スローモーション考

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  • (株)南雲堂
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784523264750

作品紹介・あらすじ

スローモーションはなぜ、うら悲しいのでしょう?マンガ、ダンス、抽象画、野球から文学にいたる表象の世界をあざやかに検証する気鋭の現代文化論。

感想・レビュー・書評

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  • 「ゆっくり」の文化の根底には、分解し、微分化し、よりよく見ようとする志向がある。〈ゆっくり〉〈スローモーション〉〈残像〉をキーワードに、表象文化のなかの瞬間を延長する表現や、詩を詩たらしめている知覚の微分化について考える。


    スポーツ実況、マンガ、ダンス、英詩と幅広くトピックを扱っているので、論旨が定まりきってない印象。〈詩的〉であるとは現実に対して言葉で速度調整をおこなうこと、というのは納得感があり面白い。遅くするだけじゃなく、速くする(人類史を短い詩で語るとか)も〈詩的〉だと思う。
    高速化する現代社会において〈ゆっくり〉は自然志向をめざすものとして語られやすいが、本来は緊張を要する不自然な動きなのだという指摘は重要だ。たとえば狩りをする人びとにとっては、音を立てないゆっくりした動きこそが優雅で文明的なものだったのではないだろうか。また、ヨガを通して「〈ゆっくり〉は他人から指示されたほうがやりやすい」と気づくのも面白かった。加速は興奮に拠っているけれど、減速は抑圧と紐づけられるからだろうか。
    〈ゆっくり〉を読書に代入した場合、精読になる。著者は肯定されてきたこの批評スタイルに待ったをかける。時間をかけて作品を分析的に読むということは、同時に対象を観察する傍観者となり、作品と一体化できなくなるということでもある。作品が短いほど精読は不自然な行為になり、詩は墓碑銘に近づいていく。

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著者プロフィール

東京大学大学院人文社会系研究科教授

「2020年 『理想のリスニング』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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