奴隷船の歴史

  • みすず書房
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622078920

作品紹介・あらすじ

奴隷貿易が続いた400年の間に、1400万人を超える奴隷がアフリカから大西洋を南北アメリカに運ばれ、プランテーションの無賃労働者となった。
アトランティック・ヒストリーの第一人者にして海賊の専門家、マーカス・レディカーは、この身の毛もよだつ最悪の悲劇を、前代未聞の視点から語り、わたしたち読者を奴隷船の現場に連れて行く。
レディカーがここに再現させるのは、怪物的な「浮かぶ地下牢」と、運搬中に200万人が命を落とした、恐怖の「中間航路」である。飢餓と、病気と、悲運に直面した、奴隷たちの日常、懲罰と拷問の極端な暴力と、蔓延する死である。しかしまた、一触即発の奴隷たちと同じ船に閉じ込められた乗務員たちの恐怖を、きつい階級関係を、水夫と囚人との関係を、歴史家は想起させる。さらに、衝突にも記述を割き、さまざまな言語集団出身の奴隷たちが意思の疎通をはかりつつ組織して立ち上がった血まみれの反乱を、厖大な史料から発見して描き出す。まさに、アフリカン・アメリカン文化の萌芽であった。
奴隷貿易廃止200周年を機に刊行され、ジョージ・ワシントン図書賞をはじめ数々の賞に輝いた、黒い大西洋史の画期的著作。笠井俊和解説「闘う歴史家レディカーと奴隷船研究」

感想・レビュー・書評

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  • 奴隷貿易の歴史書である。人類の歴史には様々なブラック稼業、闇の生業があるが、人身売買は、その最たるものの一つである。奴隷は部族の首長から売り飛ばされた人々に加え、理由もなく拉致された人々もいた。奴隷船は移動する牢獄であり、数百人の奴隷がすし詰めに詰め込まれ恐怖によって統制される地獄の旅だった。奴隷達は様々な形で抵抗した。様々な言語集団出身の奴隷達が意思の疎通を図りつつ組織して反乱を超すこともあった。絶食して自ら死を選ぶ奴隷も大勢存在した(マーカス・レディカー著、上野直子訳『奴隷船の歴史』みすず書房、2016年)。

    奴隷の多くは西インド諸島などのプランテーションで砂糖の生産に従事させられた。英国では紅茶が普及し、紅茶に入れるために砂糖の需要が増大した。それは奴隷労働に支えられているものであった。日本では江戸時代に琉球や奄美大島の砂糖が求められたが、これも薩摩藩による植民地支配の構造がある。一方で讃岐国阿野郡林田村などの讃岐和三盆は村民を豊かにする砂糖生産であった。

    紅茶の茶葉は清国から輸入した。この結果、英国から清国に銀が流出し、英国は貿易赤字となった。この対策として英国商人は依存性薬物で違法ドラッグの阿片を輸出するという卑怯で破廉恥な手段に出た。阿片はケシの実から取った液汁を乾燥させてつくる麻薬である。英国の紅茶文化は人身売買と違法ドラッグ密売という二つの不道徳から成り立っていた。

    さらに英国は清国に阿片を密売するために植民地化したインド農民に前金を出してケシを栽培させた。英国の阿片密売は清国を崩壊させただけでなく、インド農民を従属させ、インドの植民地支配を強化する罪深さもあった。

  • 歴史は過去だが、現在は過去から創られている。
    多くの人の犠牲の上に現在が創られていることを胸に刻んでおくべきであることを痛感させられる力作。
    訳者にも脱帽。

  • 読書日:2016年9月28日-10月5日
    original title:THE SLAVE SHIP. A Human History.

    奴隷船400年の歴史を知る事が出来ます。

    奴隷船に関わった全てのアフリカ大陸の人々、見習い少年、平水夫、航海士、医師、船長、貿易商、国会議員、貴族員等々。
    終始、残虐な行為が書かれています。
    想像を絶する程の行為に時には顔を背けたくなる事もあり、正直何度かは読むのを止めようとしました。

    一番印象に残った出来事は、アフリカにある王国の末王子が奴隷になった事、少年が生き残った姉と無理矢理引き離された事、名前が不明なアフリカ女性が目を覆われ口を塞がれたまま椅子に縛られて海に投げ込まれて溺死した事、食事を受け付けない理由で未だ言葉も話せない9ヶ月の乳児に鞭を打ち母親に遺棄させた船長の行為です。

    これが存在したからU.Kで産業革命が起こり、U.S.で土地が開拓されたと思うと胸が痛みます…。

  • 長かったー。最終章だけ読んでもよいかも。読み出もある。奴隷船では船長は暴君になる、いつ暴動が起こるかわからない、水夫の死亡率も高い。英国のリバプールは一時期奴隷貿易の一大拠点となって、この町で奴隷貿易廃止運動のための調査を始めた紳士は「町の栄華を危機に陥れる」と見なされて妨害にあったり命を狙われたりした。(経済原理主義は今も同じ。。。)それでも余計奮い立って、奴隷船の間取り図を描いた。船倉にびっしりと寝かされた奴隷を描いた誇張のない静かな絵は社会に大きな衝撃を与えた…。議会では「黒人は奴隷にならなければアフリカで早死にする」とか「イギリスがやらなければ敵国(フランス)がやる」とか議論のすり替えがされて、政治はこのころから変わらないのかなと歴史に学ぶことの大切さを感じた1冊でした。

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著者プロフィール

アメリカの歴史家・市民運動家。ペンシルヴェニア大学で博士号を取り、現在、ピッツバーグ大学歴史学科のアトランティック・ヒストリー特別教授。社会史研究において「下からの歴史」を実践。近世大西洋世界の、船乗り、海賊、奴隷を扱った数々の著作は高い評価を受けている。

「2016年 『奴隷船の歴史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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