面白い。例えば、犯行現場に残されたボタンから「犯人はシャツのボタンを付け替えたかも」という推理になるのだが、「自分で縫いつけたとすれば、軍隊に行っていた男かも知れない」とか(笑)。
しかし、直木賞をとった作品でも、50年近くたつとこんなに知られなくなってしまうのか。今の人気作のうち何冊が50年後も書店に並んでいるんだろう、なーんてことも考えてしまった。
(2008.5.15) -
*八代目