- Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
- / ISBN・EAN: 9784758411905
作品紹介・あらすじ
わかば銀行から契約社員・梅澤梨花(41歳)が1億円を横領した。
梨花は発覚する前に、海外へ逃亡する。彼女は、果たして逃げ切れるのか―?
あまりにもスリリングで狂おしいまでに切実な、角田光代、待望の長篇小説。
感想・レビュー・書評
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どこで道を間違えたか、一歩逸れると
犯罪者となってしまう。その可能性は、誰にでもあるのではないだろうか。
うちの自治会では、2カ月に1度自治会費を集める。2000円を11件分、22000円。係は約1年に1度だが、全額揃うと
即、会計さんへと持っていく。
正直を言えば、目の毒であり、ーーうちのお金だったらなーーと、必ず思う。
この話で主人公の梨花は、それをやってしまう。
契約社員として銀行に勤務している、
梨花は、仕事帰りに化粧品を買う。その時、手持ちが足りないことに気付き、今
預かってきたばかりの封筒に手をつける。ーーー後で返しておけばいいわーーーと、軽く考えていたのではないか。それが、始まりだった。梨花の家は生活に困ってなどいない。その生活に、足りないものがあったとしたら何だったのか。
ある日、梨花は自分よりひと廻り程、年下の光太に出逢う。ここから先がいけなかった。ーーー少しずつーーー小さな音を立てながらーーー崩れていくーーー銀行のお金を使い始めたーー手を付け始めたというべき
だろうか。光太に逢う為には、偽物の
預金証書も作成した。
すぐにばれる様なものでもーーー
自分は横領をしている、ということに
梨花は、いつ頃気付いたのだろうか。
使い込んだお金が、億という金額を
超えた頃、銀行に監査が入る。
梨花は高飛びした。格安のホテルに
泊まり、なるべく外出を避け、ひっそり暮らした。・・・・偶然、日本の週間誌を
見つけてしまった。自分の記事が大きく
「銀行横領、犯人行方不明」とあった。
梨花は、観念した。
言葉の通じない国で、自首する覚悟を
決めた梨花の心情は、どのようなもの
だったか。その国に、梨花の手配書は廻っていたのだろうか。
国境の検問所へと歩く梨花は、何を思いながら歩いたのか。
ーーー何で、やってしまったのかーーー
ーーーこんなはずでは、なかったのにーーー
もう遅い。
ほんの出来心とは、怖いものだ。 -
お金の価値観は、育ってきた環境で決まるものなのかな、それとも、もともとその人の中にある、資質のようなものなのかな。ううん、きっと、それぞれが絶妙に重なり合うんだろうな。
経済的な困難を抱えて育ってきた人が、梨花や亜紀のようにお金を使う可能性もあるし、お金の大切さを知っているからこそ、上手に、たいせつに使う可能性だってある。ごくごく自然に、裕福な環境で育ってきた人にだって、同様の可能性がある。
お金は、人々に充足感や優越感を与えてくれる。きっと、一度味わってしまうと、抜け出せない、あまいあまい、蜜の味がするんだろうな。
圧倒的な梨花の存在感!一気読みでした◎ -
梅澤梨花(主人公)
人がひとり、世界から姿を消すことなんかかんたんなのではないか
タイのチェンマイに着いて数日後、漠然と考えるようになった。
姿を消す、といっても死ぬのではない、完璧に行方をくらます、ということだ。
「わかば銀行」で営業を担当し、多額の定期預金を集め、支店トップセールスを誇り上司からの信頼も厚かった。ある日魔が差したのか顧客から預かったお金で、高級な化粧品を買ってしまった。後でATMから五万円を引出し返した。自分が今、何をしたのか理解した。それでも罪悪感は不思議となかった。しかし、どうして罪悪感を覚える必要があるのかと自分に問いかけ、働いて稼いだお金だし…。と言い訳をした。
梨花が通っていた学校は、ボランティア活動に学校全体が取組んでいる。
外国の学校に通えない子供たちに、直接寄付をするシステムが導入され、生徒側は自分が、どの国の、何という名の何歳の子供に寄付しているのかわかるのである。お礼の手紙にカラフルな絵や写真までも同封されていたのである。生徒たちは熱狂し喜んだ。
しかし梨花は少しも喜べない。
裕福な家庭で育ち、普通の子供ならとても賄えない金額を支援できる。一通だけ届いた手紙の言葉に『私はあなたがしてくださったことを、一生忘れません』と書いてあったのだ。勿論、誰かに教えてもらった決まり文句である。「たった6歳か7歳の子が、一生忘れてはならないような重荷を背負わせてしまった」。感謝という重荷。と考えていた。彼女の論理が歪んでいることはわかる。
学校はシステムを廃止した。
当時の同級生は、『「思い込みが激しい」でも「のめりこみやすい」でもなく、「正義の人」だった』と評価している。
結婚して専業主婦になった。賢くやりくりし平凡な暮らしを希望したが、夫は仕事で忙しく家庭のことには無関心。夫との淡々とした日常生活や違和感が、家庭より外に出て働くきっかけとなる。
以上が、犯罪に手を染め不倫と横領を犯すまでの「あらすじ」です。
その後物語は、犯罪の手口や動機、自己満足の展開は息継ぎが出来ないくらい早く苦しい。どこまで墜落していくのか、興味はあるがスリリング過ぎてドキドキし眠れない。そして彼女は生き場所を失った。そんな彼女にも生き場所があると思う。それはしばらく安住できる高い塀の向こうかな!
実におもしろい。 -
なぜこんなことになってしまったのか?
あの時こうしていなければ、あの人に出会わなければ、今は全く違っていたかもしれない。
梅澤梨花さんはそう自問しながらも、その考えを虚しく感じている。
それでもやはり私はここにたどり着いたのではないかと。
この本を読んで感じたことはうまく言葉に出来ないことばかりだ。
怖いとも思ったし、分かる気もしたし、そのすぐ後に理解出来ないとも思った。
何人かの顔が浮かび、その人の記憶が蘇り、その日の感情が再現された。
心地いいものも、そうでないものもあった。
何かに気付けそうな、言葉に出来そうな気がして読み続けた。
そして読み終わった時にふと寂しいなと思った。
でもそれは読んでいる時に感じていたこととは全く違う。
掴めそうだったものはいつの間にか消えてしまった。
ただ寂しいなと思うだけ。
この小説に出てくる人達は私と変わらないんだろう。私の周りの人とも。
そのことが寂しい。 -
重たい話だった。
お金はおっかねーとギャグを飛ばして自ら寒さに震えてしまう(笑)
超!庶民なので、こんな風にお金を使う気持ちがいまひとつわからないが、人ってホントに弱いし、誰もが犯罪者と紙一重ってことをひしひしと感じる。 -
こんなにジリジリ息苦しくなる小説は初めて。
冒頭から梨花が一億円を横領した事は明らかにされていて、ゴールが分かっているだけにそこへ少しずつ近づいていく事に焦燥感が募る。
読み終わって深呼吸をして、あぁ、借金が無くて、給料は安いけど買いたい物はそれなりに買える今の生活ってなんて幸せなんだろうとホッとしたりして。
梨花に共感はできないんだけど、圧倒的な悪者ではないところがまた救えない。
この主人公めっちゃ嫌い!!って思えるようなスーパー悪女が男に貢いで自爆する話だったらどれだけ楽か(笑
こういうボタンのかけ違いみたいな事の連続で狂っていく事って人間誰でもあるよなぁ。
梨花と関わりのある人たちの事件後の日常も描かれていることで、それがよりリアルに感じられた。
梨花ほどではなくても、それぞれお金にまつわる事で自分を見失っていったり、他人との関係性が変わってしまったりしていて、梨花とそれ以外の人達がそこまでかけ離れているようには思えない。
梨花が起こした事件は実はそれほど特別な事ではなくて、ありふれた日常の選択の中で偶然落とし穴にはまってしまったようなものなのかもしれない。
周囲の人達が語る梨花の人間像が様々で、つかみ所がないのもまた恐ろしい。
結局梨花自身が自分自身の事を全くわかっていなかった事が元凶なんだろうか。
「何者でもない」というのは「何者にでもなれる」と紙一重なのかもしれない。
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数人の登場人物が切り替わって出て来るが混じり合う事はない。過去に関わっただけ。
しかし、同じような状況に遭遇し、金に振り回される。
ギャンブルに落ちた人も怖いが買い物依存に落ちた人も怖い。
ネットショッピングの昨今、カートに品物を入れずにはいられない、1日数回商品を眺めずにはいられない、タイムセールを利用せずにはいられない、そして多額の請求に追われる日々を過ごす現代人は多い。
古い小説ではあるが、中身は今と変わらない。そして、女は怖い -
怖い。
というのは他人事ではなく、なにかのきっかけで自分もこうなってしまうのかもしれない、と感じるリアルさがあったから。
梨花や亜紀、そして木綿子にもなりたくない。出てくる女性すべてがお金に振り回されていてほんとに怖い話。 -
面白かった!一気読み。私の中で角田作品ベスト3に入る作品。
角田さんて本当に女の心の闇を書くのが上手い。
お金を散在する恍惚感、分かるー!って思ってしまった。大抵の人なら途中でブレーキがかかるんだろうけど、物語ではどんどん歯止めが効かなくなっていく。買い物することでストレスを発散するって女特有なのか。
不可思議だったのは光太の態度。スイートルームに連泊したりマンションや車を買い与える女が銀行でパートしてることに疑問を持たないのか。それとも確信犯か・・・。 -
一度、生活水準を上げてしまうとなかなか元には戻せない。どんどん横領がエスカレートしていく様に狂気を見た反面、誰しもが転げ落ちる可能性があるではないかと恐怖を感じた。
色々参考にさせていただいてます。
宜しくお願いします。
色々参考にさせていただいてます。
宜しくお願いします。