ユリイカ 2023年12月臨時増刊号 総特集◎坂本龍一 1952-2023

  • 青土社
5.00
  • (2)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 56
感想 : 5
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791704408

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 東京都現代美術館で坂本龍一の大規模個展が開催。大型インスタレーション作品を包括的に紹介|美術手帖
    https://bijutsutecho.com/magazine/news/exhibition/28124

    青土社 ||ユリイカ:ユリイカ2023年12月臨時増刊号 総特集=坂本龍一 1952-2023
    http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3864&status=published

  • まず冒頭に、昭和40年代生まれの私にとっての坂本龍一のイメージを年代順に追ってみた。
    1 Yellow Magic Orchestraのブレイクは私が中学にあがったころ。人民服姿でTechnopolisなどを演奏する彼らを私は「すすめパイレーツ」で知った。だがYMO初期は私もまだ周りと同じく歌謡曲に夢中で、洋楽っぽいYMOにのめり込むのは少しあとの「増殖」から。スネークマンショーから入った(笑)。そして私がYMOのメンバーの中から個人としての坂本龍一を意識したのは「体操」で。拡声器を片手に「前ならえ」とか「ブルマ」とか叫んでいる坂本に「何これ」って(笑)。

    2 坂本龍一の存在が強烈にインプットされたのは、やはり「い・け・な・いルージュマジック」の忌野清志郎との共演を見て。ザ・ベストテンでもあのド派手メイクで現れ、背景に流れる映像では上着のジャケットをはだけてお金の札を噴き上げたり、あげくには清志郎と唇が接するかどうかのキワキワまで顔を近づけたり。

    3 そして戦メリ。当時私はビートたけしのオールナイトニッポンに夢中。たけしがラジオで「ラロトンガ島での映画ロケ中に坂本がプールサイドを歩いていた女性をプールに突き落とし、「ぼくの部屋で着替えるかい?」と言って連れ込んでいた」としゃべるのを聞いて、「坂本龍一ってそういうやつだったんだ」と大笑いした。真偽はわかんないけれど(笑)。

    4 私が大学生当時、フジテレビで「音楽の正体」という深夜番組があった。そこで「戦場のメリークリスマス」が取り上げられ、この曲がなぜ日本だけでなく世界レベルで評価されるのかを追っていた。「ファ」と「シ」がないヨナ抜きのいわゆる日本的な音階の中に、たった1音だけ「シ」に当たる音を入れ、印象を高める効果をもたらしているという話だった。このときから私は坂本を稀有な才能をもつ“音楽家”として見るようになった。

    5 少し年代が下り、再び私はテレビに映る坂本の姿に衝撃を受けた。「ごっつええ感じ」で松本人志が扮するアホアホマンと並んで、坂本がもう1人のアホアホマンとして登場したのだ。アホアホマンがどんな格好かを知っている人ならばその衝撃をわかってくれるはず。松本から「お前は本当に『世界のサカモト』か?」と言われた坂本がピアニカで戦場のメリークリスマスのフレーズを吹き始めたものの、最後の一音を絶妙に外し、松本から「やっぱりお前はニセモノだ」と言われるというオチ。

    …と、なぜ私が自分にとっての坂本龍一の印象を勢いのままに並べたのか?(晩年の坂本のストイックな姿から見れば、ちょっと異質な印象のものが多いけれど(笑))
    それはこの冊子でそれこそ各分野の多くの人が、自分にとって思い入れが深い坂本の数々の濃いエピソードを、お互い競い合うかのようにアップしょうとしているから。私も刺激を受けて自分の印象を蔵出しした次第。
    だけど、そんな私の思いの何倍も濃密な坂本龍一さんへの熱い思いがこの冊子には溢れ返っていて、読んでいて飽きない。みんなそれぞれに良いのだが、強く印象に残ったものをあげておきたい。

    A)小沼純一さんが坂本さんの中に、押しつけられることへの反感、反撥を、そしてひとりっ子的わがまま性と呼ぶべきものを見出していること(P165)。
    B)渡辺香津美さんがあるセッションで坂本さんから「とにかく歪んだ音で。ジミ・ヘンドリックスみたいにね」とリクエストされ、休符のところでギターがキーンとハウリングしたら、坂本から「それが良いんだよね」と微笑まれたこと(P73)
    C)山崎春美さんが「な・い・し・ょのエンペラーマジック」誕生のいきさつを書いていて、坂本にちょっと手伝ってもらう感覚でいたのに、坂本の思想にどう共鳴したのか坂本カラーが思いっきり出た作品となって出来上がり、坂本亡き今の時代に山崎さんが、もう一度坂本の時のように誰か一緒にやらないかと訴えていること(P88)

    最後に、この冊子で私が一番印象に残ったのは、やはり冒頭の大貫妙子さんへのインタビュー。ここで語られたような大貫さんと坂本さんの関係って、みんな知っていたのかな?私は知らなかった。
    でもインタビューで大貫さんは坂本さんとの思い出を少し照れながらも1つずつ丁寧に話してくれている。一方で、普段は離れていても必要なときにはいつでも自分のそばに来てくれた彼がもういないことに気づく瞬間の深い喪失感についても語っている。そして彼女がトータルで彼との思い出を楽しくてかけがえのないものとして大切に心の中にしまい続けていることが読めて、坂本と同性の身として羨ましくなった。掲載された大貫さんの写真もまるで坂本さんに微笑みかけるかのような表情に見えてすごくいい。世間が2人の関係をどう見ようとも、私は大貫さんが坂本さんと作った音楽を改めてじっくりと聞きたいと思った。

  • 坂本龍一と関係した人々のインタビュー、寄稿。時代も青年期、大学時代、YMO以前、YMO時代、ソロ時代から没後まで。テーマも、音楽はもちろん、美術、映画、社会運動、庭園、哲学とさまざまに語られ。印象に残ったのは、◆茶の湯にもなぞらえ。非即興的であると同時に即興的な状態。「枠」の設定が、即興的要素を「自由」へと導いていて◆共演者との「競争」ではなく「共創」◆完全に純粋な音楽や中立的な音楽など存在しない、というリテラシーはもっておくべきだ。生きている人間の表現は何かしら政治性を帯びるし、ましてメディアに乗ればその作用はさらに強まる。(坂本龍一)◆ぼくは音楽からあらゆる刻みを取り払いたいと思ってるのね(坂本龍一)◆「音楽のほうが坂本龍一に寄る」(狭間美帆)◆ピアノとの関係を深めていった晩年の坂本にとって、演奏は<自己>をよく知りうる相手との対話であり、演奏する身体を生きることでありのままの自分として生の時間を更新することだったのだろう(小沼純一)◆たとえどんなに弱い立場になったとしても、皆であげ続けなければならない、無かったことにされてしまう前に(坂本龍一)◆坂本龍一の教育実習◆映像でもいいから「LIFE」のインスタレーション版は見てみたい思い。あと「TIME」も。◆映画戦メリをワンシーンワンシーン音楽とあわせて論じた論考も◆◆◆読みたくなった本や記事、多数。◆瑕疵としては、巻頭の、週刊文春かよ!と言いたくなるような大貫妙子への下世話なアプローチだけはいただけないなと思った。

  • いきなり、冒頭の大貫妙子さんのインタビューが良すぎる。

  • 2024/3/15購入

全5件中 1 - 5件を表示

著者プロフィール

1973年、山下達郎らとシュガーベイブを結成。76年にソロ・デビュー。 女性シンガーソングライターの草分けのひとりで、その独自の美意識に基づく繊細な音楽世界と透明な歌声で、多くの人を魅了している。

「2014年 『大貫妙子 デビュー40周年 アニバーサリーブック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

大貫妙子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×