現代思想 2022年12月臨時増刊号 総特集◎中井久夫 ―1934-2022― (現代思想12月臨時増刊号)

  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791714391

作品紹介・あらすじ

精神科医・中井久夫の広大な足跡をたどる

長きにわたり戦後日本の精神科医療の最前線に立ち続け、阪神・淡路大震災後のこころのケアに尽力するとともに、エッセイの名手にして詩の翻訳家としても知られる中井久夫。体系性を拒みつつも尽きせぬ豊饒な多面性にひらかれたその世界を一望する、追悼特集。

目次予定*

【討議】加藤寛+最相葉月/斎藤環+東畑開人

【寄稿】伊藤亜紗/上尾真道/上野千鶴子/江口重幸/大澤真幸/北中淳子/小泉義之/杉林稔/高原耕平/中西恭子/中村江里/中村明/檜垣立哉/牧瀬英幹/松本卓也/松本俊彦/美馬達哉/宮地尚子/村澤和多里/森川すいめい/山中康裕/山森裕毅…

感想・レビュー・書評

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  • 精神科医中井久夫さんの追悼特集

    中井さんが何を遺してくれたのか、中井さんの数々の功績について、いろいろな方が寄稿している。

    社会学者 大澤真幸さんの寄稿
    「リゾームではなくオリヅルラン」では、中井さんが統合失調症の方の世界、ライフスタイルを、オリズルランの根っこに喩えたことに触れ、そのイメージがいかにポジティブな社会のヴィジョンを構築し、社会学者を魅了したかが書かれている。
    中井さんが植物の根にまで造詣が深いことに驚く。

    村澤和多里さんと松本卓也さんによる、中井さんの
    「発病過程論」「寛解過程論」についての寄稿は、
    ストレス(焦り)がつのっていく過程を登山に見立てた中井さんの図も用いて、わかりやすく書いてくれている。

    人は「余裕」「無理」「焦燥」を行きつ戻りつなんとか保っているが、ついにストレスで心身の修復能力の閾値を「突破」をしてしまうと、一般的な意味で発病してしまう。(ここでの発病とは統合失調症のこと)

    周囲が異変に気付いて医療機関につなげるのはこの時であると。

    ここでは統合失調症についての話として書かれているが、メンタルが落ち込む一般的な過程もまさにこんな感じなのではないかと感じた。

    「手のかからない良い子」とはどういうことなのかについても、松本さんが書かれていて、統合失調症関係なくそのプロセスは納得した。

  • 昨年に亡くなった中井久夫氏の追悼特集。寄稿されているのは、心理系、哲学系、社会学者など多彩な人で、氏の仕事の幅広さがわかる。残念ながら精神医学系からの寄稿は少なく、今、現場で指導をされている方たちは、氏の文章読んで育った人たちが大半だと思うが。先日、100分で名著でも放送があり、久しぶりに氏の著作を読み返したくなった。現在、複雑性PTSDが診断基準にも入る時代になったが、改めて氏の先見性に感嘆しているところである。

  • 哲学書などの場合と同様、読書ノートとして書く。
    総特集なので、一般的な雑誌の特集号などよりも圧倒的に中身が濃い。
    やや固い本ではあるが、中井の考え方の要点が紹介されており、中井久夫への導入の一冊ともなり得るかもしれない。
    中井の理論をドゥルーズ=ガタリのリゾームと比較して論じた大沢真幸の「リゾームではなくオリヅルラン 社会学者はなぜ中井久夫を読んできたのか」などが面白かった。/


    【「世に棲む患者」(『世に棲む患者』ちくま学芸文庫(略))というエッセイの中で、中井は、「寛解患者のほぼ安定した生き方の一つは〔‥〕、巧みな少数者として生きることである、と思う」と述べている。普通は、復帰とは、多数者の途に加入することだとされている。多数者に倣うこと、多数者と同じように生き、多数者と区別がつかない状態になること、これが社会復帰である、と。しかし、中井によれば、多数者の途に加入することは、社会復帰の唯一のやり方でもなければ、最善のやり方でもない。統合失調症を経過した人は、事実においてすでに少数者であり、少数者性を保った上で、巧みに生きることが可能であるし、またその方がよい、というのが中井の提案である。
    ということは、どういうことか。
    私たちは普通、病いから回復して社会に復帰するときのベストのやり方は、心身からその病いが完全に消えてなくなり、多数者と完全に同化することだと考えている。しかし、中井はこの通念を拒否する。少数者として生きるということは、統合失調症寛解者が、その統合失調症への親和性を維持したまま、社会の中にその場所を得るーー患者として「世に棲む」ーーということである。】(同上)/


    【(略)中井は、「慢性化」したと一般的に考えられている患者が、動かないのではなく、実は日々大いに動いていることを発見した。ここでいう「慢性化」した患者とは、精神科病院に長期入院しているような患者のことであり、「無為自閉」あるいは「荒廃状態」あるとされ、変化の可能性がないと言われていた人々のことである。

    ー中略ー

    中井は、統合失調症とは、安定した終着地点に向かって進行性に経過する過程ではなく、絶えざる変化と跳躍の可能性を孕んだ一種の準安定状態として理解すべきであるというのである。そして、統合失調症の慢性状態からの離脱は、患者が示すこのようなミクロな動揺を「治療のとりかかり点」(略)とすることによって開始されるのである。】(松本卓也「臨床の臨界期、政治の臨界期 中井久夫について」)/

    【中井のこのような考え方は、ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリが『アンチ・オイディプス』のなかで症例シュレーバーについて述べた次の一節とほぼ完璧に一致している。

    これらの要素は、決してひとつのシステムの最終的な均衡状態を表現しているのではなく、むしろ無数の準安定的な停止状態を表現し、ひとつの主体は、次々とこれらの状態を体験し通過していく。(略)シュレーバー=主体は、これらの神経状態を通過しながら、女性になり、永劫回帰の円環を辿って、さらに別のいろいろなものになる。(略)

    中井もドゥルーズとガタリも、「慢性化」したとされている統合失調症者が、実際には「慢性化」しておらず、むしろ絶えざる生成変化の途上にあることを強調している。】(同上)/


    【中井久夫は、いわゆる社会的入院も含む長期入院に関して、こう論じ進めている。

    二十世紀後半に精神科医であるものは、たいてい二重の任務をもっている。一つは、新しく発生した分裂病を、その初期あるいは前駆期に治療し、できるだけ順調に寛解過程を通過するようにもってゆくことである。しかし、任務にはいま一つある。それは「慢性分裂病者」の名のもとに精神病院に長期入院している人たちをその「慢性分裂病状態」から離脱させるという任務である。】(小泉義之「精神科病棟の始末 中井久夫寛解過程論再訪」)/

  • 【総特集】中井久夫 1934-2022

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著者プロフィール

1975年東京外語大学ドイツ語学科卒。1975年~2008年日本航空。2008年~2010年 株式会社アクセス国際ネットワーク常務取締役。2011年?2015年 ベルギー Japan P.I. Travel S.A./N.V.社長。日本英語検定協会の「英語で文書作成ビジネスレター・eメール」執筆。

「2018年 『日本のオンライン旅行市場調査 第4版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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