パラサイトグリーン ――ある樹木医の記録 (二見ホラー×ミステリ文庫 あ 1-1)

著者 :
  • 二見書房
3.42
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本棚登録 : 91
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784576211121

作品紹介・あらすじ

樹木医である雨宮芙蓉は、心療内科医の朝比奈匡助の依頼で奇妙な仕事をしていた。それは“ボタニカル病”、つまり植物に寄生されるという未知の病にかかった人々を診察すること。患者たちの治療のために、患者たちの持つ苦悩に耳を傾ける芙蓉。そこには大きな謎があった――。

2016年の隠れた名作を増補改訂、改題の上、文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • はじめのころから主人公も患者なんだろうなと思いつつ読み進めましたが、ほぼ花が見せた夢と混同していて、結局どのあたりが現実かわからなくなります。
    父親が言う通り、いつか花から本当に解放されて幸せになってほしいです。花に蝕まれてしまう前に。

  • 花を吐き出す者。
    その花の特性を引き継いだ者。
    そして植物に寄生された者、いや共生している者というべきか。
    ボタニカル病と一口に言っても、関わる花の種類も症状の出方も様々だ。
    中には日常生活に支障の出るものもあるが、共通してどれも美しく、そして植物たちは総じて優しい。
    宿主に優しい。
    それはきっと、作中で最大の患者に対しても。

    ボタニカル病自体がファンタジーじみているが、どうしてボタニカル病になったのか、その患者が抱えている背景を読み解くのは現実的なミステリ仕立て。
    でも、季節が進み後半になるにつれて、じわじわと現実から遠のいていく。
    不穏さが増していく。
    どうしてだろうと思っていたら、前述の最大のボタニカル病患者が抱えていたものと分かって驚いた。
    伏線は最初の方から丁寧に用意されていたが、最後にその謎が解明されたときの衝撃と言ったら!
    これは二度読みをして、改めて作中世界を「区分け」したくなると思う。

    この最大の患者に寄生している、いやこれもまた共生だろうが、その共生している植物の特性がまたこの物語の構築のキーになるという。
    敢えてこの植物を選択してきたところがにくいというか。
    患者にとってみれば優しい世界。
    でもそれは夢幻の世界。
    だから、あるキャラから見るとその患者の世界は優しいどころか、苦しくて切ない世界だと分かって胸が苦しくなった。
    それでも、そのキャラは患者を見捨てず寄り添うのだ。
    その決意にまた胸が苦しくなった。
    植物たちは優しいのに、現実は優しくないのだ。

  • ほんの一部の人々にしか知られていない奇病『ボタニカル病』。人間に寄生した植物がおこすその病は症例も少なく特効薬もない。精神科医の朝比奈に相談者が紹介されたのは『樹木医』の芙蓉だった。

    罹患者それぞれが異なる植物を身体に有し、あるいは接しているものの罹患者たちにマイナスの感情は見受けられないのが一貫しているとは言える。植物との語らいを構えず行っている芙蓉だからこそ、彼らに寄り添い、理由を知ることが出来るのだろう。

    植物は優しい。優しいから時に嘘をつく。人間の弱さを、甘えを受け止めて自らの役割を演じてくれる。
    ひとにも同じ種類のことが言えるのかもしれない。
    ひっそりとその真実を内側に抱えたまま、優しく、そっと。

  • 前半の没入感を返してくれ!

  • ファンタジーという感じはあまりしなかったです。

    どのお話も、優しいけれど少し苦めな締まり方をしていました。解決しても、何か心にはなんとも言えない不思議な気持ちが残っていて、あまりすっきりしないような…そんな感じ。

    読み終わる頃には、芙蓉と朝比奈のことがもっと好きになっていました。

    最初と最後が全く同じ文章になっていました。内容を知ってからその文章を見ると、意味が分かってしまうからちょっとゾワゾワします。

  • 植物に寄生された病気 ボタニカル病の患者と樹木医のお話

    植物の声が聞こえるという樹木医の雨宮芙蓉
    心療内科医の朝比奈匡助はボタニカル病の患者を芙蓉に紹介する
    病気を治すには本人の治す意思が必要らしい
    そもそも、ボタニカル病とは?患者は何故罹患したのか?どんな症状なのか?
    希少な奇病を巡る樹木医のお話

    収録は4編
    ・春ノ章 花咲ける病
    咳と共に白梅を吐く少女
    ・夏ノ章 透ける花の思い
    雨が降ると山荷葉のように透明になる男の子
    ・秋ノ章 最後の花の宴
    100年に1回咲くと言われる竜舌蘭が咲きそうな庭の家に一人で住む老女
    ・冬ノ章 多幸感とその代償を与える花
    沙羅双樹が体中を侵食してしまっている老人
    そして、……

    レーベルが「二見ホラー」なので、ホラー?と不思議に思ったのと
    最後まで読んでみるとまた違うジャンルにも思える
    まぁ、ジャンルを言う事自体がネタバレなので何かは言わない

    終盤の展開に、ある程度そんな可能性を感じつつも戸惑う
    どこからどこまでが?
    もう一回読み直しても区別がつくかどうか……


    有間カオルさんの作品はどこかほのぼのとして救われる系のお話なイメージで
    実際にこのお話もその路線は大きく外れていないものの、幻想小説方向に寄っている
    「荒木町奇譚」は序盤の展開からして幻想系だったので、そっちに近いのか?


    ボタニカル病は植物が寄生した病と言われるものの
    共生とも言える関係なのではないかという疑問

    「植物は嘘をつかない」「植物は優しい。どこまでも優しい」

    何が正しいのがわからなくなってくるな



    ふと思い出したのが、川原泉「花にうずもれて」
    笑ったり泣いたりすると、背景に花を生み出してしまう女の子短編マンガ
    読後感はまったく異なるけど、発想としては似てると思う

  • 遠出ついでに一日で一気読み。
    かなり好みの話でした。ミステリという枠なのだけれど、サスペンスや探偵の話ではなくて、癒しの物語。
    最後はかなりぐっときました。

    ボタニカルものって、今まで読む機会が無かったけどこの本を読んで他のボタニカル小説も読みたくなったし、作者さんの他の本にもすごく興味がわきました。
    ファンタジー系の話も読んでみたい。

    二見文庫さんのおかげで出会えました、ありがとうございます。

  • 人に寄生する植物と言うとグロい系でも、おかしくないが身体ではなくて心の寄生するというわけで、ホラーと言うよりファンタジー。心の隙間に取り憑く植物たちが優しいので、お話の方も優しい。寄生する植物が産み出す幻想は視覚的なイメージを伴っていて美しい。物語の結末を考えるなら、その美しさが持つ怖さを考えるべきなのかも知れない。

  • ボタニカル病の描写が丁寧で、その人の背景や植物の生態に合った発現をしていて違和感がない。ブラックジャックのサボテンの寄生を思い出したけど、あっちが寄生(物理)なのに比べて、これは心に根付くというのが美しくも恐ろしい。どの話も「植物は心の隙間を埋めて寄り添う」とも「隙間に入り込んで支配する」とも受け取れる絶妙なラインだった。
    あらすじにあるほど朝比奈さんが嫌な奴ではないしむしろ芙蓉の方がやばい奴のような。芙蓉の病気については最終章までで匂わせすぎでは。驚きよりも妥当に感じた。ボタニカル病を治療する朝比奈さんだから、阿片芥子はわざと嫌な奴だと思い込ませているんだろうか。

  • 樹木医が解く、植物×ミステリ。
    花を吐く少女、という話は、怪異やホラーになってしまわず、美しくも切ないミステリ。

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著者プロフィール

有間カオル (ありま・かおる)
『太陽のあくび』で第16回電撃大賞メディ アワークス文庫賞を受賞しデビュー。
他に『 魔法使いのハーブティー 』、『 招き猫神社のテンテコ舞な日々 』( KADOKAWA )、 わすれな荘シリーズ ( 角川春樹事務所)、『気まぐれ食堂 神様がくれた休日 』( 東京創元社 )、『 青い花の下には秘密が埋まっている 四季島植物園の静かな事件簿 』(宝島社) など 。

「2022年 『氷住灯子教授と僕とYの世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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