死を忘れるな (白水Uブックス)

  • 白水社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560072028

作品紹介・あらすじ

老いと死をめぐるブラックコメディ

 「死ぬ運命を忘れるな」と電話の声は言った。デイム・レティ(七九歳)を悩ます正体不明の怪電話は、やがて彼女の知人たちの間にも広がっていく。犯人探しに躍起となり、疑心暗鬼にかられて遺言状を何度も書き直すデイム・レティ。かつての人気作家で現在は少々認知症気味のチャーミアン(八五歳)は死の警告を悠然と受け流し、その夫ゴドフリー(八七歳)は若き日の数々の不倫を妻に知られるのを恐れながら、新しい家政婦(七三歳)の脚が気になる模様。社会学者のアレック(七九歳)は彼らの反応を観察して老年研究のデータ集めに余念がない。謎の電話が老人たちの間に投じた波紋と、登場人物ほぼ全員七〇歳以上の入り組んだ人間模様を、辛辣なユーモアをまじえて描き、「この五十年間でもっとも偉大なイギリス小説のひとつ」(ジュリアン・バーンズ)と評される傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 全員が70代以上の老人小説。
    イギリスミドルアッパークラスの人々(老人達)のばたばたし、ちっとも達観した様子がなく、嫉妬や疑念や過去の不倫暴露などに怯える、とても人間臭い小説。
    ミュリエルパークは執筆時四十代。なぜ老人小説を?と思う。59年に出版された本作だが、50年代イギリスは既に高齢化社会が始まっており、これにどう向き合っていくかが、社会問題でもあったらしい。

    死を忘れるな(メメント・モリ)について、西洋思想ではより死について身近に、若い時から徹底的に考えるし、私達東洋よりも、身近な思考の材料であるという。
    だから、この意味不明な連絡について、単純な脅し以外のもっと意味を持ったものとして、腑に落ちるのだろうが、私自身はこの文章に、この意味以上を受け止めることが難しかった。

  • 【きっかけ】
    猫町倶楽部8月駒井会の課題図書。

    【感想】
    老人のもとに「死の運命を忘れるな」という謎の電話がかかってくる。このつかみはおもしろい。ただ結局犯人は誰なのか、この謎の電話の真相は明らかにならずに話は終わった。この小説は、謎解きミステリー、サスペンスとして読むのではなく、老人たちの会話ややりとりを楽しむものみたいだ。
    ゴドフリーが、オリーブのもとに行くところが印象的だった。年老いても男はそんなものなのかと感じた。

    【読書会を終えての感想】
    私のグループは6人。男性3人、女性3人。
    話題になったこと
    ・登場人物の中で誰が好きか→アレック、チャーミアン、ペディグルーなど。
    ・印象的な場面
    ・謎の電話の犯人は?→老人たちの幻聴説
    ・読み進めるのがつらかった……。(特に前半)

    全体会での質問
    ・最後に「(ジーン・テイラーは)最後まで忘れてはならない4つのことの第1―死―の思いにひたっている」とあるが、残りの3つは? なぜ最初が死? →『徒然草』155段の「死ぬことは前や後ろから迫っている」という内容を連想した。

  • 文学

  • 平均年齢が過去最高レベルに高くて主要人物がみな7-80才だ。でも作家がこれを書いた時はまだ40代だったのか。
    冒頭は、資産家の老婦人に謎の相手からのいたずら電話で一言「Remember you must die」、現代のミステリー小説でありそうな設定だが、本書は不思議な展開を見せる。犯人探しではないのだ。「死神からの声じゃない」と言われながら、老人達はお金や嫉妬や今や昔の恋にあけくれ、「死ぬことを忘れて」いるようだ。最後の”手仕舞いの仕方”も容赦ない。風刺とユーモアが効いている。

  • この小説、面白かったなあ~

    出てくる人のほとんどが80歳代の老人。

    バーバラ・ピムの「秋の四重奏」も
    登場人物がかなり年上の方々ばかりのお話だったけれど、
    とても楽しかったから、
    こちらも期待してたけれど、

    でも今みてみるとピムさんの方の小説は
    定年間近の人たちだから、
    この小説の方がずっとずっとお兄さんお姉さんの
    お話ね。
    ピムさんの方の小説が「登場人物が老人」と
    言い難くなるくらいだ!

    だって、57歳の人が出てきたら若いな…と
    思ってしまったから!

    ストーリーは
    「死ぬ運命を忘れるな」と言う電話が
    色々な人にかかってくるようになる。

    ある人は犯人に目星をつけ、
    「そういういたずらを続けると遺言書を書き換え
    財産を渡さないようにする」と言う事を
    におわす手紙を書いたり、

    すっかり気落ちしたり、悠然と受け流したり…

    自分では気が合わない、嫌いと思っているある人、
    それも隠さずに表現して生きているつもりなのに、
    「あの人と仲良いよね」みたいなことを
    身近な男の人に言われて
    「え?」っとなること、女の人なら小さいときから
    大人になっても何度もあると思うけれど、

    そういうシーンがこの本でも出てきて、
    「こういう事あるなあ!」とあらためて感激してしまった!

    男の人ってみているところが何か違うんだね。

    また、「隠したい、秘密にしたい」と言う事は
    悪い誰かにみつけられると弱点になって脅かされる、
    と言う事も良く分かった!
    本人が「別に、へっちゃら、誰に言ってもいいよ!」って
    乗り越えられれば、一気になんでもなくなっちゃうのね。
    とても勉強になった!

    物語の最後はもがいてもなにしても
    清く生きても、悪だくみしても
    意地悪でも親切でも、
    結局、そうなのよね…と。

    すごーく嫌な、悪だくみする女の人が出てくるんだけど、
    もう、本当に「神様!、この人に罰を与えて!」って
    お祈りしたくなるくらいだけど、
    その人にとっても一筋縄ではいかない展開が
    成程、面白かった!

    いかにもイギリスのユーモア小説って言う雰囲気。

    最後はちょっとハラハラの展開に読むのをやめることが出来ず、
    「どうなるのか、どうなるのか」と
    睡眠時間を削って読み終えた!

  • 見事にジジババばかりが元気〜(≧∇≦)
    笙野頼子でこんな話、なかったっけか。

    歳を取れば、こーんなに、なりふり構わずやりたい放題に好きなだけ底意地悪くなれるんだったら、長生きするのも良いもんかも。
    ん⁇ 今と変わってないか⁈

    バーステッド婦長、「カッコー…」のラチェッド婦長くらい頑張ってくれるかと期待してたら、あえなく敗退だし。

  •  79歳になるレティ・コルストンの家に、近ごろたびたび掛かってくる電話がある。その電話はいつも『死の運命を忘れるな(リメンバー・ユー・マスト・ダイ)』とだけ言い残して切れる。不気味に思った彼女は、兄や古い友人たちへと相談するのだが、今度は彼らにも次々に同様の電話がかかってきて……。
     登場人物はあらかた70歳以上だ。レティの兄ゴドフリー・コルストンは87歳。才能豊かな妻に対する根強いコンプレックスを隠し持っている。その妻チャーミアン・コルストンは85歳。かつては機知と美貌に恵まれた小説家として有名だったが、現在は論理や記憶にあやしいところが出始めている。彼らとは旧知の仲である79歳のアレック・ウォーナーは、現在「老年」をテーマにした研究に没頭していて、コルストン夫妻をはじめとしてあらゆる老人たちが彼の観察対象になっている。のちに物語のカギを握っていることが明らかになるジーン・テイラーは82歳。長年チャーミアンの話し相手兼メイドをつとめていた彼女は、現在、公立老人ホームでユニークで騒がしい仲間たちに囲まれている。体は弱っているが頭はしっかりしていて、ときどきレティやアレックが相談に訪れる。
     物語が動き始めるのは、ミセス・ペティグルー(73歳だが60歳くらいに見える)がチャーミアンの世話係としてコルストン家にやってきてから。長年勤めた女主人から遺産を相続するはずだったのに当てが外れ、代わりにコルストン家の財産を狙って何かをかぎ回っている気配だ。いったい、誰に、どんな弱みが? 怪電話事件の広がりとともに、一癖も二癖もある老人たちの謎多き過去(その多くは恋愛事件)が掘り起こされていくところが、本書の読みどころである。
     結局、怪電話の主とはいったい誰なのか?「死神そのものだと思えてなりませんの」と、登場人物中一番の切れ者であるジーン・テイラーは考えている。「死を忘れるな(メメント・モリ)」とは、キリスト教において、現世の栄華のむなしさを思い、今ここで何を大切にすべきかを考えよという意味で使われる。スパークは個性豊かな老人たちに、死神からの共通のメッセージをぶつけることで、さまざまに興味深い反応を引き出した。

  • 書籍についてこういった公開の場に書くと、身近なところからクレームが入るので、読後記はこちらに書きました。

    http://www.rockfield.net/wordpress/?p=5864

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著者プロフィール

1918年、エディンバラ生まれ。長篇に『ブロディ先生の青春』、ブッカー賞候補の本書など。英国文学賞ほか受賞。大英帝国勲章を受章。2006年、逝去。タイムズ紙の「戦後、偉大な英国人作家50人」に選出。

「2016年 『あなたの自伝、お書きします』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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