- Amazon.co.jp ・本 (379ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591144626
感想・レビュー・書評
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13世紀フランス。
天使ガブリエルから「エルサレムへ行け」という天啓を下された少年エティエンヌが、聖地を目指して十字軍を率いる物語。
特別な力を持つことで、平穏無事な生活を失ってしまうことの哀しさが漂う。
純粋な子供たちと、彼らを私利私欲の対象としてしか見ていない狡猾な大人と対比がえぐい。
何を目指し、歩むのか。
結末を予想出来て尚、エティエンヌたちを愛おしく感じることがこの作品の要であるように思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
史実に基づいた物語。
少年十字軍という存在を初めて知った -
少年十字軍の悲劇を知っていれば
この子達にどんな結末が待っているのか
それを作者がどれだけ耽美、爛れた
退廃的な世界に描くのかと思いながら
読んでいったのだけど。。。
神への信仰を表面にあらわしながら
俗な人間の欲にまみれ浸りきった大人たちに
(あぁ大人の世界を縮小版で濃縮している
レイモンにもか)利用され、試され、裏切られ、
翻弄される子供たちが、ただ一心に信じている
苦難からの解放、自由な世界、導いてくれるはずの
エティエンヌ。
染まって汚れたものも、純粋なものも、全て背負い
その身を削りながらたどり着く先は。
ぜひ読んで、余韻に浸ってみてください。 -
何とも冷静であり、シニカルな小説だと思った。
そして最後まで、「神」と「奇跡」の正体についての謎が明かされていない。
結局、発端となる事件の真相については、それが人為的に仕組まれたことなのか、それとも本当に神による奇跡なのか、断定的には書かれていない(と私は読んだ)。
その正体が最後まで巧妙に隠されていて、まるでミステリー小説のようにスリリングですらある。
見ないで信じる者は幸いである。
それならば、見た上で、それでも信じ続ける者はどうだろう? 哀れだろうか? 不幸だろうか?
神はいるのか?
奇跡は誰が起こしたのか?
分からないけれど、少なくとも歴史を作り出したのは人間だ。 -
エティエンヌがいればどんな難局も突破できると信じうる子どもたちを無垢と呼んでいいのか無知と言っていいのか。[more]「奇跡」を起こせるとしても、エティエンヌ自身にはずっとプレッシャーだったことだろう。最後はうまくまとめたと言えばそうだけど、ちょっとできすぎな感もあり。
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児童書だけど、ちゃんと皆川博子の歴史ロマンものだし幻想小説だった。悪魔サルガタナスと青い蝶の描写のなんとも言えない美しさ、ジャコブとドミニクのやり取りなど大人サイドの話をもっと掘ったら完全にいつもの皆川博子になるんだろうな…
少年十字軍自体が史実とのことで驚いたけど、興味深い。 -
面白かったです。
13世紀のフランスで、神の御告げを受けたエティエンヌを中心とした子供たちがエルサレムを目指したという史実を元にしたお話でした。
児童書になるのか、皆川さんにしては毒や闇は少なめでしたが引き込まれました。
エティエンヌやルー、アンヌという初期の子供たちを取り巻いたり阻んだりする大人たちの思惑が醜く残酷なのですが、この混沌とした時代には仕方ない事だったのかもと思いました。歴然と身分の差があって重税に苦しんで。
記憶を無くしているガブリエルがとても好きな登場人物だったのですが、彼が到達する「神はおわさぬ。教会も聖職者も、巨大な嘘にほかならぬ」という「真実」が重く垂れ込めます。
死とは〈無〉。壮絶な虚無。でもそこには、命が満ちている。。
皆川さんはやっぱり、児童書でも容赦なくて良かったです。毒や闇は少なめでも、無くはないので。 -
テンポ良く、さくさくと物語は進む。
しかし彼らの行軍は、決して順風満帆ではない。
虚と実、現と幻が入り乱れ、視点も目まぐるしく入れ替わる。
現実に存在したという少年十字軍を下敷きにした、どことなく幻想的な作品。
そんな物語を素直に楽しみつつ、純粋さとは何か、信仰とは何か、奇跡とは何か。
そういったものについても、改めて、深く考えさせられる良書でした。