韓国「建国」の起源を探る:三・一独立運動とナショナリズムの変遷

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  • 慶應義塾大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784766427851

作品紹介・あらすじ

「民主主義国家・韓国」は、三・一独立運動からはじまったのか?

日本・中国・米欧・ロシアを含めたグローバルな視点から独立運動の歴史的過程を丹念に描き、文在寅政権の掲げる「建国」神話を問い直す

三・一独立運動とは、1919年3月1日に日本の植民地支配からの「解放」を目指した朝鮮人らが起こした示威運動である。現在の文在寅政権は、この運動の歴史的評価をさらに高め、1919年を「民主主義国家・韓国」の「建国」年と位置づける言説を浸透させようとしている。
右派左派の衝突が激化し、歴史解釈自体が政治化するなかで、本書はあらためて三・一独立運動を中心とする独立運動史を、世界史の視点から復元する。
「建国」問題の核心・大韓民国臨時政府の樹立、第一次世界大戦において提唱された「民族自決」の影響、日本・中国・米欧・ロシアを舞台にグローバル化していく過程、北朝鮮を生み出した社会主義の可能性と南北分断に着目しつつ、独立運動をダイナミックに描くことで、分裂する歴史認識の溝を埋め、未来への新たな展望を拓こうとする。

感想・レビュー・書評

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  • 東2法経図・6F開架:221.06A/O67k//K

  •  韓国建国で重視すべきは、朝鮮人の運動か米国に与えられた日本の敗戦か。その起源は1919年か1948年か。現在の韓国で進歩派により政治とも結び付いて有力となった「三・一革命論」への著者の問題意識から本書は始まる。この論では、三・一運動は大韓民国臨時政府と結びつき、民主共和制志向の革命、建国の起源として捉えられる。
     著者は、朝鮮人の運動を国際情勢の中で見る。武断政治期は日米中露という朝鮮の外部で活発。自決の源流はウィルソン以前にロシア二月革命。「民族自決」の解釈は日本経由。ウィルソンは、自決を実現するためにはネイションの能力も必要との思想。ただ、この時点での朝鮮ナショナリズムは朝鮮民族の結束というのが基本的な性格であり、三・一運動もあくまで日本からの独立運動だった。
     しかしその後、ネイションの能力の必要性が自覚され、大韓民国臨時政府は民主主義のネイションであることを示そうとする。一足先に独立を果たしたチェコスロバキアもまた、同政府の源流の一つ。こうして、政治共同体性を強調するものへと朝鮮ナショナリズムは変容していく。
     同時に著者は、三・一運動は単なる反日運動とも考えていないようだ。そもそも三・一独立宣言書自体、日本を排斥するものではなく日本への一定の期待すらあった。また限界はあれど朝鮮独立に理解を示した日本人もいた。
     著者は、政治に影響された現在の「三・一革命論」には否定的だが、その意図はこの運動自体を貶めることではないだろう。この時期の独立運動は様々な形で現在の朝鮮半島の土台となった、と述べている。

  • 【書誌情報】
    『韓国「建国」の起源を探る――三・一独立運動とナショナリズムの変遷』
    小野 容照 著
    四六判/並製/312頁
    初版年月日:2021/12/15
    ISBN:978-4-7664-2785-1(4-7664-2785-8)
    Cコード:C3022
    定価 2,970円(本体 2,700円)

    ◆「民主主義国家・韓国」は、三・一独立運動からはじまったのか?
     日本・中国・米欧・ロシアを含めたグローバルな視点から独立運動の歴史的過程を丹念に描き、文在寅政権の掲げる「建国」神話を問い直す
     三・一独立運動とは、1919年3月1日に日本の植民地支配からの「解放」を目指した朝鮮人らが起こした示威運動である。現在の文在寅政権は、この運動の歴史的評価をさらに高め、1919年を「民主主義国家・韓国」の「建国」年と位置づける言説を浸透させようとしている。
    右派左派の衝突が激化し、歴史解釈自体が政治化するなかで、本書はあらためて三・一独立運動を中心とする独立運動史を、世界史の視点から復元する。
    「建国」問題の核心・大韓民国臨時政府の樹立、第一次世界大戦において提唱された「民族自決」の影響、日本・中国・米欧・ロシアを舞台にグローバル化していく過程、北朝鮮を生み出した社会主義の可能性と南北分断に着目しつつ、独立運動をダイナミックに描くことで、分裂する歴史認識の溝を埋め、未来への新たな展望を拓こうとする。
    https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766427851/

    【目次】
    はじめに

    序 章 三・一革命――独立運動と変容する韓国ナショナリズム
     1 大韓民国憲法・前文
     2 ニューライトと建国節
     3 変容する大韓民国臨時政府の歴史的位置づけ
     4 「三・一革命」論の台頭とその論理
     5 「三・一革命」を乗り越える

    第一章 第一次世界大戦――共和制か帝政か
     1 朝鮮半島から海外へ――韓国併合と武断政治
     2 敵の敵は味方――ロシアとの提携と第一次世界大戦の勃発
     3 対華二十一ヵ条要求――革命派中国人との提携の模索
     4 幻の中国・ドイツ連合軍――手段としての帝政復活

    第二章 民族自決――戦略としての民主主義
     1 ロシア二月革命の衝撃――大韓民国臨時政府の起源
     2 吉野作造とロシア革命――翻訳語「民族自決」の誕生①
     3 アメリカの参戦と在米朝鮮人
     4 ウィルソンの「民族」と「自決」概念――翻訳語「民族自決」の誕生②
     5 終 戦――アメリカと上海における独立請願
     6 二・八独立宣言
     7 ロシア内戦――朝鮮独立運動の新展開

    第三章 三・一独立運動――支配者、協力者、そして情報源としての日本
     1 万歳デモの展開
     2 三・一独立運動の準備過程――「自決」とパリ講和会議の情報源
     3 新宿中村屋と崔南善――ウィルソンと日本政府宛の請願書の国際発信
     4 三・一独立運動と日本社会
     5 尹致昊の三・一独立運動批判

    第四章 朝鮮ナショナリズム――三・一後の独立運動の行方
     1 大韓民国臨時政府というアピール
     2 共産主義運動の台頭――臨時政府と二つの高麗共産党
     3 朝鮮半島における独立運動の展開と分裂

    終章 韓国「建国」の起源

    注 
    あとがき
    図版出典一覧
    索引(人名・事項)

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著者プロフィール

1982年横浜市生まれ。九州大学大学院人文科学研究院准教授。専門は朝鮮近代史。2012年京都大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員、京都大学人文科学研究所助教を経て2017年より現職。
著書に『朝鮮独立運動と東アジア 1910-1925』(思文閣出版、2013年)、『帝国日本と朝鮮野球――憧憬とナショナリズムの隘路』(中央公論新社、2017年)、共著書に『「甲子園」の眺め方――歴史としての高校野球』(小さ子社、2018年)などがある。

「2021年 『韓国「建国」の起源を探る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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