現代思想 2020年10月号 特集=コロナ時代の大学――リモート授業・9月入学制議論・授業料問題――

  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791714049

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  • 「現代思想」何年かに一度組まれる大学関係特集。特集のテーマは年を経るごとに悲観的になってくる。今号のテーマは「コロナ時代の大学」だった。吉見・佐藤、両角、長谷川の各論稿で共通する箇所があった。4人とも中世ヨーロッパの大学の原点を述べた上で、簡単に歴史にふれ、新自由主義・グローバル化された今日の大学の状況にアプローチしている。交流の場としての大学の機能が指摘されている。知の創造には交流・越境から生じるとのこと。吉見は「大学というのは、旅をしてきた連中が集まってきて共同体を作って、なんだか役に立たないんだかよくわかんないけれどもエッセンシャルな、そういう知をめぐって真摯に学問的なコミュニケーションをする場」(p.18)と述べている。両角も「大学は教える者、学びたい者が1か所に集い、議論し、互いに刺激を受ける中で、学生は成長し、学問も街も発展をとげ」(p.47)るとしている。そのような学習環境のある大学が、今回のコロナ禍という非常に大きい外圧により変化したのだろう。それはまた強制的に改革が進められたとも捉えられる。さらに村上はより具体的に学生生活面から「授業以外に友人同士の交流や課外活動を含めての大学生活であり、物理的なキャンパスが提供してきたものもいろいろあったのだと考えられる」(p.74)と指摘している。

    他方、佐藤が痛烈に指摘しているのは、FDの文脈において、「今後大学教員の受容が大幅に増えることは予測できず、供給過剰状態が続くということだ。こうなると、大学教員市場はますます縮小し、高い研究能力だけでなく、高い教育能力も兼ね備えた人材の価値が高まっていく。各大学は、どのような類型の大学教員を採用や昇進に当たって求めるのかを明確にしておく必要がある」(p.82)ことや、「大学淘汰時代に備えて、今回の経験と知見を蓄積すると同時に、教育・学習インフラ整備の機会ととらえて行動」(p.83)することも、同時に求められる時代になったことを認識したい。さらに児玉が手厳しい主張をしており、「従来までの教育において消去不可能な教師の身体として『君臨』していた圧倒的優位性を、教員は手放すことになる」ことや、「オンライン化はプレゼンター〔=教師役〕の身体を縮減し、プレゼンターの存在それ自体も消去していまうことさえある」ことを我々に認識するよう求めている。そうすると個人的には、手法としては明治時代からある伝統的な通信教育(講義録や教科書を通読しレポートを作成し添削を受ける)さえもブレンドないしハイブリッドの対象なのかもしれないと思ってしまった。現代に置き換えると、メールで課題を与え、報告書を作成し、教員にメールで提出し、大学教員が添削するというフローだろうか、今回の誌面にはこうしたスタイルにはあまり言及されていないが、「授業」さえも刈り込む対象にあるのかもしれない。

  •  最初の吉見俊哉の対談はかみ合わず、残念。
     結局、新型コロナが炙り出したのは静かに進行していた「危機」であった。そして、危機を克服するために、そもそも「大学」とは何か、がいま問われている。授業料、教授法やカリキュラムのあり方、学生の経済。
     いま、皆で必死に考えていることを追求していけば、コロナ後にきっと今よりいい「大学」が立ち現れてくるだろう。ひとえに大学人の覚悟にかかっているような気がする。

  • 【特集】コロナ時代の大学

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著者プロフィール

吉見 俊哉(よしみ・しゅんや):1957年生まれ。東京大学大学院情報学環教授。同大学副学長、大学総合教育研究センター長などを歴任。社会学、都市論、メディア論などを主な専門としつつ、日本におけるカルチュラル・スタディーズの発展で中心的な役割を果たす。著書に『都市のドラマトゥルギー』(河出文庫)、『大学とは何か』(岩波新書)、『知的創造の条件』(筑摩選書)、『五輪と戦後』(河出書房新社)、『東京裏返し』(集英社新書)、『東京復興ならず』(中公新書)ほか多数。

「2023年 『敗者としての東京』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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