なにが? 永遠が (世界の迷路)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560084076

作品紹介・あらすじ

北米メイン州の島で半世紀近く過ごし、パリの文壇とは無縁に生きた孤高の作家ユルスナール。「現代に迷い込んだ古典作家」とも評される彼女自身について、われわれは決して多くを知っているとはいえない。
 本書は、じつに二十年という歳月を費やして、はるか両親の先祖にまで遡りながら〈私〉という存在の謎に迫った、まさに著者のライフワークと呼ぶべき自伝的三部作〈世界の迷路〉の最終巻である。前二作では、感傷を排した透徹した筆により、歴史小説さながらに〈母〉の物語、〈父〉の物語を描いたユルスナールが、本書ではようやく〈私〉の記憶へと降り立つ。しかし、相変わらず自らを語る著者の態度は慎ましい。自身について決して直截に語ることのなかったユルスナールは、遺作となった本書においてもまた、最愛の父を、そして父が愛情を傾けたひとを語る「交感の魔術」によって、〈私〉を逆照射する。また語られるのは青春期までであるが、さりげなく挿入されたエピソードには、小説や著者自身に関する重要な鍵が豊富に隠されている。訳者堀江敏幸の「交感の魔術」にも耽溺されたい。

感想・レビュー・書評

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  • 文学

  • 2015-8-21

  • 第二巻が出た時点で、第三巻(本書)は2012年刊行予定だった。実際でたのは2015年8月だったわけで、いくらなんでもかかりすぎだろう。
    亡くなっているとはいえユルスナールも気の毒だ。

  • ユルスナールの父方及び母方の先祖をたどる前二巻に対し、本書では著者自身が生まれて以降の時代が主に取り扱われるが、幼い少女としての著者自身に焦点が当てられることは少なく、父、父の一族、母の親友だった女性とその夫などが主な登場人物として前景にたちあらわれる。もちろん、読者は彼らを見つめる幼い著者の視線を強く感じるのだが。何かの事情で著者が落手した手紙、誰かの証言、自分自身の記憶などを手掛かりに、欠落を参照しうる類似の事例から補う著者の手つきは引き続き精妙きわまりないが、第一次世界大戦に至る本書では、繊細な補綴の間から徐々に物量の暴力が吹き出し、人間たちを覆い隠すに至る。著者自身が難民となった西部戦線、若さと英雄的営為が後背に退いた混沌の「とどめの一撃」の舞台の描かれ方は『黒の過程』を連想させるとともに、きわめて今日的でもある。

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著者プロフィール

1903年ベルギーのブリュッセルで、フランス貴族の末裔である父とベルギー名門出身の母とのあいだに生まれる。本名マルグリット・ド・クレイヤンクール。生後まもなく母を失い、博識な父の指導のもと、もっぱら個人教授によって深い古典の素養を身につける。1939年、第二次世界大戦を機にアメリカに渡る。51年にフランスで発表した『ハドリアヌス帝の回想』で、内外の批評家の絶賛をうけ国際的な名声を得た。68年、『黒の過程』でフェミナ賞受賞。80年、女性初のアカデミー・フランセーズ会員となる。母・父・私をめぐる自伝的三部作〈世界の迷路〉――『追悼のしおり』(1974)、『北の古文書』(1977)、『何が? 永遠が』(1988)――は、著者のライフワークとなった。主な著書は他に『東方綺譚』(1938)、『三島あるいは空虚のビジョン』(1981)など。87年、アメリカ・メイン州のマウント・デザート島にて死去。

「2017年 『アレクシス あるいは空しい戦いについて/とどめの一撃』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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