人口減少社会のデザイン

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  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492396476

作品紹介・あらすじ

「都市集中型」か、「地方分散型」か。
東京一極集中・地方衰退→格差拡大→財政は改善?
地方への人口分散→格差縮小・幸福感増大→財政は悪化?
果たして、第3の道はあるのか。

2050年、日本は持続可能か?
「日立京大ラボ」のAIが導き出した未来シナリオと選択とは。

借金の先送り、格差拡大、社会的孤立の進行・・・…
転換を図るための10の論点と提言。


「集団で一本の道を登る時代」―昭和
「失われた30年」―平成
そして、「人口減少社会」―令和が始まった
「拡大・成長」という「成功体験」幻想を追い続け、
「先送り」されてきた、「持続可能な社会」モデルを探る。


社会保障や環境、医療、都市・地域に関する政策研究から、時間、ケア、死生観等をめぐる哲学的考察まで
ジャンルを横断した研究や発言を続けてきた第一人者による10の論点と提言

①将来世代への借金のツケ回しを早急に解消
②「人生前半の社会保障」、若い世代への支援強化
③「多極集中」社会の実現と、「歩いて楽しめる」まちづくり
④「都市と農村の持続可能な相互依存」を実現する様々な再分配システムの導入
⑤企業行動ないし経営理念の軸足は「拡大・成長」から「持続可能性」へ
⑥「生命」を軸とした「ポスト情報化」分散型社会システムの構想
⑦21世紀「グローバル定常型社会」のフロントランナー日本としての発信
⑧環境・福祉・経済が調和した「持続可能な福祉社会」モデルの実現
⑨「福祉思想」の再構築、“鎮守の森”に近代的「個人」を融合した「倫理」の確立
⑩人類史「3度目の定常化」時代、新たな「地球倫理」の創発と深化

感想・レビュー・書評

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  • タイトルだけで、淡白で薄っぺらい内容を想像したが全くそんな事はない示唆に富んだ本。データに基づき現象を正しく分析するだけではなく、守備範囲も広い。多々、学びがあった。

    社交のための関係性を持たない「社会的孤立」の度合いが、日本は先進国の中では飛び抜けて高い。それ故に、出会いも少なく、未婚率も増え、出生率は低下。引退後の無気力を招き、孤独死、あるいは死ぬ時は病院で。

    日本人はいつから、他人に対してこんなにも線を引くようになったのだろう。同じ車輌に押し込まれた悲しい勤め人なのに、目も合わせない。空間を共にしても、会話をする事は稀。コミニティー空間や居場所がない。昔は、教会や神社がコミニティーの役割を果たしていたのだという。確かに、何かしらの儀式が地域交流を齎し、集団信仰が結束を導いたのは想像し易い。お醤油を隣近所に借りたなんて話もサザエさんなどの漫画で見た。今はコンビニやネットもある中で、自分で何とかできてしまう社会。多様性、個の尊重が裏表で自己責任社会を招いた。

    イギリスに東インド会社が設立された。1600年とほぼ同時期、1601年にエリザベス救貧法と呼ばれる現在の生活保護に相当するような制度が作られた。社会主義から資本主義に接近した社会主義市場経済と、資本主義から社会主義に接近した福祉国家は、既に連続的な関係にある。「人生前半の社会保障」、ストックに関する社会保障が重要だと著者はいう。

    人生前半に手厚くするという思想は重要だ。生涯の医療費の約半分は、70歳以降にかかる。先進国における15歳から44歳までの病気の原因は、精神関係の病気、あるいは社会的な要因(道路交通事故)が上位を占めている。つまり、「人生前半の医療」は精神的ないし、社会的なものが中心である。貴重な労働力を躓かせない、いや、転んでも立ち直れる社会が重要。教育投資の価値が高いのも、人生前半だ。老人達よ、若い人から搾取するならせめて富裕層の資金を若者の投資へ。

  • 日本の高齢化率が特に高くなっていくのは、長寿が原因だと思いがちだ。しかし、そうではなくて、少子化が大きな原因であることをデータで証明。
    また、女性の就業率が高い国の方が概して出生率も高いことも他国との比較で明確にしている。

    少子化の避けられない日本にとって「若い世代の生活や雇用の不安定ないし困窮が、少子化の一つとなり、若い世代への支援こそが『人口減少社会のデザイン』にとって非常に重要」だと筆者は言う。

    しかし、やみくもに少子化を否定するのではなく、これも他の先進国の国土面積と人口の比較から、日本はある程度人口は減っても良いとするなど、非常に現実路線。
    これならやれる、というラインを見つけ出そうとしているところが広井さんの良いところだと思う。

  • 過去の著者の持論+αという感じの提言書。税制と福祉思想の再構築への言及には違和感があったが、その他は概ねふむふむ納得という印象。問題はこの内容をどう実現していくのか? にかかっている。

  • 高齢化と人口減少。
    社会保障と国家財政の破綻。
    若者軽視の政策の是正。
    成長至上の資本主義の見直しと地域社会。

    こうした私個人としても、そして全社会的にも重大な関心事がひとつの円環の中で議論される。

    一つ一つの議論が圧倒的に新しい、ということはないけれども、これら総体へのソリューションを「人口減少社会のデザイン」と名付けたことはまさに秀逸だと思う。

    とくに、成長がすべてを解決できた時代の成功体験にしがみつき、本来今の世代の中で解決すべき社会保障問題を未来の子どもたちへの借金として押し付けていることに対して、ある意味完全自己責任で弱者のセイフティネットのない米国以上に無責任
    、と断じていることには強い共感を覚える。

    なお、成長一本槍を見直し、「今幸せか」を問うことは、ある意味死生観そのものを問うことでもある。人口成熟の現代は、思想のビックバンの可能性を秘めているとの第6章の議論はいささか試論的ではあるものの大変興味をそそられた。
    私自身、例えば熊野古道や出羽三山など、これまでのいくつも聖地探訪登山をしてきた。
    そしてその結果、明治維新に際して神仏習合を破壊したことは日本人の精神構造に大打撃を与えた、という仮説を抱いているのだが、本書の神仏儒を一体的に捉える感覚や、ある種アミニズム的に自然を精神世界の根底に位置づける著者の思考は、僭越ながらそれと何か一脈通じるようにも思えたのだ。

    実務としての地域社会構築の取り組み含め、示唆に富む本。

  • 「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか」で紹介されていたので、気になって買ってみた。

    人口減少と言えば、誰もが逃れることができない大きな社会問題。人口減少や高齢化に関する書籍はこれまでもいくつか読んできた。そんな中で、本書の特徴といえば読みやすさがあるかもしれない。都市デザインや医療や福祉に関する話が出てくるのはもちろんのこと、死生観まで踏み込んだ書籍は珍しいかもしれない。 引用元となる書籍は多く、筆者の主張にはきちんと裏付けがある。その上でアメリカ滞在時の個人的な経験までも挿入されるので、エッセイのような読みやすさを感じた。

    しかし一方で、筆者の個人的な思想のようなパートもある。本書の終盤では、個人を超越した価値感として、自然信仰を復刻させようと言うような主張が登場する。そうすることで、行き過ぎた個人主義にブレーキをかけて、福祉に関する思想を変容させようと言う主張だと思われる。が、少しスピリチュアルに傾倒しすぎている感はあり、置き去りにされてしまう読者はいるのではないかと思った。

    (書評ブログもよろしくお願いします)
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/2022/01/05/%E3%80%90%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%80%91%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E6%B8%9B%E5%B0%91%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%81%AE%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3_-_%E5%BA%83%E4%BA%95%E8%89%AF%E5%85%B8

  • 要点だけおさえるならあとがきだけ読めばOK

    「2050年の日本は持続可能か?」
    を大きな問いとして、近代化論、人口統計、コミュニティ、まちづくり、自然エネルギー、社会保障、死生観など多様な視点から今後の日本社会のあり方を考える本。

    筆者の主張としては
    高度経済成長期のころから引きずっている成功体験「経済成長がすべての問題を解決してくれる」「集団で一本の道を登る」という思考から抜け出して、地方分散型・多極集中型のコミュニティ感覚を重視した地域づくり(たとえば歩いて楽しめる街)によって成熟社会へ向かおうという結論でした。

    ヨーロッパの事例がちょこちょこ出てくるけど、そもそも都市の成り立ちがちがうから、日本の街で歩行者にやさしく、というのは今さら難しいかもしれない。でも、考え方として、高齢化をみすえた地域づくりは必要だと思う。バリアフリーな街ってないかな〜。

    あとはマインドの問題だよね。成長思考は根深い。
    集団で一本道を登る から 各々のペースで好きなルートで登っていく。もはや登らなくてもいいし。頂上には空しかないから、どうやって山登りを楽しむかだな。

  • 人がどう住み、どのようなまちや地域を作り、またどのような公共政策や社会システムづくりを進めるかという、政策選択や社会構想の問題なのだ。それがまさに「人口減少社会のデザイン」というテーマである。
    (引用)人口減少社会のデザイン、著者:広井良典、発行所:東洋経済新報社、2019年、31

    近年、「持続可能」という言葉をよく聞く。
    代表的なのは、2015年に国連で採択されたSDGsであろう。SDGsは、持続可能な開発目標の略称であり、17の目標、169のターゲット(具体目標)で構成されている。SDGsには、「貧困をなくそう」、「すべての人に健康と福祉を」、「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」など、持続可能でよりよい世界を目指す国際目標が掲げられている。

    なぜ、今、「持続可能」なのか。
    世界に目を向ければ、貧困、ジェンダー不平等、地球温暖化など、人類が解決しなければならない課題が山積している。
    また、我が国で「持続可能」と言われれば、「少子化」という課題が頭によぎる。
    このたびの広井氏によって著された「人口減少社会のデザイン」は、我が国の人口減少に焦点を絞り、「持続可能な福祉社会」モデルを探るものである。

    広井氏は、豊富なバックデータを武器に、日本の少子化の現状、そして世界における日本の立ち位置などを解説する。
    そのデータの中で気になったのは、「社会的孤立」の国際比較だ。社会的孤立とは、家族などの集団を超えたつながりや交流がどのくらいあるかに関する度合いのことだ。残念ながら、日本は先進諸国の中で、社会的孤立度がもっとも高い国ないし社会になっているとのことだ。
    社会的孤立度が高いということは、様々な影響を及ぼす。
    少子化という観点で言えば、まず真っ先に思い浮かぶのは、婚姻であろう。若者の価値観が多様化する中で、我が国も未婚化、晩婚化が進む。

    広井氏によれば、先進国において出生率が比較的高いのは、
    ①子育てや若者に関する公的支援
    ②伝統的な性別役割分担にとらわれない個人主義的志向
    であると言われる。

    これらの項目は、公的機関などが施策を立案する際、社会的背景としてなんとなく意識していたことではないだろうか。ただ、広井氏によるエビデンスで少子化の要因やその解消法が明らかになった以上、我が国や公的機関は、意図して施策を展開しなければならないと感じた。

    また、少子化が進展する中で、よく話題にのぼるのがコンパクトシティである。
    広井氏は、本書にてそこまで触れていないが、現北海道知事の鈴木直道氏は、財政破綻を経験した夕張市長時代にコンパクトシティを進めた。また、国においても立地適正化制度を導入し、「コンパクト・プラス・ネットワーク」の考えも示している。

    一方で、都市集約とはかけ離れた岐阜県郡上市石徹白(いとしろ)地区の取り組みが面白い。本書でも紹介されているNPO法人 地域再生機構は、石徹白地区で小水力発電を軸として地域活性化を試みている。私も石徹白地区のことをホームページなどで調べてみたが、現在の小水力発電は、集落に暮らす270人を補って余りある量があるという。そのため、移住者も増え、特産品なども誕生し、自給自足、地産地消を実践する集落だ。

    地域再生機構副理事長の平野彰秀さんは、「地域で自然エネルギーに取り組むということは、地域の自治やコミュニティの力を取り戻すことであると、私どもは考えております(同書、129)」と言われる。

    石徹白地区の事例は、SDGsの目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」を取り組んだら、SDGsが掲げる「経済」「環境」「社会」という3つの側面を達成した好事例であると思った。そして、冒頭、広井氏の言葉を引用をしたが、人口減少の時代において、人がどのように住み、どのようなまちを作っていくかは、その施策が「持続可能であるか」と問うところから始めなければならないと感じた。

    本書は、社会保障、医療、そして超高齢化時代の死生観に至るまで、興味深い内容が続く。また、本書の巻末には、広井氏が提起してきた主要な論点を列記している。これらの論点は、今後の自分たちの地域、そして日本を「持続可能」なものにしていくために有効であると思った。

    いますぐ、誰もが「持続可能」な取り組みを求められている。そのヒントとなるのが「人口減少社会のデザイン」であろう。

    これからもずっと、私たちが愛してやまない故郷や国で暮らす人々が、豊かで幸福でありつづけるために。

  • これからの日本社会はどうあるべきか、多くの視点から問題提起、議論されており、頭の整理が進む。将来世代への借金の押し付けは、若者世代が日本を見限る原因になり、国の崩壊に繋がっていくというのが、さして遠くない未来に起こり得るのを考えると、子供達に自衛のためにどうするか、どう伝えるのがよいか考えさせられる。

  • 最後の後書きのまとめを見れば十分。

  • 前半は具体的な話、後半は根底のマインドやまとめの話。
    具体的な話(多極集中、若者への分配、医療費本体から周辺分野へのシフトなど)は、納得いく話が多かったけれど、後半は理解が追いつかなかった。

  • 定常社会論なんだけど、まとめとしての読みやすさがキモ。新しい話はあまり多くないし、突っ込みどころはさらっと流しているけど、ともかくひとまとまりになっているのはありがたい。

  • 表題は「人口減少社会の」となっているが、扱っていることは、これからの世界、そして日本社会が考えなければならないこと、今すぐにでも取り組まなければならないことが、その時間軸を長く取って、人類史からとらえ直して提唱されている。多くの具体的な資料が提示されていて、たいへん説得力に富む。

  • 本書は、今後確実に進んでいく人口減少の中で、どのような社会の形をとるべきかという議論である。
    印象に残った点は、人口減少の原因が、未婚化・晩婚化にあり、結婚している世帯の出生率自体はそこまで落ちていない点。
    そして、未婚化・晩婚化の原因として、若者の所得については、非正規雇用の増加等も原因となり、1980年代ごろから低下していると言う点である。それゆえ、広井氏は人生前半=若者への社会保障の拡充をまず訴える。
    また、広井氏はコミュニティ論の大家として知られるが、冒頭の人口減少や格差の増大と並列して、「社会的孤立」の指標を取り上げていた点が印象深かった。日本は先進国の中で社会的孤立の指標が相対的に高いが、これは他者への無関心にもつながり、家族や血縁を超えた日本の中での相互扶助である社会保険料負担への忌避に繋がりやすいという点が述べられている。
    私自身も感じることではあるが、都市におけるコミュニティというものが日本では極めて希薄であると述べられている。無論、農村コミュニティでは非常に密な繋がりがあるが、これが都市に出ると個人としての仕事や家族以外での繋がりが希薄である点は、社会的孤立にも繋がっていると考えらてる。さらに、都市のムラ社会であったカイシャと核家族のうち、前者は流動化し、後者も多様化の流れの中でいかにして、「集団を超えて個人と個人がつながるような仕組み」を構築するかは、まさに喫緊の課題である。

    第4章の社会保障の章では、社会保障という本質的な富の分配に関する議論について、日本人が不得意としている点も述べられている。日本人は、議論の中で、その場の空気や流されやすい傾向にあるため、その場にいないメンバーに関する思慮が欠ける結果に落ち着きやすい。そうした中で、社会保障に関する富の分配の議論は、その場にいない将来世代に常に先送りされてきた背景がある。このような本質的ではない議論の形も、経済成長や拡大期にはそこまで問題にならなかったが、人口減少社会の中で、本格的に定常的なフェーズに入る中では、社会保障論の核となるような分配の公正、公平、平等とはなにかというようなプリンシプルに関する議論に正面から向き合わなければならない。それができない場合には、まさに破局に向かう。

    まず、日本には理念の選択が求められる。資本主義の多様性と言う観点でも、アメリカモデルでは、強い拡大傾向と小さな政府、ヨーロッパモデルでは環境志向と相対的な大きな政府というプリンシプルや理念がある。前者は医療なども一定レベルで商品化されており、低負担低福祉モデル、後者は高負担高福祉モデルである。両者は価値観の問題であり、国民の合意形成がなされていれば、問題はない。しかしながら、日本の場合、当初はヨーロッパ型の高福祉モデルを参照してシステムを構築していたが、大きな保険料や税負担を国民に強いていない、低負担中福祉というアンヘルシーなモデルが運用されてきた。無論、低負担のツケは、GDP等の経済成長で賄われるという発想であったが、低成長となった今、限りない赤字国債の発行により賄われ、結果的に将来世代に先送りしている状況を脱することができていない。極めて無責任な状況と言える。
    こうした中で、人生前半の社会保障や、予防的な施策の重要性を広井氏は訴える。
    これまでの社会保障の歴史的変遷を読み解くと、事後から事前という流れがある。イギリスの救貧法は市場経済のひずみとして格差が広がったものに対して、事後的に修正を加えるものであった。その後、事前に保険料を集めて、いざ貧困に陥ったり、医療が必要となる人々のセーフティネットを事前に構築する社会保険制度がドイツで広がっていった。しかしながら、その後の世界恐慌等によって、雇用喪失が進む。社会保険制度は、一定の雇用を前提として労働者の給与から保険料が捻出されるモデルであるため、雇用の喪失はシステムの不具合に直結する。そうした中で、次はその根本である雇用政策というものが主題化され、ケインズ的な政策が実践されてきた。そして、その流れをくむのがベーシックインカムであり、BIが予防的施策の先端であると説く。
    放っておけば格差が生まれてしまう領域に、予め給付を行うことでスタートラインの格差をできるだけなくすという点がBIの基本である。
    なお、日本の年金施策についても別途コメントがなされており、昨今下流老人という本で有名になった高齢者の貧困問題についても触れられている。現在の日本年金制度は厚生年金等、若い世代の時に納入した保険料(そしてその基礎となる給与水準)によって、受給できる年金額が異なる仕組みになっている。しかし、公的制度である限り、多く保険料を払った人間が、多くの給付を受けるというモデルは必ずしも実践する必要がなく、より相互扶助的なシステムに変換すべきと述べている。
    この意見には、私も賛成であるが、公的保障であるからには、所得の高い人ほど高い社会保険料を払うというロジックを理解するには、自分自身の所得の高さに対して、社会的サービスや運によるところが大きいという感覚がそもそも必要であろうと思う。私自身、中学受験をさせてもらい(親の教育投資に関する運)、大学も国立大学(社会的サービス)を卒業しているため、現在の所得に対して、自分自身の努力は一要因にすぎず、感覚的には半分程度は運や周囲の支援によるものであると感じている。そうした感覚を持っている場合、所得が多い人間が、多くの保険料を払うというロジックは理解できる。これは損得勘定の問題ではなく、ノブレスオブリージュのような倫理観、価値観を涵養する文化施策や教育施策の問題ではないかと感じる。
    ここで、前段の社会的孤立に関する先進国における日本のランキングの低さがボディブローのように効いてくる。
    高所得層におけるノブレスオブリージュの感覚の涵養という文化的、哲学的施策の、今後の主題足りうるのではないかと思う。

  • 人口減少社会は、感覚的に、ぼんやりと認識しているが、日常生活では具体的には把握しづらい。その感覚差を埋めるため手に取る。
    本書では、様々なデータや論文を引いて、社会や制度、死生観など幅広く、状況の説明と施策の提示が行われている。
    人口はある程度、減少しても良い、など、お!と思わせる話もあり、硬い書ですが、一気に読める。良書。

  • 内容が総花的で議論が拡散傾向にあるような気がする。
    前半部に地方分権化傾向に進めば、日本社会の持続可能性が高いという主張を詳しく知りたかったのだが、具体的な分権化社会への施策やそのための方法についてはあまり言及がなかった気がする。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/734175

  • 人口減少とどのように向き合うべきか書かれた本。
    統計等でさまざまな情報が提示されているが、それを踏まえどうあるべきかについてはあまり触れられていない。

  • 人口減少社会のデザイン
    著:広井 良典

    著者の研究グループでは、AIを活用した日本社会の未来シミュレーションを行い、①人口②財政・社会保障③都市・地域④環境・資源という4つの持続可能性に注目し、日本が2050年に向けてじぞく可能であるための条件やそのためにとれるべき政策を提言する内容の成果をまとめている。

    日本社会の持続可能性を実現していく上で、「都市集中型」か「地方分散型」かという分岐がもっとも本質的な選択肢であり、また人口や地域の持続可能性、そして健康、格差、幸福等の観点からは「地方分散型」が望ましいという結果が示された。

    構成は以下の7章から成る。
    ①人口減少社会の意味
    ②コミュニティとまちづくり・地域再生
    ③人類史の中の人口減少・ポスト成長社会
    ④社会保障と資本主義の進化
    ⑤医療への新たな視点
    ⑥死生観の再構築
    ⑦持続可能な福祉社会

    シミュレーション能力の向上により、過去のデータから、困難とされる未来もぼんやりではあるものの見えてくる。明るい未来だけではなく、残酷な世界も見えてきてしまう。

    「都市集中型」か「地方分散型」かその組み合わせか。それとも違った道があるのか。バラ色の未来が保証されているわけではない現状を受け止めながら、未来を思った現状の我慢と努力をどれだけの人が覚悟を持って出来るのか。

    他人事ではなく、自分事として自身も捉え直して関わっていきたい。

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著者プロフィール

広井 良典(ひろい・よしのり):1961年生まれ。京都大学人と社会の未来研究院教授。専攻は公共政策、科学哲学。環境・福祉・経済が調和した「定常型社会=持続可能な福祉社会」を一貫して提唱。社会保障、医療、環境、都市・地域等に関する政策研究から、ケア、死生観、時間、コミュニティ等の主題をめぐる哲学的考察まで、幅広い活動を行っている。著書『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書、2009年)で大佛次郎論壇賞受賞。『日本の社会保障』(岩波新書、1999年)でエコノミスト賞、『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社、2019年)で不動産協会賞受賞。他に『ケアを問いなおす』(ちくま新書)、『ポスト資本主義』(岩波新書)、『科学と資本主義の未来』(東洋経済新報社)など著書多数。


「2024年 『商店街の復権』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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