子宝船 きたきた捕物帖(二)

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569851983

作品紹介・あらすじ

絵から消えた弁財天、弁当屋一家三人が殺された……。次々と起きる事件に、岡っ引き見習いの北一が立ち向かう、人気シリーズ第二弾!

感想・レビュー・書評

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  • 〈きたきた捕物帖〉シリーズ第二作。
    亡き千吉親分に育てられた北一が、文庫売りとしてお上の御用を請け負う者として一歩進んでいる。

    まずは文庫売り。第一作では登場がなかった、絵柄描き担当の「若さま」がついに姿を現す。しかし意外な正体でますます謎が深まったような。
    「若さま」の用人・青海新兵衛のおかげで作業小屋が出来て、末三じいさんを筆頭に文庫作りメンバーも揃い、売り手も増やしては?という話も出るほど順調だ。

    もう一つお上の仕事だが、こちらは順調とは言えない。そもそも第一作では千吉親分は生前に自分の跡目は誰にも継がせないと宣言し、十手を預けた同心・沢井も北一に継がせるつもりはないと言っている。
    では第一作のように千吉親分の妻・松葉が跡目を継ぐのかと思ったら、その松葉からなぜ千吉が誰にも跡目を継がせないと言ったのか、その真意が語られる。それによれば松葉が跡目を継ぐということはなさそうだ。

    しかしここで思わぬ強い味方が登場。本所回向院裏の政五郎親分だ。半隠居らしいが、北一はもちろん富勘もお手上げな揉め事も収めるし、たくさんの子分もいてその威光はまたまだ現役。見た目は穏やかで粋なおじいさんだが、その『貫禄や威風』に北一は圧倒されっぱなしだ。
    さらにはあの記憶力抜群なおでこちゃんも登場。いや、ちゃん付けは失礼なほど立派な大人になり妻もいる。
    御番所の文書係になって二十五年とのこと、政五郎親分も年を取るはずだ。

    政五郎におでことくれば「ぼんくら」シリーズ。さらに政五郎親分の親分はあの回向院の茂七だったということで「茂七」シリーズにも繋がっている。

    しかしここで疑問が。政五郎親分を使っているのは同心・沢井らしいのだが、「ぼんくら」井筒はどこに?
    実はおでこから『何でも測ってみる』友達の現在が語られていて、そのため政五郎を使うのも沢井になったようだ。

    横道に逸れてしまった。同心・沢井には使われることがない北一だが、沢井は北一の良い面を認めているし、政五郎親分も北一を見込んでいる。そして検死に優れた与力・栗山から小者として使われることになった。後半の一家殺害事件のための臨時雇いなので今後どうなるか分からないが、北一の岡っ引きへの第一歩が示されたようだ。

    また北一の相棒・喜多次の家筋も少し分かってきた。何故腕っぷしが強いのか、すばしっこいのか、何も伝えてないのに何故北一の行き先が分かるのか、その理由も理解できる。そして屋台をやっていたという大伯父、もしかしてまだ健在?

    このシリーズは「捕物帖」とは付いているが、いわゆる大悪人が出て来て派手な捕物がある話ではない。
    貸本屋の村田が言うように、岡っ引きが扱うのは『巷の揉め事』が殆どであり、『どっちもどっちで、どっちにも言い分があるもんだから』『捌くには年季が要る』難しさがある。
    後半の事件では北一が倒れ込むほど辛い話だしいわゆるイヤミスの類なので北一が毒されないかと心配になった。
    それでも北一は栗山と様々な推測を語り合うのを不謹慎とは思いつつワクワクしているし、お上の仕事をすることにも前向きになっているようだ。
    とは言え北一はまだ16歳、彼が一人前になるのはまだまだ長い道のりが必要なようだ。シリーズも長くなりそうでこの先が楽しみだ。

  • 二人のきたさん。今だと高校生ぐらいの男の子たちが懸命に生きている。
    北一は周りの人達に協力してもらいながら『朱房文庫』を売ったり、町で起こった事件を解決している。北一は弱そうに見えるけど、実は強い。涙を見せながらも、歯を食いしばって事件を解決しようとする姿は、目がうるうるしてしまう。人生経験を積んでいい人間になってほしい。
    喜多次は風呂屋で黙々と働いている。北一の事件解決を手伝ったり、話し相手になったりしてる。北一の頼れる相棒。正体は少し謎でたぶん忍びだと思う。北一より少し歳が上だけど、饅頭を美味しいそうに食べる姿はまだまだ子供。
    この二人を応援したいし、成長を見届けたい。
    宮部みゆきさんの時代小説は人情もので最後にほろりとする。でも人間の悪い部分もちゃんと書かれてるから、バランスがとれてて好き。

    本の紹介で「ぼんくら」シリーズのおでこちゃんが登場すると書いてあったのでとても楽しみだった。第一話で政五郎親分が出てきて、この人って確かおでこちゃんの面倒を見てた親分だったよな?と思い調べたらやっぱりそう。そして第二話でおでこちゃんが登場して嬉しくて夢中になって読んでた。「ぼんくら」だと北一と同じぐらいか、少し歳が下ぐらいだったので、私は"おでこちゃん"と呼んでたけど、今はおでこさん。おでこさんと呼ばないといけない。とても立派になってたし、優しさは昔のまま。また会えて本当に嬉しかった。実を言うと、北一や喜多次の活躍よりおでこちゃんを楽しみにこの本を読んでた。二人のきたさんごめんなさい。

    今回読んでて気になったのは岡っ引きの親分たち。調べたら、茂七→政五郎→千吉と志を受け継いでいったみたい。私は千吉親分をよく知らないけど、他のシリーズに出てたのか?他の登場人物たちも違うシリーズで登場したりしてるので、相関図を描いたら分かりやすそう。でもとてもすごい事になりそう。親分を巡って他の作品を読むのも楽しそう。

  • シリーズ2の一冊。

    コンビはもちろん、若様、おでこさんと人間関係も深みが増してきた。

    北一は文庫売りと岡っ引きの手伝いという、人生の天秤棒を担ぎ、時によろけながらも一生懸命が微笑ましい。 

    素直に人の言葉を懐に取り込んで一喜一憂するところも実に微笑ましい。 

    人情溢れる町で起きた不可解な事件。

    その裏側に垣間見えるのは人の心に棲みつくもの。

    善も悪も全てを知ることも人の成長には欠かせない。

    親分が遺した想いもおかみさんが引き継ぎかける言葉も喜多次の存在も、北一を支える人の土台が良い。

    この土台あってこそのきたきた物語だ。

  • シリーズ第二弾。
    北一も周囲の人たちに助けられ、文庫の振り売り業にもすっかり板についてきた。
    江戸深川で次々に起こる事件の謎解きも良かったけれど、それ以上に人情話でほのぼのできることが心地よい。
    今は亡き千吉親分のおかみさんの女中・おみつの作る料理は美味しそうで、いつも腹いっぱい食べれる北一か羨ましい。
    思いがけず『ぼんくら』の政五郎&おでこと久しぶりに再会。懐かしいし嬉しい。

    今回も亡き千吉親分の名言が心に沁みる。
    「人の心は畑みたいなもんでな。いっぱい種が植わっているんだよ。てめえで植えた覚えのない種もある。だから、まめに草取りするのが肝心なんだ」
    「嘘ってのはな、北一。たいがいの場合、こうだったらいいなあという願いが言葉になったものなんだ。だから、嘘をつく者を蔑んじゃいけねえ。俺たちは仏様じゃねえんだから、誰だって嘘つきになる。明日は我が身だ」

    文庫屋に岡っ引き、と二足のわらじに励む北一の今後の活躍にますます期待したい。

  • きたきた捕物帖シリーズ第2弾。

    茂七親分や政五郎親分、おでこなど懐かしい名前が次々に出てきたり登場してきたりと、忙しい一冊でした。

    若様との対面も果たし、益々文庫屋さんとして発展していく傍ら、捕物についても人脈に恵まれ日々成長している様子が書かれています。

    後味の良い話ではないですが、これからも続きが楽しみです。次巻ではもう1人の「きたさん=喜多次」の活躍を期待したいです。

  • 文庫売りで生計を立てる北一が、半人前の岡っ引き見習いとして、身近なところで起きた事件と向き合っていく、シリーズ第2作。

    まだまだ未熟だけれど、観察力などふと光るものがあり、解決へとつながっていく。
    そして何より、周りの人に愛され、支えられる人柄がある。

    人情味のある、北一の成長物語。

    どうしようもない悪意が出てくるあたり、「人魚の毒」は、宮部みゆきらしかった。

    北一が住んでいるのは、『桜ほうさら』の主人公が住んでいた富勘長屋の部屋で、謎の稲荷寿司屋は『初ものがたり』に登場するとか。
    どちらも未読でしたが、読んでいるとプラスアルファで楽しめるよう。

    『ぼんくら』シリーズに出てくる政五郎とおでこは、既読なのでわかった。

  • 面白かった。若薄毛の北一くんと、謎の”闇の者”喜多次(厨二心くすぐるキャラ)が解決する江戸の事件の話の第二弾。北一の文庫売りの商いも面白いし、今回の事件の子宝船と歪んだシリアルキラーの話も興味深かった。どちらも全く質はちがうが、病んだ心の物語。ラストのよく喋る喜多次の話と、件んの「にまにま笑い」の想像が止まらなくてゾッとした。
    今回で一番好きなのは”おでこ”さん。これからも良いところで出てきて欲しい。

  • 頼りない岡っ引き見習いで文庫振売りの北一が江戸で起きた事件の謎を解き明かす。

    おかみさんが北一にご馳走する御飯が美味しそう。

    頼りないけど少しずつ信用を勝ち取る北一の姿が良かった。

  • 文蔵2020年6月号〜2021年9月号、11,12月号の連載子宝船、おでこの中身を加筆修正し、書き下ろし:人魚の毒を加えて、2022年6月PHP研究所から刊行。文庫の振売りも順調な北一さんが二つの事件に巻き込まれることに。哀しさや陰惨さの中で、回りの人々の力を借りながらの解決は、心配と重苦しさがありましたが、興味深い展開で納得できる謎解きでした。ただ割り切れなさは残ります。登場人物が魅力的で面白い。喜多次の出自が少しずつでもわかっていくのが楽しい。

  • 北一が可愛らしい若者で、全体的にすがすがしい。
    3編の中編が収録されている。
    全部面白かった。タイトルになった子宝船が1番好き。
    人の心の小さな悪意、ほんのちょっぴりの弱さ、そんなところが事件に関わる。そこを掬い上げる宮部みゆきさんがいつもながらすごいと思った。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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