なかなか暮れない夏の夕暮れ (ハルキ文庫 え 2-3)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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  • Amazon.co.jp ・本 (379ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758442817

感想・レビュー・書評

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  • 資産家で本ばかり読んでいる50歳の稔と、彼をとりまく人たちのこまごまとした日常が淡々と進んでいく。
    それと並行して、稔の読んでいる北欧のミステリーが、何の違和感もなく紛れ込んでいる。
    他愛ない日常に、本を読むという行為が含まれていて、面白い構成になっていた。自分も稔と一緒に読書を楽しんでいた。
    登場人物が多いけれど、描写が細やかで、文章がすうっと体に入ってくる感じが心地よく、現実の世界をほったらかして、本の世界に浸るのは最高の贅沢だと思った。

  • ミュージシャン・塩塚モエカさんのために選んだ一冊とは/木村綾子の『あなたに効く本、処方します。』 | 木村綾子の『あなたに効く本、処方します。』 | Hanako.tokyo
    https://hanako.tokyo/column/kimura-ayako/247016/

    なかなか暮れない夏の夕暮れ|書籍情報|株式会社 角川春樹事務所 - Kadokawa Haruki Corporation
    http://www.kadokawaharuki.co.jp/book/detail/detail.php?no=6099

  • 久々の江國香織。初期に比べると、だんだん大人な感じが増してきた感じがする。
    でも変わらない、江國香織感。他人から理解されない、でも本人にとっては至極大切なこだわりや価値観を持つ登場人物達。些細な、でも特別な日常。
    今回はやっぱり雀が好き。

  • かなり戸惑った。
    ん?ん?ん?

    本の中の現実の話と
    本の中の本の中の(笑)話とが
    交差してることにしばらくしてやっと気づいた。

    本の中の現実の話も
    本の中の本の話も
    いろんな登場人物がいて
    とてもややこしかったけど
    なぜか最後まで飽きずに読めた。

    フワフワした感覚
    これが江國香織なのねーと、思った。
    やはり、読書は面白い。






  • 稔が読んでいる海外ミステリーの話が気になって仕方がなかった。みんなそれぞれ自分の人生を生きている中で、稔は終始稔だった。読書に夢中になりすぎて、親友であり税理士の大竹が家にきていることを忘却してしまう、稔。
    読書をしていて、中断するときのまだ本の中にいる感覚、いいなとおもった。
    だけれど、渚が読書は冷たいみたいなことをいってたとき、それもそうだなーと思う部分もあった。
    どちらにせよ、面白かった。
    終始いい雰囲気のお話だった、「はい、お疲れさま」っていうセリフが妙に印象深い。

  • 江國香織さんの小説を読みたいときは、決まって優雅で贅沢な気分に浸り、文字の羅列をゆっくり楽しみたいとき。
    だからこそ、本作はあまりにも多いキャラクターとその各登場人物の視点からアトランダムに生活が綴られ、じっくり人物像やその人の生活を味わえずなんだか不完全燃焼な読後感。

    人によって、人の印象の感じ方が異なるのは面白いし、登場人物をいろんな視点から見えるのも楽しいけれど、やっぱりそうするとダサい部分や解せない部分もたくさん出てくる。
    わがままながら江國さんの小説には、他の登場人物にとって完璧で、欠点があったとしてもその欠点すら愛おしく感じてしまうような彼、もしくは彼女の登場を期待してしまう。(読者の私たちまでうっとりしてしまう、ような魅力あふれる優雅で浮世離れしたキャラクター)

    この作品での一番のお気に入りポイントは、主人公のひとりである稔が小説に没頭するシーン。このシーンは度々登場する。
    小説の文章そのものによって、読書に没頭しているときに他の誰かに話しかけられてぼんやりしてしまう感じとかを、稔と一緒に体感できる。時間の経過も一緒に体感できる感じがする。
    分かりづらいと思うので以下抜粋。

    P.95
    「身体を温めなくちゃ」
    声にだして言い、そのとろりとした赤い液体をリキュールグラスに注ぐ。しかし、ソニアがその酒をのむことはなかった。音もなく近づいた大きくてたくましいイサークが、左腕で背後から彼女を抱え込み(彼の左手が、ソニアの右腕にくい込んだ。やわらかく、肉のたるんだ二の腕に)、一気に喉を掻き切ったからだ。おもしろいほど勢いよく血が噴きだし、床やラグやそこらじゅうを汚すのを、イサークは無言でじっと見ていた。ソニアには抵抗する術も、状況を把握する暇もなかった。
    「エリッ」
    最後に口にしかけた夫の名前すら、最後まで発音できなかったし、どっちみち、自分がなぜこの期におよんでその名を呼ぼうとしたのかも、理解できないままだったろう。
    「愚かな女だ」
    事切れたソニアを床に転がし、イサークは

    携帯電話が鳴り、稔はうしろ髪をひかれながら本を伏せた。吹きだす血が目の前にちらついている。ソニアが日々磨いたという床や窓に囲まれたその部屋の様子も。液晶画面に"じゅんじゅん"表示されているのを目にしてもなお、その光景が頭から去らなかった。
    「元気?」
    淳子は名乗りもせずに言った。
    「どうしてるかなと思って」
    と。
    「元気だよ」
    稔はこたえる。目の前が血だらけだけど。そして、まだ北欧にいるけど。


    すごいテクニックだ。個人的には、『なかなか暮れない夏の夕暮れ』そのものよりも、この作品に登場する創作の小説の内容(特に二つでてくる物語のうち、北欧の暗い物語のほう)が気になって仕方なかった。

  • 山崎ナオコーラのあとがきがすごく良い

  • 小説の中で別の物語が進行するこのような作品を「読書小説」と呼ぶどのこと。 現実と本の中の世界を行き来する感覚、読書好きには分かります。 いつでも中断できてまた再開できるのも読書のいいところですよね。この小説の登場人物達、結構個性豊かで面白い。

  • 読書の話。稔氏のようには暮らせないけど、どんなに裕福であれ、そうでないにしても、生活している以上は、有象無象に阻まれつつ、本の世界と現実の暮らしに折り合いを付けながら頁をめくる。読んでいる間はどっぷり浸っても、次の本に移れば過去の本は曖昧になる。しかしふとした時に、物語は現実に浸食して、奇妙な既視感や、全然関係ないところからつながったりする。……やめられないわよね。

    わたしは、読書は悪癖であるべきだと、思っている。

    しかし、読後も作中作が気になり過ぎた。

  • 江國作品、どういうものが好きなのかちょっとわかってきた。

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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