昨日の世界〈2〉 (みすずライブラリー)

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (671ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622050353

作品紹介・あらすじ

世紀末ウィーンで名声の高い詩人、作家、音楽家たちの作品に魂をゆすぶられて育った若きツヴァイクは、ウィーン大学を卒えてベルリン大学に学び、パリ、ロンドンをはじめ、各国を旅行しながら知識人との交流をくり返す。早熟な少年時代に出会った天才ホーフマンスタールの衝撃にはじまり、ヘルツル、リルケ、ヴェルハーレンとの交友、二つの大戦の同時代人であったロラン、ジイド、ヴァレリー、トーマス・マン、バルトーク、フロイト、ゴーリキーら知識人との回想を織り交ぜつつ、本書は、人類の偉大と悲惨をあますところなく伝える。

感想・レビュー・書評

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  • ツヴァイクの自伝の第二巻は、第一次対戦に接し彼が平和主義者として活動し始めるところから、1939年9月1日に亡命先のイギリスでドイツによるポーランド侵攻の報を受けるところまでが収められる。
    人間同士の信頼や敬意や友愛といったものが悉く踏みにじられ、祖国が消滅させられる過程が綴られている。彼が信じ愛したヨーロッパへの鎮魂の書。一巻にも増して読んでいて胸が苦しい。けれど最後の文章から察するに、彼は世界をも人間をも見限ってはいないのだ。ただ彼の気力は尽きてしまった。
    本書を著してから1942年に自ら命を絶ったツヴァイクを、弱いとか逃げたとか言って非難できるだろうか。この優しいひとを。彼は全精力を傾けて後代のわたしたちのために記録してくれたと思う。飾らずとも薫り高い筆致でここに書かれた、オーストリアを、ヨーロッパを打ち砕いた恐ろしい暴力に、今改めて震撼する。

  • 意地の悪い言い方をすれば、ひたすら「昔は良かった」という内容だが、オーストリア系ユダヤ人として、第一次大戦で祖国が凋落し、その後はナチス・ドイツに蹂躙され、自身も迫害を逃れて亡命するような人生であれば、昔が懐かしく、今に絶望もするだろう。ツヴァイクは、第二次大戦の行く末を見届ける前に服毒自殺している。

  • 両大戦とその間の束の間の平和。その時代のヨーロッパのオーストリアのユダヤ人であったツヴァイクの日々の記録は、歴史の授業で教えられるような年号ごとの出来事やのちの世代の評価が反映せずにはいられない政治的な出来事とは違った、起こり続ける出来事に対するその時代の知識人のリアルな心の動きを教えてくれる。文章もわかりやすくすらすらと入ってくるのは元の文章の力に加えて翻訳の力も大きく寄与していると思う。


    第一次大戦による古き良き貴族的なヨーロッパの終焉は列車で逃げ出すハプスブルク家の最後の皇帝カールへの淡々とした哀惜。ハイパーインフレも戦争の日々に比べればはるかにマシなものとして逞しく生きる人々。大戦間の平和な時代に広がる交流と友情。最初は取るに足らないと思っていたヒトラーがいつの間にか本当に力を持ち、あり得ないと思っていたことがどんどんと起こっていく。リヒャルトシュトラウスの巧みな処世術も阻まれる。後の時代からは貶されるネヴィルチェンバレンのミュンヘン宥和への期待感。晴れた9月の朝に伝えられるドイツのポーランド侵攻。そして一旦は光があるからこそ影があり、両方を知ることで世界の意味がわかる、というような思いで作品を締めながらも、そんな世界で生きていくことをやめることを選ぶ。


    30年ないし40年も心のなかに抱いていた世界に対する信頼を、わずかに二、三週間のうちになくしてしまうということは難しい。権利に対するわれわれの考え方に基づいて、われわれはドイツの、ヨーロッパの、そして世界の、良心の存在を信じ、ある程度の非人間性は存在しているけれども、それはいつでも人間性の前には自滅する、と確信していた。私はここでできるだけ誠実であろうと試みるゆえに、次のことを告白しなければならないが、1933年、また1934年においても、われわれはみなドイツおよびオーストリアにおいていかなる時にも、それから後幾週間も経たぬうちに勃発することになったことの、百分の一をも千分の一をもありうるとは考えていなかった。 シュテファン・ツヴァイク 昨日の世界2 p538

  • 著者自らが語る伝記的な内容。世界大戦当時の状況が生々しくわかる。

  • Ⅱ巻は涙なしには読めない。第一次世界大戦下、ツヴァイクは作家としてロマン・ロランはじめ「異国の友ら」と国民間の憎悪や戦争の非道と戦った。大きな影響は及ぼさなかったかもしれないが、この時代には詩人や作家の発言に対する信頼がまだあった。第二次世界大戦では扇動と宣伝、虚偽と暴力に飲まれ、発言すら自由にできなくなった。コスモポリタンとして自由を愛したツヴァイクにはあまりに生きがたい時代だった。
    ユダヤ人だった彼はあらゆる権利を奪われ、著書は焼かれる事態となり、イギリスに亡命する。若いころは国境など気にせずに移動ができ、異国の文化と交わりながら見聞を広めた。いつの間にか国境は囲われ、旅行をするにも旅券や査証、許可証、紹介状、あらゆる書類が必要になった。万人が外国人に不信感を持ち、異物のように扱った(これは現代にも続いている)。ツヴァイクはこのような情勢を屈辱に感じてもいた。そのような中で、ついに自らの国籍が否定され、故郷を奪われたのだ。コスモポリタンなのだから、もともと国籍などに重きを置いてはいなかったが、それでもアイデンティティの否定は彼の望みも自信も削っていった。
    ツヴァイクはもともと、敬虔なユダヤ人ではない。オーストリア人として生まれ、自身をコスモポリタンとして育てた。敬虔なユダヤ人であれば、迫害も宗教的意味のある苦難として意味付けできたかもしれないし、シオニストにもなれたかもしれない。
    しかし、彼はユダヤ人でもなければ、オーストリア人でもなく、ドイツ人でもなく、あくまでもコスモポリタンだった。社会の変化により、国境や民族という概念が凝り固まってコスモポリタンとして生きられなくなり、ユダヤ人であることを理由に国籍までも失い、精神の寄る辺をなくした。結果として、力尽き、自ら命を絶ってしまったが、「長い夜の後になお曙光を目にすること」を信じていたのだと思う。
    ツヴァイクの大切にした「個人の自由」の下で苦しむ者もいたに違いなく、本書が見せるのはあくまで裕福な家庭で十分な教育を受けた者の視点の「ヨーロッパの終焉」ではあるが、人間の尊重、他者への敬意、信頼と協調を重んじる立場には時代も地域も超えた普遍性がある。彼の苦しみの原因を「昔あった悲惨なできごと」で済ませられないのが一番おそろしい。ツヴァイクの遺した記憶を受け取り、冷笑や諦念に飲まれることなく、できることを積み重ねたいと思う。
    平和など理想にすぎないのではないか、現実に差別などなくならないのではないかなどと、気にしてはいけない。自分にできることを淡々と行うのみである。

  • 歴史
    思索

  • 第一次世界大戦後のオーストリアの窮状と復興から、第二次世界大戦勃発まで。
    文筆家ツヴァイクの名が最も知られ活躍した時代でもあった。

    後半はほとんど胸がつまって苦しいものの、ものすごく筆が冴えていてとても面白く読めてしまい、言いようのない畏敬の念をおこさせる。

    何よりも価値をおいた自由であることのために著者は命を絶ったと考えていいんだろうか。

    もう過ぎ去った時代ではなく「昨日の世界」とは、いつでも今日でありうると思わずにはいられない。

    エピソードのひとつ、トルストイのお墓を訪れた時の感動が清らかに伝わってきた。

  • な、なんか、、
    まさに今日の世界を見ているようで 危機感がつのる
    ツヴァイク氏の人柄に惚れる グランドブダペストホテルのコンシェルジェが愛されたように皆がツヴァイク氏を愛し 彼の残したものを忘れずに伝えていかなければならない

  • ツヴァイクの緻密で細やかな文体が終わりに近づくほど重々しく悲痛なものになっていく。国際的な平和主義者にとってこの時代を生きるということはかなり辛い事だったんだなとその文章を読んでいると感じられた。

  • ヨーロッパ統合を求めた平和主義者による、喪われていくヨーロッパ、ドイツ語圏、オーストリアの回顧録。二巻では、ヒトラーの台頭、第二次世界大戦の開戦という激動期の日々を回顧する。
    作者は、第二次世界大戦の終結を見ることなく、疲れ果て、1942年、ブラジルにて、妻と共に服毒自殺。「私は、この性急すぎる男は、お先にまいります。」と遺書に書き残して。
    2014/06/23記

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著者プロフィール

シュテファン・ツヴァイク(Stefan Zweig 1881–1942) 
1881年ウィーンのユダヤ系の裕福な家庭に生まれる。ウィーン大学で学びつつ、作家として活動を始める。第一次世界大戦中はロマン・ロランとともに反戦活動を展開。戦後は伝記小説等で人気を博しながら、ヨーロッパの人々の連帯を説く。ヒトラー政権の樹立後、ロンドンに亡命し、さらにアメリカ、ブラジルへと転居。1942年2月22日、妻とともに自殺。亡命下で執筆された自伝『昨日の世界』と、死の直前に完成された『チェス奇譚』(本作)が死後に刊行された。

「2021年 『過去への旅 チェス奇譚』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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