- Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582852998
作品紹介・あらすじ
二十世紀を特徴づけるなら、自然科学の発展とともに、メディアが大衆を扇動する「噂と迷信の時代」ということができる。明治末期、人々の想像力の限界を試す「千里眼事件」が起きた。透視や念写ができる「超能力者」が現れ、世を騒がせたのである。その能力の実在を証明しようとしたのが、心理学者の福来友吉だった。錚々たる学者を前に公開実験が行われ、騒動は一層広がることになる。「千里眼事件」が社会に投げかけたものは一体何だったのか?この事件の顛末を通し、人間にとっての「認識」の意味を問う。
感想・レビュー・書評
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明治時代に起きた、超科学と科学の相克の物語ということができるのではないでしょうか。透視、遠隔視(千里眼)、未来予知、という既存の科学ではとらえきれない現象を可能にする人間(御船千鶴子、長尾郁子ら)が現れた結果、福来友吉(ふくらいともよし)をはじめとする学者は、それを科学的に検証しようとしました。しかし彼らは、当初から「千里眼」の存在を自明視してしまっていたのです。
判断をしかねるような事実に翻弄される超能力者や学者や一般人、そしてそれを「新発見」として煽り立てるメディアの様子を描き出します。
著者は千里眼の事実について判断することが目的ではないとたびたび述べていますが、その検証方法は明らかに問題のあるものでした。それは、千里眼を信じる人びと(学者、千里眼の持ち主、またその親族など)のみによってなされたもので、疑義が浮上する可能性を排除したものだったからです。
著者は事実判断を回避しつつも、その検証が「成功」とされることの奇妙さを明らかにし、さらに福来がのちに至った神秘主義的な傾向を「夢想」と断じています。世論、メディア、学者、彼らが「見出したいもの」があったとなれば、事実いかんの検証を待たずして「発見」として広まり、その反対に事実であっても広まらないこともある。明治時代は、まさにこうした世論の混迷に学者自身も巻き込まれてゆき、そして科学の検証、そして信頼が大きく揺らいだ時代だったのではないかと思います。
これを未発達な時代の出来事として切り捨てることは簡単ですが、しかし千里眼事件が問いかけている問題はこんにちにもつうじるものがあります。興味深い本でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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[ 内容 ]
二十世紀を特徴づけるなら、自然科学の発展とともに、メディアが大衆を扇動する「噂と迷信の時代」ということができる。
明治末期、人々の想像力の限界を試す「千里眼事件」が起きた。
透視や念写ができる「超能力者」が現れ、世を騒がせたのである。
その能力の実在を証明しようとしたのが、心理学者の福来友吉だった。
錚々たる学者を前に公開実験が行われ、騒動は一層広がることになる。
「千里眼事件」が社会に投げかけたものは一体何だったのか?
この事件の顛末を通し、人間にとっての「認識」の意味を問う。
[ 目次 ]
第1章 メディア時代の「科学」「新発見」
第2章 「千里眼」の出現
第3章 千里眼の「証明」
第4章 社会的事件としての千里眼
第5章 念写をめぐる論争
第6章 スキャンダルと心霊への傾斜
第7章 明治末期の「科学」の揺らぎ
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ] -
『時間と学費をムダにしない「大学選び2011」』(光文社)の著者(石渡嶺司/山内太地)が選んだ「福祉・心理」に関する本。
(横道・脇道レベル:余裕があるなら読んでおきたい。)
千里眼事件をまとめた1冊。
千里眼自体はどう考えてもトリックであり、擬似科学、オカルトである。こうしたことも心理学の変化球といえるだろう。 -
・明治末期の千里眼事件を題材に、明治日本の科学とメディアのありかたを描写した良書。
・科学と迷信が袂を分かち、メディアとしての新聞が台頭してきたこの時代を大量の資料を使って描いてる。あくまで主観を省いた書き方にも好感をもった。
・有名な鴎外の脚気の話やビタミンB1の発見も引き合いに出して、信じることと分かることの違いを説く。わかりやすい。
・当時の科学とメディアのありかたを書きながらも、単に千里眼事件への好奇心だけでも十分に楽しめる内容。 -
別に超能力がなくても構わないけれど、有っても別に不思議じゃない、と思っております。ただ、あったとしたらそれは多分、本人も周りも幸福にするような力ではない、そんな気がしてならないのです。ちなみに関係ないですが、山川博士が出てきて不意打ちを食らった気分でした(山川さんは元会津藩の出世頭)