- Amazon.co.jp ・本 (196ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560094990
作品紹介・あらすじ
「彼」を探して彷徨い歩く女の心象風景を超現実的な手法で描いた表題作ほか、夢の不思議さを綴る夜の語り手、残雪の初期短篇を集成。
感想・レビュー・書評
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噛み合わない会話
あいまいな説明
突然の場面転換
あぁ、ぐちゃぐちゃの茶色の中に灰色が紛れ込み、埃となってまぶたを擦る……もうだめだ〜目が開けられない。
しかし、
それもやがて(「天国の会話」を過ぎた頃から)、
当たり前にあるように何も考えずに、文字を呑んで行く。
子どもの頃読んだ、つげ義春のマンガのような、読みたくないのに読みたくなる、不思議さ……。
さあ、読んだから現世に戻ろうかなぁ。
(巻末に訳者による「残雪一夜の語り手」という文章がある。まるで文学部の研究論文のようではあるが、なんとなくいま自分が読んでいたものが何であったのか、朧げにわかる……かもしれない、自信はない)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『黄泥街』がとても気に入った、残雪のこちらは短編集。テイストとしては『黄泥街』と同じく、ずっと悪夢。なんだかよくわからない状況の中で不可解なことがどんどん起こるけれど当事者たちはそれを不思議とは思わず当たり前と思っているあの夢の中の感じ、そして会話はことごとく一方通行で、一緒にいても全員あさっての方向をむいている。自分としか対話していないのだろう。それなのになぜかずっと読んでいたい、この夢の場にいたいと思わされる不思議。
いちばん面白かったのは「刺繍靴および袁西ばあさんの煩悩」なぜか夜ごと、部屋にやってきて嫌がらせをする袁西ばあさん、しまいには自分の半生を語りはじめるのだけれど、これが不可解ながら妙に面白く、迷惑してたはずがだんだん続きが楽しみになってきてしまう。しかしこれを作者は、というか袁西ばあさんは、最後まで聞かせてくれない。これはある意味最大の嫌がらせだ。
「毒蛇を飼う者」は収録作の中ではいちばんわかりやすかったように思う。語り手が当事者ではなく、蛇に憑りつかれているかのような少年の話を客観的に語っているからだろう。短編の他に翻訳者の解説も収録されており、なぜ残雪の文章が夢の中のような印象を与えるのかが分析されていて親切。『黄泥街』はとにかく不潔だったけど、こちらの短編集はそれはないので、読み易くておすすめ。
※収録
阿梅、ある太陽の日の愁い/霧/雄牛/カッコウが鳴くあの一瞬/曠野の中/刺繍靴および袁西ばあさんの煩悩/天国の対話/素性の知れないふたり/毒蛇を飼う者/残雪―夜の語り手「曠野の中」を読む(近藤直子) -
味わったことのない不穏さ。予測が不可能で解釈が意味をなさない、魅惑的な文章です。
ストーリーからの逸脱、起承転結や伏線やその回収もなく、それゆえに純粋な文章でのみ世界観が紡がれ、それゆえに世界観は徹底されるという、不思議な現象が起きていました。
巻末の解説も素晴らしく、「解釈したい」欲望を捨てきれない読者にも優しいです。 -
感想はこちらに書きました。
https://www.yoiyoru.org/entry/2020/05/16/000000 -
残雪の短編集が『黄泥街』に続いてUブックス化。
前作にも感じたが、この特異さは何処から来るのだろう。読んでいると、何か真綿の中にいるような、奇妙な感じがある。