帝国の崩壊 下: 歴史上の超大国はなぜ滅びたのか

  • 山川出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784634152137

作品紹介・あらすじ

軍事大国の経済破綻、改革の挫折、政治的緊張感の喪失…。アメリカ覇権の揺らぎ、ロシアの動き、米中「新冷戦」。激動の国際秩序を見通すために知りたい、歴代14帝国「崩壊」の道程を第一線の歴史学・考古学者陣が読み解く。

感想・レビュー・書評

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  • ビザンツ帝国からイギリス帝国までの中世〜近代の帝国崩壊の下巻。
    このシリーズを読んで考えたのは、現代のアメリカと中国の方針。広大な領土を持つ帝国は、当然人種、宗教、文字言語が異なる集団になる。アメリカのように自由を認めることは最初はスムーズな国内管理が可能だが、いずれ個人レベルをきっかけにして不満がぶつかり合うだろう。
    なら、犠牲を覚悟で中国のような同化政策が正しいのか?つまるところ人間の欲得を無くして小国家が乱立する状態が一番平和なのではないか⁈そう考えると人間なんて……

  • 歴史上の超大国はなぜ滅びたのか? 目を引く題名にひかれ手に取ってみた。

    下巻では、ビザンツ帝国、モンゴル帝国、神聖ローマ帝国、ロシア帝国、オスマン帝国、大清帝国、イギリス帝国をとりあげ、それぞれの歴史学者が著述。

    結びの「歴史上の諸帝国とその崩壊過程への展望」鈴木董氏の記述がおもしろい。全体を俯瞰して大きく崩壊のパターンを述べている。

    それぞれ崩壊の仕方は一様ではないが、崩壊の要因は外的要因と内的要因に分けられる。両方複雑にからみあう場合もある。
    ・外的要因が大きい:アケメネス朝ペルシア~アレクサンドロスの攻撃
    ・内的要因が大きい:帝政ロシア~内部からの社会主義革命により

    <類型化>
    ①崩壊型・コア地域を残してバラバラになる
      オスマン帝国~トルコ共和国が残る
      ハプスブルク帝国~オーストリアが残る
      イギリス帝国~植民地を失いイギリスが残る
      ソ連~構成国を失いロシアが残る

    ②分裂型・バラバラになり崩壊
     <ローマ帝国>東ローマ帝国は分裂後1000年続くが、西ローマ帝国の文化的遺産は西ヨーロッパのキリスト教世界へ、ビザンツ帝国は正教の東欧諸国やロシアへ受け継がれる。南部分のエジプト、リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコは7世紀中頃からの「アラブの大征服」により、ほぼすべてイスラム世界に包摂される。ビザンツ帝国の中核だったコンスタンチノープルも1453年にオスマン帝国に包摂されてイスラム化し、そこで完全にローマは消滅した。
     <アレクサンドロス帝国>
      主に内的要因で崩壊。東方征服を終えたアレキサンドロスがバビロニアに帰ったところで死んでしまい、広大な征服地をしっかり押さえうる組織ができておらず、後継者もいなかった。帝国は配下の将軍に分割。セレウコス朝はアケメネス朝の中心部だったイラクとイラン、アフガニスタンを抑えていたが、まもなくシリア以北のほとんどを失い、それも数百年で終わる。かつてのアケメネス朝の中核部はイラン系のパルティア、ササン朝ペルシアが大国化してゆく。エジプトを押えたプトレマイオス朝ではマケドニアの武将が王になったものの、エジプト化してしまった。

    ③版図維持・政体が崩壊後も版図を維持
      清朝(→中華人民共和国)清朝が倒れたあと乱の時代を経て中華人民共和国となるが、清朝時代の版図をほぼ維持している。
      ロシア帝国(→ソ連)ロマノフ朝がロシア革命でたおされるが、看板をロシア正教から共産主義にかけかえて版図を維持しただけでなく、第二次世界大戦後は冷戦期のいわゆる東欧諸国までを従属。「皇帝無き帝国」として大きくなってゆく。

    ○歴史上の「世界帝国」を文字世界で区分
     「文字世界(文化世界)および遊牧世界の諸帝国(概念図)」というのがのっていて、これがおもしろく、なるほど、と頭に入ってくる。縦に時間軸、横に地理軸。図のように分かりやすく書けないが記してみると、
    ・・・・・・・・・・・・・・
     ・ヒエログリフ世界=エジプト新王朝
     ・ギリシア・ラテン文字世界=ローマ帝国
     ・ラテン文字世界=西ローマ帝国、神聖ローマ帝国、ハプスブルク帝国
       海の植民地帝国=ポルトガル、スペイン、オランダ、イギリス、フランス
       ナポレオン帝国(短命)、ヒトラー第三帝国(短命)、アメリカ、EU(ヨーロッパ連合)   
    ・・・・・・・・・・・・・
     ・ギリシャ文字世界=アテネ、アレクサンドロス帝国
     ・ギリシア・キリル文字世界=東ローマ帝国、ビザンツ帝国 
       陸の植民地帝国=ロシア帝国
      ソ連、ロシア
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・  
     ・楔形文字世界=アッシリア帝国、ヒッタイト、アケメネス朝ペルシア
     ・パフレヴィー文字=ササン朝ペルシア
     ・アラビア文字世界=アッバース朝、オスマン帝国
     ・アラビア文字世界=アッバース朝、オスマン帝国
     ・梵字世界=マウリヤ朝、グプタ朝、ヴァルダナ朝
       ムガール帝国
    ・・・・・・・・・・・・
     ・漢字世界=秦、漢、隋、唐、宋、元、明、清、中華人民共和国
    ・・・・・・・・・・・
     ・遊牧民の征服帝国=匈奴、突厥、ウイグル、モンゴル帝国
     
    各帝国の部分は時間をかけて読んでみたい。

    2022.5.12第1版第1刷 図書館

  • 帝国崩壊のパターンは①コアを残してバラバラ②バラバラになり消滅③版図維持の3つに分かれるとのこと。とはいえ、論者によって「帝国」の定義も異なるし、アメリカは「帝国」なのか否か等「覇権国家」との区別も曖昧であり、この種の問題を議論する難しさを感じる。
    ただし「帝国」の問題は現代でも続いている。ロシアはソ連崩壊により版図や人口は減らしたものの、「陸の植民地帝国」の遺産が残っているせいでウクライナ侵攻をしたが、ロシア語を母国語とする「ロシア人」の減少により更なる崩壊の可能性を指摘。他方で中国は一帯一路による「陸のシルクロード」のみならず「海のシルクロード」まで手を伸ばしているのは歴史上初めてとの指摘もあり、現在の両国の動きを歴史に照らし合わせながら考えていく必要性を認識。

  • 上下巻通読。帝国の崩壊も各種パターンがあり、そのまま消滅した例、領土は削られながらコアは残った例、領土を引き継ぎ政体が変わった例など、俯瞰すれば人類史かつ現代史を追う作業にも通じ、本書の意義もそこにある。アメリカも広義の帝国と言えるだけに、分断が重いテーマになりつつある今日、過去の事例からその近未来を予測するのは、ひとつの手法に違いない。古代に滅んだケースについては、例えばエジプト王朝でさえ、ほとんどの人がその歴史に疎かったりするので、読み物的な面白さもあった。アレクサンドロスの大帝国はペルシア帝国を引き継いだものという話は、ペルシアの統治機構が機能していたからこそ、それを襲った者にも有効に働いたわけで、成る程と感じた。とすれば、大王に匹敵するか、それ以上の評価に値する人物もいるわけで、歴史は視点によって色々だと改めて実感。

  • ビザンツ帝国から大英帝国までの興亡がよくわかった

  • 東2法経図・6F開架:209A/Su96t/2/K

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著者プロフィール

1947年生
1982年 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、法学博士
東京大学東洋文化研究所教授などを経て、
現 在 東京大学名誉教授

著書:
『オスマン帝国――イスラム世界の「柔らかい専制」』(講談社現代新書、1992年)
『オスマン帝国の権力とエリート』(東京大学出版会、1993年)
『オスマン帝国とイスラム世界』(東京大学出版会、1997年)
『世界の食文化(9) トルコ』(農村漁村文化協会、2003年)
『ナショナリズムとイスラム的共存』(千倉書房、2007年)
『文字と組織の世界史』(山川出版社、2018年)
『オスマン帝国の解体――文化世界と国民国家』(講談社学術文庫、2018年)
『文字世界で読む文明論――比較人類史七つの視点』(講談社現代新書、2020年)
『食はイスタンブルにあり――君府名物考』(講談社学術文庫、2020年)
『帝国の崩壊――歴史上の超大国はなぜ滅びたか』(編著、山川出版社、2022年)他

「2023年 『オスマン帝国の世界秩序と外交』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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