沖晴くんの涙を殺して

著者 :
  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575243277

作品紹介・あらすじ

2020年、最高の感涙小説が登場! 北の大津波で家族を喪った沖晴は死神と取引をした。悲しみ、怒り、嫌悪、恐怖を差し出して独り生還したという。残された感情は喜びだけ。笑うだけの不思議な高校生は、余命わずかの音楽教師・京香と出会い、心を通わせていく――。ありふれた日常と感情が愛おしくなる喪失と成長の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 男女の大切な存在、そして片方が病気になって亡くなるお話し、予定調和で感動を誘うストーリーは結構ある。そういうお涙頂戴の読書は途中で止めてしまう。今回作者は感動を誘うことなく、喜び、悲しみ、怒り、嫌悪、恐れを登場人物の心情にぶつけ、隠さず描写した。さらに「死」というある意味「格好悪い様」を逃げずに読者に伝えた。自分の将来の「死」へのリアリティある姿に投影することに成功したんだと思う。なので、久しぶりに涙が溢れた。男性主人公の東日本大震災での喪失体験、PTSD、さらに大切な人の死。でも、生きるしかないんだ!⑤

  • 日陰と日向を感じた一冊。

    一気に惹き込まれラストまで導かれた時間は日陰と日向を感じる時間だった。 

    まるで日陰で、心の外に弾き出された感情を一つずつ救出して必死に自分の心の定位置に仕舞い込みもがく沖晴くんの姿に何度涙しただろう。
    何度日向へと連れ出したくなっただろう。

    生と死、人の持つ感情の意味。
    どんな感情もめいっぱい生きているからこそ持ち得る感情だと思うと愛おしく、その感情の一瞬を今流れている時間を大切にしたくなる。

    日向での喜びは光に、流す涙は水となり心の花が開く源へとなるに違いない。

    涙と共に忘れられない作品。

  • 津波に巻き込まれ、死神と「喜び以外の感情を奪われる」という取引を行うことで、命が助かった沖晴と末期がんと宣告された京香の話。
    冒頭で京香の葬式が描かれていたので亡くなるのは分かっていたのだが、京香が魅力的で死なないで欲しいと思ってしまった。
    震災が被災者に与えた傷は私には想像しかできないが、感情を失くすほどの傷を持つ人はまだいらっしゃるのだろうと思うと自分には何ができるのだろうと考えてしまった。

  • “踊場京香の葬式は、階段町の山頂付近にある小さな斎場で行われた。”

    こんな書き出しで始まる、踊場京香と、志津川沖晴の物語。

    大津波が家族全員をさらっていったあの日、死神と取引して《喜び》以外の感情を差し出したかわりに、ひとり生き残った沖晴。
    乳がんで余命宣告を受け、故郷に帰ってきた京香。
    そうとは知らず出会った京香との日々で、沖晴は少しずつ《嫌悪》《怒り》《悲しみ》《怖れ》の感情を取り戻していくのだが…


    “嫌悪が、怒りが、悲しみが、怖れがあるから、人間は過去と現在と未来を生きることができると言った彼女に、聞いた。
    彼女は、こう答えた。

    ー喜びは、今この瞬間を沖晴君が愛している証拠だよ。”


    【最高の感涙小説】なんてあおり文句が気にいらなくて、読むのを先延ばしにしていた。
    けど、額賀澪ファンとしてそういうわけにはいかないと気合を入れて読み始め、それはもう…どうにもならず一気読みさせられ、泣かされてしまった。

    人が今、今日のこの日を生きていることは、なんてかけがえのないことだろう。

    奪われた命をつなぎ止められなくて、生きているほうに、たまたまいる今の自分を責めて苦しむ人に。
    ネガティブな感情を持つことを悪いことのようにされて、喜びも失ってしまった人に。
    自死を選ぼうとしている人に。
    ぜひ、読んで欲しい。

  • 命について考えされられますね。
    ただ死神とか設定が強引過ぎるように感じました。
    泣かせようとし過ぎかな。
    無理しなくても充分泣けるのに。

  • 余命わずかの踊場京香は故郷の階段町へ戻って来た。不可思議な雰囲気を持つ高校生・志津川沖晴との強烈な出会いは、京香の終焉と沖晴の未来を大きく揺るがすものだった。
    空想世界のヒーローの如く何でも持っているように見えた沖晴が、人間らしさを取り戻す毎に無くしていくものの大きさに打ちのめされていく。そんな彼の隣で手放しで受け止める京香。
    『死』を恐れなかった沖晴と『死』を恐れていた京香の意識が真逆のベクトルを向いたのはいつからだったのだろう。

    「強くなりたいわけじゃない。俺はただ、踊場さんと一緒にいたいだけだ」
    普通の人に近付いた彼の願いは叶わない。だからこそ口に出さずにはいられなかった、のだと思う。
    死神との取引に負けないように、京香は彼に『呪い』をかける。どれほど辛く、どれほどの愛しさを塗り込めた『呪い』かを。2人にしか理解不可能な呪いは『絆』という名前かも知れない。

    「たくさんの涙と憤りと寂しさと焦燥感と苦しみを、山のように積み重なったそれらをよじ登るようにして」街が平らになったように、
    「たくさんの涙と憤りと寂しさと焦燥感と苦しみを、山のように積み重さねて」よじ登って、歪ながらも沖晴を平らにしていった京香の存在の尊さ。
    見送る側の様々な想いや痛みを存分に抱える京香の祖母・星子と、本気で怒り反面手を差し伸べる事を厭わない冬馬。命の誕生が幸せのひとつだと教えてくれた陽菜。沖晴の家族はここに、ある。
    もう涙を殺さず生きていけるね、そっと声をかけて本を閉じた。

  • 癌により余命約一年の女性と津波により死にかかったところを死神により助けられた高校生が出会ったことにより、徐々に「普通」の人へと成長していく感動作でした。

    死神により助けられたものの、その引き換えに「喜び」以外の感情を奪われたというファンタジー要素が含まれているのですが、徐々にヒューマンドラマへと変わっていきます。
    恋愛要素もありましたが、切ない展開に悲しくなるばかりでした。

    物語の構成としては、現在のパートと過去のパートを交互に入れ替えながら、進行します。現在は高校生の沖晴の視点で、過去は女性・京香の視点で進みます。序盤から京香の葬式が登場するので、京香の運命はわかっています。いかにして沖晴が成長されていくのかが、この本の見所かと思います。

    「喜び」だけだった感情が話を重ねるごとに一つの感情を得ていきます。感情を取り戻すというよりは、何かのタカが外れたかのように抑えていた感情が爆発していきます。
    空白期間が長かったためか、想像以上に感情を表現するので、どの「感情」も輝いてみえました。これらは全て「普通」のことなのに特別な人間という感じがあり、改めて感情というものの大切さ・影響力を感じました。

    後半は「悲しみ」の連続でしたが、最後に「喜び」の要素で締め括ったので、じんわりと心を温かくしてくれました。
    この世に生を貰ったからには、正直に一生懸命生きないといけないなと感じさせてくれました。

  • 乳がんで余命1年の京香と、震災で家族を亡くした沖晴くんの物語。舞台は尾道あたりかなと思ったら、そうらしい。坂の風景が美しい町を想像して。

    一つずつ感情を取り戻していく沖晴くんの様子は、読んでいてとても苦しい。それを見守り、ときに自分の死や母の最期についても考える京香。
    震災を扱った小説は他にも読んだけれど、なんだろう、この作品はすごく心に沁みるというか。受け止め役がこの境遇なのが効いているのか。沖晴くんと一緒に、夜中にぼろぼろ泣いてしまった。
    死神については、まぁそこは重要ではないというか、幻かもと思っていていいような気がする。
    最終章で、その後の沖晴くんを見られたのも、よかったな。

    沖晴くんの話をメインに置いてはいるけれど、京香の生き方も素敵だし、おばあさんもすごく魅力的。
    カフェおどりば、通いたい。沖晴くんのお弁当も、毎回美味しそう。

    「人は、特に理由もなく死ぬの。むしろ生きてる方が凄いんだよ。私達って、きっと、運よく、死んでないだけなんだよ」
    という台詞で、意図するところは違うんだけれど、今自分が生きていることって奇跡なんだなと思わされた。

    「最高の感涙小説」というキャッチコピーや評判は知らずに、たまたま見つけて読んだものだったけど、とてもいい小説だった。

  • なんだろう、読み終わってどこが良かったかを考えるとその場面は思いつかないんだけど、ただ2人の関係性が愛おしかった。

  • 上っ面の喜び以外の感情を喪って、代わりに人の羨む能力を身につけた主人公が、自分をさらけ出せる大切な人と出会うことで、ネガティブな感情を取り戻して生きていく物語。

    主人公に痛いほど共感した。
    私も知っているから。
    喪失感を伴う大きな絶望は、笑顔を連れてくることを。その真っ暗なものとひとりで向き合えば、引きずり込まれて戻ってこられないから。泣いたり悲しんだりできるのは、引きずり込まれたときに引き戻してくれる誰かが、そばに現れてからだと思う。

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著者プロフィール

1990年、茨城県生まれ。日本大学芸術学部卒業。2015年、「ウインドノーツ」(刊行時に『屋上のウインドノーツ』と改題)で第22回松本清張賞、同年、『ヒトリコ』で第16回小学館文庫小説賞を受賞する。著書に、『ラベンダーとソプラノ』『モノクロの夏に帰る』『弊社は買収されました!』『世界の美しさを思い知れ』『風は山から吹いている』『沖晴くんの涙を殺して』、「タスキメシ」シリーズなど。

「2023年 『転職の魔王様』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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