銃を置け、戦争を終わらせよう 未踏の破局における思索

著者 :
  • 毎日新聞出版
3.57
  • (2)
  • (6)
  • (4)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 59
感想 : 11
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620327839

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 仕事の現場:作家 高村薫さん 書くことは考えて生きること | 毎日新聞(2019/8/11)
    https://mainichi.jp/articles/20190811/ddv/010/040/002000c

    銃を置け、戦争を終わらせよう 高村 薫(著/文) - 毎日新聞出版 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784620327839

  • 2021年6月~2023年6月までの時事をとりあげた週刊誌連載のコラム集。ウクライナ紛争が最も大きな事件でありこの書籍名なのだが、これだけを深く掘り下げていくものではなく、アフターコロナ、オリンピック談合、敵基地攻撃能力保有、入管法改正、LGBT理解増進法、こども家庭庁、原発再稼働、食糧危機などを切り口に、政府や官庁、財界など、社会の支配層の行いに向けて舌鋒鋭く切り込んでいくものだ。著者はこういった社会時評を途切れることなく著し続けているが、文章を世に送るのは作家だからだとしても、社会の支配層に対して常日頃監視を怠らないのは、それが市民としての責務であるからと考えているからだろう。ともすれば上のものに従うことが美徳という慣習の強い日本人ではあるが、指導者を選ぶと同時に指導者の行いを監視し、誤っていることがあれば批判もする、それこそが民主主義の本質であり、著者はそのことを同じ市民であるわれわれ読者に自ら行動で示しているのだ。しかし初期の頃の時評集と比べると、本作には著者が社会に向けて抱いている無力感のようなものを強く感じてしまう。それは人間の社会の運営が限界にきていること自体による無力感というよりも、国内では安倍元総理以降顕著になった詭弁と強弁がまかりとおり、憲法違反のような事案を閣議決定で決めて押し通すことが可能になった国会の死であり、海外では国連の安全保障理事国の常任理事国当事者が戦争をおっぱじめ誰にも止められないという、議論の死、道理の死という現実にこそあるのではないかと思う。つまり道理が崩壊した世界にあって、物書きが理性に訴えるという行為に対する無力感のようなものを感じるのだ。人間同士が理性で分かり合えないなど世も末であるが、これまでの歴史の中で人類は何度となく「世も末だ」と言ってきたわけだ。いつかは変わることができると信じて、読書などを通じて知見を深め問題意識を持ち、著者と同様に社会へのまっとうな批判精神を持ち続けていきたいと思う。

  •  前著『作家は時代の神経である コロナ禍のクロニクル2020→2021』は、コロナ禍を振り返るのに最適だった。https://booklog.jp/users/yaj1102/archives/1/4620326941  その続編だ。期間は、前著の直後から今年(2023年)の6月まで。
     コロナ後の世相、オリンピックを迎えた前後を俯瞰できることのみならず、今度はウクライナ戦争勃発と、著者が目くばせしなければならないことが次から次へと起こる。「時代の神経」も、休まる時がない。

     今思えば、まだコロナ禍のほうが、市民目線の記述や、日常生活の変遷なども面白かったが、もう、時代は、そんなことを書いている場合じゃない、という雰囲気が漂う。

     それでも、世を見据え、世間の狂騒に紛れ見逃してはならないことがらに、しっかり焦点を当てている冷徹な意志をこの期間も感じられる。オリンピックの渦中も、看過してはいけないこととして、法人税の最低税率導入とデジタル課税の導入や、子宮の生体移植に臨床研究実施承認、2025年度に基礎的財政収支を黒字化という怪しげな財政試算公表、温暖化の影響は数千年続くと予測した国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書、等々を挙げる。

     そして、2022年2月以降は、ロシア・ウクライナ問題に触れることが俄然増える。
     当初から、「米ロがそれぞれに腹に一物を抱いて事態を演出しているという意味では、ある種の情報操作に近いと言えるかもしれない」。「私たちはよほど用心して日々のニュースに接する必要があるということである」と、報道の鵜呑みに警鐘を鳴らしている。慧眼。
    「どちらが正義ということはなく、私たちは所詮、国家が演出したストーリーに乗せられてどちらかの片棒を担がされているに過ぎない」と語り、「どちらか一方への肩入れや制裁ではなく、即時停戦の働きかけで、世界は一丸となるべき」と、至極真っ当な意見を述べている。

     そして、そんなキナクサイ世界情勢下、
    「2022年は将来、日本が軍事大国に舵を切った年として記憶されるのは間違いない。」という、2023/1/23の記事は丸々メモして残しておきたい。

     その他、この間に目立つ指摘は、「日本の一人敗け」という点か。経済や、少子化対策、移民対策、半導体施策 etc. etc.. なかなな耳の痛い直言が非常に目立った。

     この後は、生成AIなど、暴走を始めた科学技術への警鐘も増えてくるのだろう。引き続き、時代の神経たる作家の視線の先を注目していこう。

  • 日々の目先の忙しさに追われて無関心で済ませてきたあれこれが、高村さんの冷静な視点からクリアーに照射され白日の下に。2024年は、普遍的な原理原則と物事の道理を失わず、日々のニュースに追われず「スマホを閉じて情報を遮断し足下の生活に専念することで理性を磨く時間」を持つことに努めよう。それにしても、ここまで日本も世界も劣化していたのか。毎回のことながら、高村さんのまとめた時事評論、唸らされる。大したものだ。

  • 久々の高村薫、初めての高村コラム集。

    こういう硬派な政治への意見、少し前までは世の中にいっぱい溢れていたように思う。新聞にしてもテレビラジオにしても、市井(床屋談義や呑み屋の論客)にも、こういう風に情勢を憂い考える習慣が途切れたのはいつからだったのだろう?

    日本が貧困化した原因には複合的な要素が絡まっていて、そこからの脱出もまた、一筋縄ではいかないのかもしれない。でも俺たち一般人が絶望して考えるを諦めることは、良くない傾向を助長するんじゃないかと思う。

    政治や経済の動向が今の方向でいいのか考えること、違和感を感じたら改善できるのか考えてみること、その中で微力でも自分には何ができるのか検討してほんの一歩でも実践してみること。

    絶望に身をゆだねて「適当でエエわ」と考えず行動せずにいた30年の結果が今の絶望感と貧しい日本なら、絶望に抗い考えちょっと行動してみてもいいんじゃないか。

    汚職まみれのクソじじいどもと心中する運命に、ちょっとくらい抗ってみたらどうだ?と高村薫は言っているのだと思う。

  • 2021年6月から2023年6月の2年間で、世界ではウクライナ紛争が、国内では集団的自衛権の行使は可能になるは、あまつさえ原発に回帰までしてしまった。
    有権者の無力感を思い知らされる出来事ばかりだ。そんな中で普遍的な原理原則と物事の道理で、世相を見つめる高村先生を倣いたいものだ。

  • その時々の時事問題に対して、高村さん怒り爆発の週刊誌辛口コラムをまとめた本。

    ただ、時事ネタなので古い内容のものもある。出版が2023年なのに、ロシアがウクライナに侵攻しそうだとか、眞子さんが結婚することについてや、国民の多数が反対しているのにオリンピックを開催するのか、といったことに怒りを爆発させている。
    また新聞やテレビのニュースなどを見たり聞いたりした事に対して、思った事や考えたことを述べたものなので解析や深堀をするものではない。どちらかというと問題提起の立場なのでしょう。

    時事問題を対象にしたコラムであるならば、書籍というより新聞や週刊誌でリアルタイムに読む方が受け入れやすいと思う。書籍とするのであればその後の経過や深堀した内容を追記してほしいと思ってしまった。

  • 星3つと半分。
     高村さんといえば、30年前に「マークスの山」を読んで以来2冊目だ。
     日本を含めた国際情勢をわかりやすく書かれている。にもかかわらず、心ここにあらずみたいにして読んでしまった。これは読む側に政治経済にもうひとつふたつと関心が浅いことが起因している。でも、経済政治を関心を持つことの大事さとその面白さももたらせてくれた。この本を契機に今後は経済書を読むことを心掛けたいと思う。

全11件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

髙村薫の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×