火:散文詩風短篇集

  • 白水社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560093504

作品紹介・あらすじ

(書物復権)神話や古代史の人物を主人公とする9篇の物語。古代ギリシアへの嗜好、古代的に美化された同性愛への偏愛などが瑞々しいかたちで読みとれる。

感想・レビュー・書評

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  • マルグリット・ユルスナール『火』|笛地静恵|note
    https://note.com/fueti_shizue/n/n9aa6d9370fd1

    『火 散文詩風短篇集(マルグリット・ユルスナール 著 / 多田智満子 訳)』 投票ページ | 復刊ドットコム
    https://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=67001

    火 - 白水社
    https://www.hakusuisha.co.jp/book/b624956.html

  • 古代ギリシャの古典や聖書を翻案し、アフォリズム風の詩と物語が途切れなく綴られていく短篇集。


    まず、カバーの折り返しに抜粋された「この本が決して読まれぬことを望む。私たちの間には、愛よりももっとよいもの、共犯性がある」に撃ち抜かれた。共犯性。この考え方を忘れかけていた。何十年も生き残った言葉が突然、極東のアイドルオタクの心のやわらかい場所にぶっ刺さるということがあるのだ。ユルスナールは喜ばないだろうけども(笑)。
    ユルスナールが選んだのは、パイドラー、アキレウス、パトロクロス、アンティゴネー、レナ、マグダラのマリア、パイドーン、クリュタイムネーストラー、サッポーの九人。アキレウスとパトロクロスは対になっていて、マグダラのマリア以降の四人は語りが一人称に切り替わる。現代のサーカス芸人に置き換えられたサッポーは明らかに作者の精神的自画像であり、作品のテンションも一番高い。このクライマックスのために構成された配列なのだと思う。
    古代を題材にしたのは、確かにあけっぴろげな同性愛とその勝利を描くためなのかもしれないけど、そこに対比されるのは(訳者あとがきで言われている)異性愛の敗北ではなく、女性の物語の語り直しではないだろうか。最初に置かれたパイドラーの章からして、彼女が近親相姦の罪の象徴にされてきたことに着目しているし、男たちの愛の前に惨めに敗北するレナの章も、ホモソーシャルから疎外され奴婢のような扱いを受ける女性の呪詛を書いていてフェミニズム的に感じる。
    私はユルスナールが女性同性愛者だと知っているのでバイアスのかかった読みだとは思うが、全篇を通して低い声で語りかけるこの語り手は女性の体をもち、女性を性的に愛するが、自分たちの体を愛して認めてやることができないという、内面化したミソジニーとの熾烈な格闘を繰り広げている。アキレウスとパトロクロスを描きだしながら、男に生まれて男を愛する自分であったらどれだけよかったか!と血を吐いているような言葉の連なりにシンパシーを感じ、男性同性愛作品を好んで読む私にも同じように昏いところがあるのだろう。塚本邦雄作品と対で考えると面白いかもと思った。
    そして感想を書く段になって初めて気づいたのだが、私は〈ユルスナール・コレクション〉ですでに一回この作品を読んでいたらしい。一切記憶になかったが(怖い)、好きな文章を溜めておくノートを見返したら今回刺さったところと見事にズレていて、人間って変わるんだなぁと思いました。

  • マルグリット・ユルスナール『火 散文詩風短篇集』(多田智満子訳,白水社 新装復刊2023年5月発行)の感想。
    パイドラー、アキレウス、パトロクロス、アンティゴネー、レナ、マグダラのマリア、パイドーン、クリュタイムネーストラー、サッポーという神話伝説を再構築した9つの短篇。文章は散文詩風。緒言に「或る内的危機のこの報告書」とあるように、著者自身を神話伝説上の人物に仮託して綴られた物語と読める。各章終りの箴言のような短い文がその繋がりを感じさせる。
    頁の間に研ぎ澄まされた真実の言葉が火箭よりもするどく魂を射る感あり快い。ときどきは日常の欺瞞から逃れこのような書物を開き一息つきたいものだ。
    スキャンした画像をコピーしたような紙面のあまり美しくないのが残念だが死ぬまで所持していたいと思わせる好ましい本。

  • 短編集9編
    ギリシャ神話などの登場人物を題材に現代風の味付けをして、愛についての物語を奏でる。アキレウスやサッポーの同性への愛やマグダラのマリアに描かれた神への愛、成就しない愛の過剰と欠乏、混ざり合う生と死の万華鏡のような味わいの風刺詩。

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著者プロフィール

1903年ベルギーのブリュッセルで、フランス貴族の末裔である父とベルギー名門出身の母とのあいだに生まれる。本名マルグリット・ド・クレイヤンクール。生後まもなく母を失い、博識な父の指導のもと、もっぱら個人教授によって深い古典の素養を身につける。1939年、第二次世界大戦を機にアメリカに渡る。51年にフランスで発表した『ハドリアヌス帝の回想』で、内外の批評家の絶賛をうけ国際的な名声を得た。68年、『黒の過程』でフェミナ賞受賞。80年、女性初のアカデミー・フランセーズ会員となる。母・父・私をめぐる自伝的三部作〈世界の迷路〉――『追悼のしおり』(1974)、『北の古文書』(1977)、『何が? 永遠が』(1988)――は、著者のライフワークとなった。主な著書は他に『東方綺譚』(1938)、『三島あるいは空虚のビジョン』(1981)など。87年、アメリカ・メイン州のマウント・デザート島にて死去。

「2017年 『アレクシス あるいは空しい戦いについて/とどめの一撃』 で使われていた紹介文から引用しています。」

マルグリット・ユルスナールの作品

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