砂の文明・石の文明・泥の文明 (PHP新書 272)

著者 :
  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569629780

作品紹介・あらすじ

世界はいま「文明の衝突」の世紀を迎えたという。だが、「アメリカ中心の民主主義」V.S.「野蛮なテロ集団」という構図だけで、深層は読み解けない。本書では、民族と風土のあり様を三つのカテゴリーに分類。「砂の文明」としてのイスラム、「石の文明」の欧米、「泥の文明」のアジア。そして各々の本質が"ネットワークする力""外に進出する力""内に蓄積する力"であることを考察。著者は、「泥の文明」が生んだアジア的思考に、西洋文明を超える力が秘められている、と語る。世界を歩き、縦横に思索を広げた独創的文明論。

感想・レビュー・書評

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  • 普段何気なく、それがノーマル・普通・標準だと考えていることが、実は自分たちが勝手にそう考えているだけで、自分の周りのごく狭いコミュニティもしくは、我々が暮らしている日本国内でしか通用しない考え方である事は多々あるだろう。この時期(中国では春節が始まり、コロナの終息・共存?と共に)海外から多くの旅行客が日本に押し寄せ、各地の観光施設や日本の街を訪れている。彼らは自分たちの国の日常とは異なる風景、考え方、文化に刺激を求め、非日常体験を日本でするためにやってくる。特に欧米諸国からの旅行客はただでさえ顔の見た目も所狭しと家が並ぶ街並みも自分たちの国とは大きく異なるだろうから、大いに感じ体験から得ることは多いだろう。先日街をぶらぶらと歩いていると、電信柱の前にしゃがみ込み、あおりながら柱と電線を撮影している外国人がいたが、電柱・電信柱とそこから何本も走る太い線が空を埋め尽くすような風景は余程珍しく、刺激を受けたに違いない。
    本書は世界を「石」「土」「砂」の文明に分類し、それぞれの土地柄に合わせた社会の成り立ちが、現代社会の中に大きく生きており依然として異なる社会や人間同士の対立などに影響を及ぼしている点をわかりやすく教えてくれる。前にサミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」を読んで受けた感覚よりも更に身近でわかりやすく、またその考え方との違いから新たな考察が出来るという点でかなり面白い。私も若い頃は東南アジアをはじめとして、ヨーロッパ、アメリカなど海外旅行を(貧乏旅行とまでは言わないが、かなり安価に)楽しんだが、確かに違う。人の考え方や接し方、気候、街並み、文化の異質に驚かされたものだが、何より感じるのは足から伝わる地面の感触だ。雨が多い地域や乾燥した空気、要するに気候がそれらを長年形作ってきたのは、地理を勉強すれば容易に理解できるが、実際にその空気を肌で感じ匂いを嗅いで歩いたら、成る程そういう場所に住む人々は成る可くしてその様な考え方に至るのかと、改めて復習できた様な内容だった。
    現在もなお世界情勢は混沌としておりテレビをつければ紛争が映し出され、貧富の格差や異常気象による地球環境の危機的な状況を映像からある程度は理解できる。その根底にあるのは結局そこに住み人々の考え方で、行動に現れた結果がテレビ映像だ。この先更に自然破壊が進んで、これまでの砂の社会は拡大するに違いない。人類が産業革命以降、劇的に生活スタイルを変えて人が暮らしが変わった様に、地球温暖化などは同じ様に「人の在り方」を変えていくだろう。その際も本書の内容を頭の片隅に置いておくと良いだろう。

  •  そういうことかと、世界のニュースを見る目が変わった。

  • 2003年刊行。著者は麗澤大学国際経済学部教授。◆風土から文明・文化を論じるのは和辻哲郎を想起せざるを得ないが、本書は、その発想を世界誌・世界史的規模に拡張し、西欧(西岸海洋性気候)=石の文明、中東他砂漠地帯(ステップ)=砂の文明、アジア(熱帯雨林あるいは温暖湿潤気候?)=泥の文明と分類し、巨視的に解説していく。◇批判も可能なんだろうけど、こういう切り口もありだなと思わせるだけで成功と言って良いんじゃないだろうか。

  • 著者は、民族と風土のありかたを、「砂の文明」としてのイスラム、「石の文明」の欧米、そして「泥の文明」のアジアの三つに分類し、それぞれの本質を「ネットワークする力」「外に進出する力」「内に蓄積する力」と規定して、それぞれの特徴について考察を展開しています。

    著者は、ハンチントンの「文明の衝突」という発想を批判しています。民族がアイデンティティを見いだすのは「文明」ではなく「文化」であり、文明は普遍性をもつがゆえに、文明と民族が一体だということはありえないと著者はいいます。そうした「ハンチントンの罠」を乗り越え、欧米の「外に進出する力」の文明に対して、日本をはじめとする泥の文明がもつ「内に蓄積する力」の現代的意義を示すことがめざされています。

    和辻哲郎の『風土』で、モンスーン、沙漠、牧場という三つの類型が立てられていることは有名ですが、本書の議論もある意味ではそれを踏まえているといえそうです。ただし、民族のアイデンティティの基礎となるのは文明ではなく文化だとする発想に基づいており、西洋文明の行き詰まりを突破するヒントを東洋文明の英知に求めるという発想がしばしば陥りがちな文化的ナショナリズムを避けることにある程度成功しているように思います。

  • 地質が文明を形作っている、という視点。おもしろい。すべての人間の運命と歴史は、地質や気象が握っているのかもしれないな。

  • 砂の文明とはイスラム諸国、石は欧米、泥はアジアという仕切り。些かこじつけな感もあるが、巧いシンボライズだ。それぞれの文明なり文化なりを、敢えてこうステレオタイプ化すると、国際社会の力学や均衡・不均衡が単純化されて良くわかる。一方で、文化や文明以前の、人間本来の土着性としてみると、砂・石・泥は、それぞれ自然への従順・征服・共生とも読みとれた。

  • 定住牧畜のヨーロッパ、遊牧の北アフリカ・中東、農業のアジアをそれぞれ、石の文明、砂の文明、泥の文明と表現し、外に進出する力、ネットワークする力、内に蓄積する力があると論じる。気候風土による生活・文化の相違から価値観や世界観の違いが生まれ、それによって歴史的にも衝突を繰り返してきたとの考察はおもしろい。文明と文化の違いや、ハンチントンの文明論を批判している部分も、説得力があって読み応えがあった。

    著者は、「外に進出する力」としての文明が民主的な理念のもとに自由競争を必然化し、勝者が世界を支配するというストラクチャーを形作ったという。その上で、「共生する」というアジア的な理念が、これからの新しい文明の中に活かされていくべきであると主張している。

    文明と文化の違い
    ・文化とは、民族の生きるかたち。それぞれの民族が持っている伝統、風習。文明とは普遍的なもので使いやすいもの。ひとつの民族や地域に固定することなく、グローバルに浸透してゆく。
    ・アメリカ人は敵を設定し、自分たちのアイデンティティを確立しなければ、内部の同一性・結束性が保てないという病理がある(ハンチントンの罠)

    石の文明
    ・キリスト教に赦す神としてのマリアを信仰しているのは、自然が豊饒なラテン・ヨーロッパのカトリックの国々。北欧や西欧のプロテスタントの国々はマリア信仰はない。カトリックでは、労働は現在をもつ人間に与えられた苦役であり、富を天国に積むことを教えられる。プロテスタントでは、労働は人間の喜びであり、富や利潤は労働の正当な対価として人間の手に入る。
    ・牧畜には広大な牧草地が必要。生活の水準をあげるために、新しい土地を外に拡大する動きを生む。これが、アメリカ、アフリカ、アジアへの植民地獲得競争を激化させた。
    ・スペイン・ボルトがるが主導した大航海時代は、国王が王朝の富を拡大し、法王に献ずる「富を天国に積む」もの。17世紀以降の西欧諸国が主導した国民国家がみずからテリトリーゲームを行った。
    ・技術革新は、外に出ていくための交通、輸送、通信機関、兵器、法律といった分野に発達し、攻撃に強い。
    ・自然を変えていかないと人間がたくさん住めず、豊かにならないため、自然の原理を究明する科学が発達した。

    砂の文明
    ・砂漠の民にとっての財産は土地ではなく、みなとや都市での交易権とそのルート上のオアシスや井戸。

    泥の文明
    ・アジアの農耕社会は、隣の民族・村落と山や川をへだてて共存することを強いられているため、イノベーションは品種改良、品質管理、工程上の改善・改良といったかたちをとらざるをえない。貯蓄、高い教育水準、村の繁栄のための相互扶助的なシステムの分野で発達し、守りに強い。

    2013/1/12、岩波現代文庫版の終章を読んだ。イスラム社会のネットワークする力は、彼らの生活形態や歴史を考えれば明らかに的を得た表現。石の文明であるヨーロッパを外に向かう力と表現するのは、アジア・アフリカ各国を植民地化した歴史や現在のアメリカの覇権主義、グローバリズムを見ればその通りだとは思う。しかし、歴史をさかのぼれば、大航海時代を迎える原動力は、イスラム社会に交易を支配されていたアジアの香辛料を直接手に入れることであり、支配や制服、ましてや新大陸を「発見」することを目的とはしていなかったと思われる。それがいつ、どのような背景で支配・征服するに至ったのか、その背景に風土に基づいた「力」があるのかは課題として残る。また、泥の文明を「内に蓄積する力」と表現しているのも、根拠がわかりにくい。日本でも次男坊以下には土地が相続されなかっただろうし、信長がそうした次男坊以下のあぶれた男たちで兵隊を組織していたこともある。どこでも人口が増えれば土地が足りなくなるのは同じことだ。ただ単に、泥が石に比べて生産力が高いことに、その理由を求めているのかもしれない。

  • [ 内容 ]
    世界はいま「文明の衝突」の世紀を迎えたという。
    だが、「アメリカ中心の民主主義」V.S.「野蛮なテロ集団」という構図だけで、深層は読み解けない。
    本書では、民族と風土のあり様を三つのカテゴリーに分類。
    「砂の文明」としてのイスラム、「石の文明」の欧米、「泥の文明」のアジア。
    そして各々の本質が“ネットワークする力”“外に進出する力”“内に蓄積する力”であることを考察。
    著者は、「泥の文明」が生んだアジア的思考に、西洋文明を超える力が秘められている、と語る。
    世界を歩き、縦横に思索を広げた独創的文明論。

    [ 目次 ]
    序章 砂の風土との戦い
    第1章 文化と文明の違い
    第2章 石の文明―外に進出する力
    第3章 砂の文明―ネットワークする力
    第4章 泥の文明―内に蓄積する力
    第5章 「泥の文明」の中の日本
    終章 文明としてのインド再発見

    [ POP ]


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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 微妙な本だ。正直に書いておくと、最初から最後まで違和感を覚えてならなかった。多分、企画ミスなのだろう。とてもじゃないが文明論的考察とは言い難い。文明論的教養を盛り込んだエッセイである。

    http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20110122/p6

  • 世界の文明をその足元に注目して比較している面白い本です。
     地面が「石」であるヨーロッパは農業生産力が弱いので「外に進出」して食料を得、「砂」である砂漠(イスラム)では農業がほとんどできないので「ネットワークして」交換して食料を得、「泥」の文明であるアジアでは農業生産力が非常に高いので「内に蓄積」することで食料を確保してきたと考察しています。
     非常にわかりやすい論点で、お勧めなんですが、原因→結論間の考察が少なく多少強引な気がします。まあ、200ページそこらの新書でこの価格ということを考慮して、☆5つ。
     欲を言えば、泥の文明(=アジア)の「内に蓄積する力」が一番優れているといいたい雰囲気があるのが残念なところ。

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著者プロフィール

松本健一(まつもと・けんいち)
1946年群馬県生まれ。東京大学経済学部卒業。
現在、麗澤大学教授。評論・評伝・小説など多方面で活躍中。
2011年3月11日におきた東日本大震災のときの内閣官房参与として、
『復興ビジョン(案)』を菅直人首相(当時)に提出。
著書に『白旗伝説』『北一輝論』(以上、講談社学術文庫)、
『近代アジア精神史の試み』(岩波現代文庫、アジア太平洋賞受賞)、
『開国・維新』(中央公論新社)、『砂の文明・石の文明・泥の文明』(PHP新書)、
『評伝 北一輝』(全五巻、岩波書店、毎日出版文化賞、司馬遼太郎賞受賞)、
『畏るべき昭和天皇』(新潮文庫)、『天国はいらない ふるさとがほしい』(人間と歴史社)、
『海岸線の歴史』(ミシマ社)など多数ある。

「2012年 『海岸線は語る 東日本大震災のあとで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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