デジタルで読む脳 X 紙の本で読む脳 :「深い読み」ができるバイリテラシー脳を育てる

  • インターシフト (合同出版)
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784772695671

作品紹介・あらすじ

◎かけがえのない「読書脳」が失われる前に、
 新たな「バイリテラシー脳」をいかに育てるかーー
「読む脳」科学の世界的リーダーによる画期的な提唱!◎

・文字を読むとき、脳はどれほど複雑な仕事をしているか
・紙の本が、創造力や共感力、記憶力、分析力を高めるわけ
・脳がデジタル・モードになると、読み方はどう変わる?
・熟達した「深い読み」ができる脳のしくみとは?
・脳の発達段階に応じた「読み書き力」「デジタル力」の育て方
・ゆっくり急ぐ「喜びの時間」とは?

デジタルの波及によって人類が大きな転換点を迎えているいま、
「読み書き力」「デジタル力」ともに強いバイリテラシー脳こそ、
次代を生きる新たなベースとなる。

★ 立花隆・養老孟司・松岡正剛・竹内薫・山形浩生・池谷裕二・瀬名秀明・佐倉統・山本貴光 氏ら絶賛の
名著『プルーストとイカ: 読書は脳をどのように変えるのか?』、待望の続編!

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::目次::
第一の手紙・・・デジタル文化は「読む脳」をどう変える?
第二の手紙・・・文字を読む脳の驚くべき光景
第三の手紙・・・「深い読み」は、絶滅寸前?
第四の手紙・・・これまでの読み手はどうなるか
第五の手紙・・・デジタル時代の子育て
第六の手紙・・・紙とデジタルをどう両立させるか
第七の手紙・・・読み方を教える
第八の手紙・・・バイリテラシーの脳を育てる
第九の手紙・・・読み手よ、わが家に帰りましょう

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::著者:: メアリアン・ウルフ
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の教育情報学研究科のディスレクシア(読字障害)・多様な学習者・社会的公正センター所長。
専門は認知神経科学、発達心理学、ディスレクシア研究。その優れた業績により、多数の賞を受賞。
著作は『プルーストとイカ: 読書は脳をどのように変えるのか?』など

::訳者:: 大田直子
翻訳家。訳書は、エリエザー・スタンバーグ『〈わたし〉は脳に操られているのか』、デイヴィッド・イーグルマン『あなたの脳のはなし』、オリヴァー・サックス『意識の川をゆく』など、多数。

感想・レビュー・書評

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  • 「人生を捧げるものとして、言葉の道、言葉を知って愛する道は、物事の本質につながる道であり、知ることの本質につながる道でもある。愛することは知ること、知ることは愛すること、それに必要なのは静かな目である」 ジョン・S・ダン

    メアリアン・ウルフの2冊目。
    前著「プルーストとイカ」との違いは、手紙形式で強いメッセージを伝えてくること。
    特に現代の子どもたちの読書が危機的状況にあることを憂え、また私たち大人にも「その読み方で良いのか」と問いかけてくる。
    読字は自然に身に付くものではなく、遺伝子の中に組み込まれているものでもない。
    私たちは、読むことを習わねばならないのだ。
    デジタル機器が広まったことで、かけがえのない人類の創造物のような読書脳はどうなったのか。著者は、様々な事例を取りあげながら解説していく。

    成人の注意持続時間は平均5分あまりという、衝撃的な報告がある。
    それだけでは分かりにくいが、10年前と比べて半分以下になっていることが問題なのだ。
    これが、私たちが執拗に「一瞬で新しくなくなる情報」を追いかけた結果だ。
    早さを求める斜め読みと、狭い画面上で短文で即答する習慣は言語力と思考力も奪う。
    そこで危惧されること。
    裏付けのない情報に群がり、すぐに共有し、そのせいで操られやすくなること。
    情報を分析・批判する能力も育ちにくいため、自分のすでに知っている範囲の外には出ないような状況が生まれる。これが共感力の低下、異なる文化をもつ他者への無理解、ひいては民主社会への危機にもつながるというのだ。大袈裟だと笑うことなど、とても出来ない。

    著者は自身が実験台となって、このことを試してもいる。
    20世紀最高の小説と賞賛していたはずのヘッセの「ガラス玉演戯」が、どうしても読めなくなっていたという。
    以前の読書生活で感じていた安らかな気持ちは、取り戻せないのか。

    しかし本書は、デジタル機器を忌避しようという主張ではない。
    従来からある紙の本との共存を願うものだ。
    それが、読む生活という比類なき遺産を子どもたちに手渡すことにもなるという、思慮にあふれた提言が本書の大きな魅力だ。

    適切な時期に、適切な教育を、適切なデジタルツールで進められるように望んでいる。
    紙とデジタルのそれぞれの脳回路を育て、流暢に切り替えられる「バイリテラシー脳」を成長させることはできないものか。
    この新しい学習法は、まだ乗り越えねばならない様々なハードルがある。
    研究を重ね、専門家を育成し、子どもたちがそれらの媒体に接する機会の格差を解消しなけれなならない。プロジェクトは現在推進中だという。
    オンラインで読んでも紙モードのスキルを駆使し、従来のように読書脳は鍛られるのだ。

    ひとつ大切なことは、幼児教育には不適切であることを挙げている点。
    幼稚園前は、親子の対話による読書を推奨している。つまり読み聞かせ。
    私の経験では、紙の上のおやつでも子どもたちは手を出して受け取り口に頬張る。
    美味しかった?と聞くと「美味しかった!」と目をキラキラさせて答え、美味しいにおいがしたという子さえいる。
    大人の肉声による言葉と紙の質感に、全身で反応しながら言語能力を育てていく時期なのだ。

    親愛なる読者へと書かれた最終章では、良い読書がもたらす至福の喜びが書かれている。
    私は、そしてあなたは、なぜ読むのか。
    時にそう問いかけてみる大切さをあらためて学ぶことになった。
    冒頭のエピグラフの「静かな目」を失わないためだと、今なら答えるだろう。
    明快な論旨に読者への熱いメッセージを込めた本書。
    大事な言葉をとりこぼしていないか、注意を払いながらの読書に私もまた至福の時を過ごした。前著とともにお勧めです。

    • nejidonさん
      夜型さん。
      この本は非常に良い本でした。
      注意深く読むことの良さをぞんぶんに味わいました。
      著者の思いに何度も心を揺さぶられましたよ。...
      夜型さん。
      この本は非常に良い本でした。
      注意深く読むことの良さをぞんぶんに味わいました。
      著者の思いに何度も心を揺さぶられましたよ。
      ご紹介いただいた本は、和田敦彦さんの著書ですか?
      改訂版は今年に入って出されたのですね。
      では心に留めおきます。
      メアリアン・ウルフを読んだら猛烈に児童書を読みたくなってしまいました。
      私も自分を実験台にしてみたいのかな(笑)
      2020/09/30
    • 夜型さん
      和田さんの本ですよ

      まずはnejidonさんがその身で調べて感じ取ってから、子供たちにフィードバックさせる塩梅でしょうか。
      まさに、
      「や...
      和田さんの本ですよ

      まずはnejidonさんがその身で調べて感じ取ってから、子供たちにフィードバックさせる塩梅でしょうか。
      まさに、
      「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ.」
      ですね。
      2020/10/01
    • nejidonさん
      夜型さん。
      ふふ、何だかとても楽しみです。
      そうね、まずワタクシがしっかり読んで納得しませんとね。
      幸いなことに図書館はとても近いので...
      夜型さん。
      ふふ、何だかとても楽しみです。
      そうね、まずワタクシがしっかり読んで納得しませんとね。
      幸いなことに図書館はとても近いので、探してみましょう(^^♪
      (夜型さんがお元気そうなのが嬉しいです!)
      2020/10/01
  • 『デジタルで読む脳 X 紙の本で読む脳 深い読み」ができるバイリテラシー脳を育てる』 - HONZ
    https://honz.jp/articles/-/45687

    『デジタルで読む脳 X 紙の本で読む脳 「深い読み」ができるバイリテラシー脳を育てる』 - HONZ
    https://honz.jp/articles/-/45530

    Maryanne Wolf
    https://www.maryannewolf.com/

    デジタルで読む脳 X 紙の本で読む脳 インターシフト
    http://www.intershift.jp/w_yomunou.html

  • サブタイトルに「『深い読み』ができるバイリテラシー脳を育てる」とある。
    一方的なアンチデジタルではなく、どっちも上手いこと取り入れるために、そもそも「深い読み」ってどういうものか、画面での読書はどんな点で弊害になるのか知りましょうよ、という内容。

    私たちはデジタルデバイスを通じて、実は以前より多くの文字数には触れているらしい。

    ただし、めまぐるしくタスクを切り替え、刺激を取り入れ続けた結果、「恒常的注意力分散」の状態にあるのだという。

    「本媒体で読んだ学生のほうが画面で読んだ仲間より、筋を時系列順に正しく再現できることがわかりました。言い換えれば、フィクションで見落とされがちな細部の順序づけが、デジタル画面を読む学生にはわからなくなるようだったのです」

    「同じ物語を印刷か画面のどちらで読むかによって、読解にかなりの差があることを見つけたのです。ほとんどの子どもはデジタルで読むほうが好きだと言ったにもかかわらず、読んだものの理解は印刷で読んだほうがうまくできました」

    「まず私は意識して文章をゆっくり読もうとしましたが、無駄でした。毎日、ギガバイト単位の資料を読むうちにスピードに慣れてしまったせいで、ヘッセが伝えていることを理解できるほど減速することができません」

    どれも面白い指摘だと思う。

    現代は「速さ」が一つの指標になっている。
    一つのボタンで、タイムラグなく情報にアクセス出来ることは、一方で覚えておく必要や、自分の中に蓄積したものを改めて考える間がない。

    そして、ここでの「深い読み」とは、自分の中に溜めている知識と関連付けながら、静かに思考とテキストを往還して生み出していくことなのだろう。

    この静けさとは、物理的に集中出来る環境でもあるし、思考の冷静さ、時間的余裕も同時に指していると思う。

    私は文書を書くのも打ち込むのもそれぞれに好きだが、出来上がった文書を確認する際には印刷物にすることが多い。
    また、Kindleは絶版になった本を読める所に魅力を感じるのだけど、そうしたのっぴきならない事情以外、〝小説〟を電子書籍で読もうと思わない。

    自分ではビジネス書の類はある種、情報処理の対象だから、電子書籍として読むことに違和感がないのかと思っていたのだけど。

    この本にあるように、集中の度合いや、物語世界への共感、入り込み方の違い、時間のかけ方、俯瞰図といった点でも敬遠しているのかもしれない。
    また、この本では脳との関連を書いているけれど、身体性としてはどうなんだろうか。

    「紙の本がいい!」を単なるノスタルジックな意見として捉えるのではなく、こういう角度から知ることが出来たのは、とても面白かった!

  • 原題は「Reader, Come Home : The Reading Brain in a Digital World」
    メアリアン・ウルフ氏の前作の名著「プルーストとイカ」を読み、本書もテーマの面白さに惹かれ手に取りました。

    本書のキーワードの一つは「tl:dr(too long, don't read)」”長すぎて、読まなかった”という意味の若者が使う言葉。
    デジタル機器の登場と情報が過多になった現代において、我々はより”気を逸らし”やすくなり、紙の本を読むような深さを持った情報処理と認識、洞察が脅かされている、というのが著者の懸念。長い文書を読んでいくことにも、どんどん適応できなくなっていく。
    安直なデジタル批判ではないものの、やはり幼年期においてはデジタルよりもアナログな手法が大事、と。実際に触れる文字量は小説一編分くらいを毎日目にしていても、小説一編を読むのと比べると、”深さ”は足らない。
    現代の「より素早く、より多く」の情報処理・判断へと慣れることは十分な”知性”を発達させられるのか?

    ディスレクシアを抱える子供にとってはデジタル化が手助けになる可能性も示す。ブログやSNSなど、”読書”の枠に入らない”読むもの”の情報量が増えている時代に、デジタル化をうまく使うことは必須なのだけれど、そのバランスがすごく難しい。
    著者はなんとか均衡点を見つけようとしていて、特に子供の教育においては、"How to”的な案も提示している。前例のない環境におかれ、子育てをしなくてはならない、保護者は悩ましいですよね。

    私自身はほとんど買う本はKindleで、買うのに迷ったらまず図書館で借り、ごく一部は紙版を購入しています。(本書は図書館で借りました。)Kindleなどデジタル機器での読書と、紙での読書、なんとなく違う気がするけれど、具体的に”どう”、”どのくらい”違うのか?というのは数年来の疑問でした。
    とにかく多くの情報の処理が求められる中で、我々が文字通り時間をかけた読解を取り戻すのは結構難しいというか、”贅沢”なことだとも感じる。脳の負荷をかけない範囲の仕事で生活が成り立ち、時間的にも深い思考が許される、という環境を持てる人はどのくらいいるだろう?著者自らも、ヘルマン・ヘッセ「ガラス玉演戯」を手に取り、昔のようには読めなくなったことを告白する。

    自分としては、なんとかデジタル機器での読書においても、深い理解を持つようになりたいけれど、著者が指摘するいくつかの弱点(順序づけの記憶の悪化、キーワードごとにジャンプして読みがち、だったりインタラクティブな思考を保ちながらの読書になりにくい、etc..)は正直思い当たる。デジタル化に伴う外部情報への依存はむしろ積極的にしていたし、自分の脳の記憶をできるだけ使わず、記録を残してできるだけ外部の記憶媒体を頼ることを、多くの人がやっていると思う(このブクログでの記録もしかり。)

    脳が言葉、特に単語を認識する仕組みの説明などにおいて、比喩を多用しすぎてわかりにくくなってしまった部分がありますが、著者からの手紙という形でのメッセージには切迫感が伝わる。
    単に”読書”というテーマに止まらず、デジタル化時代の”知性”と”教育”まで問う内容だと思います。
    読み物としては面白かった、どこまで参考にし情報の波に棹差すことができるだろうか。しばらく考え続けそうなテーマです。


  • デジタル化が進むと、文章を批評する力が失われて、深い読みができなくなる-

    電子書籍や、インターネットの記事を代表とする、デジタルは、同じ「文字」という単位でできているのに、例えば本を代表する、紙媒体の下位に位置する、と思われていることが多いような気がします。

    たしかに、デジタル化が進んだことで、読解力が低下したという事実を示すデータは多くあり、そうした研究結果を示すものが後を絶ちません。

    ただ、デジタルが全て悪いかというとそうではなくて、入手がしやすくなった、劣化に耐えることができる、音声データとしての読書など、利点もあります。

    この本では、読書がもつ良い面、考える力を養う一方で、敵とされてきた「デジタル力」を共に育てる「バイリテラシー」について書かれている本です。


    洪水のように押し寄せるデジタルに立ち向かうには、古い諺「Festina lente(ゆっくり急げ)」が役に立つ、と著者は説きます。


    緩急をつける読書。素早く読みつつ、考えるべきポイントで立ち止まる。
    もちろん、どこで立ち止まるべきか、に正解はいくつもあると思います。

    たしかに現代では「ディープフェイク」などの問題も大きく取り上げられるようになりましたが、本にも嘘が書かれていない、当時は本当だったが、時代を経て嘘になってしまったこともたくさんあるはずです。

    大切なのは、情報を得る手段がなんであれ、それらが持つ特性を活かし、共存の道を進む、ということではないのでしょうか。

  • 原題は『Reader,Come Home The Reading Brain in a Digital World』読書人、帰る。デジタル世界で読む脳、といったところだろうか。読むとは深い内省を伴う行為であって、電子書籍とか画面上で読むという行為は、その内省という能力を大きく損なってしまう、というあたりが本書の骨子だと思う。

     読んでいて、この著者は本を読むことが本当に大好きなんだろうな、と感じた。

     そしてその著者をして、若いころに深く没頭したヘッセの『ガラス玉演戯』を読み返したところ、楽しめなかったという。デジタルで読むということは、あちこちに注意がそがれてしまうことだという。電子書籍で読んだ読み手は、紙の本で読んだ読み手よりも内容の記憶や理解において、成績が低かったとか。深く読むということができなくなっているのだ。

     読むとは深い内省をともなう行為であり、読むことが浅くなっている現代社会について、お互いやひいては自分自身を理解する能力が劣化していくと警鐘をならす。

     その中で、著者としては、デジタルで読むことと、紙で読むことのいっしゅのバイリンガルになることを目指そう、目指せるはずだというんだけど、そのあたりはよくわかんなかったな。電子書籍を使うことの利点は、本の重さ、スペースをとらずに多く所持できることにあると思うんだけど、反対に、それ以外のメリットというのがよくわからない。いくつか、認知的な実験で成績の向上している部分もあるなんて記述もあった気がするんだけど、ちょっとピンとこなかった。

    この本は、また読み返したいな。

  • tl;dr…英語の略語だそうだが、なにを意味するかお分かりだろうか?

    本書の趣旨を一言でいえば、デジタル化が進むに従い、人の「読む力」が著しく衰えているということ。よくある若者の…論ではなく、我々自身も退化の一途だ。
    一方で非構造データも含めではあるが、人類の蓄積する情報が、僅か数日で過去数百年の総情報に匹敵する(もはやギガやテラを超えて、ペタバイト、エクサバイトという単位だ)。ここまで情報量が増えると「上澄み」を効率よく濾し取って、有効な組み合わせを発見する能力の方にシフトせざるを得ない時代背景のもと、これはむしろ「進化」ではないかとも思う。

    ともあれ、読み進める中、自分の「読む力」の衰えを実感しつつも、あえて読書のドロップを狙っているかの如く悠長すぎる筆者の文体には激しい苛つきを覚える。全般的に示唆に富む内容ながら、読む気が失せる文体のため、気になった箇所を幾つか拾っておこう。

    現代の読書家(広い意味で文章を読む人)は、文章に「移入」する自由を大きく失って来ているという。まったく、その通り。なにせ邪魔が多すぎる。

    有料の新聞サイトのような固い物でも、web上で全く「邪魔」が入らずにひとつのストーリーを読み終えることは難しい。さまざまな広告やら、関連する記事やらがちりばめられる。いわんや無償サイトにおいてや。
    デジタル読書で、難しい単語に出会した時、自動的に辞書を引いてくれる機能、この上なく便利だけれど、敢えてそのまま読み進めて、語句の意味を類推する能力は、議論の余地なく奪われている。
    もっと言えばスマホ。かつては読書に入れば電話でもならない(普通は深夜にかける人は少ない)限り、そのパーソナルスペースが破られることは稀だった。

    紙媒体だと物理的にこれくらいの位置(本の厚み)にこんな事が書いてあったと無意識に記憶できる(メリットがある)。★これは「有る」だろう。一方で、Kindleで小説を読んだ者はペーパーバックで読んだ者より、話の展開や細かな記述の記憶が浅い…というのは「無い」だろう。電子媒体の方が、こんな風にメモを取りやすいというアドバンテージはある。あくまでも、集中の妨げとなる状況の起こりやすさの問題と考える。
    これは読書に限らない。これは自分自身の経験だが、若い頃、スペインはプラド美術館で有名なピカソのゲルニカを見た。その1枚専用の広い部屋があるのだが、あれだけ有名な絵画ながら、しばらく待てば自分の他に観客がいない、絵画を独占できる瞬間がやってくる。集中力を研ぎ澄ませ、その「瞬間」が到来した時の嬉しさたるや筆舌に尽くしがたいのだが、おそらく現代であれば、時間潰しにSNSをやったり、さらに下手をすればポケGoをやり始め、対戦しているうちに折角の貴重な一瞬を逃してしまう事態すら起きかねない。自らをコントロールする極めて強い「意志」が求められる。

    後半、特に米国では、所得格差が幼少期に「文字」(読み聞かせのようなものも含む)に触れる機会の大きな格差につながっており、その後の学習能力にも影響を及ぼす。結果、格差の定着化、強化につながっていると。★確かにそれはあるだろう。

    最後に冒頭の略語(略記号)の意味、too long didn’t read、長いので読めませーん…ということで、普通に若者が使う表現らしい。日本語で言えば「草」や「りょ」(既に古いかもしれないが)のような表現方法だが、長いからという理由で読むことを放棄する選択肢が一般化していることには強い危惧を感じる。

    「デジタルで読む脳✖️紙の本で読む脳」(インターシフト、メアリアン・ウルフ著)
    Day178


    https://amzn.to/31GoGVL

  • 一般に、デジタルよりも紙の本で読むほうがいいと言われているが、その理由を説明できるだろうか。
    本書は、デジタル機器が子どもに与える影響、紙とデジタルで読むときの違いを説いた1冊。
    さらに、デジタル機器を批判するだけではなく、これからの時代は、両方の能力が必要となることを解説している。

  • 原題:Reader, Come Home
    The Reading Brain in a Digital World
    by Maryanne Wolf

    副題:「深い読み」ができるバイリテラシー脳を育てる

    https://www.maryannewolf.com/

    ・本 (296ページ) / ISBN・EAN: 9784772695671
    #図書館
    作品紹介・あらすじ
    ◎かけがえのない「読書脳」が失われる前に、
     新たな「バイリテラシー脳」をいかに育てるかーー
    「読む脳」科学の世界的リーダーによる画期的な提唱!◎

    ・文字を読むとき、脳はどれほど複雑な仕事をしているか
    ・紙の本が、創造力や共感力、記憶力、分析力を高めるわけ
    ・脳がデジタル・モードになると、読み方はどう変わる?
    ・熟達した「深い読み」ができる脳のしくみとは?
    ・脳の発達段階に応じた「読み書き力」「デジタル力」の育て方
    ・ゆっくり急ぐ「喜びの時間」とは?

    デジタルの波及によって人類が大きな転換点を迎えているいま、
    「読み書き力」「デジタル力」ともに強いバイリテラシー脳こそ、
    次代を生きる新たなベースとなる。

    ★ 立花隆・養老孟司・松岡正剛・竹内薫・山形浩生・池谷裕二・瀬名秀明・佐倉統・山本貴光 氏ら絶賛の
    名著『プルーストとイカ: 読書は脳をどのように変えるのか?』、待望の続編!

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    ::目次::
    第一の手紙・・・デジタル文化は「読む脳」をどう変える?
    第二の手紙・・・文字を読む脳の驚くべき光景
    第三の手紙・・・「深い読み」は、絶滅寸前?
    第四の手紙・・・これまでの読み手はどうなるか
    第五の手紙・・・デジタル時代の子育て
    第六の手紙・・・紙とデジタルをどう両立させるか
    第七の手紙・・・読み方を教える
    第八の手紙・・・バイリテラシーの脳を育てる
    第九の手紙・・・読み手よ、わが家に帰りましょう

    注釈 http://www.intershift.jp/INTER_gazo/yomu_notes.pdf

    P7人類は誕生時から字が読めたわけではない
    読み書きの能力の獲得は、ホモ・サピエンスの遺伝子を超越した最も重要な功績のひとつ
    ~読字を学習する行為は、ヒトの脳のレパートリーにまったく新しい回路を加えた~おかげで脳の配線が変わり、人間の思考の本質が変容した

    P8画面のデジタル機器の字を読めば読むほど、自分の注意力の質がどれだけ変わってきたか

    デジタル=決して知識として蓄積されないような刺激 注意はたえずそらされている

    字を読むときに、類推や推測を行う能力の基本そのものが、しだいに発達しなくなくなる
    読字脳は進化しているが、必要とされるもの以外読まない、必要なものさえも読まない、長すぎるから読まなかった読書


    P9読み書き能力ベースの文化からデジタル文化への移行は、これまでのコミュニケーション形態の移行とは根本的に異なる

    私たちの読み方ーひいては考え方ーの潜在的な変化を特定する科学もテクノロジーもありますから、そのような変化が人々に完全に定着し、受け入れられる前に、その影響を理解することができます

    P12ハワイのワイアルアの子どもへの教育から~
    ~子どもたちは、もし読むことを覚えなければ、人間としての潜在能力をフルに発揮することはない、と突然一気に気づいた

    P14現在起こっているデジタルの文化への移行が、ギリシャの口承文化からそのみごとな書記文化への移行と驚くほど似ている

    デジタル環境で育つ子どもたちにとっては~
    深い読みの要素である①批判的思考、②個人的内省、③想像、④共感のような、ゆっくりした認知プロセスの形成が妨げられるか?

    デジタル環境=注意をそらされるような刺激をたえず与えられ、なおかつさまざまな情報源にすぐにアクセスできると、幼い読み手は自分自身の知識を蓄えたり、自分自身で批判的に考えたりする気をなくすのか?

    知識のサーバーにますます依存するようになることは、子どもが自分自身で考えて想像したいと思う気持ちだけでなく、未熟な脳が自分自身で築く知識の基礎に対しても最大の脅威になるか

    P17いろいろな媒体が読字脳におよぼす影響を、体系的、認知的、言語学的、生理学的、そして情緒的-調べることはとりわけ重要な能力を若年層だけでなく私たち自身も確保するための最善の準備

    印刷ベースとテクノロジーベースの媒体の差をまとめることはできない
    自然主導と人間主導の進化の選択肢がある

    第一の手紙
    P22「良い読み手」は誰なのか
    読み手=単語を解読するかということではない
    プルーストが言った「読むという行為の神髄は著者の知恵を超えて自分自身の知恵を発見することに忠実か」

    アリストテレスいわく、良い社会とは3つの生活がある
    1知識と生産の生活
    2ギリシア人の余暇に対する特別な関係があっての楽しみの生活
    3観想と熟考の生活

    第二の手紙:読字脳に関する現在の知識
    なぜ、読字脳回路の可能性が私たちの思考をますます複雑にするのか
    なぜ、どうしてこの回路が変化しているのか

    第三の手紙
    深い読みを構成する基幹プロセス
    読み手の共感し推論する能力から批判的分析と洞察

    第四の手紙
    P20過剰な情報をたえず突きつけられる環境にあって、多くの人々は、楽に消化でき、あまり難しくなくて、あまり知性を必要としない情報の詰まった、なじみの貯蔵庫に引きこもりたい衝動に駆られ~毎日押し寄せる一目で読めるサイズの情報で知識が得られているという錯覚が、複雑な現実の批判的分析をしのぐおそれがある

    (批判能力が)いかに急速に知らぬまに衰える恐れがあるか

    第五の手紙~第八の手紙
    世界中の未来のこどもたちのために「読字戦士」に変身
    ・知能、社会的情緒、倫理観の形成において読字が果たすさまざまな役割を維持すること
    ・消えつつある子ども時代の様相

    第六の手紙~第八の手紙
    発育の提案
    何をしりうるか?
    何をなすべきか?
    何をのぞみうるか?



    最後の手紙
    良い読み手が、良い社会と同様、アリストテレスの三つの生活それぞれを実際にどう送るか
    観想、熟考の生活に入る能力をうしなってはいないかなど自分自身と向き合う

    第二の手紙 文字を読む脳の驚くべき光景
    P27脳に高度な機能がいくつもあることではなく~~機能を超えて、脳が読字や計算のようなまったく道の能力を開発できるという事実~~古い基本的な構造の要素をつなげたり、ときにその用途を変えることによって、新しい経路セットをつくる

    P29読字回路は生み出されていない
    人間は読むことを学ぶ
    幼い脳が自分自身のまったく新しい読字回路を形成できるように、基本プロセスとそれほど基本的でないプロセスの複雑な取り合わせを開発し、つなぎあわせられる
    理想的な読字回路はひとつではない
    (言語条件、学習環境

    読字回路の基本原理とは
    1本質的に順応性があり(読み方を変えられる)、読字の回路が何を読むか(書記体系と内容)、どう読むか(媒体と与える影響)、どう形成されるか(教育の手法)
    2細かい特徴(音素)を見分ける
    3たった人文字でも音読するときは必ず、◆やにある特定のニューロングループのネットワーク全体を活性化し、そのネットワークは同じくらい特定の言語ベースの細胞グループのネットワーク全体に対応し、そのネットワークは特定の調音運動神経細胞グループのネットワーク全体に対応する


    大きな3つの機能
    ①視覚 ②言語 ③認知
    小さな2つの機能
    ④運動 ⑤感情

    第三の手紙 「深い読み」は、絶滅寸前?

  • タイトル通りの本ですが、後半は、幼児期、児童期における読書のあり方に重点が置かれて書かれています。

    デジタルはダメ、紙はいい、という単純な話ではなく、少なくとも幼児期(5歳以下)は、紙の本でしっかりと読み聞かせをして、読むことの基礎を身に付け、徐々に、デジタルものの割合を増やしつつ、デジタルものも読めるようにしていくのがよい、とのこと。

    ある意味、まっとうな主張をしている本ではありますが、章によって読みやすさが随分異なる気がしました。
    著者の問題なのか、翻訳者の問題なのか、読者である自分の問題なのかはよくわかりませんが、今までにあまり経験したことのないパターンでした。
    他の人も同じような印象を受けたのか、そこが気になっています。

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著者プロフィール

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA) 教育・情報学大学院の「ディスレクシア・多様な学習者・社会的公正センター」所長。
専門は認知神経科学、発達心理学、ディスレクシア(読字障害)研究。その優れた業績により、多数の賞を受賞。
著作は『プルーストとイカ: 読書は脳をどのように変えるのか?』など。

「2020年 『デジタルで読む脳 X 紙の本で読む脳』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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