29歳

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532170875

感想・レビュー・書評

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  • 29歳女性を主人公に流行作家8人が競作!
    仕事、会社、家族、恋、結婚、出産…
    微妙に揺れ動くアラウンドサーティーの女性の実感をリアルに紡ぎ出し「日経WOMAN」だからこそ可能にした異色の小説アンソロジー。
    (出版社紹介より)

    宮木さんの文章が読みたくて借りた1冊。

    ・私の人生は56億7000万年 山崎ナオコーラ
    「本作り」を目指して会社を辞めた主人公。
    書店でバイトをする主人公が普通にうらやましい(笑)
    ただ29歳でバイトって。。目指すことがあるにしても不安になるよなーと思う。

    ・ハワイへ行きたい 柴崎友香
    地元大阪の実家で暮らしながら電気設備会社で働く主人公。
    付き合っている人がいても遠距離でなかなか会えず。
    29歳になると若いうちは男女の付き合いにはいい顔をしなかった親も結婚をちらつかせ別の意味で五月蝿くなる。
    仕事、恋愛、自分の立ち位置を確かめたくなるかもしれないな、29歳って。

    ・絵はがき 中上紀
    ファッションビル営業職が、主人公。友人の夢に乗りアジアでカフェを開店させようとするが。。
    どうも読んでてうまくイメージできなかった。
    主人公の行動も気持ちもわかる気はするけど、現実味がなかった。

    ・ひばな。はなび 野中柊
    小3の男の子、ふうちゃんが遊びに来る老舗企業の一般事務の子が主人公。
    元彼との別れるきっかけも、彼と再会するときの気持ちも、「そうだよね」って感じだった。
    女は結婚をきっかけに仕事や環境がどうしても変化するから迷うことは絶対多いと思う。
    でも男ってその辺わかってないよねー。

    ・雪の夜のビターココア 宇佐美游
    結構地位のある人と不倫を続ける財閥系企業秘書が主人公。
    彼に対して物分りのいいふりをする主人公がなんとも切ない。
    独身の男と付き合い始めてもついつい比べてしまうのもなんかわかる。
    そしてまた結末がなんとも。。読了後に「あんまりだー」と叫んでしまった。(笑)。

    ・クーデター・やってみないか? 栗田有起
    主婦を夢見る中途採用の社長秘書が主人公。
    ある日仕事を終えて帰ろうとすると専務に足止めをされ、食事へ。
    「会社にクーデーターを起こす」計画を話され戸惑う主人公。
    でも何かが起こる予感に不安と共にわくわくするのはよくわかる。
    それよりも主人公の友だちで、結婚もして子どもも生んで幸せなのに「自分には何もないから不安だ」と泣く気持ちがもっとよくわかる。
    赤ん坊の世話してると半引きこもりになるし社会と切り離された気分になる。すごく共感した。

    ・パキラのコップ 柳美里
    猫とふたり暮らしのデパート園芸売り場店員が主人公。
    主人公がお客の1人とちょっとしたきっかけでメールをし合うようになり、付き合うようになり。。
    主人公がどんどん男に溺れていく様子がわかる一方、読んでる方は不安だった。「その男はやめたほうがいいよ」と。
    この本の中じゃ、柳美里のは異色な感じだなぁ。
    短編じゃなくてこの話で1冊書けそう。

    ・憧憬☆カトマンズ 宮木あや子
    IT企業サポートセンター勤務の派遣社員が主人公。
    宮木さんのお話は割と女の切なさや怖さがある感じなのだけど、これはあっけらかんと読めてよかった。
    主人公は自分の立場をわかっていて、与えられた仕事もきちんとこなしていてちゃんと自分がある。
    サッパリした感じがすごくオトコマエで(?)でよかったな。
    ただ不倫相手がねー。男は年を取るほど女の前では(妻以外に付き合ってる女)みっともなくなれるのだな。
    でもこの主人公の前では無意味だなーなどと思った。


    読み応えがあってお得感があるアンソロジーでした。
    しっかし年齢的になのかどうしても不倫関係の話が多くなるのね。仕方ないのか。

  • 29歳の頃、早く30歳になりたかった。それは早く一人前として認められたいという思いと裏腹の感情だったと思う。社会の慣習の中における男と女の違いはあるだろうし、というよりもっと根源的な違いもあるのかとも思うのだけれど、ここに並んだ短篇に描かれている29歳の女性が、一人として早く次の世代に属する年齢になりたがっていないこと、そのことが、やはり最初に心に留まる。差異は意識にのぼり易いことだから。

    本書が山崎ナオコーラと柴崎友香から始まっているのが、今回の読書に何か作用したように思う。この二人の文章には慣れているといってもよいので、主人公のつぶやく言葉の、言い回しの、そして無意識の隠喩も、ある程度飲み込める。だから割と素直に、何を書こうとしているのかというところへ意識も動いた。二人の作家が、意外な程に共有しているもの、それは未来に対する何とはない不安であると思う。というより、二人に限らず、この本で出てくる主人公は誰もがその感情と向き合っている。29歳という年齢が作家に与えられた条件だったのだと思うが、そろいも揃って家庭に収まらず、かといって会社の中での将来像にも期待できず、自分はこれからどうなるのか、という不安を抱えた主人公が並んだ。そんな風に理屈にしてしまうと簡単なのだけれど、恐らくそう理解したところで何も解決されない。その感覚は、不思議と自分の29歳の頃に抱いていた不安と一致する。

    これは何も今の29歳の女性だけが抱える精神状態ではないだろう。あるいは現代の29歳が、と拡張してもよい。論語をみれば「三十而立」という。こういう警句のようなものは、大概が現実がそうなっていないことを示したりするものだから、孔子が30歳になったら一人前だといったのは、一人前になりきれない人が多かったからなのだろうと勝手に解釈する。ああやっぱりね、と思うのだ。

    論語で脱線ついでに言えば、惑わなくなる筈の歳になって自分は更に惑うようになったし、この後天命を知ることもないだろうと思う。せめて60歳になったら耳に従って生きられるようになりたしと思う。だが、まあ、無理だろうなあ、と直感する。

    人間て迷う生き物なんだなあと、このアンソロジーを読んでいてますます思う。年齢とか性別とか関係なく、迷うものなんだなあ。なんか非常につまらない、馬鹿みたいな感慨だけれど、それがやっぱり繰り返し繰りかえし浮かび上がってくる思いだ。

    ところで、こういうアンソロジーってなんで出版されるのだろう。好みの異なる人たちを対象に、好きな作家が一人でも入っていれば買ってもらい易いだろうという一網打尽的戦略ってことなのかな(って、まんまとそういう意図にはまっている自分もいるけれど)。でも、やっぱりというか当たり前のことだとおもうけれど、気に入っている作家のことがやっぱり好きなんだなあ、ということが確認されてしまう結果になる。一方で、いいことか悪いことか、よく解らないけれど、単行本で手を伸ばすことはないだろう自分が容易に想像できる作家もいることも同時に確認されてしまう。実はこういうアンソロジーを読むのは初めてじゃないけれど、この黒い感情が湧いてくるのが解っているので、たとえ川上弘美の短篇が入っていてもアンソロジーを読むのは苦手。同じ場所に自分の気分を置いておくことができないので。

    それにしても、別々な作家が文章を書いているのにテーマが余りにも近いね。発表された媒体のせいなのかな。誰もが不安を自分の中で愛でているような描き方だ。そんな中で、柳美里のこの突き放したような、全てを自分の立つ現実の生活空間(こっち側)から、非現実の舞台の上(あっち側)に投げ出してしまうような描き方って、ちょっと衝撃的。やっぱりすごいね、柳美里って。

  • 『ハワイへ行きたい』『ひばな。はなび。』『憧憬☆カトマンズ』が好き。

  • 実力派の作家たちの作品集なので安心して読めた。

    突出したインパクトがあった作品はなかった。レベル高めの粒ぞろい。

    同じ状況にいる29歳の人ならどれかの作品にもっと感情移入できるだろう。

  • 図書館の新刊の棚に見つけて、山崎ナオコーラさんの名前を見つけて「わーい」と思って借りました。
    女性作家好きなので、こういう短編集は大好きです。

    山崎ナオコーラさん
    タイトル「私の人生は56億7000万年」からして、センスいい!ってまたもや感じました。
    主人公カナが好きな「梅田」がよい感じ。

    ★気になったぶぶん

    自分が余計なことに、ずっとこだわっていたのだということに気がついた。
    ニートもフリーターも、他人からの命名だ。本人たちが言い出したわけではない。
    雇用の形を表す言葉は、概して、雇う側からの呼び名になっている。
    アルバイトでも、正社員でも、契約社員でも、派遣社員でも、なんでもいい。

    そして、自分で納得できる形で、好きなものと関わることができれば、それでいいのだ。
    本が好きだ。でも、だからといって、必ずしも本に関することでメシを食う必要はない。
    愛情は、仕事でしか示せないわけではない。


    柴崎友香
    なつかしいスポーツクラブを思い出した。


    中上紀
    外国に行ったような気持ちになれるお話。
    雲南の「cafe」を想像して、実際にあったらすごく行ってみたくなった。
    話のどんでんがえしにびっくり。
    また中上さんの本を読んでみたい。


    野中柊
    ふうちゃん。奥山くん。岡本さん。
    実際にどこかにありそうな話。つむぎだしていくユラユラ。
    ひさしぶりに会う奥山くん。
    対する主人公の気持ち。 ああ〜 て思いました。


    宇佐美游
    モデル、商社OL、ネイルアーティストを経て、フリーライターとして活躍した後、小説家としてデビュー。
    そんな著者自身に興味があります。

    大崎と隆介のあいだでゆれる気持ち。
    あっけない終わりにびっくりしたけど、あるよな。。こういう話。。と思います。


    柳美里
    柳美里でもこんなお話書くんや〜。。って意外なくらい読みやすい話。
    みうとゆうとさん。
    がっぽりはまっていくみうの気持ちがすぅーっと入ってきて、短い話なのにすっぽり世界に入り込んだ気分。
    やっぱり柳美里はすごい。この短編集のなかで飛びぬけてる感。
    あんまり暗い話じゃなければまた読んでみたいなと思いました。

  • 来年、29歳になる。
    29歳、未婚、女子(女性じゃなくてあえて女子)、って三つ揃うと何か特殊な磁場のようなものが発生する気がする。世間的な「あー29歳未婚女子ね」っていう像がある気がする。不思議だ。

    私を含め、29歳の未婚女性はたぶん世間が思っているほど焦っていない。でも、まったく焦燥感に駆られないわけでもない。
    人生の半分とまではいかなくても確実に1/3ポイントは迎えているはずで、それなのにこんなでいいのか自分、とたまに愕然とする時がある。でもまあ深刻になるほどではない。
    そんな29歳の女性を主人公に据えた女性作家のアンソロジーだ。

    一昔前だったら、結婚を焦る女性ばかりが登場したのだろうけれど(もしくは諦めて達観しキャリア街道邁進を目指すような女性)、このアンソロジーでは登場人物は多種多様で、リアルだな、と思う。
    幸せの形の画一化が崩壊してから、(特に)女性は目指すところが人それぞれになってきているように思う。
    同じ年齢の女性が主役なのに、短編によって作家の個性がまるで違っておもしろい。

    同年代の女性として共感したのは山崎ナオコーラの短編だ。
    彼女の作品の中で「30歳まではモラトリアム」って言葉が出てくるけれど、本当にそうだなぁとしみじみする。
    いい年して、ってわかっているけれど、まだモラトリアムの中にいて、そろそろそこから抜け出さなくてはいけない焦りやもがきは、確かにある。
    単純におもしろかったのは宮木あや子。
    情念の濃い作品が多いイメージだった彼女だが、本作のあっけらかんとした「ちょっとオバカでハッピーな29歳」はいい意味で今までの印象が裏切っていて楽しい。

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著者プロフィール

1978年生まれ。「人のセックスを笑うな」で2004年にデビュー。著書に『カツラ美容室別室』(河出書房新社)、『論理と感性は相反しない』(講談社)、『長い終わりが始まる』(講談社)、『この世は二人組ではできあがらない』(新潮社)、『昼田とハッコウ』(講談社)などがある。

「2019年 『ベランダ園芸で考えたこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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