美術品はなぜ盗まれるのか: ターナーを取り戻した学芸員の静かな闘い

  • 白水社
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560082713

作品紹介・あらすじ

迷走する捜査、姿の見えない犯人、錯綜する情報-2点の傑作がテートに帰還するまでの8年半、それは希望と絶望の繰り返しだった。

感想・レビュー・書評

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  •  自分の頭には、どれだけ強く怪盗ルパンのイメージが刷りこまれているのだろう★ 美術品の盗難事件と聞いただけで自動的に、芸術をこよなく愛するコレクターが思い浮かんでしまうのだけれども……。大抵の事件の実態は全く違っていて、美術品愛好家の犯罪は限りなく少ないようです。

     本書は、フランクフルト美術館から盗まれた絵画2点の奪還劇! 関係者の地道な努力や調査の協力体制、業界裏事情までをくわしく綴った事件簿です。こう書くだけで関心をそそりますよね。もちろん、中身は特ダネです★
     読みやすさには期待できません。翻訳文特有の不自然さのせいですが、それにしても、こんなにカチコチな訳はイマドキ珍しいですよ……(失礼!)。
     しかし、盗まれたものを取り戻すためには、相当な忍耐を強いられるものらしいのです。交渉は難航し、関係者だってじれてくる。この苦労を読みにくい文章から感じ取る体験が、だんだん面白くなってきたのでした。

     それにしても、美術品はなぜ盗まれるのかーー?
     考えてみました。それは、美術品の価値が、場所を移動したときに変動するからではないでしょうか?
     美術館の奥まった展示室に飾られているときも、作品に「動かぬ価値」はあるでしょう。だけれども、競売・転売・盗難・返還も含めて、場を移した際にメリットが生まれるのではないだろうか!? と考えさせられました。
     美術を鑑賞する人にとっては、その作品本来の魅力こそが「価値」なのですが、違う見方があるから、持っていかれるわけですよね。美術品は、受け渡しによって価値が変わる。だから交渉が行われる――

     この本からはそういう現実を学んだのでしたが、それでもニュースで美術品にまつわる事件を聞くとき、どうしたってルパンに培われた好奇心をベースに意識することが止められません★ そんな潜在意識のしつこさを知ったことでも、興味深い読書体験となりました。

  • 1994年7月、フランクフルトのシルン美術館で開催中の展覧会会場から、ターナーの代表作2点が盗まれた。
    作品を取り戻すため、情報提供者と交渉が続けられ、2000年と2002年にようやく取り戻すことに成功する。
    奪還への交渉のドキュメンタリーが前半。後半は、高額美術品の盗難事件の過去の事例や、それを防ぐための課題などについて書かれている。
    作者は、シルン美術館へターナーを貸し出していたテート・ギャラリーの学芸員で、実際に交渉を取り仕切っていただけあって、美術館の事情がよくわかる。

    作品が有名であればあるほど正規の方法での売買は不可能になるため、美術品は裏社会の<通貨>や<担保>となり、表社会には出てこなくなる。裏社会とのパイプを持つ情報提供者への「情報提供料(謝礼)」として、多額の金が支払われている。しかし、結局はその金は裏社会へ流れていくことは明白で、これが「美術品が盗まれる」目的になっている。

    映画や小説などで描かれるのは、華麗な盗みの技術や、スリリングな奪還だったりするのだけれど、実際には2級の泥棒があっけなく作品を盗み、その泥棒から2次的、3次的に作品を手に入れた裏組織との交渉によって取り戻すという地味な世界。金額が大きいだけに、盗難や奪還の報道は華々しいけれど、現実はそうでもないのだ。

  • 盗まれたターナーの絵を8年がかりで取り戻した学芸員の思い出

  • 最近、美術三昧だ!

  • 芸術品盗難は、その社会的美術的価値の喪失だけでなく、裏社会に流れる資金や組織犯罪、闇の流通ルート、国際問題など、多くの問題を孕んでいる。

  • こう言っては何だが、「面白いことをつまらなく」書いた種類の本だという気がしてならない。
    著者は貴重かつ高価な作品について権利を有し、かつそれをみすみす盗まれてしまった責任は負わないという絶妙の立場で、もと亡命者の囮捜査のプロ、謎の情報提供者、交渉を二転三転させる弁護士といったくせ者たちと関わり合う。そんな前半部分はそれなりに迫真的だが、しかしそれは現実の「うんざり」度合いにおいて迫真的なのであって、「こちら側」の硬直した官僚主義や「あちら側」のいいかげんさには、ほとほと愛想も尽き果てる。おまけに、天文学的な値のついた絵画を裏社会から無事に取り戻すまでには微妙な局面も多々あって、やむをえないことと理解はできるのだが、「書けないこと」の多さから来る歯切れの悪さは否めない。せめて芸術へのあふれんばかりの情熱でもあればいいのだが…美術館関係者はともかく、実際に捜査・追跡を行なうのはそちらのプロが大半であって、これは著者も指摘しているが絵を取り戻すのか、犯人を捕まえるのか、チームの究極の目的がいまいち揃っていないところがまた、もどかしい。
    後半部分は美術品盗難をめぐる諸考察で、いよいよ観念的・専門的になる。ついでに言えば、美術品についての本なのに、図版がごく少ないのはどうかと思う。「バチェッリ夫人」「オベリスクのある風景」と言われて、すぐ絵面の浮かぶ人がどれだけいるだろうか。全体に、素人や門外漢に向けた本ではない——著者は文筆に関してそれこそ素人であり、一般向けに平易に書ける人ではない、と感じた。

    2015/1/1〜1/3読了

  • 1994年に発生した、ターナーの絵画の盗難事件と奪還までのドキュメンタリー+美術品が盗まれる、ということに対する精緻な分析。
    前半はドキュメンタリー、といっても著者はプロ作家ではないし、事件自体もドラマではないし、大立ち回りがあるわけではない。でも非常に大きなストレス、日常の業務や生活がありながらも、長期間に渡っての活動、奪還に向けての活動などなど、こんな裏側が!という内容。
    後半は過去の美術品の盗難事件や、その目的、対策などをまとめる。美術品に関わるところ以外の犯罪との関係なども改めて身につまされるものだが、公共財である美術品は美術館から盗まれるのではなく、私たちから盗まれるのだ、というメッセージが印象的。

  • 5/2/2014読了 セブシャングリラにて

  • 小説の中の盗難事件は、読む事があっても、実際の盗難事件を読む事はないのでこういう事が起こるのかと思った。実際に交渉にあたったのは、別の人だったので面白味に欠けた。でも、現実は、さほど劇的ではないのだろう。

  • 貸出先でターナーの絵画2点を盗まれた事件の貸出元の学芸員が本書の著者である。前半は、盗まれてから、金銭で取り戻すまでの8年半のノンフィクション。後半は、美術品盗難に関する考察。もちろん、前半の方が興味深い。美術品に関しては、1種の身代金を払って取り戻すのがスタンダードになっているようだ。犯罪者にとっては、誘拐よりも美味しい仕事になっているのではないか。日本では、大きな美術品盗難事件についてあまり聞かないが、島国であることが防壁になっているのか。

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