11番目の取引 (鈴木出版の児童文学 この地球を生きる子どもたち)

  • 鈴木出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784790233565

作品紹介・あらすじ

アフガニスタン難民のサミと祖父の生きる術であり、心の拠り所だった伝統楽器ルバーブが奪われた! 買い戻すには1か月以内に700ドルが必要だ。サミは友だちの助けを借りて自分の持ち物で物々交換を始める。希望と友情の物語。

感想・レビュー・書評

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  • タリバンの自爆テロで家族と親戚を失った12歳のサミと祖父は、故郷アフガニスタンを離れ、命がけの旅の末、アメリカでの生活を始めた。有名なルバーブ奏者だった祖父は、地下鉄の通路でルバーブを弾き生計を支えていたが、ある日、サミが弾いている最中にルバーブが奪い取られてしまう。サッカー仲間ダンの協力で、ネットオークションのサイトで売られているのを見つけた彼は出品者の店を訪ねるが、店主は4週間以内に700ドル用意しろと言うのだった。お金が欲しいサミは、ためらいながらも祖父からプレゼントされた大事なキーホルダーをipodと交換するが、それは壊れていて動かなかった。しかし、ダンが修理し、別の友人のベンジがそれを他のものと交換してくれると言う。サミは、交換を繰り返しながらルバーブを取り戻せるのではないかと考え始める。

    人との繋がりを失いながら生き延びてきた少年が、ルバーブを取り戻すための取引を通じて、繋がりを取り戻す姿を描く。




    *******ここからはネタバレ*******

    交換を繰り返しながら豊かになっていく「わらしべ長者」現代アメリカ版だが、ラストの絶望から希望への転換は見事で、「神は慈悲深い」というじじの言葉が心に残る。

    心に傷を負った人たちの苦しみや、アフガニスタンやイスラムの文化についても、わかりやすく取り入れられていて、読者の理解を助けている。

    文章は平易ですが、生々しくはないもののテロの様子が描かれているので、高学年以上におススメします。

  • アフガニスタンからアメリカに逃れてきた難民のサミとじじ。祖国からやっと持ち出したルバーブを奪われた。それは故郷の楽しかった想い出、歌、じじの健康、未来までも奪われたことと同じだ。
    サミはルバーブを取り戻す為に奮闘する。
    昔話の「わらしべ長者」のように物々交換をしながら。「わらしべ長者」のただ幸運の積み重ねだけの話じゃない。周りの人々の助けや知恵があり、サミの勇気があり、その過程でサミの閉ざされた心が開いていく。新たな祖国と未来を勝ち取っていく。
    人種差別、難民問題、アフガニスタンの抱える問題、読む目が先に進むのを拒むほど辛い現実を突き付けながらも、サミやダン、レイラたちの築いた友情に未来への希望を持ちたいと思えた。
    イスラム文化の奥深さに触れられた。

  • アフガニスタンからの難民で、祖父とともに命からがらボストンにたどりつき、ようやく安定した暮らしをはじめたばかりのサミ。ところが祖父の心のよりどころで、収入源でもあった民族楽器ルバーブをサミが街角で抱えていたとき、ひったくりにあってうばわれてしまう。

    ほどなくして、それが中古楽器店で高値でうられていることを知ったサミは、なんとしてもお金をためて買いもどそうと決意し、学校やモスクの友人達の知恵を借りて、わらしべ長者方式の物々交換で、少しずつ目標の金額に近づいていく……。

    2020年の感想文課題図書だけど、それに関係なく、ぜひ多くの人に読んでほしい傑作。サミは、本国でテロに遭って両親を亡くしており、そのPTSDをかかえている。ボストンでも祖父の大切なルバーブを盗まれるという苦難に遭った。けれども、その事件をきっかけに新しい友だちができ、ちがう文化の、共通点の少ない友人とも、少しずつわかりあっていくことなどが、生き生きとした場面の積み重ねで描かれていて、あちらこちらで胸を打たれた。

    大きなテーマをかかげた作品だと、ともすれば頭でっかちになりがちなのだけど、どの登場人物にもリアリティがあって、ことのなりゆきも自然で、すべてがよく練られた傑作。

  • 今年の中学生向け読書感想文課題図書の中では中途半端な位置づけ(「天使のにもつ」は、面白そう!のリアクションが多く、「平和のバトン」は今までの学習の知識が土台にある)でしたがあえて推したい。

    まず純粋にストーリーとしておもしろい。
    子どもが理不尽に奪われた物を、限られた時間の中で取り戻す。しかもわらしべ長者方式を採択!スピード感があってキャッチー。
    でもこの夏、この本は課題図書。「あー、おもしろかった♪」では終われない。掘っても掘りきれないくらいのゴリゴリに深いテーマを見て見ぬフリはできないのです。

    わらしべならぬ、マンUキーホルダー長者サミはパシュトゥー人。アフガン難民です。この時点でこの本を読むことで何と向き合わなくてはいけないのかが明示されています。

    恥ずかしいことに、中東の国と民族と宗教の複雑さを自分自身が把握しきれていないという根本的な問題が。
    目線が中学生と同じくらいだと楽観的に考えて基本的なところから勉強し直してみました。が、当たり前のことながら原稿用紙数枚に収められるような話ではない。

    読み、理解し、考え、文章で表現するという観点からいくと、土台の本質的な理解よりも(もちろんこの物語をきっかけに知ろうとする欲求は必要)今、紛争をバックグラウンドに持つ自分たちと同じ世代の子どもがどんな文化を持ち、どう生きてきて何を考えるのかを、知り、感じ、考えるのがこの本と向き合う課題なのかなと思いました。

    解消の可能性を見出せないトラウマを抱えるサミが、「11番目の取引」と「贈り物」、そしてじじのことばから獲得した「喪失と出会いの本質」。
    紛争と難民の問題と併せて頭と心でよーく揉み揉みしてほしいと思います。
    それをさらに文章化しないといけないんだから、今年の短い夏休みはアツい夏になりますね。

    あとがきもしっかり読んで欲しい。
    ルバーブの音色もYouTubeあたりで聞いてみると、世界観の色が鮮やかになりますね。

  • 盗まれてしまった祖父の楽器を取り戻すために、4週間以内に700ドル。物物交換をして手に入れようとする。果たして取り戻すことはできるのか?
    宣伝文句に嘘は無かった。タイムリミットまでに目的を果たせるか?ドキドキしながら読んだ。
    しかし、それ以上に、現代の私たちが直面せざろう得ない問題が次々と触れられているのにはビックリした。難民。人種差別。PDSD。女性差別。
    いやー良質な児童小説は、今私たちが抱えている問題を明らかにしてくれる。

  • 読後、胸がいっぱいです。

    アフガニスタン
    難民
    祖父とふたり
    祖国の楽器、祖父の命のルバーブ

    わらしべ長者の要領で、盗まれたルバーブを買い戻そうとすることで、暗い背景に軽快なスピード感が加わり、どんどん読み進められます。

    サミの周りには差別的な見方をする子もいて、そんなやりとりを肌で感じられ、考えさせられます。

  •  アフガニスタンからトルコやギリシャを経由して、祖父と2人でボストンに移り住んだ12歳のサミ。地下鉄の構内で、祖父の大事なルバーブ(アフガニスタンの伝統楽器)を盗まれてしまう。泥棒は、ルバーブをギター専門の楽器店に売っていた。店主はオークションサイトへの出品は取り消してくれたが、一ヵ月後までに700ドル支払わなければ、また売りに出すという。サミは、700ドルを稼ぐ方法を考えに考えたのだが…。

  • アフガニスタンから祖父とアメリカにやってきたサミ。プロのルバーブ奏者である祖父は、駅で演奏をしていたが、祖父からサミが楽器を預かったわずかの間に、楽器が無理やり奪われてしまった。奪われたルバーブは楽器店に売りに出されていた。祖父のために700ドルで買い戻そうと、サミはお金を稼ぐための方法を思い付く……。

    今年になってからアフガニスタン難民の物語を読み、それがまだ心に残っていたからか、この作品もとてもすばらしいと感じた。アフガニスタンからアメリカに入国できるまでの苦難、サミの心に重くのしかかるトラウマもしっかり描かれながら、それ以上に家族愛であり、友情や、人々の善意が感動的に描かれている。サミは700ドルを稼ぐために、物々交換によってわらしべ長者のように様々なものを手に入れていく。その過程がとても面白い。はじめは友だちを作ろうとすることもなく、周囲に心を開かなかったサミが、人々の善意に報いていこうとする終わり方もすばらしい。また、アフガニスタンでの女性差別やアメリカ軍兵士のことについても触れてあり、さらに深くアフガニスタン問題について考えさせられる。
    アフガニスタンの状況はまだまだ変化しつつある。これからもさらに多くの人に読まれてほしい1冊。

  • サミは祖父の楽器ルバーブを盗まれる。質屋でその楽器を見つけるが、700ドルが必要だ。
    友だちやまわりの人々の助けを借りて、祖父には内緒でお金を集めていく。

    ▲取り戻す過程の中でサミの過去が少しずつ語られていく。友だちはその全てを知るわけではないが、知恵や技術や人など出来ることを手助けしていく。
    『本物の深い喜びが…』のくだりが好きだ。
    ▽実際はもっとひどいことがおきたのだろうと思う。中学生が思い出せるギリギリのところなのだろうとは思う。

  • 想像ができないから、知らないから。
    友達のためにという純粋な優しさ。
    それは救いであり、同時に残酷な刃ともなる。
    彼にとって花火がどう見えるか、少し知っていれば想像もつきそうだけど、気づかない。
    恐ろしいこと。
    他の部分で彼はとても救われているのだけど、その分、知らないことによる無神経さが強調されてしまうことになる。

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著者プロフィール

アメリカ、バージニア州在住。大学で文学を学ぶ。パシュトゥーン語研究者の姉が働いていたアフガニスタンを訪問。のちに創作した本作品にその経験が生かされている。本作がデビュー作。

「2019年 『11番目の取引』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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