無月の譜

著者 :
  • 毎日新聞出版
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620108568

作品紹介・あらすじ

戦死した天才駒師がのこした〈幻の駒〉はどこへ? 将棋の駒に命をかけた若者・玄火が遺した傑作〈無月〉を追う青年の旅。心震える希望と再生の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 将棋のことなど全く知識はないがとても面白く読んだ。勢い、流れに乗ってシンガポール、マレーシアからニューヨークへ渡航するところはわくわくした。大叔父のことを知りたいとかつて関わりのあった人を訪ねる箇所でどんどん明かされる大叔父の生き様が心を打たれる。本当にこういう人がいたからこそ今概ね安穏とした世の中になっているんだなと思う。
    英語がそんなに得意でないといいながらもまぁまぁな英会話で切り抜けていくところがちょっとかっこよすぎるではないか(笑)

  • 将棋に打ち込み、奨励会三段まで進んだものの、年齢制限までにプロになることが叶わなかった青年が、若くして戦死した大叔父が将棋の駒職人だったことを知り、その遺品となる幻の駒を追い求めて旅する長編小説。

    著者の小説を初めて読んだ。もっと難しい純文学を書く作家だと思っていたら、意外にもわかりやすい。が、エンターテインメントとしては、展開が持たつき過ぎていて、正直長かった。
    主人公が50歳近くなってから、20代半ばの思い出を回想するという入れ子の構成もあまり必要性が感じられなかったが、著者は本当に将棋が好きで、特に藤井聡太八冠への感銘が大きいんだろうな、ということは伝わってきた。

  • 青年の挫折からスタートした物語は、やがて将棋の駒の行方を追う探求の旅となって、シンガポールからマレーシア、そしてニューヨークへと経巡りながら、その道行に同行しているかのような錯覚を読者に起こさせる。
    小説家のいうものは、いかに「上手に物語るか」ということにすばらしく長けた人たちなのである、ということをあらためて実感させられた。

  • 奨励会に在籍していたもののプロ棋士になれなかった小磯竜介男性が、ふとしたとから太平洋戦争で戦死した大叔父が将棋の駒を作る職人だったことを知り、彼のことを調べ始める。そのなかで、大叔父が独自に書体を編み出し創り上げた幻の駒があることを知り、探索は海を渡りシンガポール、マレーシア、アメリカへと舞台が広がる。

    将棋に関しては全くの無知で、ニュースで藤井聡太さんや羽生善治さんの活躍をすごいなーと思う程度。親族には鼻つまみ者だった大叔父の隠された真実、人生を追うミステリー的な要素に興味を持って読み始めた。

    正直、将棋に関しての部分はちんぷんかんぷんで、流し読みになってしまったところが多いのだが、知られざる世界を知る楽しみもあった。
    小磯によって少しずつ明かされていく大叔父の真実にページを繰る手が止まらなかった。
    シンガポールでは先の大戦で日本軍が現地の人々にした仕打ちにもさらりと触れられており、このような事実は決して忘れてはならないと思った。
    小磯の大叔父もシンガポールで戦死しているが、遺骨は見つかっていない。

    現地で暮らす勝又が語る思いに深く共感した。
    『あの戦争が本当に「義」のある戦争だったのかどうか、ぼくにはよくわからないけれど、しかしともかくあの当時、戦争にとられた若者たちは、少なくともその大部分は政府の鼓吹する大義を信じ命を賭けて戦った。その結果がどうであれ、彼らの死を無駄死とは決して思いたくない。そんなふうに片付けられたら、あまりに可哀そうだ。彼ら一人一人の死のおかげで、ぼくらの今この生活が可能になっている、彼らの死という礎石のうえに、僕らの生活が築かれていると思う』

    わたし自身近年父を亡くし、父の人生って何だったんだろうと考えることが多かった。父の努力、悲しみ、嬉しさ、様々な行為や想いは、決して消滅していないし、この世界の、少なくともわたしたち家族の生きる基盤となっている。わたしの知らないご先祖、血縁のある人々が懸命に「生きた」ことが、わたしたちが今、無事に暮らせている礎石になっているんだと、思いを強くした。

  • 2023.4 かなり硬派な文体だなと思っていたら、作家の略歴見てなるほどな、と理解。いい小説でした。

  • OPACへのリンク:https://op.lib.kobe-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2002313208【推薦コメント:将棋棋士を目指しながら夢破れたという設定の主人公。今将棋がブームになっているので厳しい将棋の世界のことも、将棋の魅力も伝わるだろう。】

  • かつてプロ棋士を目指すも、26歳までにプロデビューできず奨励会を退会、棋士になる夢を諦めデザイン会社に就職した小磯竜介。ふとしたことで何十年も前に戦死した大叔父が駒師であったことを知り、彼が残した幻の駒(玄火作・無月書)を探し出すために、アジアからニューヨークまで旅をすることになり…。

    将棋の世界については『3月のライオン』で知れる程度の知識しかないまま読み始めたけれど、むしろそれで充分だった。主人公が将棋の世界で上り詰める話ではなく、若くして戦死した会ったこともない大叔父の人生を追跡する物語となっており、一種のロードノベルとして読める。

    親戚の間でもタブーとなっていた大叔父の話、彼が犯した若き日の過ち。しかしそこから立ち直り、やがて駒師としての修業を積み、生き生きとした青春を送るようになるまで、現代を生きる主人公は、大叔父と同世代の彼を知る老人たちとの対話・交流を通して追体験していく。この老人たちが皆魅力的でとても良い。

    やがて主人公は、手がかりを掴み、大叔父が戦死したフィリピンへむかう。そこからは、手がかりを掴むたびに「実は駒はすでに〇〇に…」の繰り返しで、どんどん遠くに連れていかれる。そしてついにその駒をみつけだしたとき、竜介のくだした決断は…。

    人生で、何を残せるかについての物語だったように感じた。無名のまま戦地で亡くなり遺骨すら戻らなかった若者に、確かに青春や恋があり、彼が残した駒は現代を生きる人々に受け継がれていた。確かに彼は生きていた。その事実が、挫折を抱えた主人公のことも救う。松浦寿輝らしからぬ(?)意外なまでにストレートな感動作でした。

  • 戦死した大叔父が将棋の駒を作る駒師だったという設定で,大叔父の足跡を辿り,存在するかもしれれない駒を求めて旅をする.
    この作家の方,昔は難しい小説を書いていなかったかしら.
    この小説は新聞連載小説らしく無駄な文章もあるけれど読みやすいエンタメ系小説.

  • 元奨励会員の主人公が、駒師の大叔父が残した将棋の駒を探す物語。細い糸のような人の繋がりで次第に近づいていく過程はとても面白く、飽きずに最後まで読んでしまった。まったくよくしらなかった将棋の駒に興味を持てました。

  • 私にもどこにしまったか見つからない将棋駒がある。

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著者プロフィール

1954年生れ。詩人、作家、評論家。
1988年に詩集『冬の本』で高見順賞、95年に評論『エッフェル塔試論』で吉田秀和賞、2000年に小説『花腐し』で芥川賞、05年に小説『半島』で読売文学賞を受賞するなど、縦横の活躍を続けている。
2012年3月まで、東京大学大学院総合文化研究科教授を務めた。

「2013年 『波打ち際に生きる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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