ユリイカ 2020年12月号 特集=偽書の世界 ーディオニュシオス文書、ヴォイニッチ写本から神代文字、椿井文書までー
- 青土社 (2020年11月27日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (373ページ)
- / ISBN・EAN: 9784791703944
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
黒川巧さんの商業誌デビュー目当てで購入。”文字は空気の中に泡のように消えていく運命にあった歌に不滅性を与えてくれる。文字は詩の命を奪うかわりに、永遠を約束してくれる剥製技術だった。”(p.193) ”言葉は書かれた瞬間に偽である。”(p.197)といったあたりにしびれる。ピュタゴラスは書くなと言った、しかし弟子たちの熱意のために残されてしまった。ピュタゴラスは書くなと言った、と書かれている…クレタ人がクレタ人は嘘をつく、と言うようなパラドックス。さまざまな議論を掻き立て、人々を魅了するピュタゴラスの姿を活写。/他には、椿井文書をめぐる対談。安倍政権と偽書は、竹内文書や〇〇がかかわっている団体に、前首相夫人が出入りしていたことが、公文書改ざん廃棄も辞さない政権運営と重なるところを示唆する一節。甲陽軍鑑の、偽書だ、偽書ではない、の紆余曲折を経て、史料価値が現在認められている過程を語る一節。"密教の阿闍梨ガ、仏や金剛薩埵に「なりきれ」ば、または仏や金剛薩埵が不空に「乗り移れ」ば、彼が語り書くことばは、当然「仏や金剛薩埵の金言」そのものになるだろう。"という一節。日本に固有の文字があったと信じたい国粋主義者たちによって作成された神大文字のこと。カール・レーフラーや「万歳三唱令」に触れた一節。"偽書・贋作がもつこうした「綺想」の世界の構成を知ることは、たとえば今日のインターネットやSNSに飛び交う種々の言説ー断片的な情報ともとになされる「自由な」書き込みーのあり方を理解する手助けになるかもしれない"という一節。「書経」の成立に疑いを向ける研究。自筆本が散逸してしまい、「どこからどこまでが「源氏物語」であるか、という概念を、我々は改める必要がある、と語られる一節。"偽証は悪徳であっても、深い洞察に裏付けられた聖典の正統な解釈を補強するものであれば、史実の誇張や偽名による著作は許容された"という時代もあったこと。仮説上の存在「インド=ヨーロッパ祖語」に魅了された人々。「物語を書く」というこれまでのファンタジーのありかたを見直し、むしろ「世界を創る」ことに注力したトールキン。などなど。古代から現代まで、欧米から日本、中国、中東まで幅広い時代地域のテーマを取り扱い偽書の世界を語ってくれる魅力あふれる一冊でした。