開かれた作品 新・新装版 (新新装版)

  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791765942

作品紹介・あらすじ

芸術作品とは、享受者の積極的介入によって意味内容が可逆的に発見される「開かれた」形態である。前衛芸術に潜む曖昧性を「開かれた」作品として擁護し、現代芸術の可能性を切り拓く、ウンベルト・エーコの記念碑的労作。

感想・レビュー・書評

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  • 芸術作品の開かれ。
    基本的には、解釈の多様性があるということが開かれだと言えるだろう。
    第三章で情報理論・確率理論を持ちだして、作品の持つ情報の蓋然性を議論するという視点は面白い。
    最後にマルクスの疎外の概念を用いながら、作家が開かれた作品をいかにして作るかという話がされていた。あと、蓋然性を規定するのは批評の仕事であると。

  • 初版1962年、第2版が1967年。当時の「前衛芸術」を擁護したものとして有名な本だ。
    今振り返ってみると、1960年代の欧米芸術は熱かった。実に様々な視点から、画期的な試みがあちこちでなされ、興奮の巨大な波となって世界を席巻した。ジャズもその時代に多くの神話として炸裂したし、ヌーヴォー・ロマンも全盛期を迎えた。
    エーコの言う「開かれた作品」というのは、たとえば冒頭で参照される前衛音楽の特徴として浮上する。楽譜は幾つかの部分に分かれ、演奏者は自分で演奏する順番を決める、とか。
    「動的なものとしての<開かれた作品>は、作者とともに作品を作ることへの誘いによって特徴づけられる」。(P66)
    すると作品はその多義性を明らかにする。決してひとつの意味に押し込まれることなく、無限の可能性を生き始める。
    この「前衛」の先駆者として、ジョイスやマラルメの『骰子一擲』はもちろん、カフカの小説も挙げられている。セリー音楽も「調性の規定路線から聴き手を解放し、音響組織を組織化し鑑賞するためのパラメータを多様にする」(P108)。美術ではアンフォルメル絵画が挙げられている。
    注目するべきなのは、エーコがこうした「前衛」の「開かれた」ありようを、20世紀に忽然とあらわれたものとはせず、中世の詩の分析をとおして、意味を限定しないで読みの可能性を無限に開くようなあり方を、芸術なるものの当初からの根本として示したことだ。
    確かに、多義性や曖昧さなどによって常套語法を乗り越えることがなければ、そもそも「詩」など読まれることがなかったろう。人が何度も詩を繰り返して読むのは、そこにくみつくし切れない可能性があるからだ。
    興味深いことに、エーコはこうした理論に「情報理論」を動員してくる。この本の当該箇所は、ウィーナーらの「情報理論」についての優れた入門的解説にもなっている。
    そうすると<開かれた作品>とは、「一つのメッセージについて想定しうる意味作用の増大と増幅」(P108)として読み直されることになる。つまり「情報の増大」である。
    ウンベルト・エーコの文章は決して読みやすいものではないが、本書は20世紀の卓越した芸術論として、必読書に挙げられるものだろう。
    ただし、あの「熱い60年代」から半世紀経っていま、「純粋芸術」全般の状況を見渡すと、何がどうなっているのか? その後の収穫はあまりにも貧しかったのではないかという気がしてならない。
    本書の思想をさらに解読し、自分なりに消化してみたいと思う。

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著者プロフィール

1932年イタリア・アレッサンドリアに生れる。小説家・記号論者。
トリノ大学で中世美学を専攻、1956年に本書の基となる『聖トマスにおける美学問題』を刊行。1962年に発表した前衛芸術論『開かれた作品』で一躍欧米の注目を集める。1980年、中世の修道院を舞台にした小説第一作『薔薇の名前』により世界的大ベストセラー作家となる。以降も多数の小説や評論を発表。2016年2月没。

「2022年 『中世の美学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ウンベルト・エーコの作品

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