アニメと戦争

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  • 日本評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784535587533

作品紹介・あらすじ

『桃太郎 海の神兵』から『この世界の片隅に』まで、アニメに登場する様々な戦争。その系譜をたどり、社会との関係を問い直す。

感想・レビュー・書評

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  • 戦争と時勢に沿ったアニメの関係性、どう表現してきたかを論じてくれた一冊。
    他の本とリンクさせて読むことで、より一層知識として得るものは大きそうです。先に、『日本アニメ史-手塚治虫、宮崎駿、庵野秀明、新海誠らの100年』を読んでいたことで、戦中、戦後すぐのアニメの話も入りやすかったです。
    さらに、この本から派生して当時の世相を把握する書籍も読んでみたいと思いました。

    本自体は、とても面白く、みたことのあるアニメでも、別の視点、俯瞰する視点をもらうことができて、よかったです。
    やっぱり押井守は神ーーッ!
    『みんなの体験であった戦争が、個人的な趣味になっていくという流れの対比でいうなら、「パトレイバー2」は戦争をただ戦争として示そうとした作品といえる』

    『スカイクロラ』も論じてほしかったですが、外れた位置にいたかな?

    『この世界の片隅に』の立ち位置、すずの気付きのシーンは全然感じていなかったので、なるほどといった感じでした。
    自分たちの食事、そういった生活実感を通して、自分たちの加害性に気付いた……

    確かに、最近、戦争はいけないことだはもちろんですが、日本も被害者……というわけではないというのがクローズアップされた作品が多くなってきている気がしますね。

  • 自分の好きな作品の解説は興味深く読めたが、知らない作品の解説は理解が難しかった。

    この本で紹介されてる作品のいくつかは見てみたいと思う。

  • 成田龍一さんの『「戦争経験」の戦後史』に記された、「状況」「体験」「証言」「記憶」という戦争の語りの変化を手がかりに、戦中から2010年代にかけて製作された戦争を描くアニメーション作品を論じている。
    時代ごとの描かれ方の違いがよく分かり、特に『ゲゲゲの鬼太郎』の「妖花」という作品の描かれ方が時代ごとにどう変化したかを論じたものと、『この世界の片隅に』について言及したものが読みやすかった。
    ただ誤字が多かったのが気になり、そこだけ残念。

  • 宇宙戦艦ヤマトやガンダムのあたりは面白く読めたのですが、他の作品に対しては著者の考察が深過ぎて私には少々難しかったです(汗)
    しかしこれまで何も考えずに見てきたアニメにはそれを作った人々の太平洋戦争から続く価値観が反映していたんだということを知り、まだ見たことのなかった作品も鑑賞してみたくなりました。

  • アニメと戦争の関係の約100年を、濃密に解説した労作。

    人類の「文明化」が始まって以来、人類社会の大事件は常に戦争だった。ならば、人類の創作物の中で戦争が大きなウエイトを占めるのは理の当然というべきだろう。

    日本アニメは20世紀の初めから始まった(1917)。本格戦争アニメは「空の桃太郎」(1931)からだった。著者は成田龍一の「「戦争体験」の戦後史」のカテゴリーを借りて、戦争アニメ史がどのように推移したのかスケッチする。

    ①1931-1946「状況」として語られた時代。
    戦争プロパガンダとしてのアニメ(代表作「桃太郎 海の荒鷲(1942)」)

    ②1945-1965「体験」の時代。
    戦争を体験した世代が体験した世代に語りかける。

    ③1965-1990「証言」の時代。体験していない世代に語りかける

    ④1990以降「記憶」の時代。社会の中に形成されてゆく「集団的な記憶」が中心になる。

    ②の例として「巨人の星(第1、9、125、177話)」と「ゲゲゲの鬼太郎第一シリーズ第32話」を挙げていたのはビックリ。リアルタイムで観ていたけど、そういえば戦争体験が「自明のものとして出ていた」。

    ③の例として「サイボーグ009」の第一シリーズ16話、26話が挙げられる。②③共に、辻真先が脚本に関わっていた。「戦争から教訓を学ばない人類」への警笛を描き、今なお解決されていない矛盾の指摘まで踏み込んでいたらしい。
    その後、「宇宙戦艦ヤマト」になると、著者の思い入れ深くかなり踏み込んだ説明になっている。

    ④ヤマトから数年後、「ガンダム」になると、もはや作り手は「戦争を知らない世代」にバトンタッチされる。過去の戦争との繋がりは断絶する。

    そこからは、「歴史的/非歴史的」「みんな/わたし」としての座標軸を示されて、歴史的・みんな「桃太郎」「巨人の星」「009」から、非歴史的・わたし「ガンダム」「マクロス」へ移り、非歴史的・みんな「パトレイバー2」「198X年」、わたし・歴史的「風立ちぬ」「この世界の片隅に」に移ってゆくと整理している。

    専門家だけあって、目配りはしっかりしていて、書いてあることに関しては、多くは納得するものだった。

    その上で、物足りないところを幾つか。
    ・ここまで分析しているのだから、次に来るアニメの特徴や問題点をきちんと書いて欲しかった。言及したアニメの問題点は、ある程度は指摘しているので非常に残念だった。
    ・20世紀のアニメ史における戦争を解説することで何が明らかになるのかまで踏み込んで書いて欲しかった。
    ・あまり代表的なアニメとも言えないアニメ(「ラグダム」「ボトムス」「メガゾーン23」等)を分析していて、ちょっと目配りしすぎではないか?とも思った。
    ・サブカルチャーアニメは扱わないと宣言しているが、「エヴァ」はサブカルチャーなのか?「進撃の巨人」はサブカルチャーなのか?そんなことはないはずだ。こんなにも影響力のあるアニメを何故無視したのか?1文字も言及していない。

    結果的に当たり障りのない批評に落ち着いている。おそらく、左右に偏らない「中立」の評論を目指したのだろう。しかし、わたしに言わせれば、「そんな評論などあり得ない」。批評というものは、必ず自分の色眼鏡で対象を選ぶからだ。問題は、何の立場に立って物事を批評するのか?ではないだろうか。

  • アニメの中で戦争がどう扱われているか、について整理した本。
    もちろん、その意味でも有意義なのだが、私にとっては、賛否両論のあるセンシティブな話題を、どう整理していくか、の実例を見せてくれた本だと思う。

    過去の事実や倫理的なステレオタイプがありうる、戦争というものを、多くの作品はどうやって語っているのか。

    いろいろな切り口や思いがあって、それを今の捉え方から、簡単に切るのは違うのだなと、改めて思った。

    また、戦争を扱った作品がアニメだけでもこんなにあることを知り、もっとそれらを見て、勉強というか、自分の中の戦争というものを考えたいと思った。

    いろんな気づきができる、良い本だと思う。

  • 借りたもの。
    アニメ表現から見る戦争体験の伝承の変化、ないし、ポスト戦後の戦争をどの様に表現されたかを検証する一冊。
    しかし、その全てはクリエイターの“リアリティの表現追求”に集約されるのではないだろうか?

    著者は成田龍一『「戦争体験」の戦後史』( https://booklog.jp/item/1/4006004230 )を読み、そこで指摘されている「状況」「体験」「証言」「記憶」という語りの変化を、アニメ表現における背景にあることをベースに検証している。
    戦時中のプロパガンダとしてのアニメ作品にも触れるが、そこから見えるリアリティの追求があること。
    戦後から「自分たちの歴史をアニメで子供に伝える」〝自画像〟の意識がある一方、「エンターテインメントとして」の表現への欲望があることを見出す。
    第二次世界大戦――というより太平洋戦争――以降、幸いにも日本は戦争“当事者”になる事はなく、結果、戦争“体験”がメディアを通して得るものとなっていることを指摘。
    どうしても発生してしまう世代交代による戦争解釈(温度差)。を垣間見る。そして時事ネタ反映したものまで。
    冷戦期の「未来の戦争」に対する可能性・不安を当時リアリティをもって描写されたり、冷戦崩壊により起こらなかった“戦争”に乗せる過去と未来の戦争に対して“生き残った亡霊”の苦悩とつかの間の平和、“ニンテンドーウォー”とも言われた湾岸戦争のヴィジュアル的影響などを指摘。
    硬派なリアリティの追求をする押井好きとしては『パトレイバー2』の話と、冷戦後の「アニメと戦争」の世代に相当するので、9章を興味深く読ませてもらった。
    国家間の安全保障、テロリズムといった時事ネタが織り込まれるものの、記号化した戦争、ドキュメンタリーアニメとして描き出される戦争、自衛隊アニメ……抽象化され細分化されつつもリアリティであってもリアルではないようにも思う。
    また、テロの世紀において冷戦までのイデオロギー(価値観)など幻影に過ぎないという身も蓋もなさは、戦争関係なく不安と絶望を突きつけるように、私は思う。

    エヴァについて言及されていないのが不思議……
    旧劇場版では戦略自衛隊が「セカンドインパクトを起こさせない」ために投入されるも、それが「セカンドインパクトを引き起こす」結果になる点も、外交と命令とその結果の理不尽さに、任務遂行と戦争?の理不尽さを見たりもするのだが。
    また、NERV側の防衛設備が対人迎撃システムではないためあっという間に制圧されている点も、戦争のリアリティを見てしまう……

  •  日本のアニメの中で戦争がどう描かれていたか。

     戦中から現在まで、時系列に沿ってアニメの中の戦争を記していく。
     ゲゲゲの鬼太郎の妖花の定点観測が分かりやすいが、終戦直後の戦争は家族を失った人もいる身近なものから、やがては伝聞で知る遠く離れたものになっていく。
     戦争がある種の娯楽として描かれる。しかし、戦争との距離はそんな単純なものではなく、ベトナム戦争や冷戦、湾岸戦争、テロといったその時その時の戦争の影響もあり、戦争は様々な意味を持ち続けている。
      
     アニメというだけでなく全ての戦争に関するものを考える上で参考になるのではないかと思う。

  • ・日本のアニメにおける、主にアジア・太平洋戦争の描かれ方、あるいは距離のとり方について考察した1冊。いろろと考えさせられた。読む価値のある本。
    ・改めて思うのは、僕が子供の頃から観てきたアニメの大半は、何かと戦ってる作品だった。この本で取り上げられている作品も少なくない。
    ・それで、僕が戦争について考えるとき、『ガンダム』や『銀英伝』『パトレイバー』などをイメージすることは確かにあって、それはニュースや歴史の勉強で学んだことと、同じように大きな影響力を持っている。
    ・今、ロシアのウクライナ侵攻のニュースに接して、確実に自分の中の価値観が揺らいでるのを感じている。

  • ガンダムは独立戦争、宇宙戦艦ヤマトは異星人
    の侵略に対する戦争が描かれています。

    アニメでは多くの「戦争モノ」が題材にされて
    います。

    本来戦争を表現することは非常にデリケートな
    事柄であり、今もドラマの太平洋戦争のシーン
    には、製作者側は大いに気を使うといいます。

    しかしアニメでは何となく遠い世界の出来事の
    ように描かれています。

    それは製作者側の年齢によるものと、本書は説
    いています。

    ガンダム、ヤマトの製作者の年齢は、すでに戦
    争体験者ではなく「物語」であったのです。

    その前の世代にとっては「体験」として戦争を
    アニメに取り込んでいました。

    つまり、どの時代にどの世代に作られたかによ
    って、アニメの中で戦争の捉え方が大きく異な
    るのです。

    そんなアニメの歴史と共に時代の変遷がわかる
    一冊です。

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著者プロフィール

藤津亮太(ふじつ・りょうた)
1968年生まれ。アニメ評論家。新聞記者、週刊誌編集を経て、2000年よりアニメ関連の原稿を本格的に書き始める。現在は雑誌、パンフレット、WEBなどで執筆を手掛ける。主な著書に『チャンネルはいつもアニメ』『ぼくらがアニメを見る理由』『アニメと戦争』『アニメの輪郭』などがある。

「2022年 『増補改訂版 「アニメ評論家」宣言』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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