「5年後の世界経済」入門

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  • 日本実業出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784534051431

感想・レビュー・書評

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  • 昨年末(2013.11)に中原氏によって書かれた本で、世界の主な地域(アメリカ、ブラジル、ロシア、EU、中東、中国、東南アジア)の5年後の経済状況について解説されています。

    結果からいうと、アメリカ(特に南部)、東南アジアが有望のようですね。中国の経済発展は不透明な部分があるようですが、中国語を話す圏まで範囲を広げると間違いなく成長していくと思われました。

    以下は気になったポイントです。

    ・中国に進出するメリットはもうない、海外進出の2つの要件(人件費とエネルギーコスト)である魅力がなくなったので(p12)

    ・シェールガス革命によってアメリカのエネルギーコスト(アメリカ南部)は先進国では世界最低水準、2015年には中国沿岸部と賃金も同程度になる(p16)

    ・中国のGDP伸び率は5%にも満たないだろう、電力消費量やそれに伴って動く電力生産量も伸び率が低下、鉄道の輸送量もマイナスになっている。(p27)

    ・シェール革命によって将来原油は供給過剰になる、天然ガスは現在で、欧州の3分の1、日本の5分の1になっている(p45)

    ・国際エネルギー機関の2013年の予測では、アメリカが2015年までに原油生産量でサウジアラビアを抜いて世界一になると2年前倒しになった(p49)今後原油価格が90ドルを割り込むとサウジアラビアは財政赤字となる(p61)

    ・ハイブリッドはあと10年はもつ、20年後は電気自動車ではなく燃料電池車になる(p70)

    ・燃料電池車は、水素を燃料とする、これが石油の元売企業にとっても利益が出せるエネルギーになる(p71)

    ・新興国では賄賂がまかり通っていてインフラ整備がまともに行われていない、そのため工事事業者は材料費を削らざるを得ないので質が悪くなる(p80)

    ・ブラジルは空前のクレジットブームが起きていて、一般家計においては可処分所得の20%超が借金返済にあてられている、サブプライム危機の直前のアメリカでも14%程度(p86)

    ・資源国は膨大な利益を得ていた、鉄鉱石の価格は2000年を100とすると、ピーク時には1347をこえて、2013.3には1123という高水準になっている(p87)

    ・シェール革命が進行すればエネルギー価格は下落する、ブラジルの借金体質を覆い隠してきた資源価格の高騰に赤信号がともる(p88)

    ・ドイツは2003年以降の構造改革では、失業保険の支出を絞り、企業の賃上げも抑えた。2002-2006年の単位労働コストはユーロ圏で唯一のマイナス(p94)

    ・日本が企業と銀行の二重のバランスシート不況、アメリカが家計の単一のバランスシート不況、欧州は国家・銀行・家計のバランスシート不況となっている、15-20年の長期低迷を覚悟する必要がある(p99)

    ・トヨタはアメリカの企業と異なって、人件費を切ってコスト削減をしたのではなく、純粋に生産性を高めて業績を回復した、だから円高が悪いわけではない(p105)

    ・注目したいのは、CLM(カンボジア、ラオス、ミャンマー)、人口は合計8000万人だが、GDPは6700万人のタイの5分の1(p110)

    ・現在の貿易統計ではアメリカが最終消費者であることが非常に見えにくくなっている、OECDが付加価値ベースで2009年の貿易統計で計算しなおしたところ、日本が大幅な貿易黒字を維持しているのはアメリカのみ、中国・韓国は赤字(p123)

    ・アメリカのインフレ率は年2%であるが、顕著な上昇ぶりを見せたのが、ガソリン代・電気代・食糧費の3つ、それ以外のもの(自動車、電化製品、衣類など)はむしろ値下がりしている(p129)

    ・円安に転換する理由の最たるものはシェール革命、アメリカの自給率は2012年で20%輸入していたが、貿易赤字の半分以上をしめる原油輸入が減る(p136)中東原油に依存する比率が低くなったらアメリカ軍が展開する必要もなくなる(p138)

    ・グローバル企業が最後のフロンティアであるアフリカに進出して、アフリカが高成長して人件費が上がってくると、資本主義の限界が見えてくるだろう(p146)

    ・トヨタ自動車は「TS基準」といって非常に厳しい製品管理の基準が設けられていたが、新興国向けに関してはそこまで厳格な基準を当てはめなくてもよいという方針が打ち出された(p151)

    ・日本の電気代が安くなったと実感できるのは2017年以降だろう、それはアメリカから日本へのシェールガス輸出が始まるので(p170)

    ・読書は海外研修以上の効果がある、異国の文化・宗教・価値観は同じように疑似体験できる(p212)

    ・人間関係については自分が「ギブ&ギブ&ギブ」でいくくらいが丁度良い(p230)

    2014年6月22日作成

  • 21/1/3再読了。

    数年前に読了していたが、本棚を整理していたら出てきたので処分する前に再読。

    入門というだけあって中身は濃くない。
    数年前(本書執筆は2013年)を振り返り、この数年間における社会の劇的な変化を再認識できた。

    COVID-19の影響もあって世界は様変わり。
    これだけの変化を予測するのは難しい(というか不可能だ)が、これだけの変化についていけるような柔軟さを身に付けたい。

    以下メモ

    ▽日本電産・永守会長曰く
    「為替が円高に動くたびにM&Aブームは起きる。だが、買収後にうまくいったケースが少ないのはよく知られている通りだ。登山に例えれば、M&Aは契約の時点で2合目までしか登っていない。残りの8合分は企業文化の違いを擦り合わせる『PMI』という手間のかかる作業で、これがまた難しい。」

    ▽トヨタの経営スタンス
    リーマンショック後の景気後退が厳しい時期に「年間生産台数300万台は死守する」と宣言。それはトヨタ自身のためではなく、下請けのための戦略だった。トヨタの技術者を下請けに派遣して困難な局面を乗り切るための方策を一緒に考えた。

    ▽成功する企業の特徴は…
    従業員とその家族、そして取引先を、まず大事にすること。その先に利益があり、株主の利益は一番後回し。(クロスカンパニー石川社長を引き合いに出して著者談)

  • ・内戦状態の中国大陸から日本人を救出できるのはオスプレイしかない
    ・シェール革命により長期的にドル高が進む
    ・中国の次には東南アジア、その次はアフリカと、安い人件費を求めて進出するが、アフリカの人件費が上がってくると資本主義はこれ以上の伸びしろをなくしてしまう殊になる。
    ・日本カラーデザイン研究所:色の認識は国によって違う。高級感を感じるのは、エンジ、ワイン色:日本では上位だが、ベトナムやタイでは黒や白などのメリハリがある色が上位に入る。
    ・日本の電気料金が実感として下がるのは、シェールガス輸出が始まる2017年ごろから。
    ・日本の法人税率は高い。韓国24%、日本38%
    ・事業の本質を見極め、従業員を教育し、目先の利益にとらわれずに中長期的な視野で経営にあたるのが、日本企業の利点。(だった。)

  • アメリカではシェール革命によって燃料が安くなる一方、電気をチャージするインフラが整備される予定はないため、電気自動車は普及しない。アメリカで普及しないものは世界で普及しない。あと10年間はハイブリッド車が普及し、20年後には燃料電池車が主流になると予測する。水素は石油を精製する際に発生するので、石油元売り企業にとっても利益がある。

    シェール革命によってエチレンの生産コストが低くなるので、アメリカの石油化学産業に恩恵をもたらす。

    日本は企業と銀行、アメリカは家計のバランスシート不況を経験したが、欧州は国家・銀行・家計の3重のバランスシート不況を抱えているため、15〜20年も長期低迷する可能性がある。

    2012年秋以降に円安が進んだのは、シェール革命によってアメリカの貿易収支の赤字が減るため。

  • 今後の日本を取り巻く企業環境をコンパクトに平たく述べられており、非常に分かりやすい。
    難解な経済の流動を軽快な文章で表現する、その筆力には感心させられる。

  • 先行きの見えない、日本そして世界の経済。
    「この先どうなっていくのだろう」という不安な気持ちから、先行きを論じた本につい、手が伸びてしまいます。
    この本も、「5年後の世界経済」という題名に惹かれて、読んでみることにしました。
    まず、「世界の工場」中国がどうなっていくのかという話から始まり、アメリカでのエネルギー革命という本題に進みます。
    その上で、アジア、欧州他の各地域・各国についての見通しへと展開し、最後に、「では日本はどうすべきか」と締めくくる、という流れになっています。
    著者の主張の核となっているのが、アメリカの「シェールガス革命」。
    安価なエネルギー源を手に入れるアメリカが、エネルギー輸出国になるとともに、「世界の工場」の座を担う。
    日本企業は製造拠点として、そのアメリカと、親日のアジア諸国のどこかという「アメリカ・プラス・ワン」の体制を目指すべきだと説いています。
    またその他の国については、中国は多数の問題を抱えており、またロシア・中東はエネルギーのパワーバランスの影響で、今の国力を保てない危険性が高いと、予測しています。
    読み終えて感じたのは、「シェールガス革命というのは、それだけインパクトの大きいものなのか」という驚きです。
    逆に、その他の要因が過小評価されている懸念はありますが、今後の世界経済を読み解く上で、大きな要素として考慮する必要があるのだなあと、認識しました。
    後半に書かれている、日本の今後に向けての提言は、前半部分に比べるとインパクトが小さいかなと感じましたが、今後の世界経済を考える上で、参考になる一冊だと思います。

  • 2014/04/20
    自宅

  • 求められるリーダー像は、本質的、中長期的、多面的の三つの視点をもっている。

  • エコノミスト中原氏の本。参考になる部分が多く、示唆があっておもしろかった。
    <メモ>
    ・中国からアメリカ南部への生産の流れ
    ・シェール革命と食糧価格の下落
    ・ロシア、中国リスク
    ・電気自動車普及の難しさ
    ・マーケティングの重要性。市場選択の重要性
    ・ビッグデータも五年程度の期限と考えられる
     メジャーになればうまみが減ってしまう。
    ・全体感の話。高齢者雇用・ゆとり世代の教育
    ・リーダー像 多面性、中長期的、本質的
    ・英語についてなど

  • 関空でのフライト前に購入したうちの1冊。タイトルと表紙の雰囲気から勢いで購入。

    著者の本は初めてだが、論理の飛躍が至る所に見られて、正直『なんでそういう結論になるの?』と感じる文章が結構ある。

    『まえがき』の直後に見開きで書かれている『五年後の世界予想図』を見ると、要点が全てまとめられていてわかりやすい。


    5年後の世界は以下のようにまとめられている。

    アメリカ:
    安価なシェールガスの自給に目処がたち、製造拠点としての復活、製造コストの削減、中東の安全保障費の削減が見られる。エネルギーコスト削減により基本的にデフレへ。

    EU:
    ドイツ以外は長期低迷。

    ブラジル:
    主力資源の鉄鉱石の高止まり修了、通貨の上昇により、現在のバブル崩壊の可能性。

    ロシア:
    アメリカの安価なシェールガスのせいで天然ガスの価格が下がり競争力を失い経済悪化の可能性。消費者として日本の価値上昇

    中国:
    反日デモ、労働賃金高騰、環境問題、格差拡大による暴動発生、不動産バブル崩壊と5つのリスクがある。

    中東:
    シェールガスにより原油価格暴落により経済悪化

    アジア:
    中国・韓国とはビジネスと割り切り、それ以外の日本びいきの国、特にCLM(カンボジア、ラオス、ミャンマー)のインフラ構築に投資を進めている。


    法人税率引き下げによる外資の呼び込んでの税収のアップ、シニア層が活躍できる労働市場の構築、ゆとり世代の有効活用 など、、、

    日本にも様々なアドバイスが書かれている。 が、あまり目新しいものもないように思うのだが、、、、

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著者プロフィール

1970年生まれ。慶應義塾大学卒業後、金融機関や官公庁を経て、現在は経営・金融のコンサルティング会社「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリストとして活動。大手企業・金融機関、地方公共団体等への助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済教育の普及に務めている。「総合科学研究機構」の特任研究員も兼ねる。実質賃金、実質成長率など、名目数値よりも実体経済に近い数値推移で市場を把握する。著書に『AI×人口減少』(東洋経済新報社)、『日本の国難』(講談社現代新書)など。

「2021年 『マンガでわかる その後の日本の国難 稼ぐ力の高め方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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