([み]5-1)少年十字軍 (ポプラ文庫 み 5-1)

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (379ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591144626

感想・レビュー・書評

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  • 13世紀フランス。
    天使ガブリエルから「エルサレムへ行け」という天啓を下された少年エティエンヌが、聖地を目指して十字軍を率いる物語。

    特別な力を持つことで、平穏無事な生活を失ってしまうことの哀しさが漂う。
    純粋な子供たちと、彼らを私利私欲の対象としてしか見ていない狡猾な大人と対比がえぐい。

    何を目指し、歩むのか。
    結末を予想出来て尚、エティエンヌたちを愛おしく感じることがこの作品の要であるように思う。

  • 史実に基づいた物語。

    少年十字軍という存在を初めて知った

  • 少年十字軍の悲劇を知っていれば
    この子達にどんな結末が待っているのか
    それを作者がどれだけ耽美、爛れた
    退廃的な世界に描くのかと思いながら
    読んでいったのだけど。。。
    神への信仰を表面にあらわしながら
    俗な人間の欲にまみれ浸りきった大人たちに
    (あぁ大人の世界を縮小版で濃縮している
    レイモンにもか)利用され、試され、裏切られ、
    翻弄される子供たちが、ただ一心に信じている
    苦難からの解放、自由な世界、導いてくれるはずの
    エティエンヌ。
    染まって汚れたものも、純粋なものも、全て背負い
    その身を削りながらたどり着く先は。
    ぜひ読んで、余韻に浸ってみてください。

  • 何とも冷静であり、シニカルな小説だと思った。

    そして最後まで、「神」と「奇跡」の正体についての謎が明かされていない。
    結局、発端となる事件の真相については、それが人為的に仕組まれたことなのか、それとも本当に神による奇跡なのか、断定的には書かれていない(と私は読んだ)。
    その正体が最後まで巧妙に隠されていて、まるでミステリー小説のようにスリリングですらある。

    見ないで信じる者は幸いである。

    それならば、見た上で、それでも信じ続ける者はどうだろう? 哀れだろうか? 不幸だろうか?

    神はいるのか?
    奇跡は誰が起こしたのか?
    分からないけれど、少なくとも歴史を作り出したのは人間だ。

  • 中世ヨーロッパ、エルサレム奪還のための十字軍遠征がさかんに行われた時代、羊飼いの少年に率いられた子供たちばかりの十字軍が存在したという史実をベースに、さまざまな登場人物たちの思惑が錯綜する皆川ワールド全開の長編。

    神の啓示をうけたという羊飼いの少年エティエンヌ(12歳)を筆頭に、序盤から彼につきしたがう子供たちは下は7歳から上は13歳まで。のちに加わる助修士のドミニクとジャコブでさえ15歳。彼らに対抗するように自ら十字の焼き印をつけて救世主たらんとする領主の息子レイモンもまた14歳の少年にすぎず、虚栄心の塊だけれどある意味彼はまだ純粋。

    そんな子供たちに比べて大人たちは皆一筋縄ではいかない腹黒さ。レイモンに従う騎士ベルトランはまだしも、聖職であるはずの修道士たちや、裕福なはずの領主や貴族さえ信用できない。そして記憶を失っている謎の男ガブリエル。

    ガブリエルが幻視する悪魔など、随所に幻想的なシークエンスもちりばめられているけれど、エティエンヌの行う奇跡は、たまたま目覚めてしまった治癒能力以外は、実は周囲が作り上げた眉唾もの。控え目で優しいけれど私欲がないゆえ流され体質なエティエンヌよりも、野生児のルーや、得体が知れないところがありながらも頼りになるドミニク、読者の視点にいちばん近い普通の子ジャコブなど、脇の子供たちが個性的で面白い。

    最終的に彼らは思いがけない人物の裏切りでグロテスクな試練に立たされるのだけれど、その乗り越え方、そして記憶を取り戻したガブリエルと子供たちの再出発で終わるラストはとても良かった。宗教的モチーフを扱っていても神秘や奇跡をクローズアップするわけではなく、どちらかというと危機を乗り越える力になるのは少年たちの信頼関係と機知なところも好きでした。

    解説:三浦しをん

  • エティエンヌがいればどんな難局も突破できると信じうる子どもたちを無垢と呼んでいいのか無知と言っていいのか。[more]「奇跡」を起こせるとしても、エティエンヌ自身にはずっとプレッシャーだったことだろう。最後はうまくまとめたと言えばそうだけど、ちょっとできすぎな感もあり。

  • マルセル・シュオッブに続けて読もうと決めていた。
    ブックカバーをかけようとして気づいたけど、ポプラ文庫なかなかお洒落だ。しかし「ついに辿りついた最高傑作」の煽りは余計なお世話では。

    13世紀の歴史的事件を描く幻想歴史小説。年代記でも散文詩でもない、汚れくたびれながら地を踏みしめて辿る長い旅路のお話。語り口は比較的易しいながら、無垢な子どもたち、信仰心を利用する教会勢力、その腐敗を目の当たりにする修道士、虚栄心の虜となって暴走する貴族の子弟など、様々な登場人物を配して重層的に広がっていく。醜さと美しさを同じ熱量で描ける著者の筆力が光ってとても魅力的。
    エルサレムを目指す物語でありつつ、その描き方が感動や賛美に偏らない、ある意味残酷に公平なところがポイントであるかも。エティエンヌがなす奇跡には疑問符がつけられる(ドミニクが言っていたのはてんかんの発作か)うえ、一部の子どもは「大人はずるい」を読者に共有させる。そして子どもを犠牲にするのは大人であるからして……。
    純粋な懐疑、自由意志による選択、幸福の希求が照らす「生きること」の問いがこの物語なのだと思う。そんなわけでラストシーンがとてもよかった。平和の国を目指す旅路が回帰する先に胸を打たれる。
    ドミニクがジャコブに行う告白は幾分唐突に思えた。これを掘り下げると別の物語になるのだろうか。

  • 児童書だけど、ちゃんと皆川博子の歴史ロマンものだし幻想小説だった。悪魔サルガタナスと青い蝶の描写のなんとも言えない美しさ、ジャコブとドミニクのやり取りなど大人サイドの話をもっと掘ったら完全にいつもの皆川博子になるんだろうな…
    少年十字軍自体が史実とのことで驚いたけど、興味深い。

  • 面白かったです。
    13世紀のフランスで、神の御告げを受けたエティエンヌを中心とした子供たちがエルサレムを目指したという史実を元にしたお話でした。
    児童書になるのか、皆川さんにしては毒や闇は少なめでしたが引き込まれました。
    エティエンヌやルー、アンヌという初期の子供たちを取り巻いたり阻んだりする大人たちの思惑が醜く残酷なのですが、この混沌とした時代には仕方ない事だったのかもと思いました。歴然と身分の差があって重税に苦しんで。
    記憶を無くしているガブリエルがとても好きな登場人物だったのですが、彼が到達する「神はおわさぬ。教会も聖職者も、巨大な嘘にほかならぬ」という「真実」が重く垂れ込めます。
    死とは〈無〉。壮絶な虚無。でもそこには、命が満ちている。。
    皆川さんはやっぱり、児童書でも容赦なくて良かったです。毒や闇は少なめでも、無くはないので。

  • テンポ良く、さくさくと物語は進む。
    しかし彼らの行軍は、決して順風満帆ではない。
    虚と実、現と幻が入り乱れ、視点も目まぐるしく入れ替わる。

    現実に存在したという少年十字軍を下敷きにした、どことなく幻想的な作品。
    そんな物語を素直に楽しみつつ、純粋さとは何か、信仰とは何か、奇跡とは何か。
    そういったものについても、改めて、深く考えさせられる良書でした。

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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