世界史の針が巻き戻るとき 「新しい実在論」は世界をどう見ているか(「世界の知性」シリーズ) (PHP新書)
- PHP研究所 (2020年2月15日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784569845944
作品紹介・あらすじ
資本主義、民主主義、価値の危機……世界の大問題に、「哲学界のロックスター」が答えを出す。世界的「知の巨人」の思考に学べ!
感想・レビュー・書評
-
擬態されていないありのままを見ることができる「あたらしい実在論」で5つの危機を見てみようが結論と思いました。
■「あたらしい実在論」の解説
移民問題や財政問題などを契機にヨーロッパでは「国民国家の復活」がおきている。
アメリカは独立までヨーロッパ的であったのに、独立したら、決してヨーロッパではなかった。それを擬態という。今また、中国で擬態が起きている。
報道機関は、紙メディアであれ、ソーシャルメディアであれ、リアリティをいちじるしくゆがめて伝えている。
真実を伝えるのは、「新しい実在論」であり、新しいメディア政治が必要である。既存の形とまったく異なるメディアを創造することが今求められている。
インターネットは、反民主主義であり、インターネットこそが、民主主義の土台を揺るがしている。
新しい実在論、①現実は一つでなく数多く存在する。②私たちは現実をそのまま知ることができる。
新しい実在論は、デジタル革命の結果として出てきた知見である。
境界があいまいな現代のイデオロギーが、新しい実在論で境界線が再び明確となる。
構成は以下の通りです。
第Ⅰ章 世界史の針が巻き戻るとき
第Ⅱ章 なぜ今、新しい実在論なのか
第Ⅲ章 価値の危機
第Ⅳ章 民主主義の危機
第Ⅴ章 資本主義の危機
第Ⅵ章 テクノロジーの危機
第Ⅶ章 表象の危機
補講 新しい実在論が我々にもたらすもの
■気になった言葉は、次です。
・一番人殺しをしているのは、キリスト教だ。
・民主的な制度の機能は、意見の相違に直面したときに暴力沙汰が起きる確率を減らすこと
・民主主義の基本的な価値観はコモンセンス(良識)。
「人間はこうあるべきだ」というモデルを、社会システムにいるすべての人間に押し付けるべきではない。
・グローバル経済が、グローバル国民国家である世界国家なしで機能しつづけることはない
・アメリカは全体的にとんでもない保守的なコミュニティである。
・科学への信奉は原始的な宗教への回帰のようだ。
・あるイメージがよいものかどうかは、イメージでなく現実によってきまる。
■日本に関するコメント
・日本の伝統的思想のような日本文化の長所をもっと世界に広めてもいいのではないか。
・日本は非常に可視化されたメンタリティをもっている。
・日本がテクノロジーに関するイデオロギーを生み出すのが抜群にうまい
・日本は、優しい独裁国家のようだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【繰り返しているようで変化している】
言いたいことは何となくわかるのですが、禅問答的な(それが哲学)ところが多数あります。
しかし、著者はできるだけ平易な例えを交えてわかりやすく説明しています。また、今後の考え方のヒントになる部分が多数ありました。 -
「新しい実在論」についての解説書。正直に言うと内容についての理解度は4割もいっていない気がする。
世界は「価値の危機」「資本主義の危機」「民主主義の危機」「テクノロジーの危機」に直面しており、その4つは「表象の危機」に結びついている、というのが筆者の主張。薄い理解ではあるが、「現物」を手に取らずとも様々なものを見聞きしたり、実際に会わずともコミュニケーションが取れたりする現代において、人々は「幻想」を「現実」だと捉えてしまい、その裏側にある「真実」を見ることができていないということかと思う。
「テクノロジーの危機」の章では、「人工知能など存在しない」「AIは知能をモデル化したものである時点で、知能そのものにはなり得ない」という主張はなるほど納得がいくし、シンギュラリティ云々というのは起き得ないという思いは強まった。しかし同時に、AIによって人間の単純労働を代替することへの警鐘は、自分の会社で目指している方向性への真正面からの批判であり、且つ有効な反論も思い浮かばない。
結局、企業にしろ政府にしろ、倫理感を持たないものたちが勝ち続けている限り、世界は着実に破滅へと向かっていくのではなかろうか。
この辺りの考え方は『ファクトフルネス』とは真反対な気がしたので、もう一度読み直したくなった。
しかし、曲がりなりにも大学で「資本主義が〜」などと詭弁を振りかざしていた割に、そこで得た周辺知識との紐付けが全然できなかったのは悔しいし、己の無力さと無知さになんとも言えない惨めな気持ちになった。
一度学んだことを忘れない頭脳が欲しいなあ。 -
なんとか読み終わったが、正直私の頭ではもう何度か読まないと本当には理解できない。
「表象の危機」の章は大変面白かった。近頃疑問に感じていたことのもやが少し晴れたような気持ちになった。このようにレビューを書くこともタダ働き(笑)とても納得がいった。
追記:別の美術の本を読んだことでこの本の内容「新しい実在論」という意味が自分の中で腑に落ちた。 -
新しい実在論という方法論でもって、現代社会を批判していく
新しい実在論が完全に理解できたわけではもちろんないが、普遍的な真実というのはないが、文脈依存的には真実が実在するということと勝手に理解した
インターネットなどは違う文脈のまま、互いの真実と思われるものを主張しあうために噛み合わない議論となって信じるか信じないかの二択を強いることとなる
そこから倫理の文脈において善悪の真実は存在するとなる
最終的に会社は倫理学者を雇えとか自然主義こそが現代に巣くう最悪の知の病である、GAFAにタダ働きをさせられている ということになる
ある意味最近のヨーロッパの動きの思想的な背景になっているのだろう
その行き着く先が、倫理的であることを強制される中世のような世界に思えてしまうのは僕の理解が足りないせいだからだろうか
資本主義の本質を自分のやっていることを他人は知らないことを利用して設けるシステムと解釈するのはなるほどと思った -
最近気になる「若き天才」マルクス・ガブリエル。ドイツの哲学者で彼の主張する「新実在論」が今世界中で脚光を浴びている。本書では、大きく変貌する現代社会が直面する5つの危機(価値、民主主義、資本主義、テクノロジー、表象)の提示とその本質の解説と、特に日本に対して「優しい独裁国」と評し、解決方法を提案している。「インターネットは非民主的」「人工知能など存在しない」「GAFAにただ働きさせられている」など、一旦立ち止まって思考することで見えくる本質の大切さに気付かされる。本書の主たるテーマとは異なるが、なるほどと思ったのは、よりよく生きるための思考法ともいうべき「哲学」を、なぜ小学校から教えないのかという点。算数や理科など基礎科目ができなければ、高度な技術や科学は駆使できない。それと同じで、生きるため、社会生活を営むにあたって必要な頭の使い方や先人の知恵を学ぶ機会が極端に少ないのはおかしいという主張。今後も彼の動向に注目したい。
-
非常にエキサイティングな内容の一冊だった。しかし自分には難解なところも多々あり、すべてを理解できたわけではなかった。日本がテクノロジーに関するイデオロギーを生み出すのが抜群にうまいというのは国際社会で今後生き残っていくために重要な示唆のように思う。
優しい独裁国家とは言い得て妙だなと思った。特に海外の人から見たらおかしいなって思うようなことに暗黙の了解の上に服従しているように思う。 -
インタビュー文字起こしがベースで日本人読者向けという意識があるので読みやすいし、それほどのボリュームでもないのでこの時期にサクっと読んでしまうにはうってつけの教養本でした。
哲学界のロックスターと呼ばれるドイツの哲学者が「新しい実在論」を軸に世界の危機を読み解くという本。
彼が「表象の危機」と表現し米国、欧州、中国の振る舞いというのは「そういうフリ」でしかなくて、目に見えていることとは全く異なる衝突が起きているんだよ、という解説が私には1番スリリングな内容でした。
政治や地政学、デジタルに経済も網羅的に語ってくれるので、何やら複雑怪奇な現代というシステムを俯瞰するのに良い知恵を授けてくれると思います。
デジタルと地政学について落合陽一と似たような切り口で語りますが、デジタルに対する信頼度というか期待については真反対というのは興味深かったです。
マルクス・ガブリエルはインターネットは全く民主主義ではないし、シリコンバレーの文化・・・自然主義や統計主義と表現していますが、これについては真っ向から否定しています。
さらに日本のことを「優しい独裁国家」と遠回しに揶揄しながらも、住んでる我々が苦しむ「精神の可視化された社会」については期待の目を向けていました。 -
新実在論の話を聞いてから、たしかにそうだなぁと思うことが多くなった。
今回下の5つのテーマについてガブリエルさんの考察が書かれていた。
価値の危機
民主主義の危機
資本主義の危機
テクノロジーの危機
表象の危機
それぞれ面白い視点があったのだけれど、個人的には、多様性を否定する人を受け入れることが多様性なのかというパラドックスについての解説がとても納得した。
ラッセルのパラドックスから考えても、受け入れる必要はないという結論だった。
と言うよりも、受け入れてしまうと矛盾が生じるので、受け入れてはないないということだった。
個人としては多様性を否定する人も受け入れることが多様性なのだとは思うが、集団として多様性を受け入れることは、そうでない人を受け入れると成り立たなくなると考えるとわかりやすかった。
それ以外にも人は皆正しいと言うが、真と偽は存在しない、正しいと信じていることも実は偽であることは世の中にはたくさんあるのだと知った。