遅刻してくれて、ありがとう 上: 常識が通じない時代の生き方
- 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2018年4月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (435ページ)
- / ISBN・EAN: 9784532176334
作品紹介・あらすじ
■ピュリツァー賞を3度受賞した世界的ジャーナリストが放つ、全米大ベストセラー!
■「何かとてつもないこと」が起きている――社会のめまぐるしい変化を前に、多くの人がそう実感している。
だが、飛躍的な変化が不連続に高速で起きると、理解が追いつかず、現実に打ちのめされた気分にもなる。
何より私たちは、スマホ登場以来、ツイートしたり写真を撮ったりに忙しく、「考える」時間すら失っている。
そう、いまこそ「思考のための一時停止」が必要だ。
■「平均的で普通な」人生を送ることが難しくなった「今」という時代を、どう解釈したらいいのか?
変化によるダメージを最小限に抑え、革新的技術に対応するにはどうしたらいいのか?
■常識が崩壊する社会を生き延びるヒントを教えてくれる全米大ベストセラー。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙が選んだ「いま読むべき」本。
感想・レビュー・書評
-
2001年から2016年に世界におきた、イノベーションとグロバリゼーションが世界に与えたものは何かをよく考えようというのが読者への投げかけです。
854頁におよぶトーマス・フリードマンの大作、読みでがありました。
上巻は2007年のテクノロジーのブレークポイントから、変化に翻弄される社会や人々を描きます。
結論は、こうです。
「アメリカの悪いところは、無数のコミュニティ、田園地帯、都市部の多くが崩壊していることだ。
しかし、いまのアメリカの良さは、団結して、市民が自分の将来に責任を持てるようにスキルとチャンスを得るのを手助けしているコミュニティや地域も、無数にあることだ。
強権をふるう男ではなく、強力なコミュニティのみが、アメリカを再び偉大にする」
歴史のブレークポイントは、3つ
2001年 グランドゼロ
2007年 デジタル・テクノロジー
2008年 リーマンショック
グローバリゼーションと、テクノロジー、気候変動の同時進行が、中流を支えてきた、高賃金で中スキルの仕事が、高賃金で高スキルの仕事と、低賃金で低スキルの仕事に二分されていく。それが個人のスキルの習得や、社会の制度の変化に追いつかない状況で起きていくといっています。
上巻で気になって点は、次の通りです。
・人生で恐るべきことはなにもない。理解する必要があるだけです。
・相手の遅刻のときに、熟考できる。だから、遅刻してくれてありがとう。立ち止まって、熟考しよう。
・2007年におきたイノベーション、スマホ、クラウド(VMware),Hadoop,キンドル、インテルのMPUへ非シリコン素材への適用等、技術のブレークスルーが2007年に起きている。
・ムーアの法則、Hadoopのおかげで、非構造化データを一元的に整理できるようになった
・スーパーノバ:クラウド、高速通信、ビッグデータ、AI。
・情報集約的なプロセスをデジタル化することで最大90%のコストが削減できターンアラウンドタイムが数桁改善されうる。世界の相互依存が高まり、ビジネスの創造者と破壊者のどちらにもなれうる。
・気候変動と、人口の爆発的増加、グローバル経済に環境ショックで対応している。
・ますます加速する社会、テクノロジーに、人々や政府が順応し管理する能力の間には大きなギャップがうまれてしまった。それを乗り切るためには、環境の変化の速度以上に速くすすむようにパドルをこぐことだ。
・AIによって奪われる仕事もあるが、あたらしく生み出される仕事もある。
①ミドルクラスの仕事は急速に引き上げられ、高度化している。
②ミドルクラスの仕事は、急速に引き離されている
③あらゆる仕事が急速に引っ張り合いになっている
④あらゆる仕事が急速に引き下げられている
・科学・テクノロジー・エンジニアリング・数学 この4つのスキルがいまでは必要最低限になりました。
・(業務)システムは全体として人々を取り込むのではなく、除外するように設定されている。ために、基本的な仕事すら適格でない求職者が殺到し、被雇用者は自分が求職しているのがどういう仕事かわかっていない。
・加速の時代に、仕事の世界で知的アルゴリズムが極めて重要である。
目次は以下です。
<上巻>
Part1 熟考
1 遅刻してくれてありがとう
Part2 加速
2 2007年にいったいなにが起きたのか?
3 ムーアの法則
4 スーパーノバ
5 市場
6 母なる自然
Part3 イノベーティング
7 とにかく速すぎる
8 AIをIAに変える
<下巻>
9 制御対混沌
10 政治のメンターとしての母なる自然
11 サイバースペースに神はいるか?
12 いつの目もミネソタを探して
13 故郷にふたたび帰れる(それに帰るべきだ)
Part4 根をおろす
14 ミネソタから世界へ、そして帰ってくる
<その後>それでも楽観主義者でいられる詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【これから読みます】
新宿の紀伊国屋では『自己啓発』の棚に並べてあった。
そういう内容なのかな。 -
クラウド、AIなど要所要所は読んだけど、どこか馴染めず。。わたしには合わなかった。
91冊目読了。
-
フリードマンが「フラット化する世界」を著したのは2005年。世界はフラット化しつつも、まだiPhoneもfacebookもない時代だった。
今では、とてつもないスピードで生活、環境が変化し、人々は立ち止まり考えるヒマもなく、予定を詰め込み、スマホで写真を取りアップすることに忙しい。しかし、環境破壊は臨界点を越えつつあり、多様性とレジリエンスは劣化し、世界は分断化の方向へ向かう。それでも変化のスピードは加速度を増し、AI、バイオテクノロジーが更なる激変をもたらす。
それでも。とフリードマンは言う。立ち止まって考えよう。新しい時代に適応するため、学び続けよう。まだ我々には多様性を受け入れ、人々を守り、成長させるコミュニティがあるじゃないか。みなが協力してテクノロジーを使いこなしていけば、まだ間に合うかもしれない。
2016年の作品で、分断化し、トランプに救いを求めたアメリカ社会の様子を色濃く感じさせる作品。とんでもないスピードで変化(進化?)が進む中、それぞれが身の回りコミュニティを健全なものにしていくことにすがりたくなる気持ちには共感はできるけど、実際の生活でできるだろうか。。
ベストセラーだけあって、読みごたえありです。 -
『フラット化する世界』のトーマス・フリードマンの最新作。本書は、『フラット化する世界』以降に世界に起きたことをフリードマンの視点からまとめたものである。『フラット化する世界』の初版の出版が、2005年なので、そこから10年以上が経過している。kindleもまだサービスを開始しておらず、自分の書棚にも紙の本が収まっている。
タイトルの『遅刻してくれてありがとう』は不思議なタイトル名だ。フリードマンは、相手が遅刻してきたときに、その時間にゆっくりと考える時間を作ることができたので、あるとき「遅刻してくれてありがとう」と言ったからだという。そういうことはあるだろうし、相手には皮肉に聞こえるかもしれないが「いえいえ、大丈夫ですよ」という感じで伝えることはあるだろう。ただそれだけでは一冊の真面目な本のタイトルにはならない。つまりは、それだけわれわれの時間がかつてないほどにテクノロジーによって切り刻まれて、われわれ自身が追い立てられているということを示したいからだろう。そして、そこから自由になるには何かきっかけがあれば大丈夫だよということを人生の処方箋としてこの本で示したいからなのかもしれない。しかしながら果たして、この本を読んだ結果として著者の意図はそのようなものには感じられない。「理由もわかっていた。私も多くの人々と同じように、めまぐるしい変化の速度に打ちのめされ、疲れ果てていた」― SNSやメールに追い立てられる現代世界において何を伝えたいと考えているのだろうか。
「端的にいえば、本書は現在の世界についての膨大な一本のコラムである。世界中で変化を促進している重要な力を明確にし、人々や文化に対するその影響を説明し、もっとも適切と思われる価値観と対応を見いだすという狙いがある。それによって、世界各地の数多くの人々にとって最善の結果がもたらされ、彼らの激しい衝撃を和らげられるよう願っている」
本題に入る第二章のタイトル「2007年にいったいなにが起きたのか?」は示唆的である。Facebook、Twitterが離陸したのがその年で、VMware、Hadoop、GitHubといったツールが出きてきたのもこの年だと。その前に、iPhoneが登場し、対抗してAndroidが作られている。AWSも少し前に始まっている。ビットコインの開発に着手されたのもこの辺りだ。Amazon Kindleも2007年、Airbnbも同じ年だ。『フラット化する世界』が書かれてからすぐに「フラット化」とは違う動力によって世界は変わり始めた。多くの人は気が付かなかったが、今は当たり前の世界となり、私たちの時間を差し出しているようになった。『フラット化する世界』は2004年に書かれ、世界を俯瞰して若干の上から目線で書かれたが、そのときにはFacebookもTwitterもCloud Computingもなかった世界だった。
ATTはiPhoneのおかげで、成功したが、そのためにトラヒックが数年の間に10万%も増えたという。「需要には逆らうな」と言って、ネットワークの拡張をしてきたという。クラウドのおかげで、コンピュータは「火や電気よりも重大なものになるといっても過言ではないだろう」と書く。それ以降、ハードの制約が解き放たれたことで、ソフトの開発技術が進んだ。ソフトの制約がクラウドやオープンイノベーションのおかげで解き放たれた。
2007年以降に起きたことを、『機械との競争』ブリニョルフソンとマカフィーが言うことを引用して、世の中がチェス盤の後半を超えたと表現する。米粒の話と同じ、例の指数関数の話だ。
「市場、母なる自然、ムーアの法則が同時に加速して、“加速の時代”を構成し、私たちがそこに置かれているというのが、本書の主張の眼目になっている」
そうなると社会の変化の速度にわれわれ自身が適応する速度がついていけなくなっている、というのが現在の状況だろうと。そうなるとテラーが言うように、どれだけ速く失敗するのかが重要になる。また、以前に身に付けた知識と経験があっという間に陳腐化するため、生涯学習が必要になるという示唆、そしてそのためのツールはMOOC含めてあふれている。そうなると、これからの課題はモティベーション格差になると指摘する。
「相転移」とフリードマンは2007年以降に起きたことを表現する。クラウド、スマートホン、広帯域通信、が相転移を促した。「アナログなものはすべてデジタル化し、デジタル化されたものはすべて保存し、保存されているものはすべて、より強力なコンピュータ・システムのソフトウェアで分析して、学習結果はすべてただちに応用して、古いものをもっとよく機能させ、新しいものを可能にし、古い物事を根本的に新しいやり方でやれるようにする」― それがシリコンバレーの標語になっているという。それはこれまでのデジタルの世界に限定されず、Uberのような輸送事業でも発電事業でも同じようにデジタル化されて分析されている。
AI技術の進化やその可能性を見せたのも2007年以降の変化の中でも大きなものだろう。AIの世界において、IBMワトソンがジェパティで人間のチャンピオンを破った。顔認証や声紋認証の精度も大きく向上することが見込まれている。バイドゥの本社では顔認証によって社員証の代わりになっているとのことだ。Amazon Goでは映像だけで誰がどんな品物を持っていったのかがわかる。
その人の人生における学習についての観念も大きく変わっていく、ある職業に就くために学んだ知識がかつては一生その知識で食べることができたが、今はその知識が働いている間にいやおうなく陳腐化する。フリードマン自身がタイプライターを使って記事を書き、テレックスを使って書いた記事を送っていたエピソードを挙げているのが印象的だ。今の子供は、携帯電話やメール(メールもなくなるかもしれない)がない世界というものがどんな世界なのか信じられないのではないだろうか。ひとりにひとつメールアドレスが与えられて、一台以上のパソコンが使えるようになったのは確かに自分が1990年代の初めに大学を卒業して就職をした後の話だ。これからの人間は、最初の職業に就くために大学で知識を身に付けて、その後も学習をし続けなくてはならなくなる。それは、これからの人だけではなく、もはや今働いている人すべてに言えることになるだろう。生涯学習(リカレント教育)は趣味ではなく、必要なプロセスになりつつある。そこでは学ぶ意志があれば、いくらでも学ぶことができる世界が来ている。デジタル・デバイドがなくなったからだが、その代わりに「モティベーション・デバイド」がこれからの課題になるという。社員教育についてもいろいろと考えを改めなければならないのかもしれない。
一方で、AIによって職業が奪われるというのはナンセンスだというのが著者の指摘だ。これまでの多くの技術でそうだった。ATMによって出納係の数は減らなかったし、バーコード読み取り機器の普及でもキャッシャーの人員は減らなかった。その分総需要が増えたからだ。おそらくその指摘は正しい。しかし、そのためには学習と適応をし続けなければならなくなっているということだ。
「教師が生徒にあたえ、親が子供にあたえる最高の贈り物は、“物の考え方”だ」という。
技術の進展が与える大きな流れとして、「ストックからフローに」、「マクロからミクロに」というものがある、この変化はいくつかの表現をすることができるだろう。
Airbnbが部屋のマッチングからスキルのマッチングに自然に移行しているのは、確かにそれはよい方法だと思うが、驚きでもある。Airbnbをマッチングのプラットフォームとして見ることができれば、それは自然な成り行きなのかもしれない。これからは「マッチング」が重要な要素になり、プラットフォームとして握るべきものなのかもしれない。
『フラット化する世界』では、アメリカ中心主義で、フラットになったのはアメリカがその中心となる(球体において表面には中心はないが、平面において中心が存在する)と感じられたが、それから10年以上を経て、フリードマンの予測を上回って世の中が変化をし、「フラット化」と表現されるべきものではない変化が訪れ、そしてフリードマン自身の認識も変わったというように感じられた。
本書でムーアの法則が紹介されているが、そのムーア自身が述べた1965年の記事には、マイクロチップが加速的に成長することによって、家庭用コンピュータ、自動運転、携帯通信機器、ウォッチ型デバイスの出現を予測している。この記事を見ると、技術の進化は制御も見通しもできないので、よく考えずにまずはやってみることが大切だと思う。
また、フリードマンは世界の重要な変化として、都市化、都市への集中を挙げる。フリードマンはグローバルな市場を“The Market”と呼び、ひとつの市場になる。この辺りはグローバル市場とは別に、サービス産業などローカルな市場は存在し続けることにもっと注目すべきだとした、冨山氏が『なぜローカル経済から日本は甦るのか』で書かれていることにも気を配るべきではある。
---
『なぜローカル経済から日本は甦るのか』のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4569819419 -
立ち止まるたびに、私は使命を聞くーラルフ・エマーソン
地下駐車場で出会ったエチオピア出身の見事なブログを運営していた男との出会い。激動する時代を眺める前に、一時停止をさせてくれたととらえたことが題名の由来。
きっかけは2007年。
本書の問題意識は、物理的テクノロジーの進歩は止められないしそうすべきではない。人間側の適応を社会全体でバックアップしていこう、てなとこ。
先進国の人々がグローバリゼーションに吞み込まれていると感じているなら、それは、デジタルや、貿易、移民の急速なフローの拡大が、あまりにも社会的テクノロジーーすなわち学習し、適応し、衝撃を和らげるツールーの先を行き過ぎているからだ。その結果人々は、未知の人間同士の接触すべてが、自分たちを呑み込んでしまうように感じたり、自分たちをつなぎとめるものー仕事、地元の文化、家庭や地域や祖国があるという実感ーを脅かすと感じたりする。
警告ー加速の時代には、社会が人々の下に堅牢な床を築かないと、おおぜいが壁に手をのばすーそれがいくら自滅的であろうと。その不安感に取り組むのは、現在の指導者層にとって最大の難問の1つだ。 -
ムーアの法則。グローバリゼーション。気候変動。3つの変動を契機に現代は加速の時代となった。加速に適応し人並みに生きるには何が必要か。取材した豊富な事例を元に、その方針とノウハウを綴ったコラム。
変化に適応するために、加速時代に生きる私たちはデジタル技術を駆使して生涯学び続けなければならない、という事例と脅し文句はいかにもビジネス書らしい、ありきたりで、新鮮味のない話だが、注目はフリードマンがコミュニティの必要性と構築を説いている点だ。
個々の価値観、信頼、アイデンティティを育み、寄って立つ基盤があるからこそ、加速時代の競争のなかでも人は生きていける。それらをフリードマンの故郷ミネソタ州の取り組みと自身の思い出を元に、コミュニティ再生の必要性と重要さを熱く説く。ここが本書の軸であり目玉となるところだろう。 -
んー。。読むのが遅すぎたのかもしれない。
-
時代の潮流巨篇コラム。
前半は知っていることが多かったが、よく言われる時代の変化を2007年をターニングポイントにしている点がストーリーとしてわかりやすい。
後半のAIの扱い方がよくまとまっている。
職業というか人の能力の範囲は多様化が加速するとみる。
なんでもやってみたぶんだけ幸せにつながるのかもしれない。
上巻なので下巻に期待。